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第五章 (王城〜帰郷編)
花村 柊 47−1
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昨日の王城散策は楽しかった。
お父さんと過ごした中庭でフレッドとお茶ができたことも、厩舎でジャスパーやチャーリーと遊べたのも本当に良い思い出になった。
それにレオンさんのこと……。
あの時の小さなルイくんがぼくを思い続けてまさかレオンさんとして目の前に現れるなんて思ってもみなかった。
確かにあの時、お嫁さんにしたいって言われたけどキッパリと断ったはずだった。
なのに、まさかレオンさんの姿でもう一度告白されるなんて……。
それでも一度も気持ちは揺らがなかった。
だって、誰が出てきたってフレッド以外に大切な人なんていないもん。
それだけは自信持っていえる。
結局、ぼくたちが唯一だと知ってレオンさんは諦めてくれたわけだけど、ぼくが唯一だと知らせるのを嫌がらずにいればレオンさんがわざわざぼくに告白して辛い思いをすることはなかったのかなと思うと申し訳ない気もする。
唯一って知らせるって本当に大切なことなんだな……。
「シュウ……」
「あ、フレッド。ブライアンさん、なんだって?」
「ああ。今日の午後、アリーチェ王妃がシュウとお茶をしたいそうだ。どうする?」
「えっ? アリーお姉さまと? お茶したいっ!! したいっ!!」
「ふふっ。だと思った。ちゃんとシュウがアリーチェ王妃に会いたがってると伝えておいたよ」
「わぁっ! フレッド、大好きっ!」
嬉しすぎてフレッドに抱きつくと、
「シュウからのご褒美が欲しいんだが」
とにっこりと微笑みながらぼくを見つめてきた。
そう言われてからするのってすごく恥ずかしいんだけど……でも、これはやらなきゃ終わらないやつだ。
ほっぺたじゃダメだよね?
きっと唇がいいって言われそう。
ううっ、でも……。
期待たっぷりにみられると緊張しちゃう。
いや、でも嬉しい時はちゃんと行動に表さないとね!
よし。
「フレッド……じゃあ、目を瞑って」
「こうか?」
フレッドが目を瞑ると綺麗な金色の長いまつ毛がよくわかる。
ああ、綺麗だな。
気づいたら、ぼくはフレッドの綺麗なまつ毛にキスをしていた。
「んっ?」
「あ、ごめん。つい……」
「つい?」
「フレッドのまつ毛が綺麗だなって思ったら、ついキスしたくなっちゃって……」
「シュウ……」
フレッドはぼくの言葉に驚きつつも嬉しそうに笑うと、僕を抱き寄せ、
「私もシュウの綺麗なまつ毛に口づけしたい」
と耳元で囁いてきた。
答えるのが恥ずかしくて、目を瞑ってフレッドを見上げると
「――っ!」
なぜかフレッドは息を詰まらせながら、ぼくのまつ毛にキスをした後、すぐに唇にもキスをしてきた。
「んんっ!」
フレッドからの突然の激しいキスに驚きながらも、嬉しい自分がいる。
だって、ぼくのこと本当に好きなんだなって実感できるから……。
激しいキスにぐったりしかけたところで、ゆっくりとフレッドの唇が離れていく。
「ああっ……」
思わず出した声にフレッドが反応して、今度はぼくの首筋にキスをした。
チクンと痛みを感じたから、きっと紅い花をつけてくれたんだろう。
久しぶりの紅い花に喜びを感じながら、
「フレッド……ぼくもつけたい」
とおねだりすると、フレッドは満面の笑みで
「ああ、頼むよ」
と首を差し出した。
チューっと一生懸命吸い付いたけれど、なかなか難しい。
3回くらいやり直してようやく小さな紅い花がついた。
「やったぁ」
「ふふっ。嬉しいよ」
紅い花を無事に付けることができて喜ぶぼく以上にフレッドの方がなんだか嬉しそうだった。
「今日のお茶会、私も一緒に行きたかったのだが、アリーチェ王妃がシュウと2人で話したいと仰ってるから、私は少し離れたところでレオンと警護してるから。何かあったらすぐに私の名前を呼ぶのだぞ」
「うん、わかった。王妃さまと一緒だから、騎士さんたちも心配だろうしね」
「いや、そうでは……」
「んっ? なに?」
「いや、なんでもない。とにかく、何かあればすぐに大声を出すんだぞ。私は近くでシュウたちを警護しているからな」
フレッドに見守られながら、アリーお姉さまとお茶をするのってなんだか不思議な感じだけど、でもこの時代で初めてお友達になれそうなアリーお姉さまとのお茶会。
ふふっ。楽しみだな。
中庭の東屋で予定していたお茶会だったけれど、急に雨が降り出して急遽アリーお姉様のお部屋に行くことになった。
「シュウさまっ!!」
フレッドに連れられてブライアンさんと一緒にアリーお姉さまのお部屋へ向かうと、ブライアンさんが扉を叩いた瞬間ものすごい勢いで開き、アリーお姉さまの声が聞こえた。
ここは王と王妃の間ではなく、アリーお姉さま専用のお部屋。
隣国から嫁いできたアリーお姉さまが気兼ねなくのんびり過ごせるようにとアレクお兄さまが作ってあげたのだそう。
何度か隣国のお友達が遊びにきた時もここで数時間過ごしたこともあるんだとか。
隣国で有名なバラの香りが部屋中にほんのりと広がっていて、ここだけ違う国みたいだ。
「部屋の外で待機しておりますので、何かありましたらお声かけください」
フレッドがアリーお姉さまにそういうと、にっこりと笑って
「フレデリックさま、シュウさまを危険な目には遭わせませんのでどうぞご安心くださいね」
と言って、ぼくを部屋の中へと連れて行ってくれた。
ピンクや白を基調とした部屋はやはり女の子って感じがして、本当に可愛らしい。
「シュウさま、どうぞこちらにお座りください」
「はい」
柔らかなクッションが置かれたソファーに腰を下ろすと、目の前にいろんなお菓子を並べてくれた。
「わっ、美味しそう」
「ふふっ。でしょう? 今日のために昨日、王都で有名なお菓子をたくさん買ってきてもらったのですよ」
「あ、昨日アリーお姉さまのおすすめのお菓子……えっと『ファーナ』食べました! 紅茶と一緒に食べたらフワッと溶けて無くなって、すっごく美味しかったです」
「わぁ、よかった! あれ、今1番のお気に入りなんですよ。こちらも美味しいのでぜひどうぞ」
そう言って差し出されたのはケーキのスポンジみたいな柔らかい焼き菓子。
「これ、『ラソワ』っていうのだけど、どうかしら?」
「いただきます!」
パクリと口に含むと、ふわりと紅茶の味がした。
「わっ! 美味しいっ!」
「ふふっ。よかったです」
「あ、あの……アリーお姉さま。ぼくには敬語はいらないですよ。アリーお姉さまはこの国の王妃さまだし、それにぼくの方が年下ですし……」
「でも、シュウさまはあのアンドリュー王とトーマ王妃の御子でいらっしゃるのに……」
「関係ありません。ぼくはぼくですから。だって、ぼくたちお友達になるんですよね?」
そういうとアリーお姉さまはにっこりと笑って
「シュウ……くん」
と呼んでくれた。
「はい。そっちの方がいいです」
笑顔で返すと、アリーお姉さまは嬉しそうに笑った。
それからしばらくお菓子を食べながら紅茶を飲み、穏やかな時を過ごしていると
「あの……シュウ、くん……ちょっと聞いてもいいかしら?」
「はい。なんですか?」
「あの……フレデリックさま、だけど……」
「フレッド? が、どうかしましたか?」
アリーお姉さまは何度も言いかけてはやめて、どうやって言おうかと悩んでいるようだった。
「何か言いにくいことですか?」
「あの、私……アレクサンダーさまとは親同士が決めた結婚で……アレクサンダーさまに初めてお会いしたのが、結婚の日だったの」
「えーっ! そうだったんですか!」
「まさか自分がオランディアのような大国の王妃になれるとは思ってもみなかったから、ものすごく緊張してしまって……アレクサンダーさまとお呼びするのが精一杯で……でも、それから呼び名を変えられずに、もう10年近く過ごしてしまったわ。お互いに好き合って結婚したわけではないので、それも仕方ないことだと思っていたけれど、フレデリックさまのことをシュウくんが愛称で呼んでいるのを見ていいなぁと羨ましく思ってしまって……。フレデリックさまとシュウくんは唯一だから当然なのかもしれないけれど……」
「いえ、そんなことないですよ」
「えっ?」
「だって、ぼくがフレッドって呼ぶようになったのは出会ってすぐですから」
ぼくがそういうとアリーお姉さまは目を大きく見開いて驚いていた。
愛称で呼ぶってそれくらいびっくりすることだったのかな?
「えっ? 本当に?」
「はい。フレッドの方からそう呼んでほしいって言われて……そういうものなのかなって思ってたんですけど、そうじゃないんですか?」
「出会ってすぐに自分を愛称で呼ばせるなんて……信じられないわ。でもフレデリックさまはそれくらいシュウくんのことが気になって仕方なかったのね。羨ましいわ……本当に」
「アリーお姉さまも呼んでみたらどうですか?」
「えっ? それって……アレクサンダーさまに?」
「はい。『アレク』って一度呼びかけたらきっとそれが普通になりますよ。そうしたらきっとアレクお兄さまも『アリー』って呼んでくれるはずです」
「でも、いまさら嫌われないかしら?」
「ふふっ。大丈夫ですよ。きっと喜ぶと思います」
「……そうね。シュウくんがそう言ってくれるなら頑張れるかも」
「はい。きっとうまくいきますよ」
ぼくが笑顔を向けると、アリーお姉さまは笑顔で小さく頷いた。
「ねぇ、シュウくん。こんなこと聞いていいのか、わからないんだけど……」
「はい、なんですか? せっかくですから、気になることはなんでも聞いてください」
ぼくがそういうと、アリーお姉さまは少し頬を赤らめながらもゆっくりと口を開いた。
「あのね、シュウくんとフレデリックさまは唯一だと言っていたでしょう?
その……唯一の人の、アレって甘いって……本当なの?」
「ええっ?! な――っ、それ……、えっ?」
アリーお姉さまからの驚きの質問に、一瞬何を聞かれたのかパニックになってしまった。
「あの、変なこと聞いちゃってごめんなさい。でも、私……唯一の人たちって会ったことがなくて……てっきり迷信なのかと思っていたの。だからシュウくんとフレデリックさまが唯一だって聞いて本当にびっくりしてしまって……それでちょっと興味が……」
「あの、唯一って本当にそんなに出会わないものなんですか?」
「ええ! そりゃあ、もうっ! 私がいた国ではもうかなり昔にいたらしいってことくらいしかわからなくて、それも本当なのかどうか……。だからシュウくんとフレデリックさまのお話を聞いて、本当にいるんだって驚いたくらい」
「そうなんだ……」
そんなにすごいことだったんだ。
ぼくたちもそうだし、お父さんたちもそうだったし、だから珍しいとはいえ、頑張って探せば出会えるものだと思ってた。
「あの、参考までにでいいんですけど……アレクお兄さまの、その……ソレはどんな味がするんですか? 美味しい、ですか?」
「えっ? そ、そうね……あの、苦……い、かな。青臭い不思議な匂いもするし……、うーん、美味しくは、ないかも……」
アリーお姉さまは顔を真っ赤にしながらも丁寧に教えてくれた。
美味しくないんだ……。
すごい、なんか不思議だ。
というか、唯一でなくても普通に蜜って飲むものなのかな?
どうだろう?
「あの……それでも、アリーお姉さまは……その、飲む、んですか……?」
「えっ? それは、もちろん! だって……アレクサンダー、いえ……アレクさまのものですから」
そっか、そうだよね。
ぼくだって、もしフレッドが唯一じゃなくても、苦くて美味しくなくても、きっとフレッドのなら飲んだと思う。
「ふふっ。アリーお姉さま。アレクお兄さまが大好きなんですね」
「ええ。だって、アレクさま……初めてお会いした時からすごく優しくて……あんまり言葉にはしてくれないけど、ふとした時に愛してるって言ってくださるの。アレクさまがいてくださるから、私……オランディアで王妃として頑張れてると思う」
アリーお姉さまの言葉がすこく心に響く。
ぼくだってフレッドがいてくれるから、愛されてるって自信があるから、この異世界で、フレッドのそばで頑張りたいって思ったんだ。
愛している人のためだったら、やっぱりなんでもできるものなんだよね。
「美味しくないけど、好きな人のものなら飲めるってすごいですね。アリーお姉さまを尊敬します」
「ふふっ。そう?」
「ええ。だって、フレッドのはすごく甘いですよ。飲んだら癖になっちゃって、いつでも飲みたくなっちゃうくらい。フレッドはぼくの蜜の方が甘くて美味しいっていうけど、やっぱり自分のより相手の方が美味しく感じるかな」
「甘い……。へぇ、そうなんだ……不思議」
「ぼくにとっては美味しくない方が不思議ですよ」
「そっか、そうね。ふふっ」
お父さん以外の人と、こんな赤裸々な話をすることになるなんて思いもしなかった。
しかも相手は女性だなんて……。
でも、アリーお姉さまって話しやすくていいかも。
本当に良いお友達になれそうだな。
「フレデリックさまはよく紅い花をつけてくださるの?」
「えっ? なんでわかったんですか?」
「だって、首筋に見えてる。この部屋に入ってきた時からすごく目立ってたから、きっとフレデリックさま……私に牽制したんだろうなって」
「牽制?」
「そう、シュウくんは自分のものだからなって。ふふっ。そんなに心配してもらえるなんてシュウくん羨ましい」
「でも、きっと今頃アレクお兄さまも心配されてるかも」
「そうかしら? そうだといいのだけれど」
愛してるって言ってくれるのも時々だって言ってたしな。
アレクお兄さまは恥ずかしがり屋さんなのかな……。
アンドリューさまもお父さんによく言ってたけどな……。
フレッドは毎日のように言ってくれるのに……やっぱり兄弟でも違うものなんだな。
お父さんと過ごした中庭でフレッドとお茶ができたことも、厩舎でジャスパーやチャーリーと遊べたのも本当に良い思い出になった。
それにレオンさんのこと……。
あの時の小さなルイくんがぼくを思い続けてまさかレオンさんとして目の前に現れるなんて思ってもみなかった。
確かにあの時、お嫁さんにしたいって言われたけどキッパリと断ったはずだった。
なのに、まさかレオンさんの姿でもう一度告白されるなんて……。
それでも一度も気持ちは揺らがなかった。
だって、誰が出てきたってフレッド以外に大切な人なんていないもん。
それだけは自信持っていえる。
結局、ぼくたちが唯一だと知ってレオンさんは諦めてくれたわけだけど、ぼくが唯一だと知らせるのを嫌がらずにいればレオンさんがわざわざぼくに告白して辛い思いをすることはなかったのかなと思うと申し訳ない気もする。
唯一って知らせるって本当に大切なことなんだな……。
「シュウ……」
「あ、フレッド。ブライアンさん、なんだって?」
「ああ。今日の午後、アリーチェ王妃がシュウとお茶をしたいそうだ。どうする?」
「えっ? アリーお姉さまと? お茶したいっ!! したいっ!!」
「ふふっ。だと思った。ちゃんとシュウがアリーチェ王妃に会いたがってると伝えておいたよ」
「わぁっ! フレッド、大好きっ!」
嬉しすぎてフレッドに抱きつくと、
「シュウからのご褒美が欲しいんだが」
とにっこりと微笑みながらぼくを見つめてきた。
そう言われてからするのってすごく恥ずかしいんだけど……でも、これはやらなきゃ終わらないやつだ。
ほっぺたじゃダメだよね?
きっと唇がいいって言われそう。
ううっ、でも……。
期待たっぷりにみられると緊張しちゃう。
いや、でも嬉しい時はちゃんと行動に表さないとね!
