ジーノの秘密の恋 〜もう一度愛してると聞かせて……

波木真帆

文字の大きさ
8 / 23

ユーリさまとして……

しおりを挟む
「んっ……」

気がつくとジーノはベッドに横たわっていた。一瞬自分の寝室だと思ったけれど、天井を見上げれば豪華な天蓋が付いていて明らかに違う。あの柔らかな素材はきっとシルクだろう。それが少し揺らめいているのに気づいてそちらに目を向ければベッドのすぐ横にある大きな窓がほんの少し開いていてカーテンがそよそよと靡いているのが見えた。寝室なのに、明るかったのはこれのせいか。でも、まだ夜ではないことに少しジーノはホッとしていた。

外を見たいと思って身体を起こしてみたけれど、ジーノからは天蓋の柔らかな生地の向こうに真っ青な空しか見えない。ジーノの部屋の窓からはいつだって青々とした大きな木が見えていたはずなのに、ここは空の方が近く見える。

(僕は、本当にユーリさまと代わったみたいだな)

自分の部屋のベッドも好きだったけれど、柔らかすぎず硬すぎず、それでいて包み込まれるような寝心地のこのベッドは王族が使うに相応しい。きっとベッドで過ごすことが多かったユーリさまが少しでも心地よく過ごすことができるように整えられたに違いない。

ジーノが十人でも寝られそうなかなり広いベッドの上を四つん這いで進み、天蓋を開いて少し緊張しながらベッドから下りた。久しぶりに足の裏に地面の感触を得られてなんとも不思議な気分だ。立った状態から床までの距離に違和感を感じないから、きっとジーノとユーリさまはあまり身長が変わらないのだろう。

とりあえず鏡だ。なんせ、ジーノはユーリさまの顔を知らないのだから。ユーリさまと代わったとはいえ、まだまだ自分の部屋になったという実感もなく、他人の部屋の中を勝手に彷徨いているような気持ちを拭えないまま、洗面所を探した。

ユーリさまが床に臥せってあまり動けなかったとはいえ、王族の部屋の中に洗面所がないわけがない。いや、逆に動けないからこそすぐ近くにあるはずだ。キョロキョロと辺りを見回して、部屋の隅に扉を見つけた。そっと扉を開くとやはりそこが洗面所のようだ。奥にはバスルームもあるらしい。ドキドキしながら洗面所の電気をつけ、中に入って鏡に目を向けた。

「――っ!! うそっ!! こ、れが……ユーリ、さま……?」

目の前の鏡に映る姿に、ジーノは目を疑った。

顎のあたりで整えられた、指の間をサラサラと流れる金色の髪はまるでシルクのように滑らかで、形の整った綺麗な眉に大きな目には淡いブルーの瞳がまるで宝石のように輝き、スーッと通った綺麗な鼻筋は絵画のように美しく、小さいけれど形の良い唇は艶めいていて、誰もが触れてしまいたいほどの衝動に駆られるだろう。

綺麗な母と逞しい父の元に生まれたジーノも決して不細工ではなく、綺麗な母に似て可愛らしいと言われることも多かったけれど、ユーリさまと比べるとため息しか出ない。それほどまでにユーリさまは美しく可愛らしかった。

自分の手のひらで顔に触れると、鏡の中のユーリさまも顔に触れている。やっぱりこの顔がこれからジーノが生きていく顔なのだとわかる。けれど、あまりにも美しく可愛らしい顔に自分でもドキドキしてしまう。

(もしかして、神さまはこの美しいユーリさまを失うのが嫌で、僕にあんな提案を持ちかけてきたのだろうか?)

そんな勘ぐりまでしてしまうほどユーリさまは美しい。けれど、せっかくユーリさまと代わることができたのだ。驚いている暇はない。このままでいればジーノには一年という短い時間しか与えられていないのだから。

(でも、どうしたらヴァルと知り合えるだろう?)

悩んでいる間にも、ヴァルの体調はどんどん悪くなっていくかもしれない。早く接触しなければ、下界に戻ってきた意味すらなくなってしまう。

なんとかしてヴァルとユーリさまが出会えるようにしなければ。けれど、やり方を間違えてしまったら、全ては水の泡になってしまう。それだけは絶対に避けなければいけない。

「ヴァルと出会う方法、か……難しいな」

鏡に映る、まだ慣れない自分に向かって独言ていると、

「ユーリ? ユーリはどこだ?!」

と世界が終わりを迎えそうなほどの焦った声がジーノのいる洗面所にまで聞こえてきた。

(しまった! ユーリさまがベッドにいないことが誰かに気づかれてしまったみたいだ)

「は、はい! ここです、ここにいます!」

僕はここにいますといいかけて、僕なのか私なのか、それともユーリと名前で呼ぶべきなのかわからず、とりあえずここにいることだけを告げると、バタバタと駆け寄ってくる音が聞こえて、その場に立ち尽くすしかなかった。

「ユーリ! 一人で歩き回ったりして大丈夫なのか? 今朝は随分と体調が悪そうだっただろう?」

「――っ!! こっ!」

目の前で心配そうにジーノを見つめる人が国王さまであることに気づき吃驚した。つい、国王さまと呼びかけようとして必死に止めたのはいいが、どうしていいかわからない。なんせジーノは国王さまとこんなにも近くで話をしたことがないのだから。

「あ、あの……だ、大丈夫です」

「そうか、それならいいが……んっ?」

(まさか、ユーリさまでないことに気づかれた? どうしよう……)

まじまじと顔を見つめられ緊張感でいっぱいになる。どこかがいつもと違ったのかもしれない。けれど、ここでジーノが目を逸らしてしまったら余計に怪しまれるだろう。身体中が震えてしまいそうになるのを必死に抑えて国王さまを見つめた。

「な、何か、ありましたか?」

「いや、ここ数年見たことがないほど顔色がいいなと思ったのだ。本当に大丈夫なのだな」

「えっ、あっ、は、はい。あの、急に体調が良くなって……」

「そうか! きっと今朝飲んだ薬が合っていたのだな。あの薬を紹介してくれたアゴスティーノ家に早速褒美をとらすとしよう」

「えっ……」

突然ヴァルの家の名前が出てきてジーノは驚きを隠せなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている

春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」 王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。 冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、 なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。 誰に対しても一切の温情を見せないその男が、 唯一リクにだけは、優しく微笑む―― その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。 孤児の少年が踏み入れたのは、 権謀術数渦巻く宰相の世界と、 その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。 これは、孤独なふたりが出会い、 やがて世界を変えていく、 静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

見知らぬ君に触れられない

mahiro
BL
今から5年前、組織を抜けた人物がいた。 通常であればすぐにでも探し出すはずなのに、今回は即刻捜査は打ち切られた。 それが何故なのか、それを知ろうとすることすら禁じられた。 それから5年の歳月が経った。 表向きには何事もないように見える日常の中で、俺は見つけてしまった。 5年前には見ることの出来なかった明るく笑うやつの顔を。 新しい仲間に囲まれ、見たことのない明るい服装を見にまとい、常に隠されていた肌が惜しげもなく外に出されていた。 何故組織を抜けたのだと問い質したい所だが、ボスからは探すな、見つけても関わるなと指示されていた。 だから、俺は見なかったことにしてその場を去ること しか出来なかった。 あれから俺のいる部屋にいつもなら顔を出さない部下が訊ねてきて………?

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

神楽

立樹
BL
谷川彰也は、大学でも美形で人の注目を集めている近松神楽にモーニングコールをしている。 ただ、モーニングコールをするだけの仲だった。ある日、コールをしていることがバレてしまった。 彰也も近松に言っていない秘密があって……。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...