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勇気ある行動
透也が日本に帰って数日。
千鶴のことでいろいろと動いてくれているとわかっていながら、俺は一人になった部屋で寂しさを募らせていた。
元々もうすぐ帰国することになっていたし、それまでには気持ちを切り替える予定だったんだ。
でも急遽前倒しで日本に帰国することになって、イチャイチャした時間も、別れを惜しむ時間もないままに離れ離れになってしまったから、まだ目の前に透也がいない生活に切り替えられないでいる。
そんな俺の気持ちをわかってくれているからか、透也は毎日報告と称して必ずビデオ通話をしてくれた。
必ず俺の時間に合わせて一時間も。
俺が寂しくならないように俺のことをずっと気遣ってくれる。
冷蔵庫にも冷凍庫にも何かあった時のためにと透也の作っておいてくれたものがいっぱいあって、そのおかげで透也がいない時でも美味しいご飯を食べることができているんだ。
そんなにも透也に守られているというのに、やっぱり心にポッカリと穴が空いたように寂しい。
目の前にいなくても俺の生活の全てに透也が入っていて嬉しく思う反面、温めた透也の料理を味わうたびに嬉しさもありながら、また少し料理が減ってしまったことを寂しく思ってしまう。
これがあとどれくらい続くんだろう……。
透也がここに異動できるとまだ決まったわけじゃない。
もしかしたら数ヶ月先かもしれない。
俺はあと数年はここから離れられない。
このままずっと離れ離れになんてことになるかもしれない……。
そう思ったら、途轍もない悲しみに包まれてしまった。
知らないうちに涙も流してしまっていて、自分で自分の感情が制御できずにいる。
千鶴はもっと苦しい思いをしているというのに、俺は兄として恥ずかしい。
ああ、一人でいるとどうしてこんなに時間が経つのが遅いんだろうな。
もっと早く一日が過ぎてくれたら、透也に会える日も早く来るかもしれないのに。
毎日時間が経つのが遅いから、いろいろと考えてしまうんだ。
本当にこのまま透也が帰って来なかったら……。
はぁーーっ。
そんな負の感情に押しつぶされて大きなため息が漏れ出たと同時に、俺のスマホが鳴った。
あっ、透也かも!
慌ててとった電話はやっぱりビデオ通話になっていて、慌ててオンにすると
「大智~っ! 今日はいい報告ですよ!」
と嬉しそうな笑顔を見せながら、透也が手を振っているのが見えた。
「透也……」
今日も透也の笑顔が見られたことにホッとする。
だけど、今日はその笑顔がすぐに曇った。
「――っ、大智っ! 泣いてたんですか?」
透也からそう言われて自分が泣いていたことを思い出し、慌てて
「えっ? いや、違うよ。テレビ見てたから」
と誤魔化そうとしたけれど、
「大智、本当のことを言ってください。俺に隠し事なんてできるわけないでしょう?」
と画面越しにもわかる真剣な表情で見つめられたらもう正直に話すしかなかった。
「ごめん……透也がいないのが思っていた以上に辛くて……」
「大智……っ、すみません。寂しがらせてたんですね」
「いや、わがままだってわかってるんだ。透也が千鶴のために尽力してくれているのもわかっているのに、会いたいなんて言っちゃいけないんだ。俺の方が悪い」
「大智、何を言っているんですか。わがままなんかじゃないですよ。大智が俺と離れて寂しがるように、俺が大智を変えたんですから、寂しがって当然なんです」
「えっ……透也が、俺を変えた?」
「はい。大智を俺だけのものにしたくて、俺がいないと何もできないようにしたんです」
そう言われてようやく気づいた。
食事だって、お風呂だって、部屋で過ごす時だって、会社の行き帰りまで……全て透也に甘やかされてたんだ。
だから、今までは我慢できたことも何もできなくなった。
たとえ予定通りにここを離れていたとしても、同じように何も手につかなくなっていたんだ、俺は……。
「そんな……っ」
「大丈夫です、ちゃんと責任を取りますから」
「責任? どうやって?」
「ふふっ。今日L.A支社に辞令が出ました。しかも、ベルンシュトルフ ホールディングスに」
えっ? 今、なんて言った?