よし。
「フレッド……じゃあ、目を瞑って」
「こうか?」
フレッドが目を瞑ると綺麗な金色の長いまつ毛がよくわかる。
ああ、綺麗だな。
気づいたら、ぼくはフレッドの綺麗なまつ毛にキスをしていた。
「んっ?」
「あ、ごめん。つい……」
「つい?」
「フレッドのまつ毛が綺麗だなって思ったら、ついキスしたくなっちゃって……」
「シュウ……」
フレッドはぼくの言葉に驚きつつも嬉しそうに笑うと、僕を抱き寄せ、
「私もシュウの綺麗なまつ毛に口づけしたい」
と耳元で囁いてきた。
答えるのが恥ずかしくて、目を瞑ってフレッドを見上げると
「――っ!」
なぜかフレッドは息を詰まらせながら、ぼくのまつ毛にキスをした後、すぐに唇にもキスをしてきた。
「んんっ!」
フレッドからの突然の激しいキスに驚きながらも、嬉しい自分がいる。
だって、ぼくのこと本当に好きなんだなって実感できるから……。
激しいキスにぐったりしかけたところで、ゆっくりとフレッドの唇が離れていく。
「ああっ……」
思わず出した声にフレッドが反応して、今度はぼくの首筋にキスをした。
チクンと痛みを感じたから、きっと紅い花をつけてくれたんだろう。
久しぶりの紅い花に喜びを感じながら、
「フレッド……ぼくもつけたい」
とおねだりすると、フレッドは満面の笑みで
「ああ、頼むよ」
と首を差し出した。
チューっと一生懸命吸い付いたけれど、なかなか難しい。
3回くらいやり直してようやく小さな紅い花がついた。
「やったぁ」
「ふふっ。嬉しいよ」
紅い花を無事に付けることができて喜ぶぼく以上にフレッドの方がなんだか嬉しそうだった。
「今日のお茶会、私も一緒に行きたかったのだが、アリーチェ王妃がシュウと2人で話したいと仰ってるから、私は少し離れたところでレオンと警護してるから。何かあったらすぐに私の名前を呼ぶのだぞ」
「うん、わかった。王妃さまと一緒だから、騎士さんたちも心配だろうしね」
「いや、そうでは……」
「んっ? なに?」
「いや、なんでもない。とにかく、何かあればすぐに大声を出すんだぞ。私は近くでシュウたちを警護しているからな」
フレッドに見守られながら、アリーお姉さまとお茶をするのってなんだか不思議な感じだけど、でもこの時代で初めてお友達になれそうなアリーお姉さまとのお茶会。
ふふっ。楽しみだな。
中庭の東屋で予定していたお茶会だったけれど、急に雨が降り出して急遽アリーお姉様のお部屋に行くことになった。
「シュウさまっ!!」
フレッドに連れられてブライアンさんと一緒にアリーお姉さまのお部屋へ向かうと、ブライアンさんが扉を叩いた瞬間ものすごい勢いで開き、アリーお姉さまの声が聞こえた。
ここは王と王妃の間ではなく、アリーお姉さま専用のお部屋。
隣国から嫁いできたアリーお姉さまが気兼ねなくのんびり過ごせるようにとアレクお兄さまが作ってあげたのだそう。
何度か隣国のお友達が遊びにきた時もここで数時間過ごしたこともあるんだとか。
隣国で有名なバラの香りが部屋中にほんのりと広がっていて、ここだけ違う国みたいだ。
「部屋の外で待機しておりますので、何かありましたらお声かけください」
フレッドがアリーお姉さまにそういうと、にっこりと笑って
「フレデリックさま、シュウさまを危険な目には遭わせませんのでどうぞご安心くださいね」
と言って、ぼくを部屋の中へと連れて行ってくれた。
ピンクや白を基調とした部屋はやはり女の子って感じがして、本当に可愛らしい。
「シュウさま、どうぞこちらにお座りください」
「はい」
柔らかなクッションが置かれたソファーに腰を下ろすと、目の前にいろんなお菓子を並べてくれた。
「わっ、美味しそう」
「ふふっ。でしょう? 今日のために昨日、王都で有名なお菓子をたくさん買ってきてもらったのですよ」
