俺の天使に触れないで  〜アルと理玖の物語〜

波木真帆

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嬉しい配慮

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「ユキ! あっちに丘があるみたいだ。そこまで走らせよう」

私の誘いにユキが了承したのを確認して、私はルアンを走らせた。

「ルアン、行くぞ!」

軽く腹に合図を入れると、ルアンが気持ちよさそうに飛び出した。

「どうだ? リク、怖くないか?」

「大丈夫! 風がすっごく気持ちいいよ! 風に乗るってこういうことなんだね」

笑顔で周りの景色を楽しむ余裕もある。
しっかりと私に掴まってくれているし、これならスピードを上げても大丈夫だろう。

「じゃあもう少し走らせるぞ」

ルアンに合図を送ると、任せて! とでもいうように駆けていく。

リクが選んだこの馬は本当に相性が良かったようだ。

通りすがる客たちが私たちの姿を見て騒いでいるようだが、追いつけるはずもないし、気にしなくてもいいだろう。

あっという間に目的の小高い丘に到着すると、そこに東屋があるのが見える。

「少し降りて景色を楽しもうか」

「うん!」

リクを抱きかかえたままルアンから飛び降りる。

「ねぇ、その飛び乗るのすっごくかっこいいね! 俺にもできるかな?」

「ははっ。そうだな。リクは運動神経がいいからすぐにできるようになるだろうが、覚えなくていいよ」

「えー、なんで?」

「リクが馬に乗る時は私が必ず一緒に乗るからだ。私たちはいつも一緒だからな」

チュッと唇を重ねるとリクの頬が赤くなる。
本当にいつまで経ってもウブで可愛らしい。

それからすぐにユキたちもやってきた。
ほぉ、なかなかやるな。

私のあのスピードについて来れるとは大したものだ。
正直にユキの馬術の腕前を褒めれば、ユキは嬉しそうな顔で返した。

それでも自分の腕ではなく、馬のことを褒めているのがユキらしいと思えた。

「アルと理玖が馬で駆けていくのを見て、王子さまとお姫さまだって子どもが感動していたぞ」

あの通りすがった客たちか。
子どもならまぁ見られても許してやろう。

「普段ならもったいなくて見せてやらないところだから、その子はラッキーだったな」

きっとその子どもの中で美しい姫のイメージはリクになるだろう。
いつかこんな人と出会えたら……と夢にも見るかもしれない。

だがその夢は一生叶わない。
私がリクを手放したりしないからだ。
その子にとってリクと出会えたのかいいことだったのかわからないが、確実に恋人のハードルが高くなったのは間違いないだろうな。

リクはユキだけでなくハルにもドレス姿を褒められて恥ずかしがっていたが、ハルは自分のドレス姿を気に入っていると告げると少し表情を変えた。

普段着慣れない服を着ると楽しくなる。
ハルが言った理論が意外とリクの的を射たようだ。

「晴も理玖もよく似合ってるよ。アル、もちろんこの衣装は買い取るんだろう?」

そんなユキの言葉にもちろんと返し、リクに家でも着てくれるように頼むとリクは真っ赤な顔をしながらも私も着るならと了承してくれた。

本当に可愛い。
これで家でもリクのドレス姿を堪能できるな。

「アル、理玖。せっかくだから馬に乗っているところを写真に撮ってやるよ。アル、スマホいいか?」

ユキの心憎い提案に喜んでスマホを渡した。

リクを抱きかかえてルアンに飛び乗り、ゆっくりとユキとハルの周りを歩かせた。
その様子を満足いくまで何枚も撮ってもらい、交代して私も二人の写真を撮った。

満面の笑みを浮かべているユキと慣れない馬上で少し緊張しているハル。
そのどれもいい思い出になるだろう。

たっぷりと写真を撮ってやり散策を終えた。
それぞれ元来た道を戻り、厩舎に到着した。

スタッフにルアンを渡し、コスプレゾーンにある着替えどころに戻った。
元の服装に戻り、着ていた衣装を全て買取の手続きを行い、裏口から外に出ると、コスプレゾーンの入り口は人だかりになっていた。

きっと私たちの噂を聞きつけて集まったんだろう。
誰にも会わずに出て来られて良かった。

汚す前に衣装をロッカーに置きに行こうと提案すると、

「そうだな。せっかくだから晴と理玖が作ってくれた弁当を取り出して、昼食にしようか。少し早いけど、誰もこない場所でゆっくり食べた方がいいだろう?」

とユキが言ってくれた。

ああ、リクが作ってくれた料理が食べられるのか……。
嬉しくてたまらないな。

ロッカーで弁当を受け取り、食べる場所を探す。
お互いに愛しい伴侶を連れての食事だから邪魔が入るのは面倒だ。

一応広場に行ってみようか、そんな会話をしているとサービスカウンターからスタッフがこちらにやってきた。

「あの……失礼ですが、お弁当を食べる場所をお探しですか?」

その声に返事をすると、ブランシュネージュ城の中庭をお使いくださいと言ってくれた。

だがその場所は外観を眺めるだけで中には入れない場所なのだそうだ。
そのことを尋ねるとスタッフは私たちの目を見ながらしっかりと答えてくれた。

「皆さまがひと目につくところでお食事をなさると大騒ぎになって大切なお食事を楽しくいただけないのではないかと思いまして、弊社社長からあの場所をご案内するようにと申しつかった次第でございます」

どうやらコスプレエリアのスタッフから上司に報告があったそうだ。
それで私たちを排除するのではなく守ってくれるというのだから、それを受けない手はない。

このテーマパーク側の配慮に感謝し、笑顔で礼を言うと目の前のスタッフが頬を染めた瞬間、リクが突然私の腕に絡みついた。
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