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楽しい朝食
「お待たせしました」
「わっ!」
「すみません、急に声をかけて驚かせてしまいましたか?」
「い、いや。大丈夫。悪い、大きな声を出したりして――っ!!」
「どうかしましたか?」
「い、いや。なんでもない」
ほんのり頬を上気させて、髪の毛から少し雫が垂れている透也くんの姿がやけに色気があって、ドキドキしてしまう。
「すぐにご飯炊きますね。30分くらいで食べられるんですが……遅くなってすみません」
「いや、炊き立てを食べられるなら30分くらい大したことないよ。それよりも炊くところを見ていてもいいか?」
「ええ、もちろんです。どうぞ」
キッチンに案内されると、造り自体は俺の部屋と大して変わらないように見えた。
違うところと言えば、電化製品や調味料、スパイスの類が充実しているところだろうか。
「本当に自炊しているんだな」
「ふふっ。好きになると一途なんで」
「えっ?」
「ついつい凝ったものを作ってしまうんですよ」
「ああ、そういうことか」
びっくりした。
透也くんの口から好きだなんて出てくるだけで反応しすぎだ。
なんだか透也くんに会ってからいつもの自分じゃないみたいだ。
なんとなく透也くんから視線をそらそうと下に目をやって、自分が手土産にと持ってきていたものを思い出した。
「ああっ。あの……これ、大したものじゃなくて申し訳ないんだけど、手土産というかなんというか……」
「そんなっ、手土産なんて気にされないでよかったんですよ」
「いや、本当に大したものじゃないんだ。うちにあるよりは透也くんのところにあった方が使ってもらえるかと思って持ってきただけだから」
「うちにある方が……? あの、中身拝見しますね」
「あ、ああ」
透也くんは俺から箱を受け取ると丁寧に箱を開け、中身を見て一瞬動きを止めた。
あっ、もしかして賞味期限でも切れていたのか?
そこまで見てくるの忘れていたな。
「あっ、ごめん。何かおかしなところでもあったか?」
「これ……彼女、さんからですか?」
「えっ? 彼女、って……ああ、違うよ。妹からの餞別なんだ」
「……妹、さんですか?」
「ああ。料理はしなくても海外にずっといたら流石に欲しくなるだろうからって、言われて持ってきていたんだけど、すっかり忘れててさっきクローゼットから見つけ出したんだ。私だと確実にダメにしてしまいそうだから、透也くんに使ってもらった方がいいと思ったんだが……邪魔だったかな?」
「いいえっ、喜んでいただきます」
「そうか? 無理しなくてもいいぞ」
「いいえ、これすごい出汁シリーズなんですよ。私も欲しかったんですけど限定品で諦めてたんですよ。だからびっくりしました。妹さん、大智さんのことを大切に思ってるんですね」
「そう、なのかな? まぁでも料理は好きみたいだな。いつも何かしら振る舞ってくれるから」
「ふふっ。仲がいいんですね。おいくつ違いなんですか?」
「あ、いや。妹と言っても双子なんだ。男女の双子だから顔は似ていないけどね」
「へぇー、そうなんですね。あっとっ!」
土鍋から吹きこぼれそうになったのに気づいて透也くんは慌てたように土鍋の火を消した。
「間に合ってよかったです。これであと10分蒸らしたら食べられますよ。今のうちに魚を焼きますね」
「すごい、干物もあるのか?」
「はい。これが一昨日日本から届いたもので、大智さんに食べてもらえることになってよかったですよ」
香ばしく焼ける干物の香りに思わずごくりと唾を飲み込む。
やっぱり俺は日本人なんだなと感じずにはいられない。
「さぁ、できました」
鯵の干物と卵焼き、豆腐と長ネギの味噌汁に胡瓜の浅漬け。
そして、テーブルの真ん中に置かれた大きな土鍋
どれからもいい匂いが漂っていて、もうお腹の音が鳴り止まない。
透也くんがパッと蓋を開けると、湯気とともに美味しそうなお米の炊けた匂いが部屋中に広がる。
「ああっ、美味しそうだな」
「ふふっ。ご飯よそいますね」
よそいたてのつやっつやのご飯が手渡される。
米が光ってるってこういうことを言うんだろうか。
「「いただきます」」
挨拶と同時に、おかずより何よりも炊き立てのご飯に箸を入れる。
「はふっ、はふっ。おいしぃっ!」
「ふふっ。お代わりありますから、好きなだけ食べてください」
お米ってこんなに美味しかったんだなとしみじみ思わされる。
ご飯だけの味を楽しんだ後は、綺麗な形をした卵焼き。
パクリと口に入れるとじわっと出汁が溢れ出てくる。
甘さもちょうどいい。
「うまっ!」
「この浅漬けも食べて見てください」
透也くんが浅漬けを箸で持って口の前に運んでくる。
あまりにも美味しそうでそのままパクリと食べてしまった。
あれ? 今、あーんされなかったか?
そう一瞬思ったけれど、浅漬けがあまりにも美味しくてその衝撃が吹き飛んでしまった。
結局おかわりもしてしまって、目の前のおかずも全て完食した。
「ふぅ……お腹いっぱいだ」
「ふふっ。喜んでもらえてよかったです」
「本当に料理上手なんだな」
「はい。だから、夕食だけでなく朝食も食べにきてください」
「いや、流石にそれは……」
「でも、一人分作るより、二人分作る方が経済的なんですよ。この土鍋で一人分炊くのはかえって水加減も難しいですし」
「そういうものなのか?」
「はい。だから食べてくださった方がありがたいんです」
そう真剣に言われると、断るのも困ってしまう。
正直すごく美味しかったし、これが毎日食べられるのはありがたい。
「じゃあ、食費を出させてくれ。そうしたら朝食も夕食も頼みやすい」
「はい。わかりました」
思ったよりもすんなり受け入れてくれて助かった。
食費を払うなら対等でいられる気がする。
料理ができない分、食材費にはお金をかけてもらっていい。
それくらいの稼ぎはあるつもりだから。
今までつまらないと思っていた食事時間が、なんだかとても楽しみになってきた。
これも全部透也くんのおかげだな。
「わっ!」
「すみません、急に声をかけて驚かせてしまいましたか?」
「い、いや。大丈夫。悪い、大きな声を出したりして――っ!!」
「どうかしましたか?」
「い、いや。なんでもない」
ほんのり頬を上気させて、髪の毛から少し雫が垂れている透也くんの姿がやけに色気があって、ドキドキしてしまう。
「すぐにご飯炊きますね。30分くらいで食べられるんですが……遅くなってすみません」
「いや、炊き立てを食べられるなら30分くらい大したことないよ。それよりも炊くところを見ていてもいいか?」
「ええ、もちろんです。どうぞ」
キッチンに案内されると、造り自体は俺の部屋と大して変わらないように見えた。
違うところと言えば、電化製品や調味料、スパイスの類が充実しているところだろうか。
「本当に自炊しているんだな」
「ふふっ。好きになると一途なんで」
「えっ?」
「ついつい凝ったものを作ってしまうんですよ」
「ああ、そういうことか」
びっくりした。
透也くんの口から好きだなんて出てくるだけで反応しすぎだ。
なんだか透也くんに会ってからいつもの自分じゃないみたいだ。
なんとなく透也くんから視線をそらそうと下に目をやって、自分が手土産にと持ってきていたものを思い出した。
「ああっ。あの……これ、大したものじゃなくて申し訳ないんだけど、手土産というかなんというか……」
「そんなっ、手土産なんて気にされないでよかったんですよ」
「いや、本当に大したものじゃないんだ。うちにあるよりは透也くんのところにあった方が使ってもらえるかと思って持ってきただけだから」
「うちにある方が……? あの、中身拝見しますね」
「あ、ああ」
透也くんは俺から箱を受け取ると丁寧に箱を開け、中身を見て一瞬動きを止めた。
あっ、もしかして賞味期限でも切れていたのか?
そこまで見てくるの忘れていたな。
「あっ、ごめん。何かおかしなところでもあったか?」
「これ……彼女、さんからですか?」
「えっ? 彼女、って……ああ、違うよ。妹からの餞別なんだ」
「……妹、さんですか?」
「ああ。料理はしなくても海外にずっといたら流石に欲しくなるだろうからって、言われて持ってきていたんだけど、すっかり忘れててさっきクローゼットから見つけ出したんだ。私だと確実にダメにしてしまいそうだから、透也くんに使ってもらった方がいいと思ったんだが……邪魔だったかな?」
「いいえっ、喜んでいただきます」
「そうか? 無理しなくてもいいぞ」
「いいえ、これすごい出汁シリーズなんですよ。私も欲しかったんですけど限定品で諦めてたんですよ。だからびっくりしました。妹さん、大智さんのことを大切に思ってるんですね」
「そう、なのかな? まぁでも料理は好きみたいだな。いつも何かしら振る舞ってくれるから」
「ふふっ。仲がいいんですね。おいくつ違いなんですか?」
「あ、いや。妹と言っても双子なんだ。男女の双子だから顔は似ていないけどね」
「へぇー、そうなんですね。あっとっ!」
土鍋から吹きこぼれそうになったのに気づいて透也くんは慌てたように土鍋の火を消した。
「間に合ってよかったです。これであと10分蒸らしたら食べられますよ。今のうちに魚を焼きますね」
「すごい、干物もあるのか?」
「はい。これが一昨日日本から届いたもので、大智さんに食べてもらえることになってよかったですよ」
香ばしく焼ける干物の香りに思わずごくりと唾を飲み込む。
やっぱり俺は日本人なんだなと感じずにはいられない。
「さぁ、できました」
鯵の干物と卵焼き、豆腐と長ネギの味噌汁に胡瓜の浅漬け。
そして、テーブルの真ん中に置かれた大きな土鍋
どれからもいい匂いが漂っていて、もうお腹の音が鳴り止まない。
透也くんがパッと蓋を開けると、湯気とともに美味しそうなお米の炊けた匂いが部屋中に広がる。
「ああっ、美味しそうだな」
「ふふっ。ご飯よそいますね」
よそいたてのつやっつやのご飯が手渡される。
米が光ってるってこういうことを言うんだろうか。
「「いただきます」」
挨拶と同時に、おかずより何よりも炊き立てのご飯に箸を入れる。
「はふっ、はふっ。おいしぃっ!」
「ふふっ。お代わりありますから、好きなだけ食べてください」
お米ってこんなに美味しかったんだなとしみじみ思わされる。
ご飯だけの味を楽しんだ後は、綺麗な形をした卵焼き。
パクリと口に入れるとじわっと出汁が溢れ出てくる。
甘さもちょうどいい。
「うまっ!」
「この浅漬けも食べて見てください」
透也くんが浅漬けを箸で持って口の前に運んでくる。
あまりにも美味しそうでそのままパクリと食べてしまった。
あれ? 今、あーんされなかったか?
そう一瞬思ったけれど、浅漬けがあまりにも美味しくてその衝撃が吹き飛んでしまった。
結局おかわりもしてしまって、目の前のおかずも全て完食した。
「ふぅ……お腹いっぱいだ」
「ふふっ。喜んでもらえてよかったです」
「本当に料理上手なんだな」
「はい。だから、夕食だけでなく朝食も食べにきてください」
「いや、流石にそれは……」
「でも、一人分作るより、二人分作る方が経済的なんですよ。この土鍋で一人分炊くのはかえって水加減も難しいですし」
「そういうものなのか?」
「はい。だから食べてくださった方がありがたいんです」
そう真剣に言われると、断るのも困ってしまう。
正直すごく美味しかったし、これが毎日食べられるのはありがたい。
「じゃあ、食費を出させてくれ。そうしたら朝食も夕食も頼みやすい」
「はい。わかりました」
思ったよりもすんなり受け入れてくれて助かった。
食費を払うなら対等でいられる気がする。
料理ができない分、食材費にはお金をかけてもらっていい。
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今までつまらないと思っていた食事時間が、なんだかとても楽しみになってきた。
これも全部透也くんのおかげだな。
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