「あ、昨日アリーお姉さまのおすすめのお菓子……えっと『ファーナ』食べました! 紅茶と一緒に食べたらフワッと溶けて無くなって、すっごく美味しかったです」
「わぁ、よかった! あれ、今1番のお気に入りなんですよ。こちらも美味しいのでぜひどうぞ」
そう言って差し出されたのはケーキのスポンジみたいな柔らかい焼き菓子。
「これ、『ラソワ』っていうのだけど、どうかしら?」
「いただきます!」
パクリと口に含むと、ふわりと紅茶の味がした。
「わっ! 美味しいっ!」
「ふふっ。よかったです」
「あ、あの……アリーお姉さま。ぼくには敬語はいらないですよ。アリーお姉さまはこの国の王妃さまだし、それにぼくの方が年下ですし……」
「でも、シュウさまはあのアンドリュー王とトーマ王妃の御子でいらっしゃるのに……」
「関係ありません。ぼくはぼくですから。だって、ぼくたちお友達になるんですよね?」
そういうとアリーお姉さまはにっこりと笑って
「シュウ……くん」
と呼んでくれた。
「はい。そっちの方がいいです」
笑顔で返すと、アリーお姉さまは嬉しそうに笑った。
それからしばらくお菓子を食べながら紅茶を飲み、穏やかな時を過ごしていると
「あの……シュウ、くん……ちょっと聞いてもいいかしら?」
「はい。なんですか?」
「あの……フレデリックさま、だけど……」
「フレッド? が、どうかしましたか?」
アリーお姉さまは何度も言いかけてはやめて、どうやって言おうかと悩んでいるようだった。
「何か言いにくいことですか?」
「あの、私……アレクサンダーさまとは親同士が決めた結婚で……アレクサンダーさまに初めてお会いしたのが、結婚の日だったの」
「えーっ! そうだったんですか!」
「まさか自分がオランディアのような大国の王妃になれるとは思ってもみなかったから、ものすごく緊張してしまって……アレクサンダーさまとお呼びするのが精一杯で……でも、それから呼び名を変えられずに、もう10年近く過ごしてしまったわ。お互いに好き合って結婚したわけではないので、それも仕方ないことだと思っていたけれど、フレデリックさまのことをシュウくんが愛称で呼んでいるのを見ていいなぁと羨ましく思ってしまって……。フレデリックさまとシュウくんは唯一だから当然なのかもしれないけれど……」
「いえ、そんなことないですよ」
「えっ?」
「だって、ぼくがフレッドって呼ぶようになったのは出会ってすぐですから」
ぼくがそういうとアリーお姉さまは目を大きく見開いて驚いていた。
愛称で呼ぶってそれくらいびっくりすることだったのかな?
「えっ? 本当に?」
「はい。フレッドの方からそう呼んでほしいって言われて……そういうものなのかなって思ってたんですけど、そうじゃないんですか?」
「出会ってすぐに自分を愛称で呼ばせるなんて……信じられないわ。でもフレデリックさまはそれくらいシュウくんのことが気になって仕方なかったのね。羨ましいわ……本当に」
「アリーお姉さまも呼んでみたらどうですか?」
「えっ? それって……アレクサンダーさまに?」
「はい。『アレク』って一度呼びかけたらきっとそれが普通になりますよ。そうしたらきっとアレクお兄さまも『アリー』って呼んでくれるはずです」
「でも、いまさら嫌われないかしら?」
「ふふっ。大丈夫ですよ。きっと喜ぶと思います」
「……そうね。シュウくんがそう言ってくれるなら頑張れるかも」
「はい。きっとうまくいきますよ」
ぼくが笑顔を向けると、アリーお姉さまは笑顔で小さく頷いた。
「ねぇ、シュウくん。こんなこと聞いていいのか、わからないんだけど……」
「はい、なんですか? せっかくですから、気になることはなんでも聞いてください」
ぼくがそういうと、アリーお姉さまは少し頬を赤らめながらもゆっくりと口を開いた。
「あのね、シュウくんとフレデリックさまは唯一だと言っていたでしょう?
