7 / 23
神との約束
しおりを挟む
「神さま、ユーリさまと代わって生きていくというのはどういう意味ですか?」
神さまの言葉を静かに聞いていたジーノだったが、想像だにしない神さまの言葉に思わず問いかけてしまった。
なんせユーリさまといえば、シェルレク王国で最も美しい侯爵令嬢と言われていたイレーネさまと国王さまの三番目の王子であるジョヴァンニさまとの間に生まれたお子さまで、シェルレク王国一の美青年だともっぱらの噂だ。
ただ、残念なことにイレーネさまはユーリさまをご出産されてすぐにご病気で亡くなられ、それから数年後にジョヴァンニさまも視察先で事故に巻き込まれ亡くなられた。ご両親を亡くされた後は陛下がたっぷりと愛情をかけてユーリさまをお育てになっていたけれど、イレーネさま同様に元々お身体があまり強くなくここ数年は病気で臥せっていらっしゃると伺っていた。だから、ジーノはユーリさまに直接お会いしたことはなかった。
神さまはジーノの問いに応えるように、ユーリさまについて話をなさった。
ーユーリは生まれながらに病弱で、ほとんど部屋から出たことがなくこの世界に全く未練がない。それどころか、現世での命を早く終え、病弱な身体から解き放たれたいといつも話している。だが、ユーリにはあと一年ほど寿命が残っている。だからジーノ、お前がユーリとなって下界で残りの人生を歩むというのならばその後の未来を交換しようということだ。お前がユーリに代わって残りの人生を歩むならば、ユーリをこちらに呼び、お前の代わりにジーアレス王国の姫として生まれ変わらせる。どうだ?
ユーリさまには下界への未練がない。死後も尚、ヴァルへの未練が断ち切れないジーノとは真逆だ。だが、今の生活が辛いのならユーリさまにとっては少しでも早く新しい人生を歩むことができるいい機会なのかもしれない。未練が残っているジーノがユーリさまとなって残りの人生を過ごし、ユーリさまがジーノの代わりに生まれ変わる。確かに理に適っている。でもそれがヴァルの幸せになるかどうか……それが問題だ。
「あの、恐れながら神さま……僕が下界に戻れることは嬉しいことですが、残された寿命があと一年という短さであれば、ユーリさまとして戻ったところでまたヴァルに辛い思いをさせてしまうのではありませんか? それにユーリさまが病弱で部屋から出られないのであれば、そもそもヴァルと出会うこともできません。それは一体どうしたら良いのですか?」
ーそこは私に任せるが良い。其方に力を貸すとしよう。
「僕に力を、ですか?」
ーああ。まず、ユーリとして生まれ変わった残りの寿命は健康体として蘇らせよう。そしてユーリの命が尽きる一年の間に、ヴァルフレードの気持ちをジーノからユーリに向けさせ、無事に夫夫となれたらその時はヴァルフレードの命が尽きるその時までお前の寿命も伸ばしてやろう。
「僕が、ヴァルの気持ちをユーリさまに向けさせる……そんなことができるでしょうか?」
いくらユーリさまがこの国で一番の美青年であったとしても、ヴァルはジーノを愛してくれていた。いや、ジーノが死んでしまった今でもずっと愛しているといってくれているのに……。
ー確かに、ヴァルフレードがお前の容貌を好いていたのなら難しいかもしれんな。
「いえ、ヴァルは見た目ではなくて、僕の中身を好きでいてくれたはずです!」
ーふっ。それならば構わぬだろう? お前が心から愛せば見た目がユーリであっても、ヴァルフレードはきっと思いに応えるだろう。
(僕が心からヴァルを愛せば……見た目がユーリさまであっても好きになってくれる? その保証はないけれど、それに賭けるしかないんだろうか……)
ー但し、ユーリの残りの寿命である一年の間に、ヴァルフレードの気持ちをユーリに向けることができなければ、ユーリの寿命が尽きたその時、ヴァルフレードの命も潰え、二人を問答無用で生まれ変わらせる。お前はユーリが生まれ変わるはずだった町娘にな。ヴァルフレードは……そうだな、野犬に生まれ変わらせるのもいいかもしれないな。さぁ、どうする? ジーノ、どちらを選ぶ?
今、ジーノが全ての未練を捨てて生まれ変われば、ヴァルはジーノを失ったショックで自ら命を絶ってしまうかもしれない。けれど、ユーリさまとなって生まれ変わっても、ヴァルの気持ちをジーノに向けなければ、一年後には二人とも寿命を終えてしまう。
けれどもし、ジーノがヴァルの心をユーリさまとなった自分に向けることができたら、長い人生を共に歩める。ジーノとヴァルがこの五年願ってきたことが叶うのだ。
ヴァルとジーノにとって、どの選択が一番いいかを考えたらもう選ぶのはひとつしかない。
「僕……ユーリさまとして生きていきます! そして、ヴァルと絶対に幸せな未来を歩んでみせます!!」
ーそうか。わかった。但し、ジーノ。お前にはユーリとして生まれ変わったあと、ジーノとしての記憶は残しておいてやるが、自分がジーノであったことは絶対に誰にも言ってはならないし、知られてはいけない。もし、その約束を違えた時には、即座に寿命が尽きることとなる。
「えっ……でも、それじゃあ……」
ーヴァルフレードの気持ちを向けることはできないか? それなら素直に諦めて、ジーアレス王国の姫となって次の人生を歩む方を選ぶか?
「――っ!! それは……っ」
ーどうする? ジーノ。
自分だけが何もかも忘れて幸せになることなんてできない。制約はあるけれど、ジーノもヴァルも幸せになるのはもうこの道しか残されていない。
「わかりました。決して、ジーノだと告げず、気づかれないようにすると約束します」
ーよし。わかった。二人の未来がうまくいくように私も見守っていよう。頑張るのだぞ。
その声が聞こえたと思ったら、また眩い光がジーノを包み込んだ。今度は何もかもが見えないほどの強い光の中、ジーノは軽かった身体が久しぶりに重みを得たような感覚を抱いていた。
神さまの言葉を静かに聞いていたジーノだったが、想像だにしない神さまの言葉に思わず問いかけてしまった。
なんせユーリさまといえば、シェルレク王国で最も美しい侯爵令嬢と言われていたイレーネさまと国王さまの三番目の王子であるジョヴァンニさまとの間に生まれたお子さまで、シェルレク王国一の美青年だともっぱらの噂だ。
ただ、残念なことにイレーネさまはユーリさまをご出産されてすぐにご病気で亡くなられ、それから数年後にジョヴァンニさまも視察先で事故に巻き込まれ亡くなられた。ご両親を亡くされた後は陛下がたっぷりと愛情をかけてユーリさまをお育てになっていたけれど、イレーネさま同様に元々お身体があまり強くなくここ数年は病気で臥せっていらっしゃると伺っていた。だから、ジーノはユーリさまに直接お会いしたことはなかった。
神さまはジーノの問いに応えるように、ユーリさまについて話をなさった。
ーユーリは生まれながらに病弱で、ほとんど部屋から出たことがなくこの世界に全く未練がない。それどころか、現世での命を早く終え、病弱な身体から解き放たれたいといつも話している。だが、ユーリにはあと一年ほど寿命が残っている。だからジーノ、お前がユーリとなって下界で残りの人生を歩むというのならばその後の未来を交換しようということだ。お前がユーリに代わって残りの人生を歩むならば、ユーリをこちらに呼び、お前の代わりにジーアレス王国の姫として生まれ変わらせる。どうだ?
ユーリさまには下界への未練がない。死後も尚、ヴァルへの未練が断ち切れないジーノとは真逆だ。だが、今の生活が辛いのならユーリさまにとっては少しでも早く新しい人生を歩むことができるいい機会なのかもしれない。未練が残っているジーノがユーリさまとなって残りの人生を過ごし、ユーリさまがジーノの代わりに生まれ変わる。確かに理に適っている。でもそれがヴァルの幸せになるかどうか……それが問題だ。
「あの、恐れながら神さま……僕が下界に戻れることは嬉しいことですが、残された寿命があと一年という短さであれば、ユーリさまとして戻ったところでまたヴァルに辛い思いをさせてしまうのではありませんか? それにユーリさまが病弱で部屋から出られないのであれば、そもそもヴァルと出会うこともできません。それは一体どうしたら良いのですか?」
ーそこは私に任せるが良い。其方に力を貸すとしよう。
「僕に力を、ですか?」
ーああ。まず、ユーリとして生まれ変わった残りの寿命は健康体として蘇らせよう。そしてユーリの命が尽きる一年の間に、ヴァルフレードの気持ちをジーノからユーリに向けさせ、無事に夫夫となれたらその時はヴァルフレードの命が尽きるその時までお前の寿命も伸ばしてやろう。
「僕が、ヴァルの気持ちをユーリさまに向けさせる……そんなことができるでしょうか?」
いくらユーリさまがこの国で一番の美青年であったとしても、ヴァルはジーノを愛してくれていた。いや、ジーノが死んでしまった今でもずっと愛しているといってくれているのに……。
ー確かに、ヴァルフレードがお前の容貌を好いていたのなら難しいかもしれんな。
「いえ、ヴァルは見た目ではなくて、僕の中身を好きでいてくれたはずです!」
ーふっ。それならば構わぬだろう? お前が心から愛せば見た目がユーリであっても、ヴァルフレードはきっと思いに応えるだろう。
(僕が心からヴァルを愛せば……見た目がユーリさまであっても好きになってくれる? その保証はないけれど、それに賭けるしかないんだろうか……)
ー但し、ユーリの残りの寿命である一年の間に、ヴァルフレードの気持ちをユーリに向けることができなければ、ユーリの寿命が尽きたその時、ヴァルフレードの命も潰え、二人を問答無用で生まれ変わらせる。お前はユーリが生まれ変わるはずだった町娘にな。ヴァルフレードは……そうだな、野犬に生まれ変わらせるのもいいかもしれないな。さぁ、どうする? ジーノ、どちらを選ぶ?
