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第二章 (恋人編)
花村 柊 8−1※
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思いがけず、すごい本が手に入った。
今日あの本屋さんに行けて本当に良かった。
「パール、ただいま。今日初めて外に行ったんだよ!」
寝室の扉を開けながら、話しかけると
『キュンキューン』
と嬉しそうに近づいて来ていたパールが、途中で止まってしまった。
「んっ? パール、どうしたの?」
パールはなんだか戸惑っているように見える。
『フゥー、ウー』
なに? なんか怒ってる?
「あっ、そっか、ごめんね」
髪の毛が違うからだ!
そのことに気づいたぼくは慌ててピンを外して、ウィッグを取った。
「ふふっ。どう?」
パールにいつもの格好を見せると
『クゥーンクゥーン』
と嬉しそうに近寄って来てくれた。
「良かった。ぼくのこと嫌いになっちゃったかと思って心配しちゃった」
パールの頭を撫でながらそう言うと、
『そんなことあるわけないよ』と言わんばかりに、もふもふの尻尾を振っていてすごく可愛かった。
「そうだ! ねぇ、これすごい本なんだよ!」
興奮してパールに伝えると、パールはわかっているのかいないのか、本をジーっと見つめていた。
「後でゆっくり読むから、パール、見守っててね」
ぼくは本を寝室のサイドテーブルに置いて、授業を受けにリビングへと向かった。
スペンサー先生の授業を聞いている間も、早く読みたくて仕方がなかった。
授業を終え、ゆっくりと読み進めたくて、パールに『お留守番しててね』と寝室に残し、本を手に取るとフレッドの書斎へと入った。
もちろん、フレッドに心配をかけないようにちゃんと部屋に書き置きを残して……。
フレッドの部屋に入り、書斎への扉を開けた。
ああ、1人で入るのは初めてだ。ドキドキする。
けれど、中に入るとフレッドのあのレモンとシトラスを混ぜたような爽やかな香りがふわりと漂っていて、フレッドが傍にいるような感覚がして、ぼくの緊張も解けていった。
ぼくはゆったりとした椅子に座り、綺麗な包み紙の中から本を取り出した。
破れてしまいそうな表紙を丁寧に扱い、ページをめくった。
中に書かれていた内容は興味深く、一度も目を離す事なく読み進めていった。
もうすぐ読み終わると思った時、
「シュウ?」
「わぁっっ、ビックリした!!」
相当集中してしまっていたらしく、突然聞こえたフレッドの声に思った以上に反応してしまい、大声をあげてしまった。
思わず大切な本を落としてしまいそうになったが、フレッドの長い手が優しく受け止めてくれた。
「悪い、驚かせてしまったな。邪魔したか?」
フレッドが本を片手に申し訳なさそうな顔で近づいてくる。
「ううん、ごめんね。フレッドが邪魔だなんてそんなことあるわけ無いよ。読むのに集中しすぎてただけ」
「そうか。なら、良いんだ」
そう言うと、フレッドは机に本をそっと置き、ぼくの座っていた椅子に腰を下ろした。
ゆったりした椅子は2人でも充分座れるが、フレッドはぼくをさっと持ち上げ、膝の上に向かい合わせになるように座らせた。
そして、優しい手つきでぼくの頭をそっと撫でた。
「やっと、シュウの髪を撫でられた。やはり、この手触りが良い」
そうか、デート中も撫でてくれたけど、あれはぼくの髪じゃなかったっけ。
「うん。ぼくもフレッドの手の感触が気持ちいい」
ぼくがそう言ってフレッドの顔を見上げると、フレッドは満面の笑みを浮かべて、
「シュウ、口付けしてもいいか?」
と聞いてきた。
ぼくは答えるのが恥ずかしくて、ぼくの方からフレッドの唇に自分のそれを重ねた。
ちゅっと重なった音がしてすぐに離すと、フレッドがぼくの後頭部に手を当てすぐにまた重ね合わせてきた。
ちゅっちゅっと何度もぼくの下唇を啄む音がする。甘い甘いバードキス。
このまま深いキスを……と思った途端、フレッドの唇が離れていった。
んーっ、ちょっと寂しい。
そう思ったのはぼくだけかな……フレッド……。
続きが欲しくてフレッドを見つめると、フレッドもぼくを愛おしそうな眼差しで見つめて来た。
「シュウ、もっと口付けしたい、いいか?」
「ばか……いちいち聞かないでよ、伴侶なんでしょ?
フレッドがしたいときに奪ってよ……」
恥ずかしくて小声でそう言うと、フレッドはギラギラと飢えた獣のような勢いで噛み付くようなキスをしてきた。
唇が重なり合ったかと思ったら、舌で唇をノックされる。
そっと唇を開くと、熱い舌が入り込んできた。
フレッドの舌はぼくの口腔内を縦横無尽に動き回る。
「……ふぅ……っ、ん」
激しく舌を絡められ、吸いついてくる。
熱い……気持ちいい……もっと……深く
いろんな思いが交錯しながら、その勢いの強さにぼくは息をするのを忘れてしまう。
「んんっ、ん……っん」
あまりの苦しさにフレッドの背中を叩くと、フレッドはハッと気づいたように唇を離した。
「はぁ……っ、はぁ」
「シュウ、悪かった……我を忘れて、つい……」
叱られたわんこのような表情でぼくの顔色を伺ってくるフレッドが可愛くて、ぼくはフレッドの髪をそっと撫でた。
「大丈夫だよ。ぼくもして欲しかったから」
そういうと、フレッドはぼくを胸に抱き寄せた。
「シュウは私に甘すぎる。だから、つけ上がってしまうんだ……」
「ふふっ。ぼくがフレッドを甘やかしたいんだからいいの。だって、それが伴侶でしょ?」
フレッドは今まで誰にも甘えるなんて出来なかったはず。
ぼくも誰にも甘えるなんて出来ずに過ごして来たから、その辛さはよく分かる。
ぼくはフレッドに甘えさせてもらって、ああ、幸せだなって思えるから、フレッドにも同じように思ってもらいたい、ただそれだけなんだ。
フレッドはぼくを胸に抱いたまま、『ありがとう、シュウ……愛してるよ』とずっと言ってくれた。
部屋に甘やかな雰囲気が漂った頃、フレッドが思い出したように口を開いた。
「そういえば、あの本……何の本だったか聞いてもいいか?」
そうだ、帰ったら話すって言ってたっけ。
「うん。でも、フレッドとぼくの秘密にしてくれる?」
「ああ、勿論だ」
あれは、すごい本だったんだ。
あの本……いや、本というよりは、ある人の日記と言った方がいいかもしれない。
「あれはね、ぼくと同じところからこの世界にやってきた人が書いた日記だったんだよ」
そう、その人はぼくと同じように異世界からこの世界に迷い込んだ男性だった。
時間の捩れがあるのか、彼が生まれたのはぼくより20年ほどしか変わらなかったけれど、彼が迷い込んだのはぼくたちがいる今より、数百年以上前のオランディアだった。
「えっ? 日記? シュウと同じ世界から?」
フレッドは目を見開いて驚いていた。
「うん。あれは日本語で書かれていたから、誰にも読めなかったんだ」
にほんご……そうか、あの文字はシュウの国の文字だったんだな……フレッドはそう小さく呟いた。
「その人はね、オランディアのアンドリュー王の伴侶になったんだって」
「ええっ?! アンドリュー王!! この国の歴史の中で最も偉大な王と言われているお方だ!
そうか……あの伝説の王妃はシュウと同じ異世界人だったんだな! すごいな」
ふふっ。フレッドがいつになく興奮している。
最も偉大な王って、考えてみればフレッドのご先祖さまってことだもんね。
「そうその人。第三王子なのに王になったんだよね」
「ああ、昔、この国の歴史で一番大きな戦争が起こった時、戦地で第一王子と第二王子が戦火に巻き込まれて亡くなって、何とか戦争には勝ったものの、オランディアの痛手は大きく、年老いた王と成人直前だった第三王子、そしてまだ幼い第四王子だけが生き残ったんだ。
アンドリュー王は新しい王となったが、国は焼け野原、そして追い討ちをかけるように天候不順による干ばつで国民が飢えに苦しみ、国家存亡の危機に陥った時、天上の素晴らしい知恵を持った美青年が突然王城に現れ、アンドリュー王と共に、王妃となって国を救ったという話が王家の古い文献に書かれていたな」
「天上の素晴らしい知恵?」
「ああ。なんでも、その方、トーマ王妃だったか……、そのトーマ王妃は『聖なる種』をたくさん持っていて、それを畑にばら撒くとあっという間に見たこともない実がたくさんなって食料危機を救ったとか、それで見たこともない料理を作ったとかいう伝説が残っている」
ああ、そういえば書いてあった。
うん、なるほどね。
この国で苺やオレンジ、他にもお芋とかが作られていたのはこういう理由だったんだなって腑に落ちたもん。
「そうか。あの本はそのトーマ王妃の日記だったわけか。それで、その本にはどんなことが書かれていたんだ?」
「うん。彼、橘冬馬さんって言うんだけど、冬馬さんがこの国に現れた時の事から、アンドリュー王と出会ったこと、さっきフレッドが言ってた『聖なる種』のお話とか、後継の第四王子の話とかかな。あとは、ふふっ。アンドリュー王とのラブラブな話とか」
「へぇ、私も読んでみたいものだな」
「でもさ、自分の日記が後々誰かに読まれるなんて考えたら恥ずかしいよね」
冬馬さんはどんな思いでこの日記を書いていたんだろう。
ぼくはこの国に来た時からフレッドに大切に養ってもらって苦労なんて何にもしていないけれど、冬馬さんが来た時は国がだいぶ混乱していたみたいだし、きっと大変なことが多かったんだと思う。
でも、日記の内容はすごくポジティブで、アンドリュー王とすごく仲睦まじい様子が書かれてたっけ。
冬馬さんはアンディーと呼んでたみたいだったけど。
「そうだな。だけど、きっとトーマ王妃はシュウのような同じ境遇の者たちのためにその本……日記を書いたんだと私は思うぞ」
ああ、そうだ。確かにそうかもしれない。
彼の日記には何度も同じフレーズがあった。
『いつか僕と同じようにこの国にやってくる人のために』って。
冬馬さんが日記の中で最後までやってみたいって言ってた温室栽培は、彼の生きていた時代のこの国の技術ではまだ無理だったみたい。
でも、今日町をみて思ったけれど、今のこの国の技術なら多分温室栽培は可能だろう。
冬馬さんは日記の中で
『この混乱した時代に必要なものを携えて僕がここに来たのにはきっと特別な理由があったのだろう。
それが僕に課せられた宿命だったのか、それとも運命だったのかわからないけれど、この国でアンディーと出逢えて、国が立ち直っていく様子をこの目で見られたことは僕にとって何よりも幸せでした』と書き綴っていた。
ぼくも何かの運命でこの地に来たのなら、このサヴァンスタックのためにやれることを頑張ろう!
きっと、ぼくもフレッドと一緒にこの領地が発展していくのを見て行けたら幸せだと感じるんだろうな。
「そうだね。ねぇ、フレッド、ぼくも日記を書いてみようかな」
「ああ、それはいい考えだな。トーマ王妃のように私のこともたくさん書いてくれ!」
「ふふっ。フレッドったら!」
「はははっ」
部屋中にぼくとフレッドの笑い声が響き渡った。
ああ、ぼくは幸せだ。
この国に来て、フレッドと出逢えてぼくはずっと笑顔でいられる。
きっと、冬馬さんもアンドリュー王と出逢ってから幸せを感じていたんだろうな。
日記の文章に溢れ出てたもんね。
会ってみたかったな……冬馬さんにもアンドリュー王にも。
「でもさ、ちょっと不思議なんだよね」
「何がだ?」
「冬馬さんもぼくと同じようにここに来た時から会話も読み書きも出来たんだって。ぼくが書いた字もフレッドには読めているんだよね?」
「ああ、今日部屋に置いてあった書き置きもちゃんと綺麗なオランディア語で書かれていたぞ」
「なら、何でこの日記は日本語で書けたんだろう? ぼくはいつでも日本語で書いてるつもりだけど、フレッドにはオランディア語で書いてるように見えるのに……」
「うーん、そうだな……。シュウ、ちょっと『にほんご』で何か書いてくれないか?」
「えっ?」
フレッドはそう言うと、驚くぼくを抱き上げたまま立ち上がり、机の引き出しからシンプルな便箋と万年筆を取り出し、また椅子に座り直した。
「物を取りに行くときくらいぼくを下ろしたらいいのに……。重くなかった?」
「少しの時間でも離れたくなかったんだ。それにシュウはもっと太っても良いくらいだぞ」
そう言いながら、目の前のテーブルに便箋と万年筆を並べ、ぼくを優しく隣に下ろしぴったりと隣にくっついた。
本当に少しの時間でも離れたくないって思ってくれてるんだ……。なんかすごく嬉しいな。
「うわぁ、これすごく持ちやすいね。なんて書こうかなぁ……」
フレッドの用意してくれた万年筆は軽くてぼくの手にしっくりと馴染んだ。
ぼくは少し考えて、漢字で自分の名前を書くことにした。
一画、一画丁寧に。
筆のような滑らかな書き心地の万年筆で気合を入れて書いてみた。
「どう? 読める?」
「……いや、読めないな。なんて書いてるんだ?」
ええっ?! 読めないんだ!
えーっ、なんでだろう?
「これはね、ぼくの名前。【花村 柊】って書いてるんだよ」
ハナムラ シュウ……
フレッドは何度も名前を呟きながら、目に焼き付けるようにその字を見つめていた。
「綺麗な名前だな。シュウはこういう文字を書くんだな。文字の形がとても綺麗だ」
ぼくの書いた文字を指で何度もなぞる、フレッドのその仕草に見惚れてしまう。
「今度はオランディア語で何か書いてくれないか?」
「えーっ……ぼく、オランディア語を書いてる自覚はないんだけどなぁ」
と言いつつ、万年筆を取り何にしようか悩んだ末にこれを書いてみた。
「どう? 読める?」
「フレデリック・ルイス・サヴァンスタック……」
「すごーい! ちゃんと読め……うわっ」
フレッドが急にぼくを抱きしめてきて、思わず声が出てしまった。
「ねえ、フレッド。どうしたの?」
「シュウの書いた文字が、心から私を愛おしいと叫んでいるように見えたんだ」
そうか。字には魂が宿るって言うもんね。
オランディア語で書いてって言われて、パッと頭に浮かんだのはフレッドの名前だったから、気持ちを込めて書いたのが伝わったのかな。
「シュウ、おそらく書いている相手によって文字が変化しているんじゃないか? シュウが私宛に書いたからあの書き置きもオランディア語だったんだ。だから、トーマ王妃の日記もシュウたちに向けて書いたから『にほんご』だったんじゃないかな」
「そうか……。うん、そうかも。じゃあ、この日記は大切に保管しておかないとね。ぼくがこれから書く日記と合わせて、これから来るかもしれない人たちのために」
「ああ、そうだな……。そういえば、シュウ。
あの、ちょっと聞いてもいいか?」
言葉を選ぶように少し躊躇いながら聞いてくる。
なんだろう? そんなに聞きにくいことなのかな?
「んっ? なぁに?」
「『にほんご』の話で思い出したんだが……パールも『にほんご』なんだろう? どんな意味があるんだ? ずっと気になっていたんだ」
ずっと気になってたって……ふふっ。なんか可愛い。
「ああ、パール……本当はね、日本語では真珠って言うんだけど、呼びにくいかと思って同じ意味のパールにしたんだ。真珠は真っ白で綺麗な宝石でね、邪気から持ち主を護るって言われているんだ。だから、フレッドのことをパールが護ってくれるんじゃないかと思って」
「そんな意味が……」
フレッドは愕然とした面持ちで立ち尽くしていたが、急にぼくをぎゅっと抱きしめた。
「シュウ、お前はいつでも私のことを想ってくれているのだな。私は嬉しい……」
「ううん。フレッドがいつもぼくのことを想ってくれてるからだよ。ぼく……ここに来られて、フレッドに出会えて本当に良かった……」
ぼくはフレッドの大きくて逞しい背中に腕を回し、ぎゅっと抱きついた。
手のひら、胸、お腹、そして頬にフレッドの温もりを感じる。
ああ、ぼく幸せだ……。
「シュウ……私の方こそだ。
シュウの分け隔てない優しさに私がどれだけ救われたか。
今日、外出して分かっただろう?
この国では私のような容姿の者はみなに嫌われる。
私のせいでシュウも嫌な視線を浴びたのではないか?
それを感じさせたくなくて……いや、それだけじゃない。
今日、ケーキ屋で声をかけてきたあの男のような見目の美しい奴らにシュウが奪われるのではないかと思うと怖かったんだ。だから、外へ出したくなかった……」
パールの白色が迫害対象だと知ってから、フレッドの白に近い色も迫害や嫌悪の対象なんだということには気づいていた。
ぼくの黒い瞳を見て愛好の表情を、
フレッドの金色の髪、水色の瞳を見て嫌悪の表情を浮かべた、町の人のあまりにもあからさまな態度に、
憤りを隠せなかった。
フレッドがどれだけこの領地に尽力しているかも知らないで、見た目だけで判断されているのが悔しくてたまらなかった。
フレッドはきっと生まれた時から、あんな突き刺すような嫌悪の視線に耐えながら生きてきたんだろう。
自信を失っても仕方ないよね。
だからこそ、ぼくはちゃんと自分の気持ちを伝えたい。
「ねぇ、ぼくはね……ここに来てからフレッドが一番格好良いと思ってるよ」
「えっ? まさか……っ」
「ほんとだよ。フレッドの光り輝くような金色の髪も、透き通るような水色の瞳も、頼りがいのある高い身長もぼくは大好きだよ。それに……ぼくのことをいつも考えてくれてるとこも、時々暴走しちゃうとこも、パールや他の人たちにすぐにヤキモチ妬いちゃうとこも全部大好き」
「ああ……っ。シュウ……、お前はどれだけ私を喜ばせるんだ」
フレッドは涙を流しながら、ぼくを腕の中に閉じ込めて離そうとしなかった。
「ねぇ、フレッド。知らない誰かの言葉や態度で傷つく必要なんてないんだよ。フレッドはぼくの言葉を信じていてね。ぼくは今のこのままのフレッドが大好きなんだからね」
「シュウ……シュウ、ありがとう」
フレッドの嗚咽の声が聞こえる。
涙に濡れた目や頬をハンカチで拭い取ってあげたいのに、フレッドはぼくを胸にぎゅっと抱きしめているので身動きひとつできない。
「フレッド、顔を見せてよ」
そう頼んだけれど、
「シュウに泣き顔なんて見せたくないんだ……格好悪いだろう。せっかく大好きだっていってくれたのに……」
って。
もう、フレッドったら……。
「ぼくはフレッドのどんな顔も好きなんだよ」
そう言ったけど、フレッドは頑なに拒んで見せた。
でも、絶対いつか泣き顔見てやるんだから!
ぼくは秘かにそう誓った。
今日あの本屋さんに行けて本当に良かった。
「パール、ただいま。今日初めて外に行ったんだよ!」
寝室の扉を開けながら、話しかけると
『キュンキューン』
と嬉しそうに近づいて来ていたパールが、途中で止まってしまった。
「んっ? パール、どうしたの?」
パールはなんだか戸惑っているように見える。
『フゥー、ウー』
なに? なんか怒ってる?
「あっ、そっか、ごめんね」
髪の毛が違うからだ!
そのことに気づいたぼくは慌ててピンを外して、ウィッグを取った。
「ふふっ。どう?」
パールにいつもの格好を見せると
『クゥーンクゥーン』
と嬉しそうに近寄って来てくれた。
「良かった。ぼくのこと嫌いになっちゃったかと思って心配しちゃった」
パールの頭を撫でながらそう言うと、
『そんなことあるわけないよ』と言わんばかりに、もふもふの尻尾を振っていてすごく可愛かった。
「そうだ! ねぇ、これすごい本なんだよ!」
興奮してパールに伝えると、パールはわかっているのかいないのか、本をジーっと見つめていた。
「後でゆっくり読むから、パール、見守っててね」
ぼくは本を寝室のサイドテーブルに置いて、授業を受けにリビングへと向かった。
スペンサー先生の授業を聞いている間も、早く読みたくて仕方がなかった。
授業を終え、ゆっくりと読み進めたくて、パールに『お留守番しててね』と寝室に残し、本を手に取るとフレッドの書斎へと入った。
もちろん、フレッドに心配をかけないようにちゃんと部屋に書き置きを残して……。
フレッドの部屋に入り、書斎への扉を開けた。
ああ、1人で入るのは初めてだ。ドキドキする。
けれど、中に入るとフレッドのあのレモンとシトラスを混ぜたような爽やかな香りがふわりと漂っていて、フレッドが傍にいるような感覚がして、ぼくの緊張も解けていった。
ぼくはゆったりとした椅子に座り、綺麗な包み紙の中から本を取り出した。
破れてしまいそうな表紙を丁寧に扱い、ページをめくった。
中に書かれていた内容は興味深く、一度も目を離す事なく読み進めていった。
もうすぐ読み終わると思った時、
「シュウ?」
「わぁっっ、ビックリした!!」
相当集中してしまっていたらしく、突然聞こえたフレッドの声に思った以上に反応してしまい、大声をあげてしまった。
思わず大切な本を落としてしまいそうになったが、フレッドの長い手が優しく受け止めてくれた。
「悪い、驚かせてしまったな。邪魔したか?」
フレッドが本を片手に申し訳なさそうな顔で近づいてくる。
「ううん、ごめんね。フレッドが邪魔だなんてそんなことあるわけ無いよ。読むのに集中しすぎてただけ」
「そうか。なら、良いんだ」
そう言うと、フレッドは机に本をそっと置き、ぼくの座っていた椅子に腰を下ろした。
ゆったりした椅子は2人でも充分座れるが、フレッドはぼくをさっと持ち上げ、膝の上に向かい合わせになるように座らせた。
そして、優しい手つきでぼくの頭をそっと撫でた。
「やっと、シュウの髪を撫でられた。やはり、この手触りが良い」
そうか、デート中も撫でてくれたけど、あれはぼくの髪じゃなかったっけ。
「うん。ぼくもフレッドの手の感触が気持ちいい」
ぼくがそう言ってフレッドの顔を見上げると、フレッドは満面の笑みを浮かべて、
「シュウ、口付けしてもいいか?」
と聞いてきた。
ぼくは答えるのが恥ずかしくて、ぼくの方からフレッドの唇に自分のそれを重ねた。
ちゅっと重なった音がしてすぐに離すと、フレッドがぼくの後頭部に手を当てすぐにまた重ね合わせてきた。
ちゅっちゅっと何度もぼくの下唇を啄む音がする。甘い甘いバードキス。
このまま深いキスを……と思った途端、フレッドの唇が離れていった。
んーっ、ちょっと寂しい。
そう思ったのはぼくだけかな……フレッド……。
続きが欲しくてフレッドを見つめると、フレッドもぼくを愛おしそうな眼差しで見つめて来た。
「シュウ、もっと口付けしたい、いいか?」
「ばか……いちいち聞かないでよ、伴侶なんでしょ?
フレッドがしたいときに奪ってよ……」
恥ずかしくて小声でそう言うと、フレッドはギラギラと飢えた獣のような勢いで噛み付くようなキスをしてきた。
唇が重なり合ったかと思ったら、舌で唇をノックされる。
そっと唇を開くと、熱い舌が入り込んできた。
フレッドの舌はぼくの口腔内を縦横無尽に動き回る。
「……ふぅ……っ、ん」
激しく舌を絡められ、吸いついてくる。
熱い……気持ちいい……もっと……深く
いろんな思いが交錯しながら、その勢いの強さにぼくは息をするのを忘れてしまう。
「んんっ、ん……っん」
あまりの苦しさにフレッドの背中を叩くと、フレッドはハッと気づいたように唇を離した。
「はぁ……っ、はぁ」
「シュウ、悪かった……我を忘れて、つい……」
叱られたわんこのような表情でぼくの顔色を伺ってくるフレッドが可愛くて、ぼくはフレッドの髪をそっと撫でた。
「大丈夫だよ。ぼくもして欲しかったから」
そういうと、フレッドはぼくを胸に抱き寄せた。
「シュウは私に甘すぎる。だから、つけ上がってしまうんだ……」
「ふふっ。ぼくがフレッドを甘やかしたいんだからいいの。だって、それが伴侶でしょ?」
フレッドは今まで誰にも甘えるなんて出来なかったはず。
ぼくも誰にも甘えるなんて出来ずに過ごして来たから、その辛さはよく分かる。
ぼくはフレッドに甘えさせてもらって、ああ、幸せだなって思えるから、フレッドにも同じように思ってもらいたい、ただそれだけなんだ。
フレッドはぼくを胸に抱いたまま、『ありがとう、シュウ……愛してるよ』とずっと言ってくれた。
部屋に甘やかな雰囲気が漂った頃、フレッドが思い出したように口を開いた。
「そういえば、あの本……何の本だったか聞いてもいいか?」
そうだ、帰ったら話すって言ってたっけ。
「うん。でも、フレッドとぼくの秘密にしてくれる?」
「ああ、勿論だ」
あれは、すごい本だったんだ。
あの本……いや、本というよりは、ある人の日記と言った方がいいかもしれない。
「あれはね、ぼくと同じところからこの世界にやってきた人が書いた日記だったんだよ」
そう、その人はぼくと同じように異世界からこの世界に迷い込んだ男性だった。
時間の捩れがあるのか、彼が生まれたのはぼくより20年ほどしか変わらなかったけれど、彼が迷い込んだのはぼくたちがいる今より、数百年以上前のオランディアだった。
「えっ? 日記? シュウと同じ世界から?」
フレッドは目を見開いて驚いていた。
「うん。あれは日本語で書かれていたから、誰にも読めなかったんだ」
にほんご……そうか、あの文字はシュウの国の文字だったんだな……フレッドはそう小さく呟いた。
「その人はね、オランディアのアンドリュー王の伴侶になったんだって」
「ええっ?! アンドリュー王!! この国の歴史の中で最も偉大な王と言われているお方だ!
そうか……あの伝説の王妃はシュウと同じ異世界人だったんだな! すごいな」
ふふっ。フレッドがいつになく興奮している。
最も偉大な王って、考えてみればフレッドのご先祖さまってことだもんね。
「そうその人。第三王子なのに王になったんだよね」
「ああ、昔、この国の歴史で一番大きな戦争が起こった時、戦地で第一王子と第二王子が戦火に巻き込まれて亡くなって、何とか戦争には勝ったものの、オランディアの痛手は大きく、年老いた王と成人直前だった第三王子、そしてまだ幼い第四王子だけが生き残ったんだ。
アンドリュー王は新しい王となったが、国は焼け野原、そして追い討ちをかけるように天候不順による干ばつで国民が飢えに苦しみ、国家存亡の危機に陥った時、天上の素晴らしい知恵を持った美青年が突然王城に現れ、アンドリュー王と共に、王妃となって国を救ったという話が王家の古い文献に書かれていたな」
「天上の素晴らしい知恵?」
「ああ。なんでも、その方、トーマ王妃だったか……、そのトーマ王妃は『聖なる種』をたくさん持っていて、それを畑にばら撒くとあっという間に見たこともない実がたくさんなって食料危機を救ったとか、それで見たこともない料理を作ったとかいう伝説が残っている」
ああ、そういえば書いてあった。
うん、なるほどね。
この国で苺やオレンジ、他にもお芋とかが作られていたのはこういう理由だったんだなって腑に落ちたもん。
「そうか。あの本はそのトーマ王妃の日記だったわけか。それで、その本にはどんなことが書かれていたんだ?」
「うん。彼、橘冬馬さんって言うんだけど、冬馬さんがこの国に現れた時の事から、アンドリュー王と出会ったこと、さっきフレッドが言ってた『聖なる種』のお話とか、後継の第四王子の話とかかな。あとは、ふふっ。アンドリュー王とのラブラブな話とか」
「へぇ、私も読んでみたいものだな」
「でもさ、自分の日記が後々誰かに読まれるなんて考えたら恥ずかしいよね」
冬馬さんはどんな思いでこの日記を書いていたんだろう。
ぼくはこの国に来た時からフレッドに大切に養ってもらって苦労なんて何にもしていないけれど、冬馬さんが来た時は国がだいぶ混乱していたみたいだし、きっと大変なことが多かったんだと思う。
でも、日記の内容はすごくポジティブで、アンドリュー王とすごく仲睦まじい様子が書かれてたっけ。
冬馬さんはアンディーと呼んでたみたいだったけど。
「そうだな。だけど、きっとトーマ王妃はシュウのような同じ境遇の者たちのためにその本……日記を書いたんだと私は思うぞ」
ああ、そうだ。確かにそうかもしれない。
彼の日記には何度も同じフレーズがあった。
『いつか僕と同じようにこの国にやってくる人のために』って。
冬馬さんが日記の中で最後までやってみたいって言ってた温室栽培は、彼の生きていた時代のこの国の技術ではまだ無理だったみたい。
でも、今日町をみて思ったけれど、今のこの国の技術なら多分温室栽培は可能だろう。
冬馬さんは日記の中で
『この混乱した時代に必要なものを携えて僕がここに来たのにはきっと特別な理由があったのだろう。
それが僕に課せられた宿命だったのか、それとも運命だったのかわからないけれど、この国でアンディーと出逢えて、国が立ち直っていく様子をこの目で見られたことは僕にとって何よりも幸せでした』と書き綴っていた。
ぼくも何かの運命でこの地に来たのなら、このサヴァンスタックのためにやれることを頑張ろう!
きっと、ぼくもフレッドと一緒にこの領地が発展していくのを見て行けたら幸せだと感じるんだろうな。
「そうだね。ねぇ、フレッド、ぼくも日記を書いてみようかな」
「ああ、それはいい考えだな。トーマ王妃のように私のこともたくさん書いてくれ!」
「ふふっ。フレッドったら!」
「はははっ」
部屋中にぼくとフレッドの笑い声が響き渡った。
ああ、ぼくは幸せだ。
この国に来て、フレッドと出逢えてぼくはずっと笑顔でいられる。
きっと、冬馬さんもアンドリュー王と出逢ってから幸せを感じていたんだろうな。
日記の文章に溢れ出てたもんね。
会ってみたかったな……冬馬さんにもアンドリュー王にも。
「でもさ、ちょっと不思議なんだよね」
「何がだ?」
「冬馬さんもぼくと同じようにここに来た時から会話も読み書きも出来たんだって。ぼくが書いた字もフレッドには読めているんだよね?」
「ああ、今日部屋に置いてあった書き置きもちゃんと綺麗なオランディア語で書かれていたぞ」
「なら、何でこの日記は日本語で書けたんだろう? ぼくはいつでも日本語で書いてるつもりだけど、フレッドにはオランディア語で書いてるように見えるのに……」
「うーん、そうだな……。シュウ、ちょっと『にほんご』で何か書いてくれないか?」
「えっ?」
フレッドはそう言うと、驚くぼくを抱き上げたまま立ち上がり、机の引き出しからシンプルな便箋と万年筆を取り出し、また椅子に座り直した。
「物を取りに行くときくらいぼくを下ろしたらいいのに……。重くなかった?」
「少しの時間でも離れたくなかったんだ。それにシュウはもっと太っても良いくらいだぞ」
そう言いながら、目の前のテーブルに便箋と万年筆を並べ、ぼくを優しく隣に下ろしぴったりと隣にくっついた。
本当に少しの時間でも離れたくないって思ってくれてるんだ……。なんかすごく嬉しいな。
「うわぁ、これすごく持ちやすいね。なんて書こうかなぁ……」
フレッドの用意してくれた万年筆は軽くてぼくの手にしっくりと馴染んだ。
ぼくは少し考えて、漢字で自分の名前を書くことにした。
一画、一画丁寧に。
筆のような滑らかな書き心地の万年筆で気合を入れて書いてみた。
「どう? 読める?」
「……いや、読めないな。なんて書いてるんだ?」
ええっ?! 読めないんだ!
えーっ、なんでだろう?
「これはね、ぼくの名前。【花村 柊】って書いてるんだよ」
ハナムラ シュウ……
フレッドは何度も名前を呟きながら、目に焼き付けるようにその字を見つめていた。
「綺麗な名前だな。シュウはこういう文字を書くんだな。文字の形がとても綺麗だ」
ぼくの書いた文字を指で何度もなぞる、フレッドのその仕草に見惚れてしまう。
「今度はオランディア語で何か書いてくれないか?」
「えーっ……ぼく、オランディア語を書いてる自覚はないんだけどなぁ」
と言いつつ、万年筆を取り何にしようか悩んだ末にこれを書いてみた。
「どう? 読める?」
「フレデリック・ルイス・サヴァンスタック……」
「すごーい! ちゃんと読め……うわっ」
フレッドが急にぼくを抱きしめてきて、思わず声が出てしまった。
「ねえ、フレッド。どうしたの?」
「シュウの書いた文字が、心から私を愛おしいと叫んでいるように見えたんだ」
そうか。字には魂が宿るって言うもんね。
オランディア語で書いてって言われて、パッと頭に浮かんだのはフレッドの名前だったから、気持ちを込めて書いたのが伝わったのかな。
「シュウ、おそらく書いている相手によって文字が変化しているんじゃないか? シュウが私宛に書いたからあの書き置きもオランディア語だったんだ。だから、トーマ王妃の日記もシュウたちに向けて書いたから『にほんご』だったんじゃないかな」
「そうか……。うん、そうかも。じゃあ、この日記は大切に保管しておかないとね。ぼくがこれから書く日記と合わせて、これから来るかもしれない人たちのために」
「ああ、そうだな……。そういえば、シュウ。
あの、ちょっと聞いてもいいか?」
言葉を選ぶように少し躊躇いながら聞いてくる。
なんだろう? そんなに聞きにくいことなのかな?
「んっ? なぁに?」
「『にほんご』の話で思い出したんだが……パールも『にほんご』なんだろう? どんな意味があるんだ? ずっと気になっていたんだ」
ずっと気になってたって……ふふっ。なんか可愛い。
「ああ、パール……本当はね、日本語では真珠って言うんだけど、呼びにくいかと思って同じ意味のパールにしたんだ。真珠は真っ白で綺麗な宝石でね、邪気から持ち主を護るって言われているんだ。だから、フレッドのことをパールが護ってくれるんじゃないかと思って」
「そんな意味が……」
フレッドは愕然とした面持ちで立ち尽くしていたが、急にぼくをぎゅっと抱きしめた。
「シュウ、お前はいつでも私のことを想ってくれているのだな。私は嬉しい……」
「ううん。フレッドがいつもぼくのことを想ってくれてるからだよ。ぼく……ここに来られて、フレッドに出会えて本当に良かった……」
ぼくはフレッドの大きくて逞しい背中に腕を回し、ぎゅっと抱きついた。
手のひら、胸、お腹、そして頬にフレッドの温もりを感じる。
ああ、ぼく幸せだ……。
「シュウ……私の方こそだ。
シュウの分け隔てない優しさに私がどれだけ救われたか。
今日、外出して分かっただろう?
この国では私のような容姿の者はみなに嫌われる。
私のせいでシュウも嫌な視線を浴びたのではないか?
それを感じさせたくなくて……いや、それだけじゃない。
今日、ケーキ屋で声をかけてきたあの男のような見目の美しい奴らにシュウが奪われるのではないかと思うと怖かったんだ。だから、外へ出したくなかった……」
パールの白色が迫害対象だと知ってから、フレッドの白に近い色も迫害や嫌悪の対象なんだということには気づいていた。
ぼくの黒い瞳を見て愛好の表情を、
フレッドの金色の髪、水色の瞳を見て嫌悪の表情を浮かべた、町の人のあまりにもあからさまな態度に、
憤りを隠せなかった。
フレッドがどれだけこの領地に尽力しているかも知らないで、見た目だけで判断されているのが悔しくてたまらなかった。
フレッドはきっと生まれた時から、あんな突き刺すような嫌悪の視線に耐えながら生きてきたんだろう。
自信を失っても仕方ないよね。
だからこそ、ぼくはちゃんと自分の気持ちを伝えたい。
「ねぇ、ぼくはね……ここに来てからフレッドが一番格好良いと思ってるよ」
「えっ? まさか……っ」
「ほんとだよ。フレッドの光り輝くような金色の髪も、透き通るような水色の瞳も、頼りがいのある高い身長もぼくは大好きだよ。それに……ぼくのことをいつも考えてくれてるとこも、時々暴走しちゃうとこも、パールや他の人たちにすぐにヤキモチ妬いちゃうとこも全部大好き」
「ああ……っ。シュウ……、お前はどれだけ私を喜ばせるんだ」
フレッドは涙を流しながら、ぼくを腕の中に閉じ込めて離そうとしなかった。
「ねぇ、フレッド。知らない誰かの言葉や態度で傷つく必要なんてないんだよ。フレッドはぼくの言葉を信じていてね。ぼくは今のこのままのフレッドが大好きなんだからね」
「シュウ……シュウ、ありがとう」
フレッドの嗚咽の声が聞こえる。
涙に濡れた目や頬をハンカチで拭い取ってあげたいのに、フレッドはぼくを胸にぎゅっと抱きしめているので身動きひとつできない。
「フレッド、顔を見せてよ」
そう頼んだけれど、
「シュウに泣き顔なんて見せたくないんだ……格好悪いだろう。せっかく大好きだっていってくれたのに……」
って。
もう、フレッドったら……。
「ぼくはフレッドのどんな顔も好きなんだよ」
そう言ったけど、フレッドは頑なに拒んで見せた。
でも、絶対いつか泣き顔見てやるんだから!
ぼくは秘かにそう誓った。
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