その……唯一の人の、アレって甘いって……本当なの?」
「ええっ?! な――っ、それ……、えっ?」
アリーお姉さまからの驚きの質問に、一瞬何を聞かれたのかパニックになってしまった。
「あの、変なこと聞いちゃってごめんなさい。でも、私……唯一の人たちって会ったことがなくて……てっきり迷信なのかと思っていたの。だからシュウくんとフレデリックさまが唯一だって聞いて本当にびっくりしてしまって……それでちょっと興味が……」
「あの、唯一って本当にそんなに出会わないものなんですか?」
「ええ! そりゃあ、もうっ! 私がいた国ではもうかなり昔にいたらしいってことくらいしかわからなくて、それも本当なのかどうか……。だからシュウくんとフレデリックさまのお話を聞いて、本当にいるんだって驚いたくらい」
「そうなんだ……」
そんなにすごいことだったんだ。
ぼくたちもそうだし、お父さんたちもそうだったし、だから珍しいとはいえ、頑張って探せば出会えるものだと思ってた。
「あの、参考までにでいいんですけど……アレクお兄さまの、その……ソレはどんな味がするんですか? 美味しい、ですか?」
「えっ? そ、そうね……あの、苦……い、かな。青臭い不思議な匂いもするし……、うーん、美味しくは、ないかも……」
アリーお姉さまは顔を真っ赤にしながらも丁寧に教えてくれた。
美味しくないんだ……。
すごい、なんか不思議だ。
というか、唯一でなくても普通に蜜って飲むものなのかな?
どうだろう?
「あの……それでも、アリーお姉さまは……その、飲む、んですか……?」
「えっ? それは、もちろん! だって……アレクサンダー、いえ……アレクさまのものですから」
そっか、そうだよね。
ぼくだって、もしフレッドが唯一じゃなくても、苦くて美味しくなくても、きっとフレッドのなら飲んだと思う。
「ふふっ。アリーお姉さま。アレクお兄さまが大好きなんですね」
「ええ。だって、アレクさま……初めてお会いした時からすごく優しくて……あんまり言葉にはしてくれないけど、ふとした時に愛してるって言ってくださるの。アレクさまがいてくださるから、私……オランディアで王妃として頑張れてると思う」
アリーお姉さまの言葉がすこく心に響く。
ぼくだってフレッドがいてくれるから、愛されてるって自信があるから、この異世界で、フレッドのそばで頑張りたいって思ったんだ。
愛している人のためだったら、やっぱりなんでもできるものなんだよね。
「美味しくないけど、好きな人のものなら飲めるってすごいですね。アリーお姉さまを尊敬します」
「ふふっ。そう?」
「ええ。だって、フレッドのはすごく甘いですよ。飲んだら癖になっちゃって、いつでも飲みたくなっちゃうくらい。フレッドはぼくの蜜の方が甘くて美味しいっていうけど、やっぱり自分のより相手の方が美味しく感じるかな」
「甘い……。へぇ、そうなんだ……不思議」
「ぼくにとっては美味しくない方が不思議ですよ」
「そっか、そうね。ふふっ」
お父さん以外の人と、こんな赤裸々な話をすることになるなんて思いもしなかった。
しかも相手は女性だなんて……。
でも、アリーお姉さまって話しやすくていいかも。
本当に良いお友達になれそうだな。
「フレデリックさまはよく紅い花をつけてくださるの?」
「えっ? なんでわかったんですか?」
「だって、首筋に見えてる。この部屋に入ってきた時からすごく目立ってたから、きっとフレデリックさま……私に牽制したんだろうなって」
「牽制?」
「そう、シュウくんは自分のものだからなって。ふふっ。そんなに心配してもらえるなんてシュウくん羨ましい」
「でも、きっと今頃アレクお兄さまも心配されてるかも」
「そうかしら? そうだといいのだけれど」
愛してるって言ってくれるのも時々だって言ってたしな。
アレクお兄さまは恥ずかしがり屋さんなのかな……。
アンドリューさまもお父さんによく言ってたけどな……。
フレッドは毎日のように言ってくれるのに……やっぱり兄弟でも違うものなんだな。
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選び直すまでの物語。
*本編完結しました
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
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