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sweetheart

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「宇佐美くん」

「えっ、あっ」

「どうした? 行くよ」

「あ、はい。わっ!」

誉さんが言っていた『sweetheart愛する人』が気になって頭の中で何度も反芻しているうちに、支払いが終わった誉さんが僕のそばまで呼びに来てくれていた。
慌てていこうとすると、誉さんに手を握られて驚いてしまった。

手を握られるなんて今までに何度もしてるのに、なんで急にドキドキするんだろう。

「宇佐美くん、どうかした? なんだか急に様子がおかしいな」

「えっ、いえ……あの……」

どうしよう。
ただの冗談かもしれないのに、僕がこんなに意識してるなんて気づかれたら逆におかしなことになっちゃうかも。
それなら、なんでもないって言った方がいいよね?
でも誉さんにはなんでも見透かされそうな気がする。

どうしよう……本当にどうしたらいいんだろう……。

「ちょっとそこのベンチに座ろうか」

歩道の街路樹の脇に置かれた赤いベンチを指さされ頷いた。

僕の座る場所にハンカチを敷いてくれて、

「さぁ、座って」

と声をかけられる。
そういえば、いつも誉さんは僕をエスコートしてくれていた。
依頼人だからとか、弟みたいな存在だからとか僕は勝手に理由づけていたけれど、もしかして誉さんは本気で僕のことを『sweetheart』だと思ってくれているんだろうか……。

「何を思い悩んでいるのか聞いてもいい?」

多分ここで聞かないと、一生悶々としたままかもしれない。

僕はゴクっと息を呑み、思い切って尋ねてみた。

「あ、あの……さ、さっき……店員、さんに、僕のこと……『sweetheart』だって……言ってるのが、聞こえて……本気、ですか?」

「もちろん、本気だよ。ごめん、男同士なのに君のことを勝手に『sweetheart』だなんて呼んだりして、気を悪くしたかな?」

「いえっ、そんなことはっ!」

気を悪くしたと尋ねられて、考える暇もなく勝手に口から溢れていた。
でも、この言葉に嘘はない。

『sweetheart』と他の人に言われたら嫌だと思ったかもしれないけれど、誉さんならむしろ嬉しいとさえ思ってしまった。
逆に冗談だと言われた方が傷つくかも……なんてことも思ったし。

「あの、僕……嬉しかった、ですよ。本当に。僕、一人で過ごす方がずっと楽だって思ってたのに……誉さんといると楽に呼吸ができる気がして……この時間がずっと続けばいいなって思ってました」

「宇佐美くん……」

「だから、気持ち悪いとか、気を悪くするとかそんなことないですっ」

「――っ、ああ、もうっ! 宇佐美くん! それって意味わかってる?」

「えっ? 意味?」

「私は初めて宇佐美くんに会ったあの時から、惹かれていた。なんとしてでも君を自分のものにしたいと思っていたし、ずっと一緒にいたいと思っていた。だから、宇佐美くんが少しでも私を必要としてくれるように必死に画策していた。その度に君は嬉しそうに笑ってくれて……少しずつ私に好意を持ってくれているかなと思っていた。でも、なかなか宇佐美くんの気持ちの核心には触れられなくて……だから、今回の旅にかけてたんだ。一緒の時間を過ごしている間に、宇佐美くんに私を印象付けようって」

「誉さん……」

まさかそんなことを想ってくれていたなんて……。

「でも、宇佐美くん、一緒に寝ても、食事を食べさせても、腰を抱いても嫌がらなかっただろう?」

「あ、だって兄だと思って甘えてって……」

「いいか? 兄弟でもそんなことは絶対にしない」

「えっ、じゃあ上田とは……」

「やるわけないだろ! あんなの大切な恋人にしか、というか宇佐美くんにしかしないよ」

「――っ! そんな……っ、じゃあ、誉さんはずっと僕のことを?」

「ああ、ずっといつになったら落ちてくれるかと悶々してたよ」

悶々って……。

誉さんの言葉に一気に顔が熱くなっていく。
自分がこんなにも鈍感だなんて思ってなかった。

「宇佐美くん、遠回しに言って勘違いされたくないからはっきりというよ。私は宇佐美くんが……いや、敦己が好きだ」

「――っ!!!」

「本気で、敦己のことを恋愛感情として好きなんだ! 絶対に裏切ったり傷つけたりしないし、敦己を一生大切にすると誓う。だから、一生のパートナーとして私のそばにいてほしい」

「誉さん……」

「今まで女性の婚約者がいたんだから、突然男の私にそんなことを言われて戸惑っているかもしれないが、私と少しでも一緒にいたいと思ってくれるなら、恋人になってくれ! 頼む!」

あんなに自信満々で頼れる人なのに、僕なんかにこんなに懇願するなんて……。

誉さんが恋人だったら……なんて考えたことはなかったけど、一緒にいられたら幸せだろうなと思ってた。
今思えば、それは由依の時には感じられなかった感情だ。

なら、答えは一つだ。

「僕でよければ……パートナーにしてください」

そう答えた瞬間、僕は誉さんの腕の中にすっぽりと包まれた。
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