127 / 137
番外編
夢か現実か 9
残っていたビールをぐいっと飲み干すと、そのタイミングで扉が開いた。
二人かと思ったけれど、そこには透也の姿しかない。
「あれ? 宇佐美くんは?」
「トイレから出てきたところでまた寝てしまったので、兄貴に頼んで違う部屋に布団を敷いてもらいました。今、そこで寝かせてます。それで……」
「ああ、わかってるよ。君が宇佐美くんについているんだろう? それじゃあ私は先に失礼するよ。今日は楽しい時間をありがとう」
今すんなり別れておいた方がいい。
さっと立ち上がって透也の隣を通り過ぎてそのまま部屋を出よう。
頭の中で一瞬のうちに計画をたててそれを遂行しようと立ち上がった途端、立ちくらみに襲われた。
「わっ!」
立っていられず膝をつきそうになった瞬間、大きな身体に包み込まれた。
「危ない!」
ギュッと抱きしめられて見上げると、目の前に透也の顔が見える。
「ごめんっ!」
慌てて顔を逸らしたけれど、胸のドキドキがうるさい。
「杉山さんも少し酔っているんじゃないですか?」
「そうかもしれない。迷惑かけるわけにはいかないから早く帰るよ」
急いで離れようとするけれど、透也にガシッと抱き止められて身動きができない。
「こんな杉山さんを一人で帰らせたりしたら後で敦己に怒られますよ」
「でも、宇佐美くんが眠っているんだろう?」
「ここには兄貴もいますしさっき電話して祖父を呼びましたから敦己のことは安心してください」
祖父って……会長?
そんなことを頼んでいいのかと心配になったけれど、そういえば宇佐美くんは会長にめちゃくちゃ溺愛されていたと聞いている。確かにそれなら宇佐美くんが酔って寝ていると聞けば迎えにきてくれそうだ。
「杉山さんの家に送りますよ」
「えっ……」
俺の家に送ってもらって今の家を知られると困る、よな?
もし、急に元の時代に戻れたら、この時代の俺が住んでいる場所だ。
突然そこに透也がやってきたら警戒しないわけがない。
うーん、どうするか……。
「杉山さん?」
「あ、っと……その、せっかくだから透也くん家で飲み直さないか?」
「えっ? 俺の家、ですか?」
あ、もしかしたら実家だったりするんだろうか?
それはまずい。
「ごめん。突然そんなこと言っても困るよな。あの、タクシーに乗せてもらえれば一人で家に帰れるから――」
「いいですよ。俺の家でよかったら来てください」
「えっ? 本当に、いいのか?」
そんな簡単に受け入れてもらえて驚きしかない。
「もちろんです。昨日までレポート書いてたんで散らかってますけど、杉山さんに来ていただけるなら嬉しいです。じゃあ、行きましょう」
優しく腰を抱いて、俺が歩きやすいようにしてくれる。
部屋を出るとすぐに大夢くんがやってきた。
「お帰りですか?」
「杉山さんを送るからって兄貴には伝えておいて。もうすぐじいちゃんも来るはずだから」
「わかりました」
笑顔の大夢くんに見送られて帰るのがなんだか無性に恥ずかしい。
そのまま一緒に店を出ると、透也はどこかに連絡を入れたかと思ったら、すぐに目の前にタクシーがやってきた。
「さぁ、乗りますよ」
「あ、うん」
促されるがままにタクシーに乗り込むと透也は慣れた様子で運転手に行き先を告げた。
「すぐに着きますから」
その言葉通り、十五分ほど走ると豪華なマンションの前に停まった。
「ここ?」
俺が尋ねている間にさっとカードで精算をしているのを見て、慌ててジャケットの胸ポケットから財布を取り出そうとしたけれど、すでに会計が終わってしまっていた。
仕方がない。後で現金で返そう。
「気をつけて降りてください」
優しく声をかけられて降りると、すぐにタクシーは走り去っていった。
「ごめん、後でお金渡すから。いくらだった?」
「大丈夫ですよ。気にしないでください」
「大学生にタクシー代を出してもらうわけにはいかないよ。あ、それにさっきの料理代も……」
「大丈夫ですって。行きましょう」
大丈夫だと言われてもそれを単純に受け入れるわけにはいかないけれど、マンションの前でいつまでも言い争いをしているわけにはいかない。
家に入ってから渡そうと決めて、連れて行かれるままに透也について入ったマンションは、俺の住んでいたマンションよりもかなり豪華なところだった。
「なんか、すごいな……」
やっぱりベルンシュトルフホールディングスの次期社長ともなれば大学生の時からこんな豪華な生活をしているんだ。
俺はあの社宅の部屋を広いと思っていたけれど、透也にとっては狭い部屋だったのかもしれないな。
「ありがとうございます。杉山さんに褒めていただけて嬉しいです。ここ……大学に近いので自分で買った部屋なんですよ。卒業したら投資物件にしようと思って、いい立地のを選んだんですよ」
「えっ? 自分で?」
「はい。高校の時から自分で稼ごうと思って投資をしてたので、その稼いだお金で買ったんです。なので正真正銘俺の家ですよ。普段は実家にもちょこちょこ帰ったりしてますけどレポート書いたり、集中したいときはここにいるので、今は八割くらいはここで生活してます」
自分の家……。そうなんだ。
そういえば、俺と出会う前の透也の話はあんまり聞いたことがなかったな。
まさかこんな時から本格的に自分で稼いでいたなんて思わなかった。
透也ってすごいんだな……。
二人かと思ったけれど、そこには透也の姿しかない。
「あれ? 宇佐美くんは?」
「トイレから出てきたところでまた寝てしまったので、兄貴に頼んで違う部屋に布団を敷いてもらいました。今、そこで寝かせてます。それで……」
「ああ、わかってるよ。君が宇佐美くんについているんだろう? それじゃあ私は先に失礼するよ。今日は楽しい時間をありがとう」
今すんなり別れておいた方がいい。
さっと立ち上がって透也の隣を通り過ぎてそのまま部屋を出よう。
頭の中で一瞬のうちに計画をたててそれを遂行しようと立ち上がった途端、立ちくらみに襲われた。
「わっ!」
立っていられず膝をつきそうになった瞬間、大きな身体に包み込まれた。
「危ない!」
ギュッと抱きしめられて見上げると、目の前に透也の顔が見える。
「ごめんっ!」
慌てて顔を逸らしたけれど、胸のドキドキがうるさい。
「杉山さんも少し酔っているんじゃないですか?」
「そうかもしれない。迷惑かけるわけにはいかないから早く帰るよ」
急いで離れようとするけれど、透也にガシッと抱き止められて身動きができない。
「こんな杉山さんを一人で帰らせたりしたら後で敦己に怒られますよ」
「でも、宇佐美くんが眠っているんだろう?」
「ここには兄貴もいますしさっき電話して祖父を呼びましたから敦己のことは安心してください」
祖父って……会長?
