56 / 137
不安に駆られる
とりあえずそのまま、キースには明日から宇佐美くんの送迎をお願いすることにして、今日は俺たち三人を社宅まで送ってもらうことにした。
二人を後部座席に座らせて、俺はキースの隣に座ろうとしたんだけど
「私が助手席に行きますよ」
と言って、俺と宇佐美くんを後部座席にささっと座らせてしまった。
まぁ、来たばかりの宇佐美くんを助手席に座らせるわけにもいかないし、透也なりに気を遣ってくれたのかもしれない。
透也の優しさに感謝しながら、宇佐美くんに話しかけた。
「婚約が決まったばかりだったのに、申し訳なかったな。でも決断してくれてこちらとしては助かったよ」
「僕も少し悩んだんですが、彼女が背中を押してくれたので助かりました。元々、そんなにベッタリするタイプの女性ではないので、僕が急な仕事でデートをドタキャンすることがあっても、文句一つ言わないどころか、笑顔で頑張ってきてって応援してくれるんですよ。それに本を読んだり、長風呂に入ったり、一人で過ごすことが苦にならないらしくて、今時の子にしては珍しく、スマホに依存していないんですよ」
「へぇー、そうなのか。本当に珍しいな。でも急遽連絡をとりたくなった時は困るんじゃないか?」
「そうですね。それで連絡が取れないこともよくあるんですけど、そこまで緊急性のある連絡はほとんどないですからね。あらかじめ時間を伝えておけば、僕からの連絡は取ってくれるので今のところ、困ったことはないですよ。今回の出張も時差の関係でなかなか電話はできないけど、メッセージだけは送るからと伝えてるんで、彼女からも送られてくると思います。それで大丈夫です」
「そうか……今時恋愛は結構ドライなんだな」
「まぁ、そういう性格なのかもしれないですね」
彼女のことを相当信用しているんだろう。
宇佐美くんからは彼女への不信感は全く見えない。
でも……なんとなく心配だと思ってしまったのは、彼女の様子があの宏樹のそれとよく似ていたから。
――お互いの一人の時間を尊重できるって、信頼感があるからできるんだよな。
そう言ってたっけ。
でも、本当は俺と連絡を絶っていた時間は、他のやつと遊んでいたんだろう。
いやいや、自分が裏切られたからって、よその彼女を捕まえて何考えてるんだ。
宇佐美くんが選んだ相手が、宏樹みたいなことをするわけがないじゃないか。
本当に失礼だな、俺は。
「彼女はもちろん君の……あのことは、話しているんだろう?」
正式な婚約者なのだから当然だと思いつつも、とりあえず聞いてみたのは、今回のプロジェクトが成功したら、社内でもそろそろ発表してもいいんじゃないかと話をしてみる足掛かりにしようと思ったからだ。
けれど、宇佐美くんの口からは意外な言葉が返ってきた。
「実は、まだ彼女には話せていなくて……」
「そうなのか? 何か理由でも?」
「いえ、その……まだ親族からの許可が下りなくて……」
親族からの許可?