ずっと異動願いは出していると言っていたから、てっきり笹川のだと思っていたのに、まさか同じ会社?
嬉しすぎて聞き間違えとかじゃないよね?
「はっ? えっ? それ、本当に……?」
「はい。今回の件で笹川コーポレーションはベルンシュトルフ ホールディングスに吸収合併されることに決まったんですよ」
「じゃあ、笹川の社員さんたちは全員ベルンシュトルフに?」
「そうですね、社長一族と、仕事のできない社員以外はほぼ全員ですね」
「ということは、千鶴の件は?」
「はい。それを最初に言おうと思っていたんですけど、遅くなってすみません。笹川の顧問弁護士さんに協力をお願いして、全て解決しました。奴も逮捕されましたよ」
「逮捕? そこまでこんなに早く?」
「実は、話せば長くなるんですけど……千鶴さんを傷つけたあの男は他にもたくさんの被害者を生んでたんです。それが――」
透也が話してくれた内容は、全身に鳥肌が立つほど酷い内容だった。
詳細は隠しながらも、笹川の男性社員にも数名被害者がいて、みんな動画や写真をばら撒くと脅されて泣き寝入りしていたことを教えてくれた。
「今回千鶴さんが声を上げてくださったことで、辛い思いをしながらも脅されて耐えるしかなかった彼らを救い出すことができたんです。本当に千鶴さんの勇気のおかげです。それにもう一人いるんですよ。勇気を出してくれた人が」
「もう一人?」
「はい。俺の同期で、高遠さんと同じくらい優秀な事務員なんですけど、彼も酷い目に遭っていた中の一人だったんです。彼がこの状況を変えようと自ら弁護士事務所に助けを求めに行ったんですよ」
「それは……すごいな」
もし自分が同じ立場なら、誰かにそんなことを打ち明けるなんて到底できそうにない。
自分が受けた傷をもう一度抉られるような苦しみを味わうなら……とそれこそ耐えてしまうかもしれない。
加害者が同じ男なら余計だ。
それなのに、その彼は……。
ものすごく勇気がいったことだろうな。
千鶴のことでいろいろと動いてくれているとわかっていながら、俺は一人になった部屋で寂しさを募らせていた。
元々もうすぐ帰国することになっていたし、それまでには気持ちを切り替える予定だったんだ。
でも急遽前倒しで日本に帰国することになって、イチャイチャした時間も、別れを惜しむ時間もないままに離れ離れになってしまったから、まだ目の前に透也がいない生活に切り替えられないでいる。
そんな俺の気持ちをわかってくれているからか、透也は毎日報告と称して必ずビデオ通話をしてくれた。
必ず俺の時間に合わせて一時間も。
俺が寂しくならないように俺のことをずっと気遣ってくれる。
冷蔵庫にも冷凍庫にも何かあった時のためにと透也の作っておいてくれたものがいっぱいあって、そのおかげで透也がいない時でも美味しいご飯を食べることができているんだ。
そんなにも透也に守られているというのに、やっぱり心にポッカリと穴が空いたように寂しい。
目の前にいなくても俺の生活の全てに透也が入っていて嬉しく思う反面、温めた透也の料理を味わうたびに嬉しさもありながら、また少し料理が減ってしまったことを寂しく思ってしまう。
これがあとどれくらい続くんだろう……。
透也がここに異動できるとまだ決まったわけじゃない。
もしかしたら数ヶ月先かもしれない。
俺はあと数年はここから離れられない。
このままずっと離れ離れになんてことになるかもしれない……。
そう思ったら、途轍もない悲しみに包まれてしまった。
知らないうちに涙も流してしまっていて、自分で自分の感情が制御できずにいる。
千鶴はもっと苦しい思いをしているというのに、俺は兄として恥ずかしい。
ああ、一人でいるとどうしてこんなに時間が経つのが遅いんだろうな。
もっと早く一日が過ぎてくれたら、透也に会える日も早く来るかもしれないのに。
毎日時間が経つのが遅いから、いろいろと考えてしまうんだ。
本当にこのまま透也が帰って来なかったら……。
はぁーーっ。
そんな負の感情に押しつぶされて大きなため息が漏れ出たと同時に、俺のスマホが鳴った。
あっ、透也かも!
