ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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時が止まった

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<side卓>

直くんが私たちにピアノを聴かせてくれる。
あの子のピアノは感情に大きく左右される。

私たちにピアノを弾いてくれる時は、いつでも幸せそうだから私たちにも癒しの音楽として聞こえる。
だが、私は直くんがコンクールに出ていた時に弾いていた曲を聞いたことがある。

それはあの家の片付けに加わった時。
あの母親のパソコンのデータに唯一残っていた音源。
直くんがあるコンクールで優勝した時の曲だ。
それを聞いたことは絢斗にさえも言っていない私の秘密。

直くんのピアノ技巧は素晴らしかった。それは間違いない。その上でのピアノの選曲。
重くて暗い、感情の揺れ幅の大きな悲しい曲。
その曲がまるで自分のことであるかのように弾き切った直くんは会場から拍手ではなく涙を誘った。
おそらくその当時の直くんが抱いていた悲しみの感情が曲にのったのだろう。
聞いていると悲しみのどん底にまで落ちてしまうのではないかと思ってしまうほど重い。

言うなればそれほどまでに直くんは辛い環境下に置かれていたということだろう。

だからこそ、私は家でピアノの話は一切出さなかった。
直くんが自ら弾きたいと言い出すまで、ピアノのことは忘れさせておこうと思ったんだ。

だが、あの日。
桜守の試験が終わり、ホッとした直くんの目の前にピアノがあった。
大丈夫だろうかと不安になったが、自ら弾いてみたいと言い出した直くんの気持ちを尊重した。

選んだ曲が私たちへの想いと未来への希望だったから安堵したのを覚えている。
あの悲しい気持ちで弾いていた直くんはもうどこにもいない。
そう安心したから、私は我が家にピアノを置くことにしたんだ。

まさか三台も買うことになるとは思っていなかったが、こうしてみんなが揃った前で直くんがピアノを弾く気になったのならよかったのだろう。

ピアノの前に座る直くんを見つめる保さんは、今、何を思っているだろうか。
彼は直くんがこうしてピアノを弾く姿も初めて見るに違いない。

きっと直くんの成長した姿に喜ぶだろう。
そう思っていたのだが……

ピアノの演奏が始まって、私はハッと息を呑んだ。

「まさか……」

驚きすぎて周りを見る余裕もない。
だって、直くんの演奏がまるで母の琴の演奏のように聞こえるのだから。

私の耳がどうかしてしまったのだろうか。
そんなふうに思ってしまうほど目の前のピアノから聞こえる音が違いすぎて戸惑いが隠せない。

でも……懐かしい。
琴奏者だった母は時折演奏をしてくれて、この家ではよく琴の音色が響いていた。
母が亡くなってもう二度と聞けなくなったと思っていたのに、まさか直くんがその音色を聴かせてくれるとは思ってなかった。

演奏が終わった後はこの上ない充足感に大きな拍手を送っていた。

<side毅>

結婚式に出席した時の直くんの可愛いドレス姿。
無邪気な笑顔を見せ、昇や兄さんたちの楽しそうな様子に心を奪われた。

そして、絢斗さんの父・賢将さんの家で見せてくれた可愛い三角巾とエプロン姿。
それだけでなく、あの父も虜にして楽しそうな姿を見せてくれた直くんと一緒にクリスマスパーティーがしたくてバタバタながら日本に行くことを決めた。

いっぱいプレゼントを持っていって喜ばせようと思っていたのに、先に直くんから私たち宛にクリスマスプレゼントが届いた。しかも手編みのマフラー。

暖かくて心のこもったプレゼントに心を掴まれた。

二葉はすっかり直くんを気に入ってフランスでも日本でも山のようにプレゼントを買い、直くんと昇を喜ばせることにしたのだが、当日実家に来て驚かされ喜ばされたのは私たちのほうだったような気がする。

懐かしい父の七面鳥、直くんと賢将さんの手作りのクリスマスケーキ、そしてプレゼントを見て涙を流して喜ぶ直くん。
そのどれもが私たちに喜びを与えてくれた。

直くんの無邪気で純粋な笑顔にどんどん引き込まれていく。
そんな直くんだからこそ、父と兄さんももっと喜ばせてあげたいと思うのだろう。

直くんのために本物のサンタクロースを準備していた。
子供騙しじゃない。私たち大人でさえも感動してしまうほどのクオリティ。

サンタクロースが目の前に現れ、プレゼントを渡してくれる姿を見るのは年甲斐もなく興奮してしまった。

さらに直くんと実父の再会。そこまで詳細を知らされていない私でさえも、あの対面は涙なしには見られなかった。
その上、直くんの実父がカマル王国のラシード殿下の恋人だと知ってさらに驚いた。

私は今日だけで何度驚かされるのだろう。

それもようやく落ち着くかと思った矢先、直くんがピアノを