婚約者に裏切られたのに幸せすぎて怖いんですけど……

波木真帆

文字の大きさ
30 / 57

全然知らなかった……

しおりを挟む
「敦己……冗談だと言っても、もう離さないぞ」

僕をギュッと抱きしめる誉さんの手が少し震えている。
同時に胸に押し付けられた耳に誉さんの速い鼓動が伝わってくる。

ああ、僕のこと……本気で思ってくれてるんだな。

「はい。離さないでください」

ギュッと自分からも抱きつくと、

「――っ!!」

誉さんがごくっと息を呑んだのがわかった。

「敦己……このままだと我慢できなくなるから、家に帰ろうか」

「は、はい」

ゆっくりと誉さんの身体から離されていく。
誉さんの温もりが薄くなっていくだけで少し寂しく感じるなんて、僕は自分が思っているよりも誉さんのことが好きなのかもしれない。

「あ、あの……手、は……繋いでてもいいですか?」

「――っ、ああ。もちろんだよ」

差し出された大きな手を握ると、きゅっと包み込まれる。

「誉さんの、おっきいですね」

「えっ?」

「ほら、僕の手とこんなに違いますもん。おっきい方がやっぱりかっこいいですよね」

「あ、ああ。手ね、身長と比例してるからかな。でも、敦己も小さくはないよ」

「あの、なんだか誉さんに敦己って呼ばれると変な感じですね」

「嫌だったか?」

不安げな表情で見つめる誉さんがなんだかおっきなワンコみたい。

「あ、そうじゃなくて……なんか、距離が縮まったみたいで嬉しいなって」

「ああ、そうだよ。恋人になったんだからな。これからもずっと敦己と呼ぶぞ」

誉さん、なんだかとっても嬉しそう。
僕の言葉に一喜一憂するなんてほんとワンコみたいで可愛い。

ふふっ。誉さんが飼ってるコリー犬……ボリスくんって言ってたっけ。
その子もこんな感じなのかな。

手を繋いで歩いていると、行きよりもずっと視線を感じるけれど、誉さんは全然気にしてないみたいだ。
行き交う人もみんな好意的に見てくれているみたいだし、気にする方がおかしいのかも。

まぁロサンゼルスはアメリカでもLGBTには理解がある街だと言われているくらいだし、そもそも日本人カップルなんて気にしないかもな。

手を繋いだまま、社宅に戻ると

『お帰りなさいませ。ボートには乗られましたか?』

と満面の笑顔でジャックに迎えられた。

『ああ、あの公園は雰囲気もいいし、ボートのある湖も最高だったよ。いい場所を教えてくれてありがとう』

『いえ、お役に立てたようで何よりです』

笑顔で見送られながら僕たちは部屋に戻った。

「どうした?」

「あ、いや……ジャック、僕たちが手を繋いでたことに気づかなかったのかなって……」

「いや、十分気づいているだろう。というか、私が敦己の家に泊まりにきた時点で彼らは私が敦己の恋人だと思ってると思うぞ」

「えっ? なんで、どうして、ですか?」

「だって、この部屋には寝室が一部屋しかないだろう? プライバシーを重視する欧米では例え友人であっても、同室で寝るなんてありえないという考えを持っている人が多いからな。お金を持っていないような学生ならまだしも、私がわざわざ敦己の部屋に泊まるのは、恋人以外考えられないと思うよ」

そうなんだ……。
知らなかった。

「じゃあ、キースも?」

「ああ、もちろん。キースはもっと思ってるよ。なんせ敦己と肩を抱いて歩いているところを見ているんだからな。まぁ、最初からそのつもりでやってたんだけど ……」

「えっ、そうだったんですか?」

「ああ、ただの友人と肩を抱いて歩くなんてするわけないだろう? 私が恋人だとみんなに見せつけて牽制してたんだ。あれくらいしていたら、敦己に変な虫が寄ってこないだろう? ただでさえ、日本とアメリカで離れてるんだ。敦己は可愛すぎるんだからそれくらいしておかないと心配だからな」

「誉さん……」

まさかあの行動の裏にそんなことが隠されてたなんて思っても見なかった。

「敦己、呆れたか? まだ告白もしてないうちから牽制なんて……」

「いえ、嬉しいですよ。でも、そんな心配いらないですよ。僕、全然モテないですし」

今までだって、由依以外の人とは付き合ったこともない。
由依だって、僕のことを好きだったわけでもないんだし。
だから、全然心配することなんてないんだ。

安心させようと思って本当のことを話したのに、

「はぁーーっ」

誉さんは何故か僕を見ながら大きなため息を吐いた。

「あの、誉さん? どうかしました?」

「やっぱり紘の言っていた通りだな。自分の魅力を何もわかってない」

「えっ? 魅力? 上田が何か言ってたんですか?」

「ああ。天性のひとたらしだってね」

「ひとたらし?」

「敦己の可愛い顔を好きになるのはもちろん、一緒に仕事をすればその優秀さにどんどん惹かれるし、内面も外面も申し分ないって。だから、営業で外に行くたびに担当先の社員に敦己のことを聞かれると言っていたぞ」

「そんな……」

上田がそんなことを誉さんに?
なんか……恥ずかしい。

「紘はそんな敦己に近づこうとする奴らをかなり排除していたらしいよ。知らなかっただろう?」

「えっ、全然知らなかったです」

「だろうな。敦己があの彼女と出会うきっかけになった飲み会の時は、紘が出張に行ってて排除できなかったって。元々、あの彼女がくる予定じゃなかったんだろう?」

「はい。そうです。突然、予定の人が来られなくなったからって……」

「紘はかなり心配していたよ。敦己が騙されてるんじゃないかって」

「あの、誉さんはいつから僕のことを知ってたんですか?」

「敦己が彼女と付き合いだした頃からかな。紘に相談されて、もし何かあったらすぐに相談に乗ってやってほしいって頼まれてたんだ」

「だからあの日、すぐに来てくれたんですか?」

そう尋ねると誉さんは大きく頷いた。
しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!

迷路を跳ぶ狐
BL
 社交界での立ち回りが苦手で、よく夜会でも失敗ばかりの僕は、いつも一族から罵倒され、軽んじられて生きてきた。このまま誰からも愛されたりしないと思っていたのに、突然、ろくに顔も合わせてくれない公爵家の男と、婚約することになってしまう。  だけど、婚約なんて名ばかりで、会話を交わすことはなく、同じ王城にいるはずなのに、顔も合わせない。  それでも、公爵家の役に立ちたくて、頑張ったつもりだった。夜遅くまで魔法のことを学び、必要な魔法も身につけ、僕は、正式に婚約が発表される日を、楽しみにしていた。  けれど、ある日僕は、公爵家と王家を害そうとしているのではないかと疑われてしまう。  一体なんの話だよ!!  否定しても誰も聞いてくれない。それが原因で、婚約するという話もなくなり、僕は幽閉されることが決まる。  ほとんど話したことすらない、僕の婚約者になるはずだった宰相様は、これまでどおり、ろくに言葉も交わさないまま、「婚約は考え直すことになった」とだけ、僕に告げて去って行った。  寂しいと言えば寂しかった。これまで、彼に相応しくなりたくて、頑張ってきたつもりだったから。だけど、仕方ないんだ……  全てを諦めて、王都から遠い、幽閉の砦に連れてこられた僕は、そこで新たな生活を始める。  食事を用意したり、荒れ果てた砦を修復したりして、結構楽しく暮らせていると思っていた矢先、森の中で王都の魔法使いが襲われているのを見つけてしまう。 *残酷な描写があり、たまに攻めが受け以外に非道なことをしたりしますが、受けには優しいです。

処理中です...