慌ててとった電話はやっぱりビデオ通話になっていて、慌ててオンにすると
「大智~っ! 今日はいい報告ですよ!」
と嬉しそうな笑顔を見せながら、透也が手を振っているのが見えた。
「透也……」
今日も透也の笑顔が見られたことにホッとする。
だけど、今日はその笑顔がすぐに曇った。
「――っ、大智っ! 泣いてたんですか?」
透也からそう言われて自分が泣いていたことを思い出し、慌てて
「えっ? いや、違うよ。テレビ見てたから」
と誤魔化そうとしたけれど、
「大智、本当のことを言ってください。俺に隠し事なんてできるわけないでしょう?」
と画面越しにもわかる真剣な表情で見つめられたらもう正直に話すしかなかった。
「ごめん……透也がいないのが思っていた以上に辛くて……」
「大智……っ、すみません。寂しがらせてたんですね」
「いや、わがままだってわかってるんだ。透也が千鶴のために尽力してくれているのもわかっているのに、会いたいなんて言っちゃいけないんだ。俺の方が悪い」
「大智、何を言っているんですか。わがままなんかじゃないですよ。大智が俺と離れて寂しがるように、俺が大智を変えたんですから、寂しがって当然なんです」
「えっ……透也が、俺を変えた?」
「はい。大智を俺だけのものにしたくて、俺がいないと何もできないようにしたんです」
そう言われてようやく気づいた。
食事だって、お風呂だって、部屋で過ごす時だって、会社の行き帰りまで……全て透也に甘やかされてたんだ。
だから、今までは我慢できたことも何もできなくなった。
たとえ予定通りにここを離れていたとしても、同じように何も手につかなくなっていたんだ、俺は……。
「そんな……っ」
「大丈夫です、ちゃんと責任を取りますから」
「責任? どうやって?」
「ふふっ。今日L.A支社に辞令が出ました。しかも、ベルンシュトルフ ホールディングスに」
えっ? 今、なんて言った?
ずっと異動願いは出していると言っていたから、てっきり笹川のだと思っていたのに、まさか同じ会社?
嬉しすぎて聞き間違えとかじゃないよね?
「はっ? えっ? それ、本当に……?」
「はい。今回の件で笹川コーポレーションはベルンシュトルフ ホールディングスに吸収合併されることに決まったんですよ」
「じゃあ、笹川の社員さんたちは全員ベルンシュトルフに?」
「そうですね、社長一族と、仕事のできない社員以外はほぼ全員ですね」
「ということは、千鶴の件は?」
「はい。それを最初に言おうと思っていたんですけど、遅くなってすみません。笹川の顧問弁護士さんに協力をお願いして、全て解決しました。奴も逮捕されましたよ」
「逮捕? そこまでこんなに早く?」
「実は、話せば長くなるんですけど……千鶴さんを傷つけたあの男は他にもたくさんの被害者を生んでたんです。それが――」
透也が話してくれた内容は、全身に鳥肌が立つほど酷い内容だった。
詳細は隠しながらも、笹川の男性社員にも数名被害者がいて、みんな動画や写真をばら撒くと脅されて泣き寝入りしていたことを教えてくれた。
「今回千鶴さんが声を上げてくださったことで、辛い思いをしながらも脅されて耐えるしかなかった彼らを救い出すことができたんです。本当に千鶴さんの勇気のおかげです。それにもう一人いるんですよ。勇気を出してくれた人が」
「もう一人?」
「はい。俺の同期で、高遠さんと同じくらい優秀な事務員なんですけど、彼も酷い目に遭っていた中の一人だったんです。彼がこの状況を変えようと自ら弁護士事務所に助けを求めに行ったんですよ」
「それは……すごいな」
もし自分が同じ立場なら、誰かにそんなことを打ち明けるなんて到底できそうにない。
自分が受けた傷をもう一度抉られるような苦しみを味わうなら……とそれこそ耐えてしまうかもしれない。
加害者が同じ男なら余計だ。
それなのに、その彼は……。
ものすごく勇気がいったことだろうな。
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