9 / 23
お礼が言いたい
しおりを挟む
まさか、こんなにも早くアゴスティーノ家の名前を国王さまから聞くことができるなんてジーノは思いもしなかった。
「ア、アゴスティーノ家、ですか?」
必死に冷静を装いながら聞き返してみると、国王さまはジーノに優しい笑顔を向けながら教えてくださった。
「ああ。昨夜、アゴスティーノ家から薬の献上品が届いたのだよ。それがユーリに今朝飲ませた、どんな病でもたちどころに治してしまうというジーアレス王国の秘薬だ。本来はアゴスティーノ家の嫡男が、病気を患った婚約者のために手に入れた秘薬だったが、この薬が届く前に残念ながら天に召されてしまったそうでな……そのまま誰も飲まずに秘薬を無駄にしてしまうよりは、ユーリに役立ててほしいとアゴスティーノ公爵からユーリに届けられたのだよ。おかげでユーリが元気になった。本当に素晴らしい薬を届けてくれたものだ。なぁ、ユーリ」
「は、はい……」
(ヴァルが僕のために探してくれたんだ。ずっと僕を助け出せる医師を探すと言ってくれていたもんね。あのジーアレス王国の秘薬まで手に入れるなんて……どれほど僕に尽力してくれていたかわかる。ヴァル……その気持ちだけで僕は嬉しいよ)
もし、ジーノがその秘薬を飲むことができていたら事態は変わっていたのだろうか? いや、このユーリさまの身体が元気なのは、ジーノと入れ替わる代わりに神さまが健康体に戻してくださったおかげだ。きっとその秘薬の力じゃない。でも、このつながりがあるのなら、もしかしたらヴァルと早々に出会えるかもしれない。ジーノの心の中にそんな期待が膨らんでいた。
「あの、僕……薬を探してくださったヴァ……アゴスティーノ家の嫡男さんに、直接お礼が言いたいです」
思わずヴァルといいかけて慌てて言い直したけれど、国王さまはそのことよりも直接お礼が言いたいと言った言葉の方に驚いたようだった。
「えっ? ユーリが? アゴスティーノ侯爵ではなく、ヴァルフレードに? 直接?」
目を丸くする国王さまの様子を見て、もしかしたらユーリさまはそんなタイプではなかったのかもしれないと思ったが、なんせジーノには時間がない。ヴァルの体調も考えれば、少しでも早くヴァルと繋がりを持たなければいけない。
「はい。その方が見つけてくださった薬のおかげでこんなにも元気になれたんですから、お礼が言いたいです」
「だが、お前が直接ヴァルフレードに会うというのは……」
「だめ、ですか……?」
「くっ――!!」
ユーリさまの綺麗で可愛らしい顔で国王さまを見つめてみる。これはジーノが父やヴァルに何かお願いしたい時にする癖のようなものだ。こうすると何故か父もヴァルも苦しげにしながらも了承してくれる。それをユーリさまの姿でもやってみただけなのだが、国王さまも父やヴァルと同様に苦しげな表情を見せながらも、
「わ、わかった……。では、アゴスティーノ家に連絡をしてヴァルフレードに来るように伝えるとしよう」
とジーノの願いを聞き入れてくださった。どうやらこのお願いの癖はユーリさまでも有効なようだ。
「わぁっ! 嬉しいっ! 国王さま! ありがとうございます!」
ヴァルに会える。その喜びが溢れてしまい、ジーノは自分がユーリさまになったことも忘れて、目の前の国王さまにお礼を言いながら抱きついてしまった。
「ユ、ユーリ! ど、どうしたんだ? 私のことはいつもお父さまと呼んでくれていただろう?」
「えっ? あっ! えっと……体調がよくなったのが嬉しくて、その……お父さまが国王さまでよかったなって……そう! だから、お父さまのおかげです。お父さま、大好き!」
「――っ、そ、そうか。ユーリに好きと言ってもらえるのは私も嬉しいよ。本当に元気になってよかった」
国王さまはまだ少し困惑している様子ではあったが、ジーノを大きな身体で優しく抱きしめてくれた。
「本当によかった……」
ジーノの頬に温かいものが落ちる。見れば、国王さまの目から涙が溢れている。ユーリさまにお父さまと呼ばせるほど愛情を込めてお育てになっていたのだろう。病気に苦しんでいたユーリさまのお顔は拝見したことはないが、一目見て顔色がいいことに気づくくらいだ。いつもユーリさまの体調を気遣っていたのだろう。
「お父さま……」
国王さまの、ユーリさまへの想いが伝わってきて、ジーノは思わず国王さまの頬を流れる涙を指で拭った。
「僕は、もう大丈夫ですよ……」
「ユーリっ!! お前は、本当に優しい子だ」
そのまましばらく国王さまに抱きしめられていたが、薄着だったからかコンコンと乾いた咳をしてしまった。するとすぐに国王さまがパッとジーノから離れ、不安げに表情を見つめる。
「ユーリ、ベッドに戻ろう。せっかく頬に赤みが差していたというのに、少し顔色が悪くなってきた。身体を冷やしてしまっては熱を出してしまう」
「は、はい」
国王さまをこれ以上心配させたくなくて急いでベッドに戻ろうとしたけれど、ジーノが歩くよりも早くふわりと身体が浮いた。
「えっ? あ、お、父さま……」
「私がベッドまで連れて行こう。薬が効いたとはいえ、ずっと寝たきりだったのだ。急に動き出すのは危ない」
「は、はい」
国王さまがジーノを抱きかかえているなんてこれまでの人生なら絶対にあり得ない出来事にジーノは驚きつつも、そっと国王さまの首に腕を回した。
――首に手を回してくれた方が安定するんだ。だからジーノはいつでも私に抱きついてくれ。
ヴァルがそう言ってくれたことを思い出したからだ。国王さまはジーノが首に手を回した瞬間、穏やかな笑顔を浮かべて、
「ああ、それでいい」
と嬉しそうに仰った。
「ア、アゴスティーノ家、ですか?」
必死に冷静を装いながら聞き返してみると、国王さまはジーノに優しい笑顔を向けながら教えてくださった。
「ああ。昨夜、アゴスティーノ家から薬の献上品が届いたのだよ。それがユーリに今朝飲ませた、どんな病でもたちどころに治してしまうというジーアレス王国の秘薬だ。本来はアゴスティーノ家の嫡男が、病気を患った婚約者のために手に入れた秘薬だったが、この薬が届く前に残念ながら天に召されてしまったそうでな……そのまま誰も飲まずに秘薬を無駄にしてしまうよりは、ユーリに役立ててほしいとアゴスティーノ公爵からユーリに届けられたのだよ。おかげでユーリが元気になった。本当に素晴らしい薬を届けてくれたものだ。なぁ、ユーリ」
「は、はい……」
(ヴァルが僕のために探してくれたんだ。ずっと僕を助け出せる医師を探すと言ってくれていたもんね。あのジーアレス王国の秘薬まで手に入れるなんて……どれほど僕に尽力してくれていたかわかる。ヴァル……その気持ちだけで僕は嬉しいよ)
もし、ジーノがその秘薬を飲むことができていたら事態は変わっていたのだろうか? いや、このユーリさまの身体が元気なのは、ジーノと入れ替わる代わりに神さまが健康体に戻してくださったおかげだ。きっとその秘薬の力じゃない。でも、このつながりがあるのなら、もしかしたらヴァルと早々に出会えるかもしれない。ジーノの心の中にそんな期待が膨らんでいた。
「あの、僕……薬を探してくださったヴァ……アゴスティーノ家の嫡男さんに、直接お礼が言いたいです」
思わずヴァルといいかけて慌てて言い直したけれど、国王さまはそのことよりも直接お礼が言いたいと言った言葉の方に驚いたようだった。
「えっ? ユーリが? アゴスティーノ侯爵ではなく、ヴァルフレードに? 直接?」
目を丸くする国王さまの様子を見て、もしかしたらユーリさまはそんなタイプではなかったのかもしれないと思ったが、なんせジーノには時間がない。ヴァルの体調も考えれば、少しでも早くヴァルと繋がりを持たなければいけない。
「はい。その方が見つけてくださった薬のおかげでこんなにも元気になれたんですから、お礼が言いたいです」
「だが、お前が直接ヴァルフレードに会うというのは……」
「だめ、ですか……?」
「くっ――!!」
ユーリさまの綺麗で可愛らしい顔で国王さまを見つめてみる。これはジーノが父やヴァルに何かお願いしたい時にする癖のようなものだ。こうすると何故か父もヴァルも苦しげにしながらも了承してくれる。それをユーリさまの姿でもやってみただけなのだが、国王さまも父やヴァルと同様に苦しげな表情を見せながらも、
「わ、わかった……。では、アゴスティーノ家に連絡をしてヴァルフレードに来るように伝えるとしよう」
とジーノの願いを聞き入れてくださった。どうやらこのお願いの癖はユーリさまでも有効なようだ。
「わぁっ! 嬉しいっ! 国王さま! ありがとうございます!」
ヴァルに会える。その喜びが溢れてしまい、ジーノは自分がユーリさまになったことも忘れて、目の前の国王さまにお礼を言いながら抱きついてしまった。
「ユ、ユーリ! ど、どうしたんだ? 私のことはいつもお父さまと呼んでくれていただろう?」
「えっ? あっ! えっと……体調がよくなったのが嬉しくて、その……お父さまが国王さまでよかったなって……そう! だから、お父さまのおかげです。お父さま、大好き!」
「――っ、そ、そうか。ユーリに好きと言ってもらえるのは私も嬉しいよ。本当に元気になってよかった」
国王さまはまだ少し困惑している様子ではあったが、ジーノを大きな身体で優しく抱きしめてくれた。
「本当によかった……」
ジーノの頬に温かいものが落ちる。見れば、国王さまの目から涙が溢れている。ユーリさまにお父さまと呼ばせるほど愛情を込めてお育てになっていたのだろう。病気に苦しんでいたユーリさまのお顔は拝見したことはないが、一目見て顔色がいいことに気づくくらいだ。いつもユーリさまの体調を気遣っていたのだろう。
「お父さま……」
国王さまの、ユーリさまへの想いが伝わってきて、ジーノは思わず国王さまの頬を流れる涙を指で拭った。
「僕は、もう大丈夫ですよ……」
「ユーリっ!! お前は、本当に優しい子だ」
そのまましばらく国王さまに抱きしめられていたが、薄着だったからかコンコンと乾いた咳をしてしまった。するとすぐに国王さまがパッとジーノから離れ、不安げに表情を見つめる。
「ユーリ、ベッドに戻ろう。せっかく頬に赤みが差していたというのに、少し顔色が悪くなってきた。身体を冷やしてしまっては熱を出してしまう」
「は、はい」
国王さまをこれ以上心配させたくなくて急いでベッドに戻ろうとしたけれど、ジーノが歩くよりも早くふわりと身体が浮いた。
「えっ? あ、お、父さま……」
「私がベッドまで連れて行こう。薬が効いたとはいえ、ずっと寝たきりだったのだ。急に動き出すのは危ない」
「は、はい」
国王さまがジーノを抱きかかえているなんてこれまでの人生なら絶対にあり得ない出来事にジーノは驚きつつも、そっと国王さまの首に腕を回した。
――首に手を回してくれた方が安定するんだ。だからジーノはいつでも私に抱きついてくれ。
ヴァルがそう言ってくれたことを思い出したからだ。国王さまはジーノが首に手を回した瞬間、穏やかな笑顔を浮かべて、
「ああ、それでいい」
と嬉しそうに仰った。
414
あなたにおすすめの小説
冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている
春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」
王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。
冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、
なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。
誰に対しても一切の温情を見せないその男が、
唯一リクにだけは、優しく微笑む――
その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。
孤児の少年が踏み入れたのは、
権謀術数渦巻く宰相の世界と、
その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。
これは、孤独なふたりが出会い、
やがて世界を変えていく、
静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
見知らぬ君に触れられない
mahiro
BL
今から5年前、組織を抜けた人物がいた。
通常であればすぐにでも探し出すはずなのに、今回は即刻捜査は打ち切られた。
それが何故なのか、それを知ろうとすることすら禁じられた。
それから5年の歳月が経った。
表向きには何事もないように見える日常の中で、俺は見つけてしまった。
5年前には見ることの出来なかった明るく笑うやつの顔を。
新しい仲間に囲まれ、見たことのない明るい服装を見にまとい、常に隠されていた肌が惜しげもなく外に出されていた。
何故組織を抜けたのだと問い質したい所だが、ボスからは探すな、見つけても関わるなと指示されていた。
だから、俺は見なかったことにしてその場を去ること しか出来なかった。
あれから俺のいる部屋にいつもなら顔を出さない部下が訊ねてきて………?
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
神楽
立樹
BL
谷川彰也は、大学でも美形で人の注目を集めている近松神楽にモーニングコールをしている。
ただ、モーニングコールをするだけの仲だった。ある日、コールをしていることがバレてしまった。
彰也も近松に言っていない秘密があって……。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる