溺愛弁護士の裏の顔 〜僕はあなたを信じます

波木真帆

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番外編

優秀な彼 <後編>

「優一、久しぶりだな」

声をかけると、いつものポーカーフェイスで「ご無沙汰しています」と硬い挨拶を返してきたが、その目の奥には喜びが溢れていた。
もちろん、私に会ったことを喜んでいるのではない。
優一の喜びは今、腕に抱いている彼の存在だろう。

「お前がこんなに大切そうに抱きかかえてくるとは……よほど大事な人だと見える」

少し揶揄い気味に声をかけたが、表情を変えたのは優一ではなく、腕の中の宝物のほうだった。
顔を赤らめて「下ります」と優一に声をかけるが、聞く耳を持っていない。
それどころか、気にすることはないと言い切る始末。

私の想像以上にこの子は優一にとって大事な存在なのだろう。

優一のその姿が見られただけでも会えてよかったと言うものだ。
本当に長生きはするものだな。

「君、諦めた方がいい。優一はこうと決めたら頑固だからな。さぁ、中に入りなさい」

笑って優一を擁護し中に入れる。
優一は満足そうに宝物を腕に抱いたまま入ってきた。

優一から幸せオーラが滲み出ている。こんな姿を見ることも初めてだな。

いろいろと聞きたいことはあるが、まずは診察だ。
ソファに座らせるように指示を出す。
優一は静かに彼をソファに座らせたが、自分は彼から離れようという意識は全くないらしい。
彼の後ろにピッタリとくっついて座り、ほんの少しの時間も離れたくないようだ。

「もう少し離れてもいいんだが……まぁいい」

優一に執着という感情があったのかと驚く気持ちと少しの呆れも感じつつ、診察を始めた。

彼の腕には男の手で思いっきり掴んだと思しき痕がはっきりと残っていた。
幸い筋までは傷つけられなかったようだが、これはしばらく動かすのも不便だろう。
このほか、いくつか打撲箇所もあり、他に痛いところを聞けば、彼は申し訳なさそうに足首に痛みがあると教えてくれた。

優一には内緒にしていたのだろうが、優一が気づかないわけがない。

少し庇っているように見えたと言って、彼の足首にそっと触れる。
その優しい触れ方に、優一の彼への想いの強さを私は感じたのだが、彼は少し黙ってしまった。
その不安げな表情に私も気になってしまうくらいだから、優一は余計に気になっているだろう。

「真琴くん? 大丈夫? まだ他に痛いところがある?」

心配そうに声をかけるが、彼は何もないと答える。
彼が今、何を考えているのかわからないが、とりあえず診察を終わらせるほうが先だろう。

すると、優一は彼の靴下を脱がせ始めた。

優一の行動に私は驚きを隠せなかったが、表情には出さずに抑えた。
きっと彼がさらに不安になるだろうと思ったから。

だがそれにしても優一が、なぁ……
愛しい人ができると誰しも今までとは変わるものだが、あの優一をここまで変えるとは……
いやはや、想像以上だな。

彼の足首は少し腫れていたが、安静にしたらすぐに治るだろう。
だが無理をしそうな子だから少し長めに「二、三日は無理しないように」と告げると、素直に受け入れつつも、何か心配なことがあるようだった。

聞けば明日から優一の事務所で働くことになっていたようだ。
そうか、もう囲い込みに入っていたか。
さすがだな。

そう思っていたが、さらなる言葉が私を驚愕させた。

「怪我が治るまではうちに泊まってもらうからね」

その言葉に真琴くん自身も驚いていたが、それ以上に私は驚いていた。

優一が自分のテリトリーに他人を入れる。
それがどれほど信じられないことなのか、私が一番よくわかっている。

真琴くんは泊まりまでは考えていなかったのか断ろうとしていたが、優一の言葉のうまさにあっという間に負けて陥落しそうになっていた。
すかさず私は優一に加担して声をかけた。

「真琴くん、と言ったね? 優一のいうことを聞いた方がいい。もしかしたら今夜は熱が出るかもしれない。ひとりは危険だよ」

二人がかりで言われてようやく納得したようで、彼は優一の世話になることを決めたようだ。
優一はそっと私に視線を向け、お礼を言うように表情を和らげた。

優一のこんな表情を見られたなんて……
帰ったらすぐに教えてやろう。

真琴くんの手当てを優一に任せて私は隣の部屋に診断書を書きにいった。
扉を開けておいたから二人の会話が聞こえてくる。

どうやら真琴くんには医師免許を持っていることは言っていなかったようだ。
すごいと褒める真琴くんの言葉には全く裏がない。

医者としても働けると教えた上で、優一は真琴くんに質問を投げかけた。

「真琴くんは医者の私の方が好き?」

さて、彼はなんと返すだろうな。
これで彼の本質が見える。そして、優一への思いも……

楽しくなってきて、耳を澄ませていると、彼の可愛い声が聞こえた。

「僕、弁護士さんとかお医者さんとか関係なく好きですよ」

「えっ? それって……」

好きだと言われて優一が動揺している。
こんな声は珍しい。

「だって、どちらも人を助ける大切なお仕事ですもんね。優一さんにぴったりです」

「……ああっ、そうか。そういう意味ね……」

続けられた彼の言葉に、優一ががっかりと肩を落としている様子が容易に想像できる。
あの優一が一筋縄ではいかない子に出会うとはな……
なんとも面白い。

「流石の優一も真琴くんには敵わないようだな」

笑いながら部屋に戻ると、少し照れた様子の優一がこちらを向く。
それも初めて見る顔だ。

診断書を渡し、今度は診察ではない用件で会いにきてくれと伝えた。
すなわち、私の大事な人に会わせると言うことだ。

優一がふっと笑顔を見せる。
出会ってから十五年以上経っているが、ここまで柔らかな表情を見せてくれたのは初めてだな。
でもこれから真琴くんといる時の優一はこれが普通になってくるのだろう。

「またいつでも遊びに来てくれ。優一がいない時でもいいぞ。君なら大歓迎でもてなすから」

私が真琴くんに笑顔を向けると、そそくさと彼を抱きかかえて帰っていった。
優一に嫉妬される日が来るとはな……

今日は、いい酒が飲めそうだ。

早く帰って今の優一の話をたっぷりとしてあげよう。
私の帰りを待ってくれている、愛しい人に。

初々しい二人を見て私も昔を思い出し、急いで愛しい人のもとに帰った。
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