健気な美少年は大富豪に愛される

波木真帆

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番外編

イギリス観光  2

しばらくして赤い制服の近衛兵たちが現れ、厳かに交代の儀式が始まる。
私の隣でマモルは目を輝かせながら、衛兵たちの足並みの揃った行進に見入っていた。

こんなにも楽しんでもらえるのは嬉しいが、目を輝かせている先が私ではない男だということにはいささか嫉妬してしまう。このような嫉妬など本当はしてはならないのだろうが、そっとナルセとアキラに目を向ければ、彼らも目を輝かせている伴侶の隣でなんとなく面白くなさそうな顔をしているのがわかる。

私たちは同類なのだと思わず笑みが溢れた。
その視線にナルセが気づき、少し照れた表情を見せていたのが印象的だった。
やはりナルセは愛しい人を前にした時だけは人間に戻るようだ。
なんとも面白い。

やがて、行進は楽隊の演奏と変わり、先ほどの厳かな雰囲気から一変、明るい曲調に張り詰めていた空気が一気に和やかな雰囲気に変わった。
衛兵たちが漆黒の美しい毛並みをした馬を颯爽と乗りこなす騎馬隊も現れ、観客たちの興奮は一気にピークを迎えた。

四十五分ほどあった交代劇は長いかと思っていたが、マモルたちの素直な反応を楽しんでいるとあっという間に感じられた。いささか嫉妬はしてしまったが、ここに連れてきてよかったと思える。

『マモル、どうだった?』

『すっごくかっこよくて楽しかったです! この目で見られて嬉しい!』

マモルの口からかっこいいという言葉が私以外に出てきたことについてはやはり嫉妬してしまうが私は大人だ。ここは我慢だ。

『そうか、よかった。では次は宮殿の中を見学しに行こうか』

『えっ? 中に入れるんですか?』

『もちろんだよ。グランヴィエ家の私がついているのだ。このイギリスで私にできないことは何もないよ』

はっきりと断言すると、マモルだけでなくマコトとアロンまでもが目を丸くして私をみた。

『どうかしたか?』

『あ、いえ。セオドアがかっこいいなって思って……』

マモルの言葉に賛同するように、マコトとアロンも大きく頷く。
その横でナルセとアキラは少しショックを受けているようだが、ここはイギリス。
私に花を持たせてもらおうか。

『ははっ。マモルにかっこいいと言われるのは嬉しいよ。さぁ、人が増える前に行こうか』

私たちが立ち上がると、周りで観光客のふりをして守ってくれているSPたちも一緒に立ち上がる。
彼らもそれぞれ少し距離を保ちながら私たちの観光についてくる。

その場を離れて宮殿の入り口に向かおうとしていると、何やら人だかりができていることに気づいた。
馬に乗った衛兵と、その少し離れた場所に立ちポーズをとる人の姿が見える。

ああ、あれは観光客のためのサービスか。

せっかくならマモルたちも撮らせてやったほうがいいか。

『マモル、あそこで馬に乗った衛兵と写真が撮れるようだがいってみるか?』

『わぁ! 撮りたいです!!』

私が声をかけると、ナルセとアキラも愛しい姫たちに声をかけたようで、嬉しそうな声が聞こえた。

SPたちも一緒にその撮影場所に向かうと数人の観光客たちはすでに自分の順番を待っているようだ。
けれどマモルもマコトも並ぶことにはあまり抵抗がないようだ。
アロンは二人に倣うように一緒に並んでいた。

しばらく待ってようやく我々の順番が来た。

まずはアロンと明が撮影エリアに立って衛兵たちと写真を撮る。
その間、衛兵に話しかけることはもちろん、馬に勝手に触れることも禁止とされている。
アロンと明はその約束をしっかりと守り、穏やかな馬に乗った衛兵と写真を無事に写真を撮ることができた。

そして次にマコトとナルセが撮影エリアに向かう。
写真撮影の前に、マコトが衛兵に向かって『よろしくお願いします』と挨拶をしてから撮影エリアに立つと、その態度に機嫌を良くしたのが馬に伝わったのか、馬が一歩前に出て、先ほどよりも少し近い場所で写真を撮ることができていた。

そのことに気づき、マコトがお礼を言うと、馬は嬉しそうにブルブルと鼻を鳴らしていた。
衛兵を乗せる馬たちは決して感情を表さないように訓練されているが、よほどマコトを気に入ったらしい。

最後は私たちだ。私がマモルを連れて撮影エリアに向かうと、マモルもマコトと同じく
『よろしくお願いします』と声をかけた。すると、馬のほうがスッとマモルに向かって顔を突き出してくる。
衛兵も突然の馬の行動を抑えようとしているが、馬はマモルに顔をすり寄せるのをやめようとしないどころか、嬉しそうにどんどん距離を詰めてくる。

結局マモルのすぐ隣で馬と写真を撮るという、珍しい現象が起きた。
その光景にギャラリーも沸いていたが、マモルは馬に笑顔で御礼をいい静かにその場を離れた。

私たちの次の番の者たちにはいつも通り身動きひとつしなかったから、よほどマモルとマコトが気に入られたと言うことなのだろう。

もしかしたら、二人には馬を魅了する何か理由があるのかもしれない。
そんなことを思わされた出来事だった。
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