そんなことを頼んでいいのかと心配になったけれど、そういえば宇佐美くんは会長にめちゃくちゃ溺愛されていたと聞いている。確かにそれなら宇佐美くんが酔って寝ていると聞けば迎えにきてくれそうだ。
「杉山さんの家に送りますよ」
「えっ……」
俺の家に送ってもらって今の家を知られると困る、よな?
もし、急に元の時代に戻れたら、この時代の俺が住んでいる場所だ。
突然そこに透也がやってきたら警戒しないわけがない。
うーん、どうするか……。
「杉山さん?」
「あ、っと……その、せっかくだから透也くん家で飲み直さないか?」
「えっ? 俺の家、ですか?」
あ、もしかしたら実家だったりするんだろうか?
それはまずい。
「ごめん。突然そんなこと言っても困るよな。あの、タクシーに乗せてもらえれば一人で家に帰れるから――」
「いいですよ。俺の家でよかったら来てください」
「えっ? 本当に、いいのか?」
そんな簡単に受け入れてもらえて驚きしかない。
「もちろんです。昨日までレポート書いてたんで散らかってますけど、杉山さんに来ていただけるなら嬉しいです。じゃあ、行きましょう」
優しく腰を抱いて、俺が歩きやすいようにしてくれる。
部屋を出るとすぐに大夢くんがやってきた。
「お帰りですか?」
「杉山さんを送るからって兄貴には伝えておいて。もうすぐじいちゃんも来るはずだから」
「わかりました」
笑顔の大夢くんに見送られて帰るのがなんだか無性に恥ずかしい。
そのまま一緒に店を出ると、透也はどこかに連絡を入れたかと思ったら、すぐに目の前にタクシーがやってきた。
「さぁ、乗りますよ」
「あ、うん」
促されるがままにタクシーに乗り込むと透也は慣れた様子で運転手に行き先を告げた。
「すぐに着きますから」
その言葉通り、十五分ほど走ると豪華なマンションの前に停まった。
「ここ?」
俺が尋ねている間にさっとカードで精算をしているのを見て、慌ててジャケットの胸ポケットから財布を取り出そうとしたけれど、すでに会計が終わってしまっていた。
仕方がない。後で現金で返そう。
「気をつけて降りてください」
優しく声をかけられて降りると、すぐにタクシーは走り去っていった。
「ごめん、後でお金渡すから。いくらだった?」
「大丈夫ですよ。気にしないでください」
「大学生にタクシー代を出してもらうわけにはいかないよ。あ、それにさっきの料理代も……」
「大丈夫ですって。行きましょう」
大丈夫だと言われてもそれを単純に受け入れるわけにはいかないけれど、マンションの前でいつまでも言い争いをしているわけにはいかない。
家に入ってから渡そうと決めて、連れて行かれるままに透也について入ったマンションは、俺の住んでいたマンションよりもかなり豪華なところだった。
「なんか、すごいな……」
やっぱりベルンシュトルフホールディングスの次期社長ともなれば大学生の時からこんな豪華な生活をしているんだ。
俺はあの社宅の部屋を広いと思っていたけれど、透也にとっては狭い部屋だったのかもしれないな。
「ありがとうございます。杉山さんに褒めていただけて嬉しいです。ここ……大学に近いので自分で買った部屋なんですよ。卒業したら投資物件にしようと思って、いい立地のを選んだんですよ」
「えっ? 自分で?」
「はい。高校の時から自分で稼ごうと思って投資をしてたので、その稼いだお金で買ったんです。なので正真正銘俺の家ですよ。普段は実家にもちょこちょこ帰ったりしてますけどレポート書いたり、集中したいときはここにいるので、今は八割くらいはここで生活してます」
自分の家……。そうなんだ。
そういえば、俺と出会う前の透也の話はあんまり聞いたことがなかったな。
まさかこんな時から本格的に自分で稼いでいたなんて思わなかった。
透也ってすごいんだな……。
あなたにおすすめの小説
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。