イケメンスパダリ店主は愛する人が鈍感で無防備で可愛すぎて困っています

波木真帆

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島内デート

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ドリンクホルダーに用意していた飲み物を飲ませる。

平松くんはそれを一口飲むと、ハッとしたように声を上げた。

平松くんの好みの食べ物からこれはきっと嫌いではないだろうと思って用意していたさんぴん茶ジャスミンティーだが、もしかしたら苦手だったか?

一瞬ドキッとしたが、

「砂川さんとソーキそばというのを食べた時に、出てきたのがこのお茶で美味しかったので覚えてたんです」

という言葉にホッとした。

私が最初でなかったことはほんの少しショックだったが、砂川さんが相手ならまぁいい。

だが、彼は私のそんな思いを知る様子もないどころか、

「もうすっかり俺の好みを八尋さんに知られてますね。やっぱり料理人さんってすごいですね」

と尊敬の眼差しで見つめてくれる。

ああ、もう本当にこういうことをさらっと言ってくるのだから、困った子だ。

「可愛すぎて本当に困るな……」

ポツリと漏れた言葉は彼の耳には届かなかったようでホッとした。

そんな可愛い平松くんを乗せたまま、車は最初の目的地に到着した。

「ここで降りて少し歩くよ」

車を止め、さっと助手席に回り扉を開けてやると、ほんのりと頬を染めながらお礼を言ってくれる。
彼を車から降ろし後部座席の扉を開け、持ってきた荷物から長袖のパーカーを取り出した。

「刺されたりしたら危ない蛇や虫はいるからね。これを着ておいて」

丈も袖も長い私の服を平松くんが着ているというだけで興奮する。
以前、安慶名さんと松川くんと酒を呑んだ時、

――愛しい恋人に自分の服を着せるのはかなりキますね。初めて会った時に下着も洋服も全て私の服を着せた時は、あまりの可愛さに昇天してしまいました。

――ははっ。その気持ちわかるなぁ。郁未にもたまに私のシャツだけを羽織らせますが、何も着ていないより興奮しますよね。

と惚気あっているのを聞いていた。

その時は、そういうものかとスルーしていたが、今はあの時の彼らの気持ちが痛いほどわかる。
パーカーを羽織らせただけでこんなにも可愛いのに、下着も洋服も全て着せたのに襲わなかった安慶名さんの理性は素晴らしい。

私の服を着てほんのりと頬を染めて、長い袖を何度も見ている平松くんを見ていると、私を意識してくれているのかと嬉しくなる。
そんな仕草も可愛くて仕方がない。

穴場な場所に連れていくときにさっと手を握ると、驚かれてしまったがその声色に嫌なものは感じない。
ただ突然のことに驚いただけだというのが感じられてホッとした。

慣れない山道は危ないからと理由をつけて、手を握る。

昨日だって手を繋いだのに、明るい太陽の下で手を繋ぐのはまた違う興奮があるものだ。

今から連れていく場所は大きな池と綺麗な花々に囲まれた美しい場所。
ここにはハブなども出ないことは調査済みだ。

「ほら、この辺の風景とか子どもは好きそうだろう? イラストにも合うんじゃないかな?」

本来の観光の目的を挙げてみると、

「わぁーっ、綺麗な池。それに見たことない鳥も!」

と目を輝かせて喜んでくれた。

ああ、この表情が見たかったんだ。

「写真、撮ってもいいですか?」

そう尋ねる彼に、写真ではなく自分の目に焼き付けるように言ったのは、嘘じゃない。
イラストを描くときには、自分の目で見たものの方が感情を入れやすい。

写真なら私が撮るからと言って持ってきたカメラを取り出した。

西表島にきて日々の生活の潤いにと始めたカメラだったが、倉橋くんのおかげで、素晴らしい機材を手に入れることができ、カメラの技術はメキメキと上がった。
そのおかげで今、平松くんの可愛い表情も撮ることができている。

この画像は全て私のパソコンに取り込んでおこう。
せっかくのお宝画像を自分のものにしない手はないからな。

綺麗な花々や鳥たちの姿に笑顔を見せる平松くんの表情をたっぷりと残し、この場所の散策は終わった。

次の場所に移動しながら、

「あの……八尋さんって、俺と同じ本土から移住してきたって伺ったんですけど、元々はカメラマンさんだったんですか?」

と尋ねられる。
どうやらさっきの姿がさまになっていたようだ。

カメラは趣味で始めたことを教えながら、このカメラが倉橋くんに紹介してもらったと告げると

「社長って、カメラにも詳しいんですね」

と、感心したように呟いていた。

まぁ、彼が詳しくないことを探す方が難しいだろう。
どんな業種にも手を出して、しかも成果を出しているのだから本当にすごい。

そんな話をしながら、やってきたのはさっきの場所からそこまで離れていない野草が生い茂っている場所。

ここはうちの店で出している野草の天ぷらの材料を採る場所だ。

平松くんも美味しいと言って食べてくれたオオタニワタリや、汁物やジューシーに入れるヨモギ――沖縄ではフーチバーという――を採取して、元来た道を戻った。


車までの帰り道、平松くんの質問の答えをまだ話していなかったことを思い出し、会話を続けた。

「そうそう、話の途中だったけど、本職は営業だったんだ。これでも、営業成績トップで会社でもかなり高待遇を受けていたんだよ」

あまりにも倉橋くんを褒めるから嫉妬してそんなことを言ってしまったが、私の高待遇など彼の足元にも及ばないかもしれないな。

それでも周りから憧れるような生活はしていただろう。
だが、心も身体も充実はしていなかったように思う。

ふとしたきっかけで沖縄と出会い、ここまでやってきたがあっちで働いていた時よりもずっと充実した毎日を過ごしている。

「きっと、ここが八尋さんを呼んだんですよ」

平松くんのそんな優しい言葉に心が温かくなるのを感じた。

初めてこの島に来た日の思い出を平松くんに話す。
あの日は、最終便でやってきて、石垣に戻る船は明日の朝までなかった。
それをわかって船に飛び乗ったわけだが、宿泊所が何も残っていないことは想定外だった。

だが、それすらも楽しく感じられたのだから、その時から私はこの島に魅了されていたのかもしれない。

その時、家に泊まっていけばいいと声をかけてくれたのが、店で三線を弾いていた喜友名きゆなさんだった。
彼が人間国宝だと聞いて驚いたが、彼はそんなことを鼻にもかけずいろんなことを話してくれた。

――いい場所を教えるから行ってごらん。悩みも全て消えて、自分が一番したいことがわかるはずだ。

その言葉で私の人生は決まったと言っていい。
あの出会いが私を変えたんだ。

「今日最後にそこに連れて行くから、楽しみにしてて」

平松くんにも何か変わるきっかけになればいい。
そう思って声をかけたが、

「はい。楽しみ――きゅるるっ、うわっ、ごめんなさい!」

彼の可愛い声に、可愛らしいお腹の音が重なった。

ふふっ。こういうところが可愛すぎるんだ、この子は。
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