ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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二人を会わせるために <後編>

「秘書からの報告で今の時間、迫田くんは自室にて内勤作業をしているようです。今なら、彼の恋人と話ができるでしょう」

櫻葉会長の話では直くんの父親には常に恋人がそばについており、しかも、相手は男性なのだそうだ。
内勤作業中の二時間だけ別行動をとっているようだが、それだけその恋人に溺愛されているということなのか。
それとも離れていたら心配な何かがあるのか。そのあたりの理由は聞いておきたいところだ。

櫻葉会長が秘書から直くんの父親の恋人とされる人物の電話番号を聞き、電話をかけた。
数コールののち、電話がつながったようだ。
櫻葉会長は流暢な英語で今回の連絡に関するおおまかな経緯を説明する。
私たちが話をしたいと言っていることも伝えた上で、お互いに顔を見ながら話そうという櫻葉会長の提案に相手からは了承を得たようだ。

さて、相手はどのような人物なのだろうか。

電話をビデオ通話に切り替えて画面に映った相手の顔を見て、私は驚いた。

「えっ……まさか……」

私の声に何かあったのかとすぐに察した寛さんが心配そうに声をかけてくる。

「賢将さん、もしかして知り合いなのか?」

「知り合い、というか……」

あの顔を見間違うわけがない。だが、まさかあの方が直くんの父親の恋人になっていたとは。
いったいどのような経緯で二人が恋人になったのか気になるところだ。
そう話をしている間に、相手も私を見て何かを思い出したようだ。

『ん? そこの彼は見覚えがある。以前、タモツとカフェで……』

『ええ、その通りです。ラシード殿下もあの時近くにいらっしゃったのですね。あの時は気づかずに大変失礼いたしました』

彼はアフリカ北東部にある小さな国・カマル王国第三王子のラシード殿下。
カマル王国は近代的な考えを持った国として有名で、あの辺りの国で唯一同性婚が認められている国だ。
次期国王の長兄、その補佐をしている次兄もかなやり手だが、特にラシード殿下は国の豊かな地下資源が尽きる前に国をもっと豊かにしようと積極的に欧米の企業を誘致し外貨獲得を行っている。そのおかげでカマル王国は国民全てが豊かな生活をしている貧困とは無縁の国となった。

その彼がまさか直くんの父親の恋人とは……。

彼の国は性別を問わず一生一人の人を大切にすることでも有名だから、ラシード殿下が直くんの父親を見染めたのならそれは本物だろう。

『ほぉ、よく私の名を知っていたな?』

『はい。私は数ヶ月前までアフリカの各地を回って医療活動をしていましたから」

『なるほど。そういうことだったか』

カマル王国には貧困により医療が受けられないという国民がおらず、しかもかなり高水準な医療を受けられるため私たちが医療活動をすることはほとんどない。反対にカマル王国から薬や医薬品などの援助を得ることがあったため、カマル王国の王族の顔はよく知っていた。彼らの助けがあったからこそ、私たちの活動がうまくいっていたのだ。

『それで、タモツが日本に残してきた息子の話というのは?』

『ラシード殿下がどこまで事情をご存知なのかわかりませんが、彼の息子の直は、私とここにいる彼の可愛い孫になりました。その孫が実の父親に会うことを強く望んでいます。どうか生き別れた二人が再び会えるよう保くんを説得していただけないでしょうか?』

私と寛さん、そして櫻葉会長はこれまでの経緯を余すところなくラシード殿下に伝えた。
彼はその話を静かに聞いていたが、画面越しに直くんの動画を見せると表情を変えた。

『タモツはずっと息子に対して自分が悪かったのだと悔いていた。息子に手紙を送った時も忘れて欲しいと書きながら、涙を流していた。今でも寝言でよく息子の名前を呼んでいることがある。私はつい嫉妬してしまうこともあったが、そんなにも純粋で素直な愛らしい息子なら会いたいと思っても無理はないな。わかった。私からタモツに話をしてみよう。説得できる保証はないが、その息子の動画をもらえないだろうか? その動画を見せながら話をしてみることにしよう』

ラシード殿下の言葉に私たちは希望を持ち、早速直くんの動画を殿下のスマホに送った。

心も身体も元気になり、幸せになった直くんを見て、父親も自分の決断が良い方向に進んだのだとしれば、会いたいと思ってくれるだろう。

それから数日後、直くんの父親から直接会いに行きたいという返事をもらった。
そうして、私たちのクリスマス計画に父親との再会を無事に入れることができたのだった。
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