旧天沢家別邸で幸せのお裾分けいただきました

波木真帆

文字の大きさ
25 / 28
番外編

息子の可愛い恋人に会いたくて…… <後編>

しおりを挟む
瑛一に恋人ができたらしいと春乃から報告を受けた日にすぐに慶吾さんにはその話を伝えた。
だからきっと週末には一緒に食事でもできるわねと話をしていたのだけど、慶吾さんはどうかなと笑うばかり。

それでも絶対に週末には連絡が来るはずだと思っていたのに、日付が変わろうとする時間になっても私のスマホにも慶吾さんのスマホにも何の連絡もなかった。

「もう! 瑛一ったら一体何をしているのかしら?」

「まぁまぁ落ち着きなさい。多分、もうしばらくは連絡はしてこないよ」

スマホを片手に声を荒らげていると、慶吾さんにそっと抱きしめられて宥めるように声をかけられる。

「しばらくって、どれくらい?」

「うーん、そうだな……半年くらいだろうか」

「えっ? 半年?」

全く予想もしていない言葉に大きな声が出た。

「半年って、どうして?」

「好きなものにはこの上なく執着する瑛一だよ。その瑛一が恋人にするくらいだ。誰にも見せたくないと思っても不思議はないよ」

「だって、家族なのに……」

「家族だからだよ。瑛一がそこまで気に入った相手なら涼葉だって絶対に気にいるだろう? そうしたら恋人との時間を涼葉に取られると思っているんだよ。今はまだ二人っきりの時間を堪能したいんだと思うよ」

慶吾さんが自信満々に言い切る姿に驚いてしまう。

「どうしてそこまでわかるの?」

「涼葉に会った頃の私がそうだったからだよ」

「えっ、でも慶吾さんはすぐにご両親に私を会わせてくれたわ」

出会った日に私の両親と一緒に食事をして、その場で私との交際を両親にお願いして認めてもらった。その数日後には私を麻生家に招待してくれて、私たちは婚約者となるまで一週間も掛からなかった。だから瑛一も恋人ができたらすぐに私たちに紹介してくれると思っていたの。

「それは、涼葉の桜守への送迎を私がしたかったからだ。お互いの両親公認の仲にならなければ、ご両親から送迎の役を代わってもらえないだろう? だからすぐに涼葉を私の婚約者にする必要があったんだ。でも母も涼葉を気に入って月に何度も連れ出すから正直困ったよ。できることなら、両親にはしばらく伝えずに涼葉を私だけのものにしたいと思っていたよ」

「慶吾さんがそんなことを思っていたなんて……」

今の今まで知らなかった……。
てっきり私とお義母さんが仲良くしているのをむしろ喜んでいると思っていたのに。

「もちろん、涼葉が母と仲良くしてくれるのはありがたかったよ。ただ私のわがままなんだ。涼葉を独り占めしたかっただけだ。だから、瑛一も同じ気持ちなんだと思う。もう少し待ってあげないか?」

慶吾さんの気持ちはよくわかる。
でも……今までずっと待っていたのは私も同じ。
ずっと春乃に可愛い息子くんの自慢をされていたんだもの。

瑛一に可愛い恋人ができたのなら、一度くらい会ってみたい。
その思いが膨らんでどうしても我慢できなかった。


翌日、お昼近くまで待って瑛一に電話をしてみた。
けれど何度鳴らしても出ない。

ひたすらに鳴らし続けるとようやく電話がつながった。

その第一声でいつもの瑛一とは違うとすぐにピンと来た。
わざと出かけているのかしら? と尋ねてみるとため息まじりに自宅にいると返答が来た。

すぐにでも恋人の元に戻りたいと言うのがありありと感じられる。
それでも私にはまだ報告しようとしない。

だから、ちょっと意地悪を言ってみた。
わざと縁談話のような話題を振ってみると、最後まで聞くこともなく断ってきた。

ー報告が遅くなりましたが、私にはもう心に決めた方がいます。その方とすでに一緒に暮らしていますし、その方以外とは添い遂げるつもりはありません。

そうはっきりと言い切った瑛一から、その恋人へのこの上ない愛が溢れていた。
瑛一にこんな相手ができたことに喜びを感じながらなんとか冷静に尋ね返した。

ーその方はどこの方なの? 紹介していただけるのよね?

ーええ、ゆくゆくはそのつもりですが今はまだそのつもりはありません。

ーどうしてなの?

ー私の中だけにまだおさめておきたいんです。誰にも見せたくない。それだけです。

慶吾さんが言った通り、瑛一から途轍もな意ほどの独占欲が感じられて驚いてしまう。
こんな瑛一初めてだわ。

ー私の愛しい人は私だけのものにしておきたいんです。

ーあら、意外と激情的なのね。瑛一さんにそんなところがあるなんて知らなかったわ。

ー私もです。と会って初めて自分にそんな感情があることを知りました。だからしばらくはそっとしておいてください。

瑛一の口から彼と言う言葉が出てきて、相手が男性だと知った。
それでもそれが理由で反対することなんて微塵も考えていない。
瑛一が好きになる相手ができたことだけで私は嬉しいのだから。

でも瑛一は少しばかり不安に思っていたみたい。

不用意に彼を傷つけたくない。
その言葉には彼を傷つけられたら家族との縁を切るつもりだと言うことがよくわかった。
それはきっとお相手の彼がそこを不安に思っているからこそ。

それなら余計に早く会って私たちに傷つける気などないことを伝えておきたい。

ーそれなら尚のこと、一度会わせてほしいわ。あなたの愛しい恋人も家族に祝福されていると思ったら嬉しいはずよ。何より私があなたの愛しい人に会いたいの。ずっと羨ましかったのよ。可愛い息子ができた天沢さんのところが。ようやく私にも可愛い息子ができるのね。

私の思いを伝えたら、電話越しでもわかるほど瑛一の緊張が和らいだ。

ーわかりました。それでは瀬里さんと相談して日時をお伝えします。

瑛一がここまで言えば約束を反故にすることは絶対にない。
声に出してしまいそうなほどの喜びの気持ちをグッと抑えて電話を切った。

「やったわ! 瑛一の恋人に会える!」

そうして、それから三日後。
銀座の個室があるお店で私と慶吾さん。
そして瑛一と恋人のせりさんとの顔合わせ兼食事会が行われた。

「あ、あの……わ、私……瑛一さんとおつきあいさせていただいています、日南瀬里です。お義父さまとお義母さまと会いできて光栄です」

真っ赤な顔で挨拶をする瀬里さんを一目見て、あまりの可愛さに思わず瀬里さんを抱きしめた。

「なんて可愛らしいのかしら。こんな可愛い息子ができるなんて!! 幸せだわ!!」

待ち望んだ甲斐があった。
そう思えるほど可愛い息子を抱きしめると、数秒後に瑛一に引き離された。

「すみませんが、瀬里さんは私のものです! ハグはダメですよ」

その眼差しに私は遠い昔、慶吾さんのお母さんと初めて会ったの日の慶吾さんを思い出していた。
私の隣で苦笑する慶吾さんと一緒に思わず笑みを溢した。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

隣に住む先輩の愛が重いです。

陽七 葵
BL
 主人公である桐原 智(きりはら さとし)十八歳は、平凡でありながらも大学生活を謳歌しようと意気込んでいた。  しかし、入学して間もなく、智が住んでいるアパートの部屋が雨漏りで水浸しに……。修繕工事に約一ヶ月。その間は、部屋を使えないときた。  途方に暮れていた智に声をかけてきたのは、隣に住む大学の先輩。三笠 琥太郎(みかさ こたろう)二十歳だ。容姿端麗な琥太郎は、大学ではアイドル的存在。特技は料理。それはもう抜群に美味い。しかし、そんな琥太郎には欠点が!  まさかの片付け苦手男子だった。誘われた部屋の中はゴミ屋敷。部屋を提供する代わりに片付けを頼まれる。智は嫌々ながらも、貧乏大学生には他に選択肢はない。致し方なく了承することになった。  しかし、琥太郎の真の目的は“片付け”ではなかった。  そんなことも知らない智は、琥太郎の言動や行動に翻弄される日々を過ごすことに——。  隣人から始まる恋物語。どうぞ宜しくお願いします!!

【完結】番になれなくても

加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。 新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。 和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。 和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた── 新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年 天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年 ・オメガバースの独自設定があります ・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません ・最終話まで執筆済みです(全12話) ・19時更新 ※なろう、カクヨムにも掲載しています。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

処理中です...