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墓穴掘っちゃった?
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ギュッと抱きしめられているせいか、八尋さんの鼓動が伝わってくる。
緊張しすぎて早くなっている俺とは違って、穏やかで安定的な鼓動だ。
それを感じていると、だんだんと俺も落ち着いてきた。
すごい。
なんだか一人の人間になったみたいな気がする。
温もりも匂いも鼓動も全てが一つになったような感覚のおかげで、だんだんと眠気に襲われる。
そんな俺の耳元で八尋さんの寝息を聞いているうちに、そのまま俺もあっという間に眠りに落ちていた。
「んっ……」
目を覚ますと、俺は広いベッドの中にたった一人で寝ていた。
一緒に寝ていたはずの八尋さんは……お店か、キッチンに行ってしまったんだろう。
ああ……眠る時はあんなにもいい匂いと温もりに包まれて幸せだったのに、今はなんだか心細い。
二度寝すらできないほど寂しさに目がさえてしまって、俺も起きることにした。
部屋の扉を開けると、キッチンから音が聞こえる。
やっぱり朝食を作ってくれているんだ。
朝から八尋さんの料理が食べられるのは嬉しいけど、目覚めて一人なのは寂しすぎる。
でも、昨日の夜は抱きしめられて寝るなんて緊張しすぎて困るって思っていただろう!
と自分で突っ込みたくなるが、このなんとも言えない気持ちを表すのは難しい。
静かにキッチンに向かうと、出汁のいい香りが漂ってきて空気の読めない俺のお腹が
「ぐぅぅ」
と鳴り出してしまった。
しかもたまたましんとなったその瞬間に聞こえるのだから、タイミングが悪すぎる。
「あれ? 平松くん、もう起きたの?」
「目が覚めたら八尋さんいなくて……それで……」
「そうか、ごめんね。まだ少し早い時間だから、仕込み終わったら戻って少し休ませてもらおうと思っていたんだ」
「えっ、そうだったんですか……すみません」
こんなことなら、もう少し待っておけばよかった。
「いや、私が早くから起きてしまっただけだから気にしないで。それよりもう少しソファーで休んでいたら?」
キッチンからでてきた八尋さんに連れられてソファーに横になるとすかさずふわふわの毛布のようなものを持ってきてくれてかけてくれた。
「もう少しで出来上がるから、ちょっとだけ待ってて」
「はい」
さっきお腹がなったせいで待ちきれないくらいお腹が空いていると思われているんだろう。
恥ずかしい。
でも料理を作る八尋さんを堂々と見られるのは楽しい。
包丁の音や、炒める音を聞きながら俺は知らない間に眠ってしまっていた。
「平松くん、そろそろご飯にしようか」
そんな声にハッと目を覚ますと、上から覗き込まれていて驚いた。
「わっ!」
「ああ、ごめん。驚かせたかな」
「なんで、俺……」
「眠りながら落ちそうだったから、膝に乗せただけだよ」
「これって前にも……」
そんなことがあった気がする。
俺ってそんなに寝相が悪かったんだ。
「深く眠ると動いてしまうんだろうね。でもゆっくり眠れたってことだから気にしないでいいよ。さぁ、朝食にしようか」
涎を垂らしているかもしれない寝顔を見られて恥ずかしいけれど、八尋さんはいつも優しい。
こんなふうに優しくされたらいつまでもここから抜け出せそうにないな。
炊き立てのご飯で作られたおにぎりと焼き魚、具沢山の味噌汁に漬物。
こんなに栄養たっぷりの朝ごはんを食べられるなんて幸せでしかない。
あっという間に完食して、満足したお腹を撫でていると、
「着替え用意しておいたから」
と声をかけられた。
「あ、これって……八尋さんのですか?」
「ああ、そうか。ごめんね。昨日は私のシャツだったから大きかっただろう? 今日はちゃんと平松くんサイズを用意したよ。ネクタイは私のを使ってくれていいから」
「えっ、いいんですか?」
「ああ、会社員時代に使っていたものを一応持ってきてはいるけど、あまり使う機会もないしね。平松くんが使ってくれた方が嬉しいよ」
にっこりと微笑まれて嬉しくなる。
お願いしてネクタイを借りようと思っていただけに八尋さんの方から言われるなんて思っても見なかった。
思わぬ幸運に心の中でガッツポーズをしながら、仕事に行く準備を済ませた。
いつものように会社まで送ってもらい、お弁当を受け取る。
ようやく日常が戻ってきた気分だ。
「おはようございます!」
「あ、平松くん。おはよう。ねぇねぇ、聞いた?」
先に出社していた名嘉村さんに声をかけると、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「なんですか?」
「<綺>の試食会の話」
「ああ、はい。昨日社長から八尋さんに連絡が来てました」
「やっぱり! 僕たちも招待されたんだ」
「えっ、そうなんですか?」
「うん、昨日浩輔さんのところに社長から連絡が来たみたいで、僕も一緒に招待してもらえたんだよ。多分伊織さんと砂川さんのところにも連絡が入っていると思うからみんなで一緒に行けるね」
「わぁ! それは楽しみですね。じゃあ、その日は名嘉村さんたちもイリゼホテルにお泊まりですか?」
「えっ、ああ……そういうことか。ううん。僕たちは浩輔さんの家に泊まるよ。多分砂川さんも伊織さんのところに泊まるだろうからイリゼに泊まるのは平松くんたちだけだね」
てっきりそのままみんなでお泊まりだと思ったけれど、でもそうか。
安慶名さんも松川さんも石垣に家があるんだから当然か……。
「ふふっ。イリゼにお泊まりか。楽しみだね」
ニコニコと微笑まれてなんだか恥ずかしくなる。
これって、もしかして自分から墓穴掘っちゃった?
緊張しすぎて早くなっている俺とは違って、穏やかで安定的な鼓動だ。
それを感じていると、だんだんと俺も落ち着いてきた。
すごい。
なんだか一人の人間になったみたいな気がする。
温もりも匂いも鼓動も全てが一つになったような感覚のおかげで、だんだんと眠気に襲われる。
そんな俺の耳元で八尋さんの寝息を聞いているうちに、そのまま俺もあっという間に眠りに落ちていた。
「んっ……」
目を覚ますと、俺は広いベッドの中にたった一人で寝ていた。
一緒に寝ていたはずの八尋さんは……お店か、キッチンに行ってしまったんだろう。
ああ……眠る時はあんなにもいい匂いと温もりに包まれて幸せだったのに、今はなんだか心細い。
二度寝すらできないほど寂しさに目がさえてしまって、俺も起きることにした。
部屋の扉を開けると、キッチンから音が聞こえる。
やっぱり朝食を作ってくれているんだ。
朝から八尋さんの料理が食べられるのは嬉しいけど、目覚めて一人なのは寂しすぎる。
でも、昨日の夜は抱きしめられて寝るなんて緊張しすぎて困るって思っていただろう!
と自分で突っ込みたくなるが、このなんとも言えない気持ちを表すのは難しい。
静かにキッチンに向かうと、出汁のいい香りが漂ってきて空気の読めない俺のお腹が
「ぐぅぅ」
と鳴り出してしまった。
しかもたまたましんとなったその瞬間に聞こえるのだから、タイミングが悪すぎる。
「あれ? 平松くん、もう起きたの?」
「目が覚めたら八尋さんいなくて……それで……」
「そうか、ごめんね。まだ少し早い時間だから、仕込み終わったら戻って少し休ませてもらおうと思っていたんだ」
「えっ、そうだったんですか……すみません」
こんなことなら、もう少し待っておけばよかった。
「いや、私が早くから起きてしまっただけだから気にしないで。それよりもう少しソファーで休んでいたら?」
キッチンからでてきた八尋さんに連れられてソファーに横になるとすかさずふわふわの毛布のようなものを持ってきてくれてかけてくれた。
「もう少しで出来上がるから、ちょっとだけ待ってて」
「はい」
さっきお腹がなったせいで待ちきれないくらいお腹が空いていると思われているんだろう。
恥ずかしい。
でも料理を作る八尋さんを堂々と見られるのは楽しい。
包丁の音や、炒める音を聞きながら俺は知らない間に眠ってしまっていた。
「平松くん、そろそろご飯にしようか」
そんな声にハッと目を覚ますと、上から覗き込まれていて驚いた。
「わっ!」
「ああ、ごめん。驚かせたかな」
「なんで、俺……」
「眠りながら落ちそうだったから、膝に乗せただけだよ」
「これって前にも……」
そんなことがあった気がする。
俺ってそんなに寝相が悪かったんだ。
「深く眠ると動いてしまうんだろうね。でもゆっくり眠れたってことだから気にしないでいいよ。さぁ、朝食にしようか」
涎を垂らしているかもしれない寝顔を見られて恥ずかしいけれど、八尋さんはいつも優しい。
こんなふうに優しくされたらいつまでもここから抜け出せそうにないな。
炊き立てのご飯で作られたおにぎりと焼き魚、具沢山の味噌汁に漬物。
こんなに栄養たっぷりの朝ごはんを食べられるなんて幸せでしかない。
あっという間に完食して、満足したお腹を撫でていると、
「着替え用意しておいたから」
と声をかけられた。
「あ、これって……八尋さんのですか?」
「ああ、そうか。ごめんね。昨日は私のシャツだったから大きかっただろう? 今日はちゃんと平松くんサイズを用意したよ。ネクタイは私のを使ってくれていいから」
「えっ、いいんですか?」
「ああ、会社員時代に使っていたものを一応持ってきてはいるけど、あまり使う機会もないしね。平松くんが使ってくれた方が嬉しいよ」
にっこりと微笑まれて嬉しくなる。
お願いしてネクタイを借りようと思っていただけに八尋さんの方から言われるなんて思っても見なかった。
思わぬ幸運に心の中でガッツポーズをしながら、仕事に行く準備を済ませた。
いつものように会社まで送ってもらい、お弁当を受け取る。
ようやく日常が戻ってきた気分だ。
「おはようございます!」
「あ、平松くん。おはよう。ねぇねぇ、聞いた?」
先に出社していた名嘉村さんに声をかけると、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「なんですか?」
「<綺>の試食会の話」
「ああ、はい。昨日社長から八尋さんに連絡が来てました」
「やっぱり! 僕たちも招待されたんだ」
「えっ、そうなんですか?」
「うん、昨日浩輔さんのところに社長から連絡が来たみたいで、僕も一緒に招待してもらえたんだよ。多分伊織さんと砂川さんのところにも連絡が入っていると思うからみんなで一緒に行けるね」
「わぁ! それは楽しみですね。じゃあ、その日は名嘉村さんたちもイリゼホテルにお泊まりですか?」
「えっ、ああ……そういうことか。ううん。僕たちは浩輔さんの家に泊まるよ。多分砂川さんも伊織さんのところに泊まるだろうからイリゼに泊まるのは平松くんたちだけだね」
てっきりそのままみんなでお泊まりだと思ったけれど、でもそうか。
安慶名さんも松川さんも石垣に家があるんだから当然か……。
「ふふっ。イリゼにお泊まりか。楽しみだね」
ニコニコと微笑まれてなんだか恥ずかしくなる。
これって、もしかして自分から墓穴掘っちゃった?
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