イケメンスパダリ店主は愛する人が鈍感で無防備で可愛すぎて困っています

波木真帆

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無意識に煽られる

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「もうとっくに昼食時間だからな。次の場所に行く前に、昼食をとろうか」

恥ずかしがる平松くんの手を引いて、車に乗せ昼食に連れて行ったのは、以前倉橋くんから勧められた西表牛を食べられるレストラン。

西表牛は、西表島の若い生産者たちが新たなビジネスとして始めた、パイナップルを主食として育てた牛のことだ。

この事業を始めるにあたって彼らから話を聞き、倉橋くんがかなりの出資をして始めた事業は目下、かなりの黒字となっていて西表島の新たな観光の一つとなっている。

なんせ、この西表牛はこの島に来なければほぼ味わうことができないのだ。

唯一島外で食べられるのは、同じく倉橋くんが出資をして事業を始めた、彼の友人である蓮見はすみ涼平りょうへいくんの石垣島にある高級焼肉店<あや>だけ。

その希少性と味の良さが口コミで広まって、西表牛を目当てに観光客がかなり増加していると言う話だ。

彼の口利きでうちの店でも西表牛を仕入れることができ、かなりの人気メニューになっている。

このレストランの一番人気はもちろん、お肉の味をたっぷりと堪能できるステーキだが、私のおすすめはボリュームたっぷりのハンバーガー。
一度食べると病みつきの旨さで、食べた人は必ずリピーターになってこの島を訪れる。
<綺>では食べられない一品だ。

西表牛を聞いたことがないと話していた平松くんだったが、高級焼肉店<綺>のことは知っていた。
意外だなと思っていると、

「以前、社長が行きたいから予約を取るように言われたんですけど、三年待ちで予約取れなかったお店です」

と教えてくれた。

なるほど。
平松くんが勤めていた会社はかなりのブラックで、倉橋くんが藤乃くんと出会う前から倉橋くんの中ではあまりいい噂の聞かない中堅会社という認識だったと聞いている。
イリゼグループのオーナーである浅香くんと、高級焼肉店オーナーの蓮見くんと倉橋くんは友人同士同じサービス業ということで、お互いに店の品位にそぐわない客の予約は受け付けないように協定を組んでいたようだったから、きっと予約の段階で弾かれたのだろう。

現在その社長が逮捕されている事実を見れば、予約を受けなかったというその時の判断は正しかったと言える。

その<綺>が倉橋くんの友人の店だと紹介して、

「今度、一緒に食べに行こうか? 石垣島ならすぐに行けるし、倉橋くんに頼めば予約はすぐに取ってもらえるよ」

と声をかけたが、平松くんはすぐにその誘いに乗ってこない。
どうやら高級店だということを知っているが故に、すぐには反応できないようだ。

支払わせる気などさらさらないのだが、そんな謙虚なところも好感が持てる。

ランチはリーズナブルで砂川さんや名嘉村くんも食べに行っていると教えるとようやく頷いてくれた。

二人のことをかなり信用していると見えるな。

石垣島も詳しいから案内するよというと

「こっちに来てどれくらいなんですか?」

と尋ねられた。
東京を離れてからもう十五年近くなるだろうか。
その間、恋人も心を奪われるような人には一度も会わなかった。
それでも充実した日々を過ごしていたが、これから先の人生は隣に平松くんがいてほしいと思う。

そんなことを思いながら、もう十五年近くなると答えると平松くんは大きな目をこぼれ落ちそうなほど大きくさせて

「あ、あの……八尋さんって、おいくつなんですか?」

と問いかけてきた。

ああ、そういえば年齢は伝えていなかったな。

若い平松くんに年齢を言うとおじさんだと思われそうで無意識に話さないでいたのかもしれない。

それでも正直に41歳だと伝えると、今までにない様子で驚かれてしまった。

「もっと老けてると思った?」

「ちが――っ、その逆です! 35歳くらいだと思ってて……」

35歳か。
お世辞でも嬉しいな。
愛しい人には少しでも若く見られたいものだからな。

平松くんはもうすぐ27歳になるという。
それは私が東京を離れ、沖縄に骨を埋める覚悟をした年だ。

ふふっ。同じ頃に、人生において大きな転換期になったのだと思うと感慨深いものがある。

倉橋くんに声をかけられたのも彼の持つ運命の力かもしれない。

「まだ何日かしか経ってないですけど、すごく生きてる実感がして楽しいです」

ここでの日々をそう言ってくれた平松くんにどんなことが生きている実感を感じるのかと尋ねると、

「あっちにいるときは、仕事にやりがいを感じることなんてもちろんなかったし、食事もこんなに楽しいと感じたことはなかったし、次の日の予定にワクワクして目覚めるなんて楽しみもなかったし、何かを見て楽しいなんて思うこともなかったので……」

と教えてくれたが、私にとってこれほど嬉しい告白はない。
なんせ私と過ごす日々が生きている実感を味わえると言われたようなものなのだから。

きっと平松くんは気づいていないだろう。
無意識に言ったようだからな。

それでも私は嬉しいんだ。
平松くんの中にもうすでに私の存在が根付いているようで。

「ふふっ。そっか。嬉しいよ」

彼への想いが止められずについお礼を言ってしまったが、ちょうどそのタイミングで注文していた料理がやってきた。

「わぁっ! 美味しそう!!」

キラキラと目を輝かせる平松くんが可愛くて仕方がない。

けれどすぐに不安そうな表情で、

「あ、あのでも……これって、どうやって食べたらいいですか?」

と尋ねてくる。

ふふっ。平松くんの小さな口では難しいだろうが、ハンバーガーは齧り付いた方がやはり美味しい。
気を遣わずに食べて欲しくて、私は少し潰しながら大口を開けて先に齧り付いた。

「やっぱりハンバーガーはかぶりつくのが一番だよ」

ドキドキさせてみようかとウインクをしながら言ってみると彼はほんのり頬を染めながら、私の真似をして大きなハンバーガーに齧り付いた。

彼の小さな口には上から下まで入りきらなかったようだが、唇の端からソースを垂らしながら

「んんっ、おいひぃ、れすっ」

と可愛い声を聞かせてくれた。

本当に無意識に私を煽る天才だな、この子は。
少しでも意識させてやりたくて、わざと見せつけるように唇の端から垂れているソースを指で拭い取り、そのまま自分の口に入れ舐めとった。

茫然と私の指の動きに魅入っていた平松くんは、指が私の口に入った瞬間、

「あっ……」

と声を漏らした。
それがとてつもなく可愛くてたまらなかった。
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