今、ジーノが全ての未練を捨てて生まれ変われば、ヴァルはジーノを失ったショックで自ら命を絶ってしまうかもしれない。けれど、ユーリさまとなって生まれ変わっても、ヴァルの気持ちをジーノに向けなければ、一年後には二人とも寿命を終えてしまう。
けれどもし、ジーノがヴァルの心をユーリさまとなった自分に向けることができたら、長い人生を共に歩める。ジーノとヴァルがこの五年願ってきたことが叶うのだ。
ヴァルとジーノにとって、どの選択が一番いいかを考えたらもう選ぶのはひとつしかない。
「僕……ユーリさまとして生きていきます! そして、ヴァルと絶対に幸せな未来を歩んでみせます!!」
ーそうか。わかった。但し、ジーノ。お前にはユーリとして生まれ変わったあと、ジーノとしての記憶は残しておいてやるが、自分がジーノであったことは絶対に誰にも言ってはならないし、知られてはいけない。もし、その約束を違えた時には、即座に寿命が尽きることとなる。
「えっ……でも、それじゃあ……」
ーヴァルフレードの気持ちを向けることはできないか? それなら素直に諦めて、ジーアレス王国の姫となって次の人生を歩む方を選ぶか?
「――っ!! それは……っ」
ーどうする? ジーノ。
自分だけが何もかも忘れて幸せになることなんてできない。制約はあるけれど、ジーノもヴァルも幸せになるのはもうこの道しか残されていない。
「わかりました。決して、ジーノだと告げず、気づかれないようにすると約束します」
ーよし。わかった。二人の未来がうまくいくように私も見守っていよう。頑張るのだぞ。
その声が聞こえたと思ったら、また眩い光がジーノを包み込んだ。今度は何もかもが見えないほどの強い光の中、ジーノは軽かった身体が久しぶりに重みを得たような感覚を抱いていた。
416
あなたにおすすめの小説
冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている
春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」
王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。
冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、
なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。
誰に対しても一切の温情を見せないその男が、
唯一リクにだけは、優しく微笑む――
その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。
孤児の少年が踏み入れたのは、
権謀術数渦巻く宰相の世界と、
その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。
これは、孤独なふたりが出会い、
やがて世界を変えていく、
静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
見知らぬ君に触れられない
mahiro
BL
今から5年前、組織を抜けた人物がいた。
通常であればすぐにでも探し出すはずなのに、今回は即刻捜査は打ち切られた。
それが何故なのか、それを知ろうとすることすら禁じられた。
それから5年の歳月が経った。
表向きには何事もないように見える日常の中で、俺は見つけてしまった。
5年前には見ることの出来なかった明るく笑うやつの顔を。
新しい仲間に囲まれ、見たことのない明るい服装を見にまとい、常に隠されていた肌が惜しげもなく外に出されていた。
何故組織を抜けたのだと問い質したい所だが、ボスからは探すな、見つけても関わるなと指示されていた。
だから、俺は見なかったことにしてその場を去ること しか出来なかった。
あれから俺のいる部屋にいつもなら顔を出さない部下が訊ねてきて………?
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
神楽
立樹
BL
谷川彰也は、大学でも美形で人の注目を集めている近松神楽にモーニングコールをしている。
ただ、モーニングコールをするだけの仲だった。ある日、コールをしていることがバレてしまった。
彰也も近松に言っていない秘密があって……。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる