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俺たちの未来
「それって……もしかして、宇佐美……とか?」
「なんだ、知り合いなのか。そう、宇佐美くん。彼に応援を頼んだんだ。知り合いなら、近いうちに食事でもしようか。彼にもこれから頑張ってもらわないといけないしな」
まさか知っているとは思っていなかったけれど、透也も宇佐美くんも同じ営業だし、同じ傘下なのだからどこかで出会っていても不思議じゃない。
「そうか……敦己がこっちにくるのか」
透也は何か考え込んだようにぶつぶつと呟いてから、俺をじっと見つめた。
「宇佐美くんが、どうかしたのか?」
「あの、大智は……支社長を任されるくらいですから、宇佐美のことをご存知なんでしょう?」
「それって……もしかして、その……彼の出自のことを言っているのか?」
「はい」
宇佐美くんがベルンシュトルフ ホールディングスの会長の大甥だということは上層部の人間しか知らないことだ。
今回、俺もこのL.A支社の支社長に昇進した時にその事実を知らされて驚いたものだ。
隠すことでもないだろうにと思ったが、公表しないのは実力で勝負をしたいという本人の強い意志なのだと聞かされて納得した。
宇佐美くんが同期と比べてかなりの出世頭なのは、コネでも七光でもなんでもなく、ひとえに本人の努力だ。
それでも彼が会長の大甥だと知れば、余計な言葉を投げかける者が絶対に出てくる。
そんなことで社内の調和を乱したくない。
彼のその思いがあるからこそ、今でも公表を控えている。
そんな状況であるにもかかわらず、透也がそれを知っているというのはもしかしたら彼と何か深い関わりでもあるのだろうか?
さっきぽろっと名前でも呼んでたし、もしかしたら親友とか?
「今回の支社長昇進を機に彼のことを知ったが、何かあるのか?」
「ああ、なるほど。そういうことですか。まさか、敦己までこの社宅に来るとは思わなかったんですが、そうなれば隠してはおけないですね」
「なんだ? なんのことを話しているんだ?」
「大智、正直に言いますね」
透也の真剣な口調と表情に緊張が走る。
思わずゴクリと息を呑むと、
「ああ、怖がらないでください。驚かせるとは思いますけど、俺たちの関係は何も変わらないですし、変わらせませんから」
と優しい声をかけてくれる。
でも、俺たちの関係がもしかしたら変わるようなことなのか?
不安でたまらなくなる。
今更、離れることなんて出来ないのに。
そう思っていると、ギュッと抱きしめられた。
「すみません。俺の言い方が悪くて、不安にさせてしまいましたね。でも本当に安心してください。俺たちは何も変わりません」
「それは信じるけど……一体なんなんだ?」
「俺……ベルンシュトルフ ホールディングスの会長の孫なんですよ。そして、次期社長になる予定です」
「――っ!! えっ……っ、な――っ、と、うやが……じ、き……しゃ、ちょう?」
透也が……次期、社長?
想像もつかなかった展開に頭がついていかない。
「でも、会長も社長も苗字が……」
確か、苗字は日下部だったはず。
「それは、誰にも気づかれないように母親の旧姓にしてたんです。そんなに多い苗字ではないですから、そんなところから綻びが出ると困ると思って。騙していたみたいですみません」
「いや、騙したとは思わないけど、じゃあ……お兄さんは?」
「ああ、兄貴は昔から料理人になるから会社は継がないって宣言してたんですよ。あ、別にそれで不仲とかないですよ。父も祖父も兄のやりたいことをやったらいいって賛成してますから。兄貴の才能も認めてますしね」
「そう、なんだ……。あ、じゃあ、高遠くんが笹川からうちに引き抜かれたのは……」
「あ、別に兄貴の件があったからじゃないですよ。高遠さんの仕事っぷりを間近で見て、ベルンシュトルフに欲しい人材だと判断して正式にヘッドハンティングしたんです」
「いや、高遠くんが仕事ができるのはよくわかってるよ。透也が高遠くんの有能さに気付いたってことなんだな」
「そうですね。そういうことです」
少しずつ頭が冷静になっていくけれど、気になるのはただひとつ。
透也は俺たちの関係は変わらないし、変わらせないと言っていたけど……。
「何か気になることがあれば、気にせずに話してください。俺はなんでも答えますから」
「あのさ……俺たちの関係は変わらないって言ってくれたけど、その……跡継ぎとか、どう考えてるんだ? 俺はどんなに頑張っても透也の子どもは産めないし……かといって、あ、愛人とかは認めてあげられないぞ」
「――っ!! それって、俺たちの未来を考えてくれてるってことですよね?」
「えっ? そりゃあそうだろう。そこが一番重要だし」
「よかった……跡継ぎだとかそういうことで別れたいって言われたらどうしようかと思ってました」
別れるなんて、思いもしなかった。
どうしたらずっと一緒にいられるだろうってことしか考えられなかった。
「そもそもうちの会社は別に直系男子が跡を継ぐと決まっているわけでもないんで問題ないですよ。それに敦己も婚約したって話を聞いてますし、敦己以外にもたくさん従兄弟はいますから跡継ぎの心配はいらないですよ」
そう言われればそうだ。
「まぁ、敦己に関して言えば今ちょっと調査中なのでどうなるかわからないんですけどね」
透也の言葉が気にはなったが、ベルンシュトルフホールディングス会長の大甥である宇佐美くんの結婚相手となれば、それなりの調査が必要なのかも知れない。
「あ、じゃあ俺も調査されるのかな?」
「えっ? ふふっ。それはないですよ。俺が選んだ相手ですから」
そう言って嬉しそうに笑う透也の笑顔に俺はほっとした。
「なんだ、知り合いなのか。そう、宇佐美くん。彼に応援を頼んだんだ。知り合いなら、近いうちに食事でもしようか。彼にもこれから頑張ってもらわないといけないしな」
まさか知っているとは思っていなかったけれど、透也も宇佐美くんも同じ営業だし、同じ傘下なのだからどこかで出会っていても不思議じゃない。
「そうか……敦己がこっちにくるのか」
透也は何か考え込んだようにぶつぶつと呟いてから、俺をじっと見つめた。
「宇佐美くんが、どうかしたのか?」
「あの、大智は……支社長を任されるくらいですから、宇佐美のことをご存知なんでしょう?」
「それって……もしかして、その……彼の出自のことを言っているのか?」
「はい」
宇佐美くんがベルンシュトルフ ホールディングスの会長の大甥だということは上層部の人間しか知らないことだ。
今回、俺もこのL.A支社の支社長に昇進した時にその事実を知らされて驚いたものだ。
隠すことでもないだろうにと思ったが、公表しないのは実力で勝負をしたいという本人の強い意志なのだと聞かされて納得した。
宇佐美くんが同期と比べてかなりの出世頭なのは、コネでも七光でもなんでもなく、ひとえに本人の努力だ。
それでも彼が会長の大甥だと知れば、余計な言葉を投げかける者が絶対に出てくる。
そんなことで社内の調和を乱したくない。
彼のその思いがあるからこそ、今でも公表を控えている。
そんな状況であるにもかかわらず、透也がそれを知っているというのはもしかしたら彼と何か深い関わりでもあるのだろうか?
さっきぽろっと名前でも呼んでたし、もしかしたら親友とか?
「今回の支社長昇進を機に彼のことを知ったが、何かあるのか?」
「ああ、なるほど。そういうことですか。まさか、敦己までこの社宅に来るとは思わなかったんですが、そうなれば隠してはおけないですね」
「なんだ? なんのことを話しているんだ?」
「大智、正直に言いますね」
透也の真剣な口調と表情に緊張が走る。
思わずゴクリと息を呑むと、
「ああ、怖がらないでください。驚かせるとは思いますけど、俺たちの関係は何も変わらないですし、変わらせませんから」
と優しい声をかけてくれる。
でも、俺たちの関係がもしかしたら変わるようなことなのか?
不安でたまらなくなる。
今更、離れることなんて出来ないのに。
そう思っていると、ギュッと抱きしめられた。
「すみません。俺の言い方が悪くて、不安にさせてしまいましたね。でも本当に安心してください。俺たちは何も変わりません」
「それは信じるけど……一体なんなんだ?」
「俺……ベルンシュトルフ ホールディングスの会長の孫なんですよ。そして、次期社長になる予定です」
「――っ!! えっ……っ、な――っ、と、うやが……じ、き……しゃ、ちょう?」
透也が……次期、社長?
想像もつかなかった展開に頭がついていかない。
「でも、会長も社長も苗字が……」
確か、苗字は日下部だったはず。
「それは、誰にも気づかれないように母親の旧姓にしてたんです。そんなに多い苗字ではないですから、そんなところから綻びが出ると困ると思って。騙していたみたいですみません」
「いや、騙したとは思わないけど、じゃあ……お兄さんは?」
「ああ、兄貴は昔から料理人になるから会社は継がないって宣言してたんですよ。あ、別にそれで不仲とかないですよ。父も祖父も兄のやりたいことをやったらいいって賛成してますから。兄貴の才能も認めてますしね」
「そう、なんだ……。あ、じゃあ、高遠くんが笹川からうちに引き抜かれたのは……」
「あ、別に兄貴の件があったからじゃないですよ。高遠さんの仕事っぷりを間近で見て、ベルンシュトルフに欲しい人材だと判断して正式にヘッドハンティングしたんです」
「いや、高遠くんが仕事ができるのはよくわかってるよ。透也が高遠くんの有能さに気付いたってことなんだな」
「そうですね。そういうことです」
少しずつ頭が冷静になっていくけれど、気になるのはただひとつ。
透也は俺たちの関係は変わらないし、変わらせないと言っていたけど……。
「何か気になることがあれば、気にせずに話してください。俺はなんでも答えますから」
「あのさ……俺たちの関係は変わらないって言ってくれたけど、その……跡継ぎとか、どう考えてるんだ? 俺はどんなに頑張っても透也の子どもは産めないし……かといって、あ、愛人とかは認めてあげられないぞ」
「――っ!! それって、俺たちの未来を考えてくれてるってことですよね?」
「えっ? そりゃあそうだろう。そこが一番重要だし」
「よかった……跡継ぎだとかそういうことで別れたいって言われたらどうしようかと思ってました」
別れるなんて、思いもしなかった。
どうしたらずっと一緒にいられるだろうってことしか考えられなかった。
「そもそもうちの会社は別に直系男子が跡を継ぐと決まっているわけでもないんで問題ないですよ。それに敦己も婚約したって話を聞いてますし、敦己以外にもたくさん従兄弟はいますから跡継ぎの心配はいらないですよ」
そう言われればそうだ。
「まぁ、敦己に関して言えば今ちょっと調査中なのでどうなるかわからないんですけどね」
透也の言葉が気にはなったが、ベルンシュトルフホールディングス会長の大甥である宇佐美くんの結婚相手となれば、それなりの調査が必要なのかも知れない。
「あ、じゃあ俺も調査されるのかな?」
「えっ? ふふっ。それはないですよ。俺が選んだ相手ですから」
そう言って嬉しそうに笑う透也の笑顔に俺はほっとした。
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