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高遠くんとの語らい
今朝出社すると、あらかじめ透也から聞いていた金沢さんと一緒になぜか、数人の女性社員も一緒に辞めてしまっていて、その後の仕事は手の空いているものみんなで事務処理に追われていた。
今日は取引先とのアポイントがほとんどない日で、元々内勤業務の予定になっている人が多かったから助かった。
不幸中の幸いだな。
いつもより少し遅めの休憩に入る。
普段ならデスクで昼食を取るけれど、少しでものんびりしたくて休憩室に入った。
透也からメッセージが来ているかも知れないな。
弁当を開くよりもまず、スマホを見ると思った通り、透也からのメッセージがいくつも入っていた。
そのほとんどが俺の身体を心配するもの。
でも心配されるたびにあの夜のことを思い出して恥ずかしくなってしまう。
<俺のお弁当を食べて、体力補給してください。でもくれぐれも無理はしないように。大智の好きな卵焼きもちゃんと入ってますよ。帰りはいつものようにロビーで待ってますから>
可愛い犬のスタンプと一緒に送られてきているのを見て、思わず笑ってしまった。
「この犬、可愛すぎだろう。透也なら、やっぱゴールデン・レトリーバーかな。グレート・ピレニーズも似合いそう。おっきくて優しくて頼り甲斐のある強い犬がやっぱ似合うよな」
独り言を言いながら、いつもロビーで駆け寄ってきてくれる透也を思い出していると。
「支社長、お疲れさまです」
「わっ、あっ! た、高遠くん……っ」
突然休憩室に高遠くんが入ってきて驚いた。
「すみません。驚かせてしまいましたか?」
「い、いや。大丈夫。高遠くん、まだ休憩入ってなかったのか?」
「いえ、外に食事に行って今帰ってきたところなんですけど、支社長が休憩室にいらっしゃると聞いたので、顔を出しにきました」
「そ、そうか。あ、あの今日は忙しくさせて悪かったな。まさか金沢さん以外にも辞めている人がいるなんて思わなくて……」
「いえ、お身体に障ると思って、お休みの間は僕が伝えないでおいたんです。本社から来ていただく白崎さん以外に事務員さんは今日にでも決まるみたいですし、明日には新しい人が数人入ってくる予定になっていますから今日くらい問題ないですよ」
「そういってくれると安心するよ。高遠くんは本社からくる宇佐美くんと共にプロジェクトの大事なメンバーだから、新人の教育は他の人に任せるようにするよ」
「はい。プロジェクトの方は任せてください!」
「ああ、期待しているよ」
そう言った後、休憩室に静寂が走った。
話が止まると、どうしても透也とお兄さんのことを思い出してしまうな。
「ふふっ。あまり緊張しないでくださいよ、支社長」
「えっ? 高遠くん?」
さっきまで話していた時とあまりにも表情が柔らかくて驚いてしまう。
「今は休憩中なので、プライベートな時間ですよ」
「あ、そうだな……」
もしかしたら、高遠くんの方からあの話を切り出されるのか?
それともこういう時って本当はこっちから話を出すべきなのか?
こういう状況になったことがないから、何が正解なのかわからないな。
「ふふっ。プライベートの時の支社長って……意外と可愛いですね」
「えっ?」
「だって、今すごく悩んでたでしょう? 自分から話そうか、それとも僕の言葉を待つべきかって。仕事の時なら、こんな空白の時間なんてありえないですよね。取引先が余計な不安を生む前に、簡潔に説明して安心させるでしょう? それなのに、僕の顔見ながら言おうか、どうしようか悩んでいる顔、初めて見たからすごく新鮮でしたよ」
「そんなっ、揶揄わないでくれ」
「いや、僕は喜んでるんですよ。支社長がこっちにきた時は、必死に辛い気持ちを押し殺して必死に笑顔を作っているのが見えてましたから。何か日本で辛いことでもあったのかなって心配してたんです。でも、ここ最近急に心から幸せそうなオーラ撒き散らしてましたから、いい出会いでもあったのかなって思ってたんですよ」
「高遠くん……」
「まさか、それが透也くんとは思わなかったからびっくりしましたけど、ものすごくお似合いですよ」
にっこりと笑顔を向けられると少し照れる。
でもお似合いと言われて嫌な気はしない。
「ありがとう」
「まさか支社長と縁戚になれるとは思ってなかったですけど、嬉しいです。それにこんな話ができるのも」
「ああ、私も同じだよ。日本にいた時は隠すことばかり考えてたから、自分をいつも否定していたんだ。プライベートでの自分に自信が持てないから、仕事で存在意義を見出そうとしていたのかも知れないな。こっちに来たら、なんだか急にちっぽけなことで悩んでいた気がして驚いているよ」
「ああ。わかります。僕も自分の性的指向に気づいたのが早かったので、僕のような存在を認めてくれる国で働きたいってずっと思ってました。こうやってアメリカで実際に生活できるようになったのは、今は他の理由もありますけど、でもやっぱり日本よりは息苦しさは感じないかも知れないですね」
他の理由というのは、祥也さんのことだろうな。
「私もここであと数年過ごしたら、その時にはもう自分を否定することなんてなくなっているかもしれないな」
「ふふっ。そうですよ。支社長に否定するところなんて何もないですから。あ、すみません。食事の時間を奪っちゃってましたね。ゆっくり召し上がってください」
「ああ、ありがとう」
高遠くんはバタバタと頭を下げると、さっと休憩室から出ていった。
きっと俺に大丈夫だと発破かけに来てくれたんだろう。
あの時、嫌悪感を抱いていた金沢さんがタイミングよく辞めてくれたことでホッとしていたけど、正直怖かったからな。
「俺に否定するところは何もない、か……」
そう思ってくれる人が身近にいるだけで幸せだな。俺は。
今日は取引先とのアポイントがほとんどない日で、元々内勤業務の予定になっている人が多かったから助かった。
不幸中の幸いだな。
いつもより少し遅めの休憩に入る。
普段ならデスクで昼食を取るけれど、少しでものんびりしたくて休憩室に入った。
透也からメッセージが来ているかも知れないな。
弁当を開くよりもまず、スマホを見ると思った通り、透也からのメッセージがいくつも入っていた。
そのほとんどが俺の身体を心配するもの。
でも心配されるたびにあの夜のことを思い出して恥ずかしくなってしまう。
<俺のお弁当を食べて、体力補給してください。でもくれぐれも無理はしないように。大智の好きな卵焼きもちゃんと入ってますよ。帰りはいつものようにロビーで待ってますから>
可愛い犬のスタンプと一緒に送られてきているのを見て、思わず笑ってしまった。
「この犬、可愛すぎだろう。透也なら、やっぱゴールデン・レトリーバーかな。グレート・ピレニーズも似合いそう。おっきくて優しくて頼り甲斐のある強い犬がやっぱ似合うよな」
独り言を言いながら、いつもロビーで駆け寄ってきてくれる透也を思い出していると。
「支社長、お疲れさまです」
「わっ、あっ! た、高遠くん……っ」
突然休憩室に高遠くんが入ってきて驚いた。
「すみません。驚かせてしまいましたか?」
「い、いや。大丈夫。高遠くん、まだ休憩入ってなかったのか?」
「いえ、外に食事に行って今帰ってきたところなんですけど、支社長が休憩室にいらっしゃると聞いたので、顔を出しにきました」
「そ、そうか。あ、あの今日は忙しくさせて悪かったな。まさか金沢さん以外にも辞めている人がいるなんて思わなくて……」
「いえ、お身体に障ると思って、お休みの間は僕が伝えないでおいたんです。本社から来ていただく白崎さん以外に事務員さんは今日にでも決まるみたいですし、明日には新しい人が数人入ってくる予定になっていますから今日くらい問題ないですよ」
「そういってくれると安心するよ。高遠くんは本社からくる宇佐美くんと共にプロジェクトの大事なメンバーだから、新人の教育は他の人に任せるようにするよ」
「はい。プロジェクトの方は任せてください!」
「ああ、期待しているよ」
そう言った後、休憩室に静寂が走った。
話が止まると、どうしても透也とお兄さんのことを思い出してしまうな。
「ふふっ。あまり緊張しないでくださいよ、支社長」
「えっ? 高遠くん?」
さっきまで話していた時とあまりにも表情が柔らかくて驚いてしまう。
「今は休憩中なので、プライベートな時間ですよ」
「あ、そうだな……」
もしかしたら、高遠くんの方からあの話を切り出されるのか?
それともこういう時って本当はこっちから話を出すべきなのか?
こういう状況になったことがないから、何が正解なのかわからないな。
「ふふっ。プライベートの時の支社長って……意外と可愛いですね」
「えっ?」
「だって、今すごく悩んでたでしょう? 自分から話そうか、それとも僕の言葉を待つべきかって。仕事の時なら、こんな空白の時間なんてありえないですよね。取引先が余計な不安を生む前に、簡潔に説明して安心させるでしょう? それなのに、僕の顔見ながら言おうか、どうしようか悩んでいる顔、初めて見たからすごく新鮮でしたよ」
「そんなっ、揶揄わないでくれ」
「いや、僕は喜んでるんですよ。支社長がこっちにきた時は、必死に辛い気持ちを押し殺して必死に笑顔を作っているのが見えてましたから。何か日本で辛いことでもあったのかなって心配してたんです。でも、ここ最近急に心から幸せそうなオーラ撒き散らしてましたから、いい出会いでもあったのかなって思ってたんですよ」
「高遠くん……」
「まさか、それが透也くんとは思わなかったからびっくりしましたけど、ものすごくお似合いですよ」
にっこりと笑顔を向けられると少し照れる。
でもお似合いと言われて嫌な気はしない。
「ありがとう」
「まさか支社長と縁戚になれるとは思ってなかったですけど、嬉しいです。それにこんな話ができるのも」
「ああ、私も同じだよ。日本にいた時は隠すことばかり考えてたから、自分をいつも否定していたんだ。プライベートでの自分に自信が持てないから、仕事で存在意義を見出そうとしていたのかも知れないな。こっちに来たら、なんだか急にちっぽけなことで悩んでいた気がして驚いているよ」
「ああ。わかります。僕も自分の性的指向に気づいたのが早かったので、僕のような存在を認めてくれる国で働きたいってずっと思ってました。こうやってアメリカで実際に生活できるようになったのは、今は他の理由もありますけど、でもやっぱり日本よりは息苦しさは感じないかも知れないですね」
他の理由というのは、祥也さんのことだろうな。
「私もここであと数年過ごしたら、その時にはもう自分を否定することなんてなくなっているかもしれないな」
「ふふっ。そうですよ。支社長に否定するところなんて何もないですから。あ、すみません。食事の時間を奪っちゃってましたね。ゆっくり召し上がってください」
「ああ、ありがとう」
高遠くんはバタバタと頭を下げると、さっと休憩室から出ていった。
きっと俺に大丈夫だと発破かけに来てくれたんだろう。
あの時、嫌悪感を抱いていた金沢さんがタイミングよく辞めてくれたことでホッとしていたけど、正直怖かったからな。
「俺に否定するところは何もない、か……」
そう思ってくれる人が身近にいるだけで幸せだな。俺は。
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