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閑話 妻の暴走 <前編>
面白いリクエストをいただいたので、金沢さん夫視点で書いてみました。
長くなったので前・後編でお届けします。
楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
<side金沢・夫>
「愛理、帰ったよ」
玄関から声をかけても何の反応もない。
時間は夜の7時近く。
俺たちは共働きだが、日本企業の大手支社にパート事務員として働いている愛理は、週に20時間の就業時間だと決められているため、この時間に家にいないことはあり得ない。
しかも、ここはロサンゼルス・サンタモニカ。
ロサンゼルスの中では比較的治安がいいと言われている場所だが、さすがに女性一人で夜に出かけるのは危険だ。
実際に深夜の外出は俺でさえ、会社から禁止されている。
それを愛理もわかっているはずだから、さすがに外に出てはいないと思うがそれにしても反応がなさすぎだ。
一体何をしているんだろう?
せっかく話をしようと思って早く帰ってきたっていうのに。
部屋の中に進んでいくと、部屋は散らかり放題。
ソファーの上には乾いた洗濯物がそのまま放置されていて、ゆっくりと座れる場所もない。
「はぁー、今日も掃除してないのかよ」
キッチンにはどこかからデリバリーしたらしいピザの箱が置かれていてげんなりする。
昨日はハンバーガーだったのに、今日はピザか……。
ここ最近手料理らしきものを何も食べてないな。
愛理とは4年ほど前、婚活パーティーで出会った。
外資系企業に勤める俺は海外勤務が必須で、短期間の海外勤務なら独身でも構わないが、出世を伴う長期の海外勤務は妻帯者が優遇されていた。
それは、現地での健康を守るため。
自分で栄養バランスのいい食事を自炊できるならともかく、そうでもない限りは慣れない環境でとかく体調を崩しやすい。
仕事もオーバーワーク気味なところがあるから、やはり支えてくれる人が必要になってくる。
一応外資系で給料も同年代に比べればそこそこ良い俺は、婚活パーティーではかなりモテた。
本当に驚くくらい選り取り見取りだったが、俺に群がってきた女性たちの中で猛アピールしてきたのが愛理だった。
彼女も小さいが外資系の会社で働いていて、英語に長けていたのはポイントが高かった。
彼女自身も海外に住むのが夢だと語っていたから、話はすこぶるあった。
三度目のデートではお弁当を作ってきてくれて、これを毎日食べられるなら幸せだろうな。
そんな思いで結婚に踏み切ったんだ。
それからしばらくして念願の海外勤務が命じられた。
会社の社宅に住めば、家賃補助もあり尚且つ海外勤務手当もつくから、給料は日本にいた頃より大幅に増えた。
社交性のある彼女はこちらにきてしばらくは自由に過ごしていたが、家にいるより働きに出たいと言い出しパート勤務ならということでOKした。
ちょうど取引先のロサンゼルス支社で事務員を募集しているという話を聞き、無理を承知で頼み込み、上司にも後押しをしてもらってなんとか採用してもらった。
ベルンシュトルフ ホールディングスといえば、日本で知らない人はいないくらいの大企業。
支社とはいえ、そこに愛理が採用されたのはかなりの幸運だった。
「無理を言って採用してもらったから、絶対に問題だけは起こすなよ!」
口が酸っぱくなるほど言い続けてきたおかげで、この3年はうまく行っていた。
だが、今日になって突然直属の上司に呼び出されたと思ったら
『Mr.カナザワ。君の奥さん、少しよくない噂が出てきてるぞ』
と釘を刺された。
『えっ? うちの妻が何か?』
『ベルンシュトルフ ホールディングスのL.A支社の支社長が最近変わったのは知っているだろう?』
『は、はい。もちろんです。妻もその話をしておりましたから』
『君の奥さん、その支社長にどうやら気があるらしい』
『ええっ? まさか……っ』
『いや、かなりご執心のようだよ。支社長の方は全く興味を持ってはいないみたいだがね。先日、無理やり手作りの昼食を押し付けたらしい』
『――っ!!』
確かに愛理は毎日弁当を作って持っていっている。
外に食べにいく時間がないからだが、まさかその支社長の分まで持っていっていたなんて。
『日本ではよくあることなのかはわからないが、こちらでは既婚女性が特定の独身男性にアプローチするのは、すぐに不倫を疑われてしまう。実際にそんな関係でないにしろ、余計な誤解を招くことは支社長にも迷惑をかける行為だから、すぐに止めさせてくれ。ちなみにその手作りの昼食に関しては、支社長は受け取らなかったようだよ』
『えっ? そうなんですか?』
『ああ。彼とは昔からの付き合いでよく知っているが、潔癖なところがあってね。飲食店の食事と家族の手料理以外は受け付けないらしいよ』
『そうなんですね』
『彼が受け取らなかったから、まだこれくらいで済んでるんだ。今回は注意程度の話で済んだが、ベルンシュトルフ ホールディングスから正式に抗議があった場合は君の進退にも関わる大事になるから、そこの点を理解しておいてくれ』
『は、はい。申し訳ありませんでした。妻にはしっかりと話をしておきますので』
『頼むよ』
ベルンシュトルフ ホールディングスとの繋がりが絶たれるような事態になれば、うちが大手といえどもひとたまりもない。
その原因が愛理の暴走行為によるものだと知られたら、俺自身もクビになる可能性があるってことだ。
俺は急いで仕事を終え、愛理としっかり話をするべく家に帰ってきたんだ。
「はぁ、本当にどこ行ってるんだよ」
ネクタイを緩め床に荷物を乱雑におき、ふぅと息を吐きながらソファーの空いた部分にどっかりと腰を下ろすと、遠くで何やら声がする。
あれは愛理の声?
もしかして寝室にいるのか?
何か嫌な予感を感じ、そっと寝室に近づくとどうやら誰かと一緒というわけではないようだ。
電話で話してる?
ああ、スピーカーで話しているのか。
スピーカーから聞こえてくる声を聞く限り、相手は女性のようだ。
なんだ、寝室に男でも連れ込んでいるのかと焦った。
支社長に気があるなんて話を聞いたばかりだっただけに変な想像をしてしまったが、時折『由依』という聞き慣れた名前が聞こえてきてホッとした。
確か高校時代からの友人って言ってたっけ。
結婚式の時に紹介してもらった時には可愛らしい子だと思ったけど。
でもやけに盛り上がってるな。
女同士の会話なんてあまり聞いたこともなかったけど、いつもの愛理っぽくない口調だな。
もしかしてこれが地なのか?
長くなったので前・後編でお届けします。
楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
<side金沢・夫>
「愛理、帰ったよ」
玄関から声をかけても何の反応もない。
時間は夜の7時近く。
俺たちは共働きだが、日本企業の大手支社にパート事務員として働いている愛理は、週に20時間の就業時間だと決められているため、この時間に家にいないことはあり得ない。
しかも、ここはロサンゼルス・サンタモニカ。
ロサンゼルスの中では比較的治安がいいと言われている場所だが、さすがに女性一人で夜に出かけるのは危険だ。
実際に深夜の外出は俺でさえ、会社から禁止されている。
それを愛理もわかっているはずだから、さすがに外に出てはいないと思うがそれにしても反応がなさすぎだ。
一体何をしているんだろう?
せっかく話をしようと思って早く帰ってきたっていうのに。
部屋の中に進んでいくと、部屋は散らかり放題。
ソファーの上には乾いた洗濯物がそのまま放置されていて、ゆっくりと座れる場所もない。
「はぁー、今日も掃除してないのかよ」
キッチンにはどこかからデリバリーしたらしいピザの箱が置かれていてげんなりする。
昨日はハンバーガーだったのに、今日はピザか……。
ここ最近手料理らしきものを何も食べてないな。
愛理とは4年ほど前、婚活パーティーで出会った。
外資系企業に勤める俺は海外勤務が必須で、短期間の海外勤務なら独身でも構わないが、出世を伴う長期の海外勤務は妻帯者が優遇されていた。
それは、現地での健康を守るため。
自分で栄養バランスのいい食事を自炊できるならともかく、そうでもない限りは慣れない環境でとかく体調を崩しやすい。
仕事もオーバーワーク気味なところがあるから、やはり支えてくれる人が必要になってくる。
一応外資系で給料も同年代に比べればそこそこ良い俺は、婚活パーティーではかなりモテた。
本当に驚くくらい選り取り見取りだったが、俺に群がってきた女性たちの中で猛アピールしてきたのが愛理だった。
彼女も小さいが外資系の会社で働いていて、英語に長けていたのはポイントが高かった。
彼女自身も海外に住むのが夢だと語っていたから、話はすこぶるあった。
三度目のデートではお弁当を作ってきてくれて、これを毎日食べられるなら幸せだろうな。
そんな思いで結婚に踏み切ったんだ。
それからしばらくして念願の海外勤務が命じられた。
会社の社宅に住めば、家賃補助もあり尚且つ海外勤務手当もつくから、給料は日本にいた頃より大幅に増えた。
社交性のある彼女はこちらにきてしばらくは自由に過ごしていたが、家にいるより働きに出たいと言い出しパート勤務ならということでOKした。
ちょうど取引先のロサンゼルス支社で事務員を募集しているという話を聞き、無理を承知で頼み込み、上司にも後押しをしてもらってなんとか採用してもらった。
ベルンシュトルフ ホールディングスといえば、日本で知らない人はいないくらいの大企業。
支社とはいえ、そこに愛理が採用されたのはかなりの幸運だった。
「無理を言って採用してもらったから、絶対に問題だけは起こすなよ!」
口が酸っぱくなるほど言い続けてきたおかげで、この3年はうまく行っていた。
だが、今日になって突然直属の上司に呼び出されたと思ったら
『Mr.カナザワ。君の奥さん、少しよくない噂が出てきてるぞ』
と釘を刺された。
『えっ? うちの妻が何か?』
『ベルンシュトルフ ホールディングスのL.A支社の支社長が最近変わったのは知っているだろう?』
『は、はい。もちろんです。妻もその話をしておりましたから』
『君の奥さん、その支社長にどうやら気があるらしい』
『ええっ? まさか……っ』
『いや、かなりご執心のようだよ。支社長の方は全く興味を持ってはいないみたいだがね。先日、無理やり手作りの昼食を押し付けたらしい』
『――っ!!』
確かに愛理は毎日弁当を作って持っていっている。
外に食べにいく時間がないからだが、まさかその支社長の分まで持っていっていたなんて。
『日本ではよくあることなのかはわからないが、こちらでは既婚女性が特定の独身男性にアプローチするのは、すぐに不倫を疑われてしまう。実際にそんな関係でないにしろ、余計な誤解を招くことは支社長にも迷惑をかける行為だから、すぐに止めさせてくれ。ちなみにその手作りの昼食に関しては、支社長は受け取らなかったようだよ』
『えっ? そうなんですか?』
『ああ。彼とは昔からの付き合いでよく知っているが、潔癖なところがあってね。飲食店の食事と家族の手料理以外は受け付けないらしいよ』
『そうなんですね』
『彼が受け取らなかったから、まだこれくらいで済んでるんだ。今回は注意程度の話で済んだが、ベルンシュトルフ ホールディングスから正式に抗議があった場合は君の進退にも関わる大事になるから、そこの点を理解しておいてくれ』
『は、はい。申し訳ありませんでした。妻にはしっかりと話をしておきますので』
『頼むよ』
ベルンシュトルフ ホールディングスとの繋がりが絶たれるような事態になれば、うちが大手といえどもひとたまりもない。
その原因が愛理の暴走行為によるものだと知られたら、俺自身もクビになる可能性があるってことだ。
俺は急いで仕事を終え、愛理としっかり話をするべく家に帰ってきたんだ。
「はぁ、本当にどこ行ってるんだよ」
ネクタイを緩め床に荷物を乱雑におき、ふぅと息を吐きながらソファーの空いた部分にどっかりと腰を下ろすと、遠くで何やら声がする。
あれは愛理の声?
もしかして寝室にいるのか?
何か嫌な予感を感じ、そっと寝室に近づくとどうやら誰かと一緒というわけではないようだ。
電話で話してる?
ああ、スピーカーで話しているのか。
スピーカーから聞こえてくる声を聞く限り、相手は女性のようだ。
なんだ、寝室に男でも連れ込んでいるのかと焦った。
支社長に気があるなんて話を聞いたばかりだっただけに変な想像をしてしまったが、時折『由依』という聞き慣れた名前が聞こえてきてホッとした。
確か高校時代からの友人って言ってたっけ。
結婚式の時に紹介してもらった時には可愛らしい子だと思ったけど。
でもやけに盛り上がってるな。
女同士の会話なんてあまり聞いたこともなかったけど、いつもの愛理っぽくない口調だな。
もしかしてこれが地なのか?
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