6 / 23
力を貸してください!
しおりを挟む
ジーノの葬儀を終えた後から、ヴァルの顔から笑顔が消えた。いや、笑顔だけじゃない。全ての表情を失ってしまったようだった。一切の感情を失い、毎日ヴァルは喪服を着続け、両親とも必要最低限の言葉も交わさず、食事も摂らずただただ廃人のように部屋であの椅子に座ったまま時がすぎるのを待っていた。まるで命が潰えるのを待つように……。その姿を見るのがたまらなく辛い。
(ヴァルに幸せになって欲しかったのに。僕のせいでこんな目に遭わせてしまった)
最初こそ、ヴァルの気が済むまで好きなようにやらせてやろうと言っていたアゴスティーノ公爵だったけれど、一週間をすぎる頃には、どんどん痩せ細っていくヴァルの姿に危機感を感じたようで、無理やりにでも水分を摂らせ食事を食べさせていた。けれど本人には生きる気力というものが何も感じられず、ほんの少しの食事で早々と部屋に戻ってしまう。
「お前はこのアゴスティーノ家の跡取りなのだぞ! わかっているのか?」
「跡取りなど関係ない! もう、私のことなど、いないものと思ってください。ジーノのいない人生など、私には生きている価値もない」
「ヴァルフレード!!」
「ああもう! 放っておいてくれ!!」
アゴスティーノ公爵がどれだけ怒鳴りつけても、情に訴えてもヴァルは部屋から出ようとしない。ジーノはそんなヴァルの姿に心を痛めていた。
(このままじゃいけない! もし、ヴァルに万が一のことがあって、アゴスティーノ家を継がないなんてことになったら公爵家の存続に関わる。それくらいアゴスティーノ家にとってヴァルは大切な存在なんだ。僕の責任なんだから、僕がなんとかしなきゃ!!)
ジーノはヴァルのそばから離れ、空に向かった。本来なら一度門前払いを食らった魂は、再び神に導かれるまで天国の門に近づくことはできない。けれど、ジーノの必死な思いが伝わったのか、ジーノの魂は無事に天国の門へ辿り着くことができた。ジーノはその門の前で頭を垂れた。
「神さま! お願いです!! 僕の話を聞いてください!! 神さま!! 聞いてくださるまで、僕はここから離れません。お願いです、神さま!!」
ジーノはどこまでにも聞こえるような大声で何度も神に呼びかけた。それからどれほど叫び続けただろう。
突然光がジーノの魂を照らしたかと思ったら、
――ジーノ。未練を断ち切って、中に入る覚悟ができたか?
穏やかな声が頭上に降り注いだ。
「神さま! お願いします! ヴァルのために力を貸して欲しいのです!! 僕はそれまで中に入ることはできません」
――そうか、やはりな。そろそろ来ることだと思っていた。だから、お前をここまで戻してあげたのだ。
(そうか、僕がここまで来られたのは神さまのお導きがあってこそか。それなら僕の願いを聞いてくれるかもしれない)
ジーノは一抹の期待を胸に神さまに届くように大声で語りかけた。
「神さまはなんでもお見通しなのですね! それなら、神さま! ヴァルとアゴスティーノ公爵家のために僕の望みを叶えてください!!」
――其方の望みはなんだ?
「ヴァルに幸せになってほしい、それだけです」
――幸せに、な……。だが、あやつの幸せはジーノ、お前と生涯を共にすることだ。自分だけが生き存えることなど望んでいない。ジーノのいない世界であやつは幸せになどなれないのだぞ。
「そんな……っ。でも、それならヴァルがこのまま命を落とすのをただ黙って見ていろと仰るのですか? それでは僕の未練は一生消えません!」
ーふむ。それは困ったな……。それならば、ジーノ……お前に二つの選択肢をやろう。必ずどちらかを選ぶのだ。良いか?
二つの選択肢……それが一体どういう内容であるのか、ジーノには全く想像もつかない。けれど、神さまがジーノとヴァルのために考えてくださったのなら、それを断ることはジーノの頭にはなかった。
「はい。わかりました。それで、その選択肢とは一体なんですか?」
ーひとつ目はジーノ、お前が直ちにヴァルフレードへの未練を断ち切ってこの天国の門を潜り、予定通りジーアレス王国の姫として生まれ変わることだ。ただし、この門を潜ったと同時にジーノとして過ごしてきた今までの記憶は全て消え、新しい人間として生きていくことになる。
(僕があのジーアレス王国の姫に? ヴァルとの全ての記憶を失くして? 僕を失って辛い思いをしているヴァルのことも全て忘れて自分だけが新しい人生を歩むなんて……そんなの自分が許せない)
ーそして、もうひとつの選択肢は……このシェルレク王国の現国王の末弟の息子であるユーリ・ディアンジェロと代わって生きていくことだ。
(ユーリさまと、代わって生きていく?)
神さまからの思いがけない選択肢にジーノはすぐに理解することができなかった。
(ヴァルに幸せになって欲しかったのに。僕のせいでこんな目に遭わせてしまった)
最初こそ、ヴァルの気が済むまで好きなようにやらせてやろうと言っていたアゴスティーノ公爵だったけれど、一週間をすぎる頃には、どんどん痩せ細っていくヴァルの姿に危機感を感じたようで、無理やりにでも水分を摂らせ食事を食べさせていた。けれど本人には生きる気力というものが何も感じられず、ほんの少しの食事で早々と部屋に戻ってしまう。
「お前はこのアゴスティーノ家の跡取りなのだぞ! わかっているのか?」
「跡取りなど関係ない! もう、私のことなど、いないものと思ってください。ジーノのいない人生など、私には生きている価値もない」
「ヴァルフレード!!」
「ああもう! 放っておいてくれ!!」
アゴスティーノ公爵がどれだけ怒鳴りつけても、情に訴えてもヴァルは部屋から出ようとしない。ジーノはそんなヴァルの姿に心を痛めていた。
(このままじゃいけない! もし、ヴァルに万が一のことがあって、アゴスティーノ家を継がないなんてことになったら公爵家の存続に関わる。それくらいアゴスティーノ家にとってヴァルは大切な存在なんだ。僕の責任なんだから、僕がなんとかしなきゃ!!)
ジーノはヴァルのそばから離れ、空に向かった。本来なら一度門前払いを食らった魂は、再び神に導かれるまで天国の門に近づくことはできない。けれど、ジーノの必死な思いが伝わったのか、ジーノの魂は無事に天国の門へ辿り着くことができた。ジーノはその門の前で頭を垂れた。
「神さま! お願いです!! 僕の話を聞いてください!! 神さま!! 聞いてくださるまで、僕はここから離れません。お願いです、神さま!!」
ジーノはどこまでにも聞こえるような大声で何度も神に呼びかけた。それからどれほど叫び続けただろう。
突然光がジーノの魂を照らしたかと思ったら、
――ジーノ。未練を断ち切って、中に入る覚悟ができたか?
穏やかな声が頭上に降り注いだ。
「神さま! お願いします! ヴァルのために力を貸して欲しいのです!! 僕はそれまで中に入ることはできません」
――そうか、やはりな。そろそろ来ることだと思っていた。だから、お前をここまで戻してあげたのだ。
(そうか、僕がここまで来られたのは神さまのお導きがあってこそか。それなら僕の願いを聞いてくれるかもしれない)
ジーノは一抹の期待を胸に神さまに届くように大声で語りかけた。
「神さまはなんでもお見通しなのですね! それなら、神さま! ヴァルとアゴスティーノ公爵家のために僕の望みを叶えてください!!」
――其方の望みはなんだ?
「ヴァルに幸せになってほしい、それだけです」
――幸せに、な……。だが、あやつの幸せはジーノ、お前と生涯を共にすることだ。自分だけが生き存えることなど望んでいない。ジーノのいない世界であやつは幸せになどなれないのだぞ。
「そんな……っ。でも、それならヴァルがこのまま命を落とすのをただ黙って見ていろと仰るのですか? それでは僕の未練は一生消えません!」
ーふむ。それは困ったな……。それならば、ジーノ……お前に二つの選択肢をやろう。必ずどちらかを選ぶのだ。良いか?
二つの選択肢……それが一体どういう内容であるのか、ジーノには全く想像もつかない。けれど、神さまがジーノとヴァルのために考えてくださったのなら、それを断ることはジーノの頭にはなかった。
「はい。わかりました。それで、その選択肢とは一体なんですか?」
ーひとつ目はジーノ、お前が直ちにヴァルフレードへの未練を断ち切ってこの天国の門を潜り、予定通りジーアレス王国の姫として生まれ変わることだ。ただし、この門を潜ったと同時にジーノとして過ごしてきた今までの記憶は全て消え、新しい人間として生きていくことになる。
(僕があのジーアレス王国の姫に? ヴァルとの全ての記憶を失くして? 僕を失って辛い思いをしているヴァルのことも全て忘れて自分だけが新しい人生を歩むなんて……そんなの自分が許せない)
ーそして、もうひとつの選択肢は……このシェルレク王国の現国王の末弟の息子であるユーリ・ディアンジェロと代わって生きていくことだ。
(ユーリさまと、代わって生きていく?)
神さまからの思いがけない選択肢にジーノはすぐに理解することができなかった。
418
あなたにおすすめの小説
冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている
春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」
王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。
冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、
なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。
誰に対しても一切の温情を見せないその男が、
唯一リクにだけは、優しく微笑む――
その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。
孤児の少年が踏み入れたのは、
権謀術数渦巻く宰相の世界と、
その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。
これは、孤独なふたりが出会い、
やがて世界を変えていく、
静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
見知らぬ君に触れられない
mahiro
BL
今から5年前、組織を抜けた人物がいた。
通常であればすぐにでも探し出すはずなのに、今回は即刻捜査は打ち切られた。
それが何故なのか、それを知ろうとすることすら禁じられた。
それから5年の歳月が経った。
表向きには何事もないように見える日常の中で、俺は見つけてしまった。
5年前には見ることの出来なかった明るく笑うやつの顔を。
新しい仲間に囲まれ、見たことのない明るい服装を見にまとい、常に隠されていた肌が惜しげもなく外に出されていた。
何故組織を抜けたのだと問い質したい所だが、ボスからは探すな、見つけても関わるなと指示されていた。
だから、俺は見なかったことにしてその場を去ること しか出来なかった。
あれから俺のいる部屋にいつもなら顔を出さない部下が訊ねてきて………?
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
神楽
立樹
BL
谷川彰也は、大学でも美形で人の注目を集めている近松神楽にモーニングコールをしている。
ただ、モーニングコールをするだけの仲だった。ある日、コールをしていることがバレてしまった。
彰也も近松に言っていない秘密があって……。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる