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ユーリさまとして……
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「んっ……」
気がつくとジーノはベッドに横たわっていた。一瞬自分の寝室だと思ったけれど、天井を見上げれば豪華な天蓋が付いていて明らかに違う。あの柔らかな素材はきっとシルクだろう。それが少し揺らめいているのに気づいてそちらに目を向ければベッドのすぐ横にある大きな窓がほんの少し開いていてカーテンがそよそよと靡いているのが見えた。寝室なのに、明るかったのはこれのせいか。でも、まだ夜ではないことに少しジーノはホッとしていた。
外を見たいと思って身体を起こしてみたけれど、ジーノからは天蓋の柔らかな生地の向こうに真っ青な空しか見えない。ジーノの部屋の窓からはいつだって青々とした大きな木が見えていたはずなのに、ここは空の方が近く見える。
(僕は、本当にユーリさまと代わったみたいだな)
自分の部屋のベッドも好きだったけれど、柔らかすぎず硬すぎず、それでいて包み込まれるような寝心地のこのベッドは王族が使うに相応しい。きっとベッドで過ごすことが多かったユーリさまが少しでも心地よく過ごすことができるように整えられたに違いない。
ジーノが十人でも寝られそうなかなり広いベッドの上を四つん這いで進み、天蓋を開いて少し緊張しながらベッドから下りた。久しぶりに足の裏に地面の感触を得られてなんとも不思議な気分だ。立った状態から床までの距離に違和感を感じないから、きっとジーノとユーリさまはあまり身長が変わらないのだろう。
とりあえず鏡だ。なんせ、ジーノはユーリさまの顔を知らないのだから。ユーリさまと代わったとはいえ、まだまだ自分の部屋になったという実感もなく、他人の部屋の中を勝手に彷徨いているような気持ちを拭えないまま、洗面所を探した。
ユーリさまが床に臥せってあまり動けなかったとはいえ、王族の部屋の中に洗面所がないわけがない。いや、逆に動けないからこそすぐ近くにあるはずだ。キョロキョロと辺りを見回して、部屋の隅に扉を見つけた。そっと扉を開くとやはりそこが洗面所のようだ。奥にはバスルームもあるらしい。ドキドキしながら洗面所の電気をつけ、中に入って鏡に目を向けた。
「――っ!! うそっ!! こ、れが……ユーリ、さま……?」
目の前の鏡に映る姿に、ジーノは目を疑った。
顎のあたりで整えられた、指の間をサラサラと流れる金色の髪はまるでシルクのように滑らかで、形の整った綺麗な眉に大きな目には淡いブルーの瞳がまるで宝石のように輝き、スーッと通った綺麗な鼻筋は絵画のように美しく、小さいけれど形の良い唇は艶めいていて、誰もが触れてしまいたいほどの衝動に駆られるだろう。
綺麗な母と逞しい父の元に生まれたジーノも決して不細工ではなく、綺麗な母に似て可愛らしいと言われることも多かったけれど、ユーリさまと比べるとため息しか出ない。それほどまでにユーリさまは美しく可愛らしかった。
自分の手のひらで顔に触れると、鏡の中のユーリさまも顔に触れている。やっぱりこの顔がこれからジーノが生きていく顔なのだとわかる。けれど、あまりにも美しく可愛らしい顔に自分でもドキドキしてしまう。
(もしかして、神さまはこの美しいユーリさまを失うのが嫌で、僕にあんな提案を持ちかけてきたのだろうか?)
そんな勘ぐりまでしてしまうほどユーリさまは美しい。けれど、せっかくユーリさまと代わることができたのだ。驚いている暇はない。このままでいればジーノには一年という短い時間しか与えられていないのだから。
(でも、どうしたらヴァルと知り合えるだろう?)
