ジーノの秘密の恋 〜もう一度愛してると聞かせて……

波木真帆

文字の大きさ
16 / 23

懐かしい場所で

懐かしい。ジーノと初めて出会った日、この庭で二人の時間を過ごした。

野犬に襲われ恐怖に震えるジーノを胸に抱き、東屋で二人だけの楽しい時間を過ごしたんだ。いや、楽しかったのは私だけだろう。ジーノは震えながら私の腕の中で意識を失っていた。

それほどの恐怖を与えてしまい、もっと早く助けてあげられればよかったと後悔もしたがそれでも傷ひとつなく守れたことには安堵していた。

ジーノのことばかり思い出していたからか、私の足は自然に東屋に向かっていた。
ジーノ……。あの日から五年か……。
今頃、私の隣にはジーノの眩しい笑顔があったはずなのにな。
どうして私は一人なのだ?

ユーリさまとこれから会うというのに、ジーノのことばかり思い出してしまって申し訳ないが、場所が悪すぎる。どうしたってジーノのことを考えてしまうんだ。

やはり、この縁談はうまくいかないだろう。きっとユーリさまもそうお思いになるはずだ。

「はぁーーっ」

やりきれない思いがため息となって現れる。

このままじゃいけないなと顔を上げると、少し先からこちらに向かって歩いてくるユーリさまの姿を見つけた。

「やっぱり、歩き方がジーノに似ている」

遠目で見たら本当にジーノが歩いているのではないかと見紛うくらいによく似ている。
ずっとジーノに会いたいという気持ちが見せている亡霊なのかもしれないと思いつつも、勝手に身体が動いていた。

急いで駆け寄って、エスコートをするために手を差し出すと、ユーリさまが花が綻ぶような笑顔を見せてくれた。

ーヴァル! ありがとう。

私が手を差し出すといつもジーノはそう言って笑顔を見せてくれたな。

そんな懐かしい思い出に浸りながら、私たちは東屋の椅子に腰をおろした。

二人で並んで座ったものの、何を話していいのか分からず、ただ時間だけが流れていく。
それでもこの空間に二人でいるのは嫌ではなかった。

穏やかな風が通り過ぎるのを見ていると、隣のユーリさまの小さな声が聞こえた。

「僕……この場所にくると、落ち着くんです」

「そうですか。私もここは懐かしい場所ですよ」

私の言葉になぜかハッとした表情をした気がしたけれど、私とジーノがここでひとときを過ごしたことは誰も知らないはずだ。

「どうかされましたか?」

「いえ。なんでもありません」

「そうですか、あのそれで……今回の、その私との縁談ですが……ユーリさまは本気なのですか?」

「はい。ヴァルフレードさまさえよろしければ、この縁談を進めていただきたいと思っています」

「ですが、先日もお話ししましたが、私はジーノを助けたい一心であの薬を手に入れただけに過ぎません。それが行き場を失い、ユーリさまのお手に渡っただけです。ユーリさまはジーノに申し訳ないと思っておられるかもしれませんが責任を感じられる必要などありませんよ。それに……私は、一生ジーノを愛し続けると誓ったのです。ですから……あっ、ユーリさま、どうして涙を?」

ユーリさまがお優しい方だというのは先日でお会いしたときによくわかった。
だからこそ、せっかく元気になられたのだから、私やジーノに責任など感じずにご自分の人生をお過ごしになればいいと思ったのだ。その思いで、この縁談が白紙になるように伝えたのだが、私の話を黙って聞かれていたユーリさまの目から大粒の涙が溢れるところを見てしまった。

慌ててハンカチを差し出そうとすると、ユーリさまはこちらを見上げた。まるで私に涙を拭ってほしいとでもいうように。その仕草がジーノに似ていてドキッとさせられる。

だからつい涙を拭ってしまった。
それがまるで自分の使命のように感じてしまったのだ。

<sideユーリ(ジーノ)>

ヴァルのジーノへの溢れる愛が伝わってきて、嬉しいと思う反面、このままだとまた離れなくてはいけなくなる。そんな感情で胸がいっぱいになってしまっていた。

ヴァルから涙を指摘されてようやく自分が涙を流していたことに気づいたけれど、素早くハンカチを出してくれたヴァルの姿に無意識に身体が反応してしまった。

びっくりして涙を溜めてしまった時、ソースを唇につけてしまった時、さっとヴァルがハンカチを出してくれていたから、ジーノは顔を上げるだけでよかったのだ。

ヴァルと過ごしたあの日々がジーノにそんな癖をつけてしまっていた。

だからユーリさまの姿になっても無意識に身体が動いてしまったのだろう。ヴァルが少し戸惑いながらも優しく涙を拭ってくれたのを見て、ジーノは嬉しくてたまらなくなっていた。

「ユーリさま。大丈夫ですか?」

「は、はい。ごめんなさい。泣いたりして……」

「いえ。お気になさらず。でも本当にユーリさまが責任を感じられる必要はないのですよ」

「ヴァルフレードさま。僕は助けてもらったから、命をもらったからそのお礼に結婚したいと言っているのでないんです」

「えっ? それではどうして?」

「ヴァルフレードさまとなら、一生をともに過ごしていけるってそう思ったんです」

「そんな私など……ユーリさまほどお綺麗ならこれからたくさんのご縁がありますよ」

「ヴァルフレードさまは、顔や家柄だけを望まれる縁が本当にいいことだと思いますか?」

ジーノの言葉に、ヴァルはハッとした表情を見せた。
感想 2

あなたにおすすめの小説

いくら気に入っているとしても、人はモノに恋心を抱かない

ちき
BL
一度オナホ認定されてしまった俺が、恋人に昇進できる可能性はあるか、その答えはノーだ。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【BLーR18】箱入り王子(プリンス)は俺サマ情報屋(実は上級貴族)に心奪われる

奏音 美都
BL
<あらすじ>  エレンザードの正統な王位継承者である王子、ジュリアンは、城の情報屋であるリアムと秘密の恋人関係にあった。城内でしか逢瀬できないジュリアンは、最近顔を見せないリアムを寂しく思っていた。  そんなある日、幼馴染であり、執事のエリックからリアムが治安の悪いザード地区の居酒屋で働いているらしいと聞き、いても立ってもいられず、夜中城を抜け出してリアムに会いに行くが……  俺様意地悪ちょいS情報屋攻め×可愛い健気流され王子受け

シャルルは死んだ

ふじの
BL
地方都市で理髪店を営むジルには、秘密がある。実はかつてはシャルルという名前で、傲慢な貴族だったのだ。しかし婚約者であった第二王子のファビアン殿下に嫌われていると知り、身を引いて王都を四年前に去っていた。そんなある日、店の買い出しで出かけた先でファビアン殿下と再会し──。

婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後

結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。 ※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。 全5話完結。予約更新します。

憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。

Q矢(Q.➽)
BL
愛する人達を守る為に、俺は戦いに出たのに。 満身創痍ながらも生き残り、帰還してみれば、とっくの昔に彼は俺を諦めていたらしい。 よし、じゃあ、もう死のうかな…から始まる転生物語。 愛しすぎて愛が枯渇してしまった俺は、もう誰も愛する気力は無い。 だから生まれ変わっても君には会いたく無いって願ったんだ。 それなのに転生先にはまんまと彼が。 でも、どっち? 判別のつかないままの二人の彼の愛と執着に溺死寸前の主人公君。 今世は幸せになりに来ました。

ルピナスの花束

キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。 ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。 想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。