有能な調査員は健気で不憫なかわい子ちゃんを甘やかしたい!

波木真帆

文字の大きさ
4 / 45

退院前日

しおりを挟む
若干加筆修正しています。

  *   *   *


よし、これで言質はとった。退院までにじわじわ距離を詰めておくとするか。

まず手始めに田淵くんを転院させることにした。そうでもないとなかなか融通が効かない。ユウさんに相談して、国生先生が懇意にしている病院を紹介してもらうことにした。

自分が保護者で身元引受人となったおかげでスムーズにことが進められる。この病院は特別室の患者に限り、いつでも面会することができたため、田淵くんを特別室に入院させた。

部屋を移った田淵くんはあまりにも豪華な部屋に恐縮していたけれど、今はここしか空いていないから他の部屋に空きができたら移動すると伝えるとホッとしていた。でも、移動させるつもりはない。ここで退院の日まで過ごしてもらうのはもう決定済みだ。まぁ、そこまで正直に伝える必要もない。

ここの病院はリハビリも充実していて、足を骨折した田淵くんにはいい環境だろう。

栄養状態がすこぶる悪い田淵くんには病院食も豪華だ。お見舞いで持参するおやつも問題ないとお墨付きを得ているから、入院期間中にたっぷりと餌付けをしておくとするか。

「田淵くん」

「あっ、河北さん!」

「リハビリは終わった?」

「はい。今日も頑張りました」

「そうか、ご褒美持ってきたよ」

「わぁ! ありがとうございます!」

俺が来るのを楽しみにしてくれているのか、ご褒美のスイーツを楽しみにしてくれているのかはわからないが、目をキラキラと輝かせて迎え入れてくれる姿を見るだけで幸せだ。今は俺の存在を田淵くんに植え付けることが重要だからな。

今日のデザートは昔懐かしいプリンアラモード。少し硬めのプリンに濃いカラメルとホイップクリーム。そして色とりどりのフルーツが載っている。

「美味しそう!!」

嬉しそうにプリンとホイップを掬い、口に入れると

「んっ! 美味しい!!」

と顔中で喜びを表してくれる。それだけで癒されるというものだ。

プリンを半分ほど食べたところで、リハビリの進捗状況を尋ねてみた。

「あの、リハビリに担当の人がいるんですけど、今日からもう一人ついてくれることになったんです」

「へぇ、そうなのか。どんな人?」

田淵くんに関わる人間はしっかりと調査しておかないとな。田淵くんに邪な気持ちを持たれては困る。

「僕と同じ大学生で理学療法士になるために勉強している人なんです。研修期間が僕の入院期間と同じみたいでついてくれることになったんんですけど、ものすごく勉強していて担当の先生もすごく驚いてました」

「そうか、そんなに真剣に取り組んでくれる人がついてくれたなら安心だな」

「僕より年下なのに本当にすごいです。僕なんて大学に入るのに三浪しちゃったのに、入院までしちゃったからみんなからかなり遅れをとりそうで……」

「田淵くん……そんなことを気にしていたのか?」

「でも、僕……このままだと後期も今までのような成績を残せるかわからないし、そうなったら奨学金も打ち切りになってしまうかも……。僕、奨学金がなくなったら今までのように大学には通えなくなっちゃいます」

「それなら気にしないでいい」

「えっ? 気にしないでいいって、どういうことですか?」

「大学の庶務課に話をつけてきたよ。次の試験の成績は奨学金には影響されないようにしてもらった。単位の取得条件に関して出席必須の授業もオンラインでカバーできるように調整してもらえることになったよ。だから怪我の治り具合で大学に通えなくても家で勉強できるから問題ないよ。田淵くんがオンラインで授業が受けられるように準備も整えているから」」

「――っ、本当ですか!?」

「ああ。だから安心して、今はリハビリに専念して元気になることだけを考えたらいい」

俺の言葉に田淵くんは大粒の涙を流した。きっと今まで本当に大変だったんだろう。



それからの田淵くんは今までよりもさらにリハビリに精を出し、もうすぐ退院を迎える頃には支えもなく歩けるようになっていた。まだ激しい動きや走ったりするのは心配な面はあるが、日常生活にはほぼ支障はないだろうという判断をしてもらえた。もちろん退院後も週に二度ほどリハビリに通う必要はあるが、これでようやく俺の家で一緒に過ごせるようになる。

ああ、この日をどれだけ待ち侘びたことか……。

「あの、河北さん……。明日の僕の最後のリハビリに一緒に行ってもらえませんか?」

「えっ? 見に行ってもいいのか?」

「はい。一緒にリハビリを頑張ってくれた担当さんたちを紹介したいんです」

「わかった。じゃあ、明日リハビリの時間前に来るよ」

田淵くんと約束をして翌日。俺は意気揚々と田淵くんの部屋に向かい、一緒にリハビリルームに向かった。無理をしないようにリハビリルームまでは車椅子を押しながら向かうと、部屋に入った途端一人の青年が駆け寄ってきた。

彼が、実習生か……。調査通り、なんの問題もなさそうだ。

実習生のことを田淵くんに聞いてすぐに調査をしたところ、彼が桜守大学だったことに驚いた。と同時に彼なら安心だとすぐに理解した。きっと国生先生が手を回して、田淵くんの担当にするように口添えしてくれたのかもしれない。

「伊月くん! 今日でリハビリも一旦終了だよ! 本当によく頑張ったね!!」

「ありがとう。尚孝くん。本当に尚孝くんと山野辺やまのべ先生のおかげだよ。退院してもちゃんとリハビリには通うからね」

「うん! 頑張って! じゃあ、今日のリハビリ始めようか」

「あ、うん。その前に尚孝くん。僕にすごく良くしてくれている人を紹介するね。河北さんだよ」

「わぁ、この人が噂の……」

「噂?」

「あ、なんでもないんです。あの、彼が実習の間、僕の手伝いをしてくれた谷垣さんです」

「そうか、君が……。世話になったね。ありがとう」

「いえ、伊月くんがすごく頑張ってくれたのでお手伝いができて嬉しかったです。伊月くんのおかげで、これから先理学療法士になってたくさんの人を助けたいって強く思えるようになりました」

「君の将来の一歩になったのならよかった。今日のリハビリで君とは最後になるだろうが、田淵くんはこれからもリハビリを続けていくから安心してくれ」

「はい。河北さんが伊月くんのそばにいてくださったら安心ですね。じゃあ、伊月くん。リハビリしようか」

田淵くんが嬉しそうに彼といつもの場所に向かうのを見ていると少し嫉妬してしまうが、彼のおかげでリハビリが上手く進んだのだろう。ここは大人らしくどんと構えておくか。

とりあえず家に連れ帰ったら、田淵くんから名前呼びに変えよう。彼の方が先に伊月くんと呼んでいたのはショックだが、桜守出身者だから仕方ないか。俺は伊月と呼ばせてもらうようにしよう。そこだけは譲れないな。


  *   *   *

というわけで尚孝と伊月が面識があることになってますが、この時から六年ほど後のお話の
『歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています』の結婚式のシーンで二人が顔を合わせていますが、二人がその点について何も話していません。その理由は尚孝が主人公の
『ウブで真面目な理学療法士の初恋のお相手はセレブなイケメン敏腕秘書でした』のお話の中で明らかになりますのでどうぞお楽しみに♡
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...