ああ、そういえば……
――敦己に関して言えば今ちょっと調査中なので……
って透也が話していたっけ。
ベルンシュトルフ ホールディングスほどの会社の親類筋だと、自分の一存ではいろいろと決められないこともあるんだろうな。
「そうか、でも宇佐美くんが選んだ相手なら、大丈夫だろう。帰国するときにはもう話ができるんじゃないか?」
「そうですね。そうなれるようにこちらの仕事を頑張ります」
「ああ、でも無理はしなくていいから。こっちは残業も基本的には認めていないんだ。残ったとしても19時半まで。それから先は禁止しているからね」
「わぁ! それはすごいですね。本社では考えられないですよね? 以前、L.A支社に来たときは確かそんなルールはなかった気がするんですけど……」
「あの時は同期の上田くんも一緒で、しかも一週間の短期だったろう? 会社の上の宿泊所でほぼ泊まり込みだったからそんなルールを聞く暇もなかったんじゃないか?」
「ああ、確かに。あの時は忙しかった記憶しかないですね」
「今回は三ヶ月間だからね、じっくり進めていってくれ。大事なプロジェクトを焦って失敗でもしたら大変だからな」
「はい、ゆっくり丁寧に進めていきます」
宇佐美くんの表情がなんとなく明るくなった気がする。
きっと本社では毎日忙殺されていたんだろう。
定時上がりで残業しても午後7時半までなんて……俺もこっちの支社に来て一番嬉しかったルールだったからな。
前任の支社長がルールを作ってくれたんだろうか。
本当に助かるな。
「ああ。でもこっちに来てそれに慣れたら、自然と定時で帰りたくなるよ」
「ふふっ。仕事人間の杉山さん……じゃなかった、支社長もそう思うんですね」
「ここは職場じゃないから、役職名はいらないよ。自分でもまだ支社長と呼ばれるのに慣れていないんだ」
「わかります。僕もまだ杉山さんを支社長と呼ぶのに慣れてなくて、意識していないと杉山さんって呼んでしまいそうです」
「別にそれも間違いではないから気にしなくてもいいよ」
そういうと宇佐美くんはほっとしたように笑っていた。
透也は俺が宇佐美くんと話をしている間、キースと何やら話をしていたけれど、何を話していたのかまでは聞こえなかった。
「じゃあ、週明け月曜日から頑張ってくれ。それまではのんびり身体を休めるように」
「はい。わかりました」
宇佐美くんの部屋は俺と透也の部屋からは少し離れている。
急なことだったから、そこしか空いていなかったらしい。
「じゃあ、大智。明日から休みですし、大智の部屋でいいですか? そのほうが、のんびりできますし」
「――っ、そ、そうだな」
耳元で甘く囁かれてドキッとしてしまう。
あの週末の約束が生きているなら、きっと今夜は俺の部屋で……。
うわぁ、なんか緊張してきちゃったな。
二人を後部座席に座らせて、俺はキースの隣に座ろうとしたんだけど
「私が助手席に行きますよ」
と言って、俺と宇佐美くんを後部座席にささっと座らせてしまった。
まぁ、来たばかりの宇佐美くんを助手席に座らせるわけにもいかないし、透也なりに気を遣ってくれたのかもしれない。
透也の優しさに感謝しながら、宇佐美くんに話しかけた。
「婚約が決まったばかりだったのに、申し訳なかったな。でも決断してくれてこちらとしては助かったよ」
「僕も少し悩んだんですが、彼女が背中を押してくれたので助かりました。元々、そんなにベッタリするタイプの女性ではないので、僕が急な仕事でデートをドタキャンすることがあっても、文句一つ言わないどころか、笑顔で頑張ってきてって応援してくれるんですよ。それに本を読んだり、長風呂に入ったり、一人で過ごすことが苦にならないらしくて、今時の子にしては珍しく、スマホに依存していないんですよ」
「へぇー、そうなのか。本当に珍しいな。でも急遽連絡をとりたくなった時は困るんじゃないか?」
「そうですね。それで連絡が取れないこともよくあるんですけど、そこまで緊急性のある連絡はほとんどないですからね。あらかじめ時間を伝えておけば、僕からの連絡は取ってくれるので今のところ、困ったことはないですよ。今回の出張も時差の関係でなかなか電話はできないけど、メッセージだけは送るからと伝えてるんで、彼女からも送られてくると思います。それで大丈夫です」
「そうか……今時恋愛は結構ドライなんだな」
「まぁ、そういう性格なのかもしれないですね」
彼女のことを相当信用しているんだろう。
宇佐美くんからは彼女への不信感は全く見えない。
でも……なんとなく心配だと思ってしまったのは、彼女の様子があの宏樹のそれとよく似ていたから。
――お互いの一人の時間を尊重できるって、信頼感があるからできるんだよな。
そう言ってたっけ。
でも、本当は俺と連絡を絶っていた時間は、他のやつと遊んでいたんだろう。
いやいや、自分が裏切られたからって、よその彼女を捕まえて何考えてるんだ。
宇佐美くんが選んだ相手が、宏樹みたいなことをするわけがないじゃないか。
本当に失礼だな、俺は。
「彼女はもちろん君の……あのことは、話しているんだろう?」
正式な婚約者なのだから当然だと思いつつも、とりあえず聞いてみたのは、今回のプロジェクトが成功したら、社内でもそろそろ発表してもいいんじゃないかと話をしてみる足掛かりにしようと思ったからだ。
けれど、宇佐美くんの口からは意外な言葉が返ってきた。
「実は、まだ彼女には話せていなくて……」
「そうなのか? 何か理由でも?」
「いえ、その……まだ親族からの許可が下りなくて……」
親族からの許可?
ああ、そういえば……
――敦己に関して言えば今ちょっと調査中なので……
って透也が話していたっけ。
ベルンシュトルフ ホールディングスほどの会社の親類筋だと、自分の一存ではいろいろと決められないこともあるんだろうな。
「そうか、でも宇佐美くんが選んだ相手なら、大丈夫だろう。帰国するときにはもう話ができるんじゃないか?」
「そうですね。そうなれるようにこちらの仕事を頑張ります」
「ああ、でも無理はしなくていいから。こっちは残業も基本的には認めていないんだ。残ったとしても19時半まで。それから先は禁止しているからね」
「わぁ! それはすごいですね。本社では考えられないですよね? 以前、L.A支社に来たときは確かそんなルールはなかった気がするんですけど……」
「あの時は同期の上田くんも一緒で、しかも一週間の短期だったろう? 会社の上の宿泊所でほぼ泊まり込みだったからそんなルールを聞く暇もなかったんじゃないか?」
「ああ、確かに。あの時は忙しかった記憶しかないですね」
「今回は三ヶ月間だからね、じっくり進めていってくれ。大事なプロジェクトを焦って失敗でもしたら大変だからな」
「はい、ゆっくり丁寧に進めていきます」
宇佐美くんの表情がなんとなく明るくなった気がする。
きっと本社では毎日忙殺されていたんだろう。
定時上がりで残業しても午後7時半までなんて……俺もこっちの支社に来て一番嬉しかったルールだったからな。
前任の支社長がルールを作ってくれたんだろうか。
本当に助かるな。
「ああ。でもこっちに来てそれに慣れたら、自然と定時で帰りたくなるよ」
「ふふっ。仕事人間の杉山さん……じゃなかった、支社長もそう思うんですね」
「ここは職場じゃないから、役職名はいらないよ。自分でもまだ支社長と呼ばれるのに慣れていないんだ」
「わかります。僕もまだ杉山さんを支社長と呼ぶのに慣れてなくて、意識していないと杉山さんって呼んでしまいそうです」
「別にそれも間違いではないから気にしなくてもいいよ」
そういうと宇佐美くんはほっとしたように笑っていた。
透也は俺が宇佐美くんと話をしている間、キースと何やら話をしていたけれど、何を話していたのかまでは聞こえなかった。
「じゃあ、週明け月曜日から頑張ってくれ。それまではのんびり身体を休めるように」
「はい。わかりました」
宇佐美くんの部屋は俺と透也の部屋からは少し離れている。
急なことだったから、そこしか空いていなかったらしい。
「じゃあ、大智。明日から休みですし、大智の部屋でいいですか? そのほうが、のんびりできますし」
「――っ、そ、そうだな」
耳元で甘く囁かれてドキッとしてしまう。
あの週末の約束が生きているなら、きっと今夜は俺の部屋で……。
うわぁ、なんか緊張してきちゃったな。
あなたにおすすめの小説
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。