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二人っきりの帰り道
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俺が食事をしている間に、何人か常連さんが入ってくるけれど、それぞれ指定席があるようで八尋さんは特に案内することもなく、それがいつもの習慣のように対応を始める。
手際よく動く八尋さんの姿や常連さんたちの居心地の良さそうな顔を見ているのが楽しくて、ついつい見入ってしまう。
食事も終わってしまったけれど、もう少しだけいてもいいかな。
なんとなく離れがたくいると、
「どうぞ」
とグラスを渡された。
「これ……」
「泡盛の水割り。泡盛は少なめにしているから飲みやすいよ。あとこれ、おつまみね」
小皿には黒い小さな塊がいくつか置いてある。
「このおつまみってなんですか?」
「これは、黒糖だよ。泡盛と一緒に食べるとこれが結構合うんだ。この黒糖もこの西表で作られたものだよ」
「へぇー。お酒と甘いものが合うって不思議ですね」
そう言いながらも、泡盛を呑み黒糖の欠片を口に入れると、あまじょっぱい感じがなんとも合っていてすごく美味しい。
「これ、美味しいです!」
「ふふ。よかった。でも飲み過ぎはだめだよ。ゆっくりね」
「はい。わかりました」
八尋さんは俺の対応もしてくれながら、他の人にもちゃんと気を配っていて穏やかでゆったりとした時間が過ぎていった。
流石にそろそろ出たほうがいいだろう。
「あの、そろそろ帰ります。お会計をお願いします」
近くに来てくれた時に声をかけると、
「じゃあ、千円貰おうかな」
と驚きの言葉が返ってきた。
「えっ、あんなに食べたしお酒も呑んだのに千円じゃ全然足りないですよ」
「大丈夫。大丈夫」
「でも……」
戸惑いを隠せずにいると、
「店主が言ってるんだから、素直に受けときなって」
「そうそう」
と常連さんたちから声が上がる。
なんとなくこれ以上言ってこの楽しい雰囲気を壊したくなくて、俺はその言葉に甘えて財布から千円を取り出して支払った。
「じゃあ、送って行くよ」
「えっ、でもまだお店が……」
「大丈夫。仲間さん、ちょっと彼を送ってくるから」
「ああ、こっちは適当にやっとくよ」
さも当然のように言葉が返ってきて、俺は驚きのままに八尋さんと店を出た。
「本当に、いいんでしょうか?」
「常連さんたちばかりだから気にしないでいいって。それより明日の迎えに行く時間だけど……」
そんな話題を振られながら、俺の家への道を二人で歩いていく。
もうすっかり暗くなって、街灯のないところは真っ暗だ。
「平松くん、危ないから手出して」
「えっ?」
手ってどういう意味だろう?
なんて思っている間にきゅっと手を握られる。
「転ぶと危ないからね」
こんなでかい男を心配してくれるなんて……。
八尋さんから見れば、こっちにきたばかりで慣れてなさそうに見えるんだろう。
でも……誰かと手を繋ぐなんて……しかも、こうしてしっかりと繋ぐのはいつぶりだろう。
多分遠い昔、両親と繋いだ以来かな。
恥ずかしいけど、なんだかホッとする。
「平松くん、上を見てごらん」
「えっ、上? わぁっ! すごいっ!!」
見上げると、手で掴めそうなほど近くに星が見える。
「東京から来ると余計にこの凄さに気づくよね。本当はこんなに輝いてたって。明日はこの星以上にすごい場所をいっぱい案内するよ。楽しみにしてて」
「はい。よろしくお願いします」
「今日は早めに寝るんだよ、明日は8時に迎えに来るからね」
「わかりました」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい……」
いつの間にか家の前まで戻ってきていた俺が家の中まで入るのを確認して、八尋さんは今来た道を戻って行った。
明日の観光、緊張だけど楽しみかも。
俺はなんとも言えないワクワクした気持ちを感じながら、明日が来るのを待った。
興奮し過ぎたせいか、6時前には目覚めてしまった。
でものんびり準備すればいい。
もうすっかり習慣になりつつある朝風呂に入り、着替えを済ませて、冷蔵庫を開けると八尋さんが昨日切っておいてくれた果物が目に入った。
それをありがたくいただきながら、八尋さんが来るのを待った。
だんだんと8時が近づくにつれて、緊張してくる。
「あっ、カメラも用意しとかないと!」
あれだけ時間があったはずなのに、ぼーっとしていたのか大事なものを忘れそうになっている。
何かバッグがあれば……とクローゼットを開けると少し大きめのボディバッグが入っていた。
洋服だけでなくこんなものまで用意してくれていた砂川さんに感謝しながら、それにカメラやスマホ、財布を入れて肩にかけたところで玄関ベルがなる音が聞こえた。
八尋さんだ!
そう思ったけれど、ちゃんと確認してからにしよう。
インターフォン越しに声をかけると、
「ふふっ。迎えに来たよ」
と八尋さんの声が聞こえた。
急いで扉を開けると、
「今日はセクシーな格好じゃなくて安心したよ」
と笑われた。
でも、馬鹿にされている感じのいじりじゃないから俺も自然と笑みが溢れた。
「もう準備はできてる?」
「はい。楽しみ過ぎて朝早く目覚めてしまいました」
「そうか、それならもっと早く来たらよかったな。じゃあ、行こうか」
玄関を出ると、目の前にかっこいい車が止まっているのが見える。
「これ、八尋さんの車ですか?」
「ああ、そうだよ。さぁ、どうぞ」
助手席の扉を開けてくれたけど、あまりにも綺麗な車に戸惑ってしまう。
汚さないように気をつけながら座ると、あまりにも心地よい座り心地に驚いた。
「わぁ、座り心地いいですね」
「気に入ってもらえて嬉しいよ」
「――っ!!!」
颯爽と運転席に乗り込む八尋さんをかっこいいなと思う自分がいたことに、俺は気づかないふりをした。
手際よく動く八尋さんの姿や常連さんたちの居心地の良さそうな顔を見ているのが楽しくて、ついつい見入ってしまう。
食事も終わってしまったけれど、もう少しだけいてもいいかな。
なんとなく離れがたくいると、
「どうぞ」
とグラスを渡された。
「これ……」
「泡盛の水割り。泡盛は少なめにしているから飲みやすいよ。あとこれ、おつまみね」
小皿には黒い小さな塊がいくつか置いてある。
「このおつまみってなんですか?」
「これは、黒糖だよ。泡盛と一緒に食べるとこれが結構合うんだ。この黒糖もこの西表で作られたものだよ」
「へぇー。お酒と甘いものが合うって不思議ですね」
そう言いながらも、泡盛を呑み黒糖の欠片を口に入れると、あまじょっぱい感じがなんとも合っていてすごく美味しい。
「これ、美味しいです!」
「ふふ。よかった。でも飲み過ぎはだめだよ。ゆっくりね」
「はい。わかりました」
八尋さんは俺の対応もしてくれながら、他の人にもちゃんと気を配っていて穏やかでゆったりとした時間が過ぎていった。
流石にそろそろ出たほうがいいだろう。
「あの、そろそろ帰ります。お会計をお願いします」
近くに来てくれた時に声をかけると、
「じゃあ、千円貰おうかな」
と驚きの言葉が返ってきた。
「えっ、あんなに食べたしお酒も呑んだのに千円じゃ全然足りないですよ」
「大丈夫。大丈夫」
「でも……」
戸惑いを隠せずにいると、
「店主が言ってるんだから、素直に受けときなって」
「そうそう」
と常連さんたちから声が上がる。
なんとなくこれ以上言ってこの楽しい雰囲気を壊したくなくて、俺はその言葉に甘えて財布から千円を取り出して支払った。
「じゃあ、送って行くよ」
「えっ、でもまだお店が……」
「大丈夫。仲間さん、ちょっと彼を送ってくるから」
「ああ、こっちは適当にやっとくよ」
さも当然のように言葉が返ってきて、俺は驚きのままに八尋さんと店を出た。
「本当に、いいんでしょうか?」
「常連さんたちばかりだから気にしないでいいって。それより明日の迎えに行く時間だけど……」
そんな話題を振られながら、俺の家への道を二人で歩いていく。
もうすっかり暗くなって、街灯のないところは真っ暗だ。
「平松くん、危ないから手出して」
「えっ?」
手ってどういう意味だろう?
なんて思っている間にきゅっと手を握られる。
「転ぶと危ないからね」
こんなでかい男を心配してくれるなんて……。
八尋さんから見れば、こっちにきたばかりで慣れてなさそうに見えるんだろう。
でも……誰かと手を繋ぐなんて……しかも、こうしてしっかりと繋ぐのはいつぶりだろう。
多分遠い昔、両親と繋いだ以来かな。
恥ずかしいけど、なんだかホッとする。
「平松くん、上を見てごらん」
「えっ、上? わぁっ! すごいっ!!」
見上げると、手で掴めそうなほど近くに星が見える。
「東京から来ると余計にこの凄さに気づくよね。本当はこんなに輝いてたって。明日はこの星以上にすごい場所をいっぱい案内するよ。楽しみにしてて」
「はい。よろしくお願いします」
「今日は早めに寝るんだよ、明日は8時に迎えに来るからね」
「わかりました」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい……」
いつの間にか家の前まで戻ってきていた俺が家の中まで入るのを確認して、八尋さんは今来た道を戻って行った。
明日の観光、緊張だけど楽しみかも。
俺はなんとも言えないワクワクした気持ちを感じながら、明日が来るのを待った。
興奮し過ぎたせいか、6時前には目覚めてしまった。
でものんびり準備すればいい。
もうすっかり習慣になりつつある朝風呂に入り、着替えを済ませて、冷蔵庫を開けると八尋さんが昨日切っておいてくれた果物が目に入った。
それをありがたくいただきながら、八尋さんが来るのを待った。
だんだんと8時が近づくにつれて、緊張してくる。
「あっ、カメラも用意しとかないと!」
あれだけ時間があったはずなのに、ぼーっとしていたのか大事なものを忘れそうになっている。
何かバッグがあれば……とクローゼットを開けると少し大きめのボディバッグが入っていた。
洋服だけでなくこんなものまで用意してくれていた砂川さんに感謝しながら、それにカメラやスマホ、財布を入れて肩にかけたところで玄関ベルがなる音が聞こえた。
八尋さんだ!
そう思ったけれど、ちゃんと確認してからにしよう。
インターフォン越しに声をかけると、
「ふふっ。迎えに来たよ」
と八尋さんの声が聞こえた。
急いで扉を開けると、
「今日はセクシーな格好じゃなくて安心したよ」
と笑われた。
でも、馬鹿にされている感じのいじりじゃないから俺も自然と笑みが溢れた。
「もう準備はできてる?」
「はい。楽しみ過ぎて朝早く目覚めてしまいました」
「そうか、それならもっと早く来たらよかったな。じゃあ、行こうか」
玄関を出ると、目の前にかっこいい車が止まっているのが見える。
「これ、八尋さんの車ですか?」
「ああ、そうだよ。さぁ、どうぞ」
助手席の扉を開けてくれたけど、あまりにも綺麗な車に戸惑ってしまう。
汚さないように気をつけながら座ると、あまりにも心地よい座り心地に驚いた。
「わぁ、座り心地いいですね」
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「――っ!!!」
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