悩んでいる間にも、ヴァルの体調はどんどん悪くなっていくかもしれない。早く接触しなければ、下界に戻ってきた意味すらなくなってしまう。
なんとかしてヴァルとユーリさまが出会えるようにしなければ。けれど、やり方を間違えてしまったら、全ては水の泡になってしまう。それだけは絶対に避けなければいけない。
「ヴァルと出会う方法、か……難しいな」
鏡に映る、まだ慣れない自分に向かって独言ていると、
「ユーリ? ユーリはどこだ?!」
と世界が終わりを迎えそうなほどの焦った声がジーノのいる洗面所にまで聞こえてきた。
(しまった! ユーリさまがベッドにいないことが誰かに気づかれてしまったみたいだ)
「は、はい! ここです、ここにいます!」
僕はここにいますといいかけて、僕なのか私なのか、それともユーリと名前で呼ぶべきなのかわからず、とりあえずここにいることだけを告げると、バタバタと駆け寄ってくる音が聞こえて、その場に立ち尽くすしかなかった。
「ユーリ! 一人で歩き回ったりして大丈夫なのか? 今朝は随分と体調が悪そうだっただろう?」
「――っ!! こっ!」
目の前で心配そうにジーノを見つめる人が国王さまであることに気づき吃驚した。つい、国王さまと呼びかけようとして必死に止めたのはいいが、どうしていいかわからない。なんせジーノは国王さまとこんなにも近くで話をしたことがないのだから。
「あ、あの……だ、大丈夫です」
「そうか、それならいいが……んっ?」
(まさか、ユーリさまでないことに気づかれた? どうしよう……)
まじまじと顔を見つめられ緊張感でいっぱいになる。どこかがいつもと違ったのかもしれない。けれど、ここでジーノが目を逸らしてしまったら余計に怪しまれるだろう。身体中が震えてしまいそうになるのを必死に抑えて国王さまを見つめた。
「な、何か、ありましたか?」
「いや、ここ数年見たことがないほど顔色がいいなと思ったのだ。本当に大丈夫なのだな」
「えっ、あっ、は、はい。あの、急に体調が良くなって……」
「そうか! きっと今朝飲んだ薬が合っていたのだな。あの薬を紹介してくれたアゴスティーノ家に早速褒美をとらすとしよう」
「えっ……」
突然ヴァルの家の名前が出てきてジーノは驚きを隠せなかった。
気がつくとジーノはベッドに横たわっていた。一瞬自分の寝室だと思ったけれど、天井を見上げれば豪華な天蓋が付いていて明らかに違う。あの柔らかな素材はきっとシルクだろう。それが少し揺らめいているのに気づいてそちらに目を向ければベッドのすぐ横にある大きな窓がほんの少し開いていてカーテンがそよそよと靡いているのが見えた。寝室なのに、明るかったのはこれのせいか。でも、まだ夜ではないことに少しジーノはホッとしていた。
外を見たいと思って身体を起こしてみたけれど、ジーノからは天蓋の柔らかな生地の向こうに真っ青な空しか見えない。ジーノの部屋の窓からはいつだって青々とした大きな木が見えていたはずなのに、ここは空の方が近く見える。
(僕は、本当にユーリさまと代わったみたいだな)
自分の部屋のベッドも好きだったけれど、柔らかすぎず硬すぎず、それでいて包み込まれるような寝心地のこのベッドは王族が使うに相応しい。きっとベッドで過ごすことが多かったユーリさまが少しでも心地よく過ごすことができるように整えられたに違いない。
ジーノが十人でも寝られそうなかなり広いベッドの上を四つん這いで進み、天蓋を開いて少し緊張しながらベッドから下りた。久しぶりに足の裏に地面の感触を得られてなんとも不思議な気分だ。立った状態から床までの距離に違和感を感じないから、きっとジーノとユーリさまはあまり身長が変わらないのだろう。
とりあえず鏡だ。なんせ、ジーノはユーリさまの顔を知らないのだから。ユーリさまと代わったとはいえ、まだまだ自分の部屋になったという実感もなく、他人の部屋の中を勝手に彷徨いているような気持ちを拭えないまま、洗面所を探した。
ユーリさまが床に臥せってあまり動けなかったとはいえ、王族の部屋の中に洗面所がないわけがない。いや、逆に動けないからこそすぐ近くにあるはずだ。キョロキョロと辺りを見回して、部屋の隅に扉を見つけた。そっと扉を開くとやはりそこが洗面所のようだ。奥にはバスルームもあるらしい。ドキドキしながら洗面所の電気をつけ、中に入って鏡に目を向けた。
「――っ!! うそっ!! こ、れが……ユーリ、さま……?」
目の前の鏡に映る姿に、ジーノは目を疑った。
顎のあたりで整えられた、指の間をサラサラと流れる金色の髪はまるでシルクのように滑らかで、形の整った綺麗な眉に大きな目には淡いブルーの瞳がまるで宝石のように輝き、スーッと通った綺麗な鼻筋は絵画のように美しく、小さいけれど形の良い唇は艶めいていて、誰もが触れてしまいたいほどの衝動に駆られるだろう。
綺麗な母と逞しい父の元に生まれたジーノも決して不細工ではなく、綺麗な母に似て可愛らしいと言われることも多かったけれど、ユーリさまと比べるとため息しか出ない。それほどまでにユーリさまは美しく可愛らしかった。
自分の手のひらで顔に触れると、鏡の中のユーリさまも顔に触れている。やっぱりこの顔がこれからジーノが生きていく顔なのだとわかる。けれど、あまりにも美しく可愛らしい顔に自分でもドキドキしてしまう。
(もしかして、神さまはこの美しいユーリさまを失うのが嫌で、僕にあんな提案を持ちかけてきたのだろうか?)
そんな勘ぐりまでしてしまうほどユーリさまは美しい。けれど、せっかくユーリさまと代わることができたのだ。驚いている暇はない。このままでいればジーノには一年という短い時間しか与えられていないのだから。
(でも、どうしたらヴァルと知り合えるだろう?)
悩んでいる間にも、ヴァルの体調はどんどん悪くなっていくかもしれない。早く接触しなければ、下界に戻ってきた意味すらなくなってしまう。
なんとかしてヴァルとユーリさまが出会えるようにしなければ。けれど、やり方を間違えてしまったら、全ては水の泡になってしまう。それだけは絶対に避けなければいけない。
「ヴァルと出会う方法、か……難しいな」
鏡に映る、まだ慣れない自分に向かって独言ていると、
「ユーリ? ユーリはどこだ?!」
と世界が終わりを迎えそうなほどの焦った声がジーノのいる洗面所にまで聞こえてきた。
(しまった! ユーリさまがベッドにいないことが誰かに気づかれてしまったみたいだ)
「は、はい! ここです、ここにいます!」
僕はここにいますといいかけて、僕なのか私なのか、それともユーリと名前で呼ぶべきなのかわからず、とりあえずここにいることだけを告げると、バタバタと駆け寄ってくる音が聞こえて、その場に立ち尽くすしかなかった。
「ユーリ! 一人で歩き回ったりして大丈夫なのか? 今朝は随分と体調が悪そうだっただろう?」
「――っ!! こっ!」
目の前で心配そうにジーノを見つめる人が国王さまであることに気づき吃驚した。つい、国王さまと呼びかけようとして必死に止めたのはいいが、どうしていいかわからない。なんせジーノは国王さまとこんなにも近くで話をしたことがないのだから。
「あ、あの……だ、大丈夫です」
「そうか、それならいいが……んっ?」
(まさか、ユーリさまでないことに気づかれた? どうしよう……)
まじまじと顔を見つめられ緊張感でいっぱいになる。どこかがいつもと違ったのかもしれない。けれど、ここでジーノが目を逸らしてしまったら余計に怪しまれるだろう。身体中が震えてしまいそうになるのを必死に抑えて国王さまを見つめた。
「な、何か、ありましたか?」
「いや、ここ数年見たことがないほど顔色がいいなと思ったのだ。本当に大丈夫なのだな」
「えっ、あっ、は、はい。あの、急に体調が良くなって……」
「そうか! きっと今朝飲んだ薬が合っていたのだな。あの薬を紹介してくれたアゴスティーノ家に早速褒美をとらすとしよう」
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