イケメン王子は運命のサクラと恋に落ちました

波木真帆

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私のそばにいてください

「僕……先週、両親を事故で亡くしたんです」

「――っ、それは……お辛かったですね」

「兄弟もいなくて、祖父母や親戚もいない僕は、たった一人になりました。それでも悲しみに沈む暇もなく、お葬式や、いろんな手続きに忙殺されて……何もかもが終わって、ようやく一息吐いた時、家には僕一人の空間が広がっていて……急に寂しさが溢れてきて……どうしていいかわからなくなってしまったんです……」

「サクラ殿っ!」

声を震わせ、必死に話を続ける彼の姿に我慢しきれず、私は急いで彼の隣に舞い戻った。
そして、震える身体をそっと抱きしめた。

「あなたの辛い記憶を聞いてしまって申し訳ありません。お辛いならもうこれ以上無理しなくてもいいのですよ」

「い、いいえ。いいんです。僕……ずっと、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれません。辛くても、悲しくても、誰にも言えずにずっと心の中に押し留めていたので……クラウスのように、気持ちを聞いてくれた人は初めてでしたから」

「サクラ殿……」

「家族で過ごした家があまりにもしんと静まり返っていて、明るく楽しかったはずの場所が、恐怖さえ感じるようになってしまって……気持ちを落ち着けようと、家を出たんです。目的地は近所の公園。そこは桜の時期になるといつも家族で出掛けていた思い出の場所でした。満開にはまだまだ早く、開花間もない木にはいくつか花が咲いているだけだったけれど、少し気が楽になったような気がしました。見ると誰かにされたのか、桜の枝が一本折れていたことに気づいたんです」

「サクラの枝が……っ」

我が国でそのようなことがあれば、とんでもない事態だ。

「はい。見ているだけで居た堪れなくて、持っていたハンカチでその折れた枝を結んだんです。応急処置というほどでもないですけど、少しでも元気になればいいと思って……そうしたら、急にその桜が光り出して……意識を失ったような気がします。その後、気がついたら……」

「ここにいたというわけなのですね。やはりあなたはサクラがここに連れてきたのでしょう」

「あの……あの場所にあった桜は元から?」

「いいえ。遥か昔、我がスリズィエ王国が貧しい国だった頃、天から麗人が降りてきて、あのサクラの木を授けてくださったと伝えられております。あのサクラの木と共に、我が国は豊かな国になりました。ですから、我が国にとってあのサクラは何よりも大切な、いわば御神木と言える存在なのです。そして、そのサクラの木の世話をするのは代々、次期国王となる者とされ、最重要事項として受け継がれてきました。今、あのサクラの木に近づくことができるのは、この国では私だけです。決して足を踏み入れてはならない場所に、あなたは連れてこられた。それはあなたがサクラに認められたという証です」

「そんな……っ、僕……大したことはしていないのに……」

「いいえ。あなたはあのサクラの木の分身を守ったのです。ですから、これからもここでサクラを守ってほしいとサクラ自身があなたを必要としてこちらに呼んだのだと思います。サクラ殿……どうか、この国でこのまま私と共に、あのサクラの木を守ってくださいませんか?」

「でも……そんな大役……っ」

「ですが、元の世界に帰る術はございません。それにもし帰ったとしても、お一人で寂しい環境に戻ってしまうのでしょう?」

元の世界に帰る術はない。
それは事実だ。
今までにサクラ殿のようにサクラに引き寄せられ、やってきた人などいないのだから。

だからこそ、サクラ殿は特別な存在なのだ。
そんな彼をたった一人の場所になんか帰したくない。
たとえ、元の世界に戻る方法を知っていたとしてもみすみす彼を不幸にする場所には戻したくないんだ。

辛い思いをさせると思いながらも真実を淡々と告げるしかなかった。

「――っ、確かに、そうです……。でも、突然僕がこの世界で暮らしても良いのでしょうか?」

彼は申し訳なさそうに言うが、良いに決まってる。
だって、私がそばにいて欲しいのだから。
彼を納得させるのはもう思いを告げるしかないのかもしれない。

本当はもっとサクラ殿に私という人間を知ってもらってからにしたかったのだが……仕方がない。

「もちろんです。あのサクラがサクラ殿を呼んだのですから。でも、それだけではありません。あのサクラの下であなたを初めて見た時に心が震えました。私の伴侶はサクラ殿、あなたしかいないと感じたのです」

「えっ? それって……」

「サクラ殿……どうか、お願いです。一生幸せにします。ですから、私の伴侶として、そしてこのスリズィエ王国の王妃として、私のそばにいてくれませんか?」

「王妃……? いやいや、ちょっと待ってくださいっ!! 僕は、男ですよ! 子どもも産めないのに、王妃になんてなれるわけが……」

もしかして、彼がいたのは男だと子どもが産めない世界?
だが、拒む理由が子どものことだけだというのなら、私を嫌いではないということだ。

焦る彼とは対照的に、私の中には喜びが広がっていた。

「男でも問題はありません」

「えっ? でも……跡継ぎはどうするんですか? あのサクラを守るのが代々受け継がれてきた最重要事項なんですよね? それを止めてしまってもいいのですか?」

「止めることにはなりませんよ。大丈夫です」

「それって……もしかして、側室とか……? 他の方に子どもを産んでいただくのですか? そんなの……っ」

まさか側室をご存知だとは思わなかった。
遥か昔には我が国にも側室を持っていたことがあるようだが、サクラの木を授けられてからはその文化は廃れた。
おそらくだが、サクラを授けてくださった麗人もきっと、サクラ殿のように側室に子どもを産ませることが許せないお方だったのだろう。

だからだろうか、それ以降次期国王となるものに子が生まれなかったことは一度もない。
そして、生まれてくる子は必ず男子であり、跡継ぎとなっていた。

だから、きっとサクラ殿にも子が生まれるはずだ。

誤解をしているであろうサクラ殿にきちんと話をしなければな。

「サクラ殿……よくお聞きください。この国に側室など一人もおりません」

「えっ……じゃあ、」

「そして、この世界では男女どちらでも身籠ることは可能です」

「――っ、そんな……本当、ですか?」

「ええ。ですから、跡継ぎの問題は何もありません。サクラ殿……サクラ殿のご心配は男だから子を産めないということでしたよね? そのご心配がなくなった今、もう一度私の気持ちを伝えさせてください。この国でこのまま私と共に、あのサクラの木を守り、私の伴侶として、そしてこのスリズィエ王国の王妃として、私のそばにいてくれませんか?」

今までの人生でこれほどまでに欲しいと願ったことは一度もなかった。
サクラ殿を手に入れられるのなら、これから先何を失ってもいい。

だから、どうか……受け入れてほしい。

サクラ殿に断られたらもう生きている価値など見出せない気がする。

ああ。
差し出した手が震える。

どうか、この手を握ってはくれないか?

サクラ殿の反応を見るのが怖くて、いつの間にか目を瞑ってしまっていた。
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