婚約者に裏切られたのに幸せすぎて怖いんですけど……

波木真帆

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番外編

会いに行こう! <中編>

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カランとドアベルが鳴るが、部屋の中は薄暗くよく見えない。
到底営業しているようには見えないが、

『いらっしゃい』

と広東語が部屋の奥から聞こえてきた。

『こちらにどうぞ』

まだ姿も見えないままで怪しさが増していく。ここは本当に大丈夫なのか?
いざとなったら敦己を抱きかかえて逃げないとな。
とりあえず出口までの経路は間違えないように薄暗い中でもしっかりと場所を把握しておいた。

「誉さん、行きましょう」

「ああ。そうだな。敦己、俺から離れるなよ」

「はい。わかってます」

敦己が俺の腰に絡みついたから、俺も敦己の腰に腕を回し、ピッタリと寄り添わせた。
これで何かあればすぐに外に連れて行ける。

敦己と共に声が聞こえた、部屋の奥に進むと

『こちらですよ』

とフード付きのマントにアラビアンマスクをつけた、いかにも怪しげな女がテーブルを前に座っていて、前に座れと呼びかけてくる。

テーブルには水晶やらカードやら色々なものが並べられているが、それよりもその女のただならぬ気配に少し圧倒されている自分がいた。

女が座るテーブルの向かいに置かれた二つの椅子に座ると、ふっと女の口角が上がる。

『お二人はカップルなのですね。なるほど、見た目はとてもお似合いです』

見た目はという言い方が気になったが、敦己はお似合いと言われて嬉しそうに微笑んだ。

『それで今日は何を占いましょうか?』

『あの、僕たちの将来というか、これからのことを聞きたいです』

敦己は何を聞くかを決めていたようで、身を乗り出すように声を上げた。
敦己は英語だけでなく広東語も流暢らしく、まるでネイティブのような発音に驚く。
旅先で敦己の新しい一面を知るのはなんとも嬉しいものだな。
頼もしい敦己を愛おしく思いながら見つめていると、

『わかりました』

と女が低い声で了承し、目の前の水晶に手をやった。

しばらくその水晶を見つめていた女は、ふっと顔をあげ、俺たちに視線を向けた。

『残念ながら、あなたがたには将来が見えません』

『えっ? それはどういうことですか?』

敦己は一瞬にして顔色を青褪めさせ、その場に立ち上がった。

『あなたが彼のひどい裏切りに遭い、あなたがたは別れの道を選びます』

『裏切り? そんな――っ!』

あまりにも衝撃的な内容に敦己は身体の力が抜けたようでストンと椅子に座り込んだ。

『悲しいことですがそれが現実です。この方を見ていたら、周りの女性の影がたくさん見えます』

アラビアンマスクの下で女がニヤリと笑った気がした。こいつは俺たちを別れさせようとしているだけだ。

『お前、言いたいことはそれだけか? 敦己を傷つけようとするなら俺は地の果てまででもお前を追いかけて一生苦しませてやるぞ』

占い師とは名ばかりのむかつく女に文句を浴びせてから、俺は敦己を抱きしめた。

「敦己! 落ち着くんだ。そんなこと絶対にあり得ない」

「誉さん……でも、この占いは必ず当たるって……」

腕を上げる力すら無くしているのか、俺に抱きつきもしない。その声も震えているのがわかる。
ただでさえ、一度酷い裏切りを受けた敦己だ。トラウマになっていたっておかしくない。俺はさらにぎゅっと抱きしめた。

「俺は敦己を心の底から大切に思ってる。裏切るなんてあるはずがない。敦己は今までの俺を見ていても信じられないか? 俺よりもこの女の言葉を信じるのか?」

「誉さん……」

「どうなんだ?」

「ごめんなさい……」

「えっ?」

「一瞬でも信じてしまってごめんなさい。僕は誉さんを信じます」

「――っ!! 敦己! よかった。本当によかった!」

ごめんなさいと言われた瞬間、目の前が真っ暗になってしまったが、俺のことを信じると言ってくれた。
こうなればもうここにいる意味はない。

「敦己、もう出よう。ここにいても何の意味もないよ」

俺は財布から1000ドル札を5枚ほど出し、机に叩きつけた。

『俺たちの仲を引き裂いて、修復させるためのものでも売りつけようとしたか? それならこれで十分だろう。俺たちは失礼する!』

敦己を抱きかかえてさっさとこの店からでようとしたところで、

『お前たちをここから出すわけにはいかない』

と出入り口に男が立ちはだかった。

『俺たちを閉じ込めるつもりか? それなら力づくでも突破するだけだ』

敦己を片手で抱きかかえたまま、もう片方の手を振り上げた瞬間、

「えっ、父さん?」

という敦己の声が耳に飛び込んできた。
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