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一生忘れられない
「えっと……えっ、もうこんな時間?」
「ふふっ。そろそろ夕食の支度をしましょうか」
恥ずかしさを隠すように時計に目をやれば、夕方6時を回ろうとしていた。
「本当に申し訳ないっ! 足、疲れてないか?」
「大丈夫ですよ。そんなやわじゃありませんから。それに楽しかったって言ったでしょう?」
――大智さんの寝顔が可愛くて
そう言われたことが頭の中でリフレインして止まらない。
「寝顔は……ちょっと、恥ずかしいんだけど……」
「誰にも見せたことないですか?」
「えっ?」
透也くんに尋ねられて、一瞬考える。
高校生の時に、自分が男にしか惹かれないと気づいてから恋に臆病になった。
あのアイドルが可愛い。
あの女優が好みだという話で盛り上がっている同級生の中に同類はいないだろうと思い込んでいたから、学生の間は恋愛は自分からやめていた。
傷つきたくなかったんだ。
大人になったら……いや、社会人になったら少しは恋愛できるかと思ったけれど、仕事で出会う人が増えれば増えるだけ、どこかの繋がりでバレるんじゃないかって不安になった。
そのせいで余計に臆病になってしまったけれど、それでも誰かに愛されたい。
そんな気持ちが抑えられなくなって、自宅や会社から反対方向にある街のBarで初めて出会いを求めてみた。
そこで出会ったのが宏樹だった。
――俺、バイだから、男だけってわけじゃないけどそれでも良いなら付き合って。君が店に入ってきた時から可愛いと思ってたんだ。
可愛いなんてそんな嬉しい言葉をかけられたのが初めてで、俺は何も考えずに頷いてしまっていた。
あの時、バイだからって言われたのをもっとちゃんと考えればよかったのに……。
付き合って最初のうちは宏樹も優しかった。
待ち合わせには遅れないように来てくれたし、食事だって毎回奢ってくれた。
いいよ、俺が出すよ
ずっと奢られていることに居心地を悪く感じて、そう言ってから、自然と全ての支払いを受け持つようになったけど、それでもあの時は今までの人生の中で一番幸せだと思えた。
それから少しずつ宏樹に横柄な態度が出始めても、俺だけに素の姿を見せてくれていると思うだけで嬉しかった。
どんどん冷めていく宏樹とは対照的に、恋人のいる生活というものに慣れていなかった俺には宏樹と過ごす時間が新鮮に思えて、多分周りが見えていなかったんだろうな。
キスやハグから、エッチに移行するのに少し時間はかかったけれど、その時は愛されているような気がした。
決して中に挿入することはなかったけれど、手でしあうだけでも幸せだったし、それで良いと思っていた。
付き合っていた2年の間、仕事が大変だろうからといつも夜には帰るように促されて、それも宏樹の優しさだと思っていたけれど、今思えば違ったんだろうな。
そんな感じだったから、宏樹の家に泊まった事はなかったな。
宏樹と二人で旅行に行くこともなかったし、そう考えたら……誰かに寝顔を見られたのは、初めてかもしれない。
30歳にして初めて寝顔を見られたのか……うわっ、なんかそう考えたらものすごく恥ずかしい。
「す、すみません。余計なことを聞いてしまいましたね。今のは聞かなかったことにしてくださいっ!」
突然目の前の人間の顔が真っ赤になれば、驚くのも無理はない。
でも、透也くんに勘違いはされたくない。
なぜかそう思ってしまった。
「違うんだ……」
「えっ?」
「初めて、だったみたいなんだ。寝顔なんて、見られたの……」
「――っ!! 大智さん……」
「それに今気づいたから、なんだか恥ずかしくなって……」
口に出すと、さらに顔が赤くなっていくのがわかる。
もはやどうやったら元に戻れるかもわからない。
30男の照れて赤くなった顔なんて見たくもないだろうと必死で両手で覆い隠そうとしていると、
「――っ!! えっ――」
急に大きなものに包み込まれた。
えっ?
今どういう状況?
なんで俺……透也くんに抱きしめられてるんだ?
「すみませんっ、そんな貴重なものを勝手に見てしまって……」
「そんなっ、貴重だなんて……っ、変な顔晒してしまったのはこっちなのに謝らないでくれ」
「大智さん、変な顔なんかじゃないですよ。可愛いって言いましたよね?」
「透也くん……」
「大智さんの可愛い寝顔を初めて見たのは、私だってこと一生忘れませんから」
それがどういう意味なのか、怖くてそれ以上は聞けなかった。
でもギュッと抱きしめられている透也くんの温もりとふわりと漂ってくる爽やかな香りは、俺も一生忘れられそうになかった。
それからどれくらい抱きしめられていたんだろう。
その時間を台無しにするように、きゅるるっとお腹が鳴ってしまった。
「わっ、悪いっ」
「ふふっ。すき焼きの準備しましょうか。大智さんも一緒に準備しますか?」
「そうだな。透也くんがこっちにいる間に少しでも料理を教えてもらったら、一人になっても生きていけるかも」
「大智さん……」
「すき焼きって何から準備したらいい?」
そう尋ねると、透也くんは俺の手を引いてキッチンへと向かった。
「ふふっ。そろそろ夕食の支度をしましょうか」
恥ずかしさを隠すように時計に目をやれば、夕方6時を回ろうとしていた。
「本当に申し訳ないっ! 足、疲れてないか?」
「大丈夫ですよ。そんなやわじゃありませんから。それに楽しかったって言ったでしょう?」
――大智さんの寝顔が可愛くて
そう言われたことが頭の中でリフレインして止まらない。
「寝顔は……ちょっと、恥ずかしいんだけど……」
「誰にも見せたことないですか?」
「えっ?」
透也くんに尋ねられて、一瞬考える。
高校生の時に、自分が男にしか惹かれないと気づいてから恋に臆病になった。
あのアイドルが可愛い。
あの女優が好みだという話で盛り上がっている同級生の中に同類はいないだろうと思い込んでいたから、学生の間は恋愛は自分からやめていた。
傷つきたくなかったんだ。
大人になったら……いや、社会人になったら少しは恋愛できるかと思ったけれど、仕事で出会う人が増えれば増えるだけ、どこかの繋がりでバレるんじゃないかって不安になった。
そのせいで余計に臆病になってしまったけれど、それでも誰かに愛されたい。
そんな気持ちが抑えられなくなって、自宅や会社から反対方向にある街のBarで初めて出会いを求めてみた。
そこで出会ったのが宏樹だった。
――俺、バイだから、男だけってわけじゃないけどそれでも良いなら付き合って。君が店に入ってきた時から可愛いと思ってたんだ。
可愛いなんてそんな嬉しい言葉をかけられたのが初めてで、俺は何も考えずに頷いてしまっていた。
あの時、バイだからって言われたのをもっとちゃんと考えればよかったのに……。
付き合って最初のうちは宏樹も優しかった。
待ち合わせには遅れないように来てくれたし、食事だって毎回奢ってくれた。
いいよ、俺が出すよ
ずっと奢られていることに居心地を悪く感じて、そう言ってから、自然と全ての支払いを受け持つようになったけど、それでもあの時は今までの人生の中で一番幸せだと思えた。
それから少しずつ宏樹に横柄な態度が出始めても、俺だけに素の姿を見せてくれていると思うだけで嬉しかった。
どんどん冷めていく宏樹とは対照的に、恋人のいる生活というものに慣れていなかった俺には宏樹と過ごす時間が新鮮に思えて、多分周りが見えていなかったんだろうな。
キスやハグから、エッチに移行するのに少し時間はかかったけれど、その時は愛されているような気がした。
決して中に挿入することはなかったけれど、手でしあうだけでも幸せだったし、それで良いと思っていた。
付き合っていた2年の間、仕事が大変だろうからといつも夜には帰るように促されて、それも宏樹の優しさだと思っていたけれど、今思えば違ったんだろうな。
そんな感じだったから、宏樹の家に泊まった事はなかったな。
宏樹と二人で旅行に行くこともなかったし、そう考えたら……誰かに寝顔を見られたのは、初めてかもしれない。
30歳にして初めて寝顔を見られたのか……うわっ、なんかそう考えたらものすごく恥ずかしい。
「す、すみません。余計なことを聞いてしまいましたね。今のは聞かなかったことにしてくださいっ!」
突然目の前の人間の顔が真っ赤になれば、驚くのも無理はない。
でも、透也くんに勘違いはされたくない。
なぜかそう思ってしまった。
「違うんだ……」
「えっ?」
「初めて、だったみたいなんだ。寝顔なんて、見られたの……」
「――っ!! 大智さん……」
「それに今気づいたから、なんだか恥ずかしくなって……」
口に出すと、さらに顔が赤くなっていくのがわかる。
もはやどうやったら元に戻れるかもわからない。
30男の照れて赤くなった顔なんて見たくもないだろうと必死で両手で覆い隠そうとしていると、
「――っ!! えっ――」
急に大きなものに包み込まれた。
えっ?
今どういう状況?
なんで俺……透也くんに抱きしめられてるんだ?
「すみませんっ、そんな貴重なものを勝手に見てしまって……」
「そんなっ、貴重だなんて……っ、変な顔晒してしまったのはこっちなのに謝らないでくれ」
「大智さん、変な顔なんかじゃないですよ。可愛いって言いましたよね?」
「透也くん……」
「大智さんの可愛い寝顔を初めて見たのは、私だってこと一生忘れませんから」
それがどういう意味なのか、怖くてそれ以上は聞けなかった。
でもギュッと抱きしめられている透也くんの温もりとふわりと漂ってくる爽やかな香りは、俺も一生忘れられそうになかった。
それからどれくらい抱きしめられていたんだろう。
その時間を台無しにするように、きゅるるっとお腹が鳴ってしまった。
「わっ、悪いっ」
「ふふっ。すき焼きの準備しましょうか。大智さんも一緒に準備しますか?」
「そうだな。透也くんがこっちにいる間に少しでも料理を教えてもらったら、一人になっても生きていけるかも」
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そう尋ねると、透也くんは俺の手を引いてキッチンへと向かった。
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