ウブな子猫はゲイアプリで出会った理想の男性に愛されたくてたまらない!

波木真帆

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<閑話> 恋に落ちる瞬間 <後編>

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「僕……両親から、実家の工場存続のために結婚するように言われて……でも、僕……。その、男性が好きだから……結婚させられる前に、どうしても……経験、しておきたくて……それで、アプリを使って『タク』さんと知り合ったんです」

真壁の話と合致するな。
あとは彼が被疑者から金を要求されたかどうかだが……

「今日はその人と会うつもりだったんだね」

「はい。処女を、もらって欲しいってお願いしたら、二十万で……って言われたんですけど、どうしてもそんなには出せなくて、それで十万円にしてもらって、それを持って約束の場所に行ったんです。そうしたら……」

「そこに『タク』の姿はなく、代わりに警察が来た、というわけですね」

「はい。その通りです。あの、僕……捕まったりしますか?」

彼の手が震えている。
無理もないな。

彼にははっきりと捕まる可能性はないことを伝えた上で、これからは金銭が絡んだ性行為を行わないように注意した。
『タク』は彼の顔を知らなかったから、いつものように詐欺行為を働いたのだろうが、もし、彼が自分の写真を送っていたら、『タク』は金の話は一切せずにすぐに彼を呼び出していただろう。

なんせ、彼は人の目を惹く容姿をしている。
あの駅で誰よりも目立っていたくらいだ。
もし彼がその辺で相手を探せば大金を支払ってでも相手になりたいという男はごまんといる。
彼がそこに気づく前に保護されてよかった。

だが、ここから一人で帰せばすぐに狼どもが群がってくるだろう。
寝不足で頭も働かないだろうし、保護者なしでは帰すのは危なすぎる。

真壁と少し話したほうがいいだろうな。

今日の計画が全てなくなってしまって意気消沈している彼を部屋に残し、私は真壁がいる隣の部屋に向かった。

「お疲れ。さすが成瀬だな。話を引き出すのが上手い」

「いや、彼があまりにも危うすぎて心配になる」

「成瀬ならそんな言葉が出るとは……驚きだな」

そんなからかいの言葉を流しつつ、私は誰か彼を預かってくれる保護者がいないかを真壁に尋ねた。

「あの様子だと両親のもとに帰すのは無理だ。誰かいないか?」

マジックミラー越しにそんな問いかけをしていると、一人になった部屋で彼がカバンの中を探り何かを取り出したのが見える。

「真壁。彼が持っているものが見たい」

そう告げると真壁が何やらタブレットを操作する。
すると彼の手元がアップになった画像が現れた。

「これ……」

彼が持っている紙に描かれたイラストには見覚えのある人が描かれていた。

「沖野、か?」

どうやら同じことを真壁も思ったようだ。

「似てるな。あの子と知り合いなのか?」

「わからん。大学生に知り合いがいるとは聞いてないが……とりあえず沖野を呼び出そう。ちょうど今日は会う約束をしていたんだ。ドタキャンしたから家に帰っているはずだ」

「とりあえず、沖野にはこの話はせずに預かって欲しい子がいるとだけ言って来てもらえ」

私の意図をすぐに理解した真壁はすぐに頷き、スマホを取り出した。

「そうだな。わかった。連絡をしてみるよ」

真壁が連絡をかけたのを見て、私は彼がいる部屋に戻った。

そっと扉を開けるとまだあのイラストを見つめている。
静かに近づいて声をかけようとした時、

「いつか出会えるかもしれないなんて夢見てたのにな……」

と彼の声が聞こえてきた。

いつか出会える? 今のはどういう意味だろう?

気になりつつ声をかけると、私の存在に全く気づいていなかったらしい彼が驚いて持っていたイラストを落としてしまった。
彼は慌てて拾い集めるが、私の目にはさっきよりもはっきりとイラストが見えていた。

やはり……あれは、沖野。
知り合いなのか?
でもさっきの言葉は……

どうにも気になってさりげなく問いかけると彼は真っ赤な顔で教えてくれた。

あ、あの……僕がふざけて描いていた似顔絵です。いたらいいなって願望を描いただけで……その実際にいる人じゃないです」

彼の理想の人物を描き上げたら、それが沖野だったということか。
こんな偶然があるのか?
だが、偶然ではなく運命だとしたら……?

私が真琴に出会ったように、安慶名が悠真さんと出会ったように、彼と沖野が出会う運命にあるのかもしれない。

沖野を呼び出してよかったのかもしれない。

そうしてすぐにやってきた沖野と、彼を引き合わせると、沖野は言葉も出せないほど驚いたまま動かなかった。
あれは私が真琴の姿を初めて大学で見かけた時と同じ。

これから沖野の人生は大きく変わるだろう。

ハッと我に返った沖野が彼に甲斐甲斐しく話しかけ、荷物を持ち部屋から出ていくのを見守った。

「成瀬。どうなってるんだ? あの子と沖野は知り合いではなかったようだが、沖野の様子がまるで違う」

真壁は何が何だかわからないと言った表情で問いかけてきた。

「運命に出会った……そういうことだよ」

それだけ告げると、真壁は「あいつも……そうか」と少し寂しそうな声を上げた。

「そんなにしょげるな。お前にもいつか出会いは来るよ」

そう言って慰めたが、真壁にその出会いが訪れたのはそれから数年後のことだった。
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