16 / 137
冗談だったんだけど……
「大智さん、上手ですね。もう野菜全部切り終わってるじゃないですか」
「意外と楽しくって」
「ふふっ。そんなふうに思えたら十分ですよ。大智さん、こっちもやってみますか?」
透也くんがやっているのはあのミートスライサーとやらで、大きなステーキのような肉を薄切りにしている。
その姿はまるで肉職人のようだ。
「いや、それはちょっと技術がいりそうだから見ておくよ。でも、この肉……サシが入ってすごく美味しそうだな」
「ええ。アメリカの肉は結構赤みが多いんですけど、あのスーパーはサシの入った肉が充実してるんですよね。肉を買うならあそこがおすすめですよ」
「そういえば、ステーキ肉も多かったな。美味しそうだった」
「ふふっ。じゃあ、今度はステーキもしましょうか。結構ステーキ焼くのも得意なんですよ」
そんなことを話しながらもすき焼き用の薄切り肉はどんどん出来上がっていく。
「本当に職人技だな」
「ふふっ。今日は大智さんの前なので気合い入れましたよ。喜んでもらえて何よりです。さぁ、これで終わりです」
山盛りになった肉をテーブルに置き、手際よく次の準備に取り掛かる。
すき焼き用の鍋に透也くんの手作りの割下を入れ、さっき薄切りにしたばかりの肉を入れていく。
「うわっ! 美味しそうっ!」
「ふふっ。味見してみますか?」
「味見?」
「はい、あーん」
そう言ってたった今、割下に入れて美味しそうな色に変わった肉を俺の口の前に持ってくる。
これって味見っていうんだろうか?
でも、目の前で甘辛な割下のいい匂いをさせている肉を拒む理由なんてない。
理性よりも本能が先に出てしまい、あーんと口を開けると、透也くんが嬉しそうな表情をしながら口に入れてくれた。
「んんっ! はふっ、おいひぃ」
「ふふっ。よかったです」
俺の言葉をお世辞だと思っているのか、笑顔でさらっと流しているようだけど、本当にびっくりするくらい美味しい!
いや、本当に。
すき焼き専門店で食べてるんじゃないかと思うくらい、味がしっかりしている。
多分俺が今まで食べてきたすき焼きの中でもダントツ美味しい。
「いや、本当に美味しいよ。こんなすごいのが家で食べられるなんて幸せだな」
「大智さんにそんなに褒められると調子に乗ってしまいますよ」
「いや、ほんとだって! 朝食も美味しかったし、こんなすごいのが毎食食べられるなら、すぐにでも奥さんにしたいくらいだよ」
いつもならこんな冗談なんて言ったりしない。
でもそれくらい本気で美味しかったんだって言いたかったんだ。
ノリのいい透也くんのことだから、きっと
――またまたぁーっ、大智さんもそんな冗談いうんですね。でも嬉しいです。
くらいのことなら返してくれるだろうと思ってた。
でも……
「いいですよ。大智さんが奥さんにもらってくれるなら、喜んで」
と笑顔のままでとんでもない言葉が返ってきた。
「えっ――!? と、透也くん……?」
「ふふっ。どうしたんですか?」
「いや、だって……っ、今……」
「大智さんが奥さんにしたいって言ってくれたので、喜んでと返したんですけど間違ってました?」
「いや、だって……」
同じ言葉しか返せないくらい、頭の中がテンパってる。
これは本気なのか?
それとも冗談?
常識的に考えたら冗談に決まってるけど、でも……真面目な透也くんのことだからもしかしてってことも……あったり、いやいや、するはずない。
少し冷静になろうと思っていたのに、さっきまで笑顔だった透也くんの表情がみるみるうちに悲しげになってくる。
「もしかして……冗談でした? やっぱり……私のご飯、美味しくなかったですか?」
「い、いや! 美味しいよっ! 本当に美味しいっ! 奥さんにしたいって言ったのも本気だからっ!」
「じゃあ、決まりですね。私は今日から大智さんの奥さんです。男に二言はないですよね?」
さっきまでの悲しげな顔が一転、満面の笑みで笑みで返されてしまった。
その勢いに押されるように気付けば、
「えっ? あ、ああ……」
と返してしまっていた。
「ふふっ。じゃあ、大智さん。すき焼き始めましょうか」
そういうと、さっきのことなんか忘れたように手際よくすき焼きを作り始めた。
甘辛い美味しい匂いが漂ってきたけれど、俺の頭の中はさっきの奥さん事件のことでいっぱいでただ茫然と透也くんがすき焼きを作るのを見つめるしかできなかった。
「できましたよ」
俺がぼーっとしている間にすき焼きが完成して、どうぞと生卵が溶かれた器を渡される。
「あ、ありがとう」
「ふふっ。奥さんとして当然のことですよ」
「――っ!!」
その後も次々とすき焼きを装ってくれたり、甲斐甲斐しい世話になぜか心地よさを感じてしまい、食事を終える頃には食後のお茶までなんの違和感もなくもらってしまっていた。
「意外と楽しくって」
「ふふっ。そんなふうに思えたら十分ですよ。大智さん、こっちもやってみますか?」
透也くんがやっているのはあのミートスライサーとやらで、大きなステーキのような肉を薄切りにしている。
その姿はまるで肉職人のようだ。
「いや、それはちょっと技術がいりそうだから見ておくよ。でも、この肉……サシが入ってすごく美味しそうだな」
「ええ。アメリカの肉は結構赤みが多いんですけど、あのスーパーはサシの入った肉が充実してるんですよね。肉を買うならあそこがおすすめですよ」
「そういえば、ステーキ肉も多かったな。美味しそうだった」
「ふふっ。じゃあ、今度はステーキもしましょうか。結構ステーキ焼くのも得意なんですよ」
そんなことを話しながらもすき焼き用の薄切り肉はどんどん出来上がっていく。
「本当に職人技だな」
「ふふっ。今日は大智さんの前なので気合い入れましたよ。喜んでもらえて何よりです。さぁ、これで終わりです」
山盛りになった肉をテーブルに置き、手際よく次の準備に取り掛かる。
すき焼き用の鍋に透也くんの手作りの割下を入れ、さっき薄切りにしたばかりの肉を入れていく。
「うわっ! 美味しそうっ!」
「ふふっ。味見してみますか?」
「味見?」
「はい、あーん」
そう言ってたった今、割下に入れて美味しそうな色に変わった肉を俺の口の前に持ってくる。
これって味見っていうんだろうか?
でも、目の前で甘辛な割下のいい匂いをさせている肉を拒む理由なんてない。
理性よりも本能が先に出てしまい、あーんと口を開けると、透也くんが嬉しそうな表情をしながら口に入れてくれた。
「んんっ! はふっ、おいひぃ」
「ふふっ。よかったです」
俺の言葉をお世辞だと思っているのか、笑顔でさらっと流しているようだけど、本当にびっくりするくらい美味しい!
いや、本当に。
すき焼き専門店で食べてるんじゃないかと思うくらい、味がしっかりしている。
多分俺が今まで食べてきたすき焼きの中でもダントツ美味しい。
「いや、本当に美味しいよ。こんなすごいのが家で食べられるなんて幸せだな」
「大智さんにそんなに褒められると調子に乗ってしまいますよ」
「いや、ほんとだって! 朝食も美味しかったし、こんなすごいのが毎食食べられるなら、すぐにでも奥さんにしたいくらいだよ」
いつもならこんな冗談なんて言ったりしない。
でもそれくらい本気で美味しかったんだって言いたかったんだ。
ノリのいい透也くんのことだから、きっと
――またまたぁーっ、大智さんもそんな冗談いうんですね。でも嬉しいです。
くらいのことなら返してくれるだろうと思ってた。
でも……
「いいですよ。大智さんが奥さんにもらってくれるなら、喜んで」
と笑顔のままでとんでもない言葉が返ってきた。
「えっ――!? と、透也くん……?」
「ふふっ。どうしたんですか?」
「いや、だって……っ、今……」
「大智さんが奥さんにしたいって言ってくれたので、喜んでと返したんですけど間違ってました?」
「いや、だって……」
同じ言葉しか返せないくらい、頭の中がテンパってる。
これは本気なのか?
それとも冗談?
常識的に考えたら冗談に決まってるけど、でも……真面目な透也くんのことだからもしかしてってことも……あったり、いやいや、するはずない。
少し冷静になろうと思っていたのに、さっきまで笑顔だった透也くんの表情がみるみるうちに悲しげになってくる。
「もしかして……冗談でした? やっぱり……私のご飯、美味しくなかったですか?」
「い、いや! 美味しいよっ! 本当に美味しいっ! 奥さんにしたいって言ったのも本気だからっ!」
「じゃあ、決まりですね。私は今日から大智さんの奥さんです。男に二言はないですよね?」
さっきまでの悲しげな顔が一転、満面の笑みで笑みで返されてしまった。
その勢いに押されるように気付けば、
「えっ? あ、ああ……」
と返してしまっていた。
「ふふっ。じゃあ、大智さん。すき焼き始めましょうか」
そういうと、さっきのことなんか忘れたように手際よくすき焼きを作り始めた。
甘辛い美味しい匂いが漂ってきたけれど、俺の頭の中はさっきの奥さん事件のことでいっぱいでただ茫然と透也くんがすき焼きを作るのを見つめるしかできなかった。
「できましたよ」
俺がぼーっとしている間にすき焼きが完成して、どうぞと生卵が溶かれた器を渡される。
「あ、ありがとう」
「ふふっ。奥さんとして当然のことですよ」
「――っ!!」
その後も次々とすき焼きを装ってくれたり、甲斐甲斐しい世話になぜか心地よさを感じてしまい、食事を終える頃には食後のお茶までなんの違和感もなくもらってしまっていた。
あなたにおすすめの小説
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。