イケメン店主に秘密の片想いのはずが何故か溺愛されちゃってます

波木真帆

文字の大きさ
17 / 121

二人っきりの帰り道

しおりを挟む
俺が食事をしている間に、何人か常連さんが入ってくるけれど、それぞれ指定席があるようで八尋さんは特に案内することもなく、それがいつもの習慣のように対応を始める。
手際よく動く八尋さんの姿や常連さんたちの居心地の良さそうな顔を見ているのが楽しくて、ついつい見入ってしまう。

食事も終わってしまったけれど、もう少しだけいてもいいかな。
なんとなく離れがたくいると、

「どうぞ」

とグラスを渡された。

「これ……」

「泡盛の水割り。泡盛は少なめにしているから飲みやすいよ。あとこれ、おつまみね」

小皿には黒い小さな塊がいくつか置いてある。

「このおつまみってなんですか?」

「これは、黒糖だよ。泡盛と一緒に食べるとこれが結構合うんだ。この黒糖もこの西表で作られたものだよ」

「へぇー。お酒と甘いものが合うって不思議ですね」

そう言いながらも、泡盛を呑み黒糖の欠片を口に入れると、あまじょっぱい感じがなんとも合っていてすごく美味しい。

「これ、美味しいです!」

「ふふ。よかった。でも飲み過ぎはだめだよ。ゆっくりね」

「はい。わかりました」

八尋さんは俺の対応もしてくれながら、他の人にもちゃんと気を配っていて穏やかでゆったりとした時間が過ぎていった。

流石にそろそろ出たほうがいいだろう。

「あの、そろそろ帰ります。お会計をお願いします」

近くに来てくれた時に声をかけると、

「じゃあ、千円貰おうかな」

と驚きの言葉が返ってきた。

「えっ、あんなに食べたしお酒も呑んだのに千円じゃ全然足りないですよ」

「大丈夫。大丈夫」

「でも……」

戸惑いを隠せずにいると、

「店主が言ってるんだから、素直に受けときなって」
「そうそう」

と常連さんたちから声が上がる。
なんとなくこれ以上言ってこの楽しい雰囲気を壊したくなくて、俺はその言葉に甘えて財布から千円を取り出して支払った。

「じゃあ、送って行くよ」

「えっ、でもまだお店が……」

「大丈夫。仲間なかまさん、ちょっと彼を送ってくるから」

「ああ、こっちは適当にやっとくよ」

さも当然のように言葉が返ってきて、俺は驚きのままに八尋さんと店を出た。

「本当に、いいんでしょうか?」

「常連さんたちばかりだから気にしないでいいって。それより明日の迎えに行く時間だけど……」

そんな話題を振られながら、俺の家への道を二人で歩いていく。
もうすっかり暗くなって、街灯のないところは真っ暗だ。

「平松くん、危ないから手出して」

「えっ?」

手ってどういう意味だろう?
なんて思っている間にきゅっと手を握られる。

「転ぶと危ないからね」

こんなでかい男を心配してくれるなんて……。

八尋さんから見れば、こっちにきたばかりで慣れてなさそうに見えるんだろう。
でも……誰かと手を繋ぐなんて……しかも、こうしてしっかりと繋ぐのはいつぶりだろう。

多分遠い昔、両親と繋いだ以来かな。
恥ずかしいけど、なんだかホッとする。

「平松くん、上を見てごらん」

「えっ、上? わぁっ! すごいっ!!」

見上げると、手で掴めそうなほど近くに星が見える。

「東京から来ると余計にこの凄さに気づくよね。本当はこんなに輝いてたって。明日はこの星以上にすごい場所をいっぱい案内するよ。楽しみにしてて」

「はい。よろしくお願いします」

「今日は早めに寝るんだよ、明日は8時に迎えに来るからね」

「わかりました」

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい……」

いつの間にか家の前まで戻ってきていた俺が家の中まで入るのを確認して、八尋さんは今来た道を戻って行った。

明日の観光、緊張だけど楽しみかも。

俺はなんとも言えないワクワクした気持ちを感じながら、明日が来るのを待った。


興奮し過ぎたせいか、6時前には目覚めてしまった。
でものんびり準備すればいい。

もうすっかり習慣になりつつある朝風呂に入り、着替えを済ませて、冷蔵庫を開けると八尋さんが昨日切っておいてくれた果物が目に入った。

それをありがたくいただきながら、八尋さんが来るのを待った。

だんだんと8時が近づくにつれて、緊張してくる。

「あっ、カメラも用意しとかないと!」

あれだけ時間があったはずなのに、ぼーっとしていたのか大事なものを忘れそうになっている。
何かバッグがあれば……とクローゼットを開けると少し大きめのボディバッグが入っていた。

洋服だけでなくこんなものまで用意してくれていた砂川さんに感謝しながら、それにカメラやスマホ、財布を入れて肩にかけたところで玄関ベルがなる音が聞こえた。

八尋さんだ!

そう思ったけれど、ちゃんと確認してからにしよう。

インターフォン越しに声をかけると、

「ふふっ。迎えに来たよ」

と八尋さんの声が聞こえた。

急いで扉を開けると、

「今日はセクシーな格好じゃなくて安心したよ」

と笑われた。
でも、馬鹿にされている感じのいじりじゃないから俺も自然と笑みが溢れた。

「もう準備はできてる?」

「はい。楽しみ過ぎて朝早く目覚めてしまいました」

「そうか、それならもっと早く来たらよかったな。じゃあ、行こうか」

玄関を出ると、目の前にかっこいい車が止まっているのが見える。

「これ、八尋さんの車ですか?」

「ああ、そうだよ。さぁ、どうぞ」

助手席の扉を開けてくれたけど、あまりにも綺麗な車に戸惑ってしまう。
汚さないように気をつけながら座ると、あまりにも心地よい座り心地に驚いた。

「わぁ、座り心地いいですね」

「気に入ってもらえて嬉しいよ」

「――っ!!!」

颯爽と運転席に乗り込む八尋さんをかっこいいなと思う自分がいたことに、俺は気づかないふりをした。
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました

拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。 昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。 タイトルを変えてみました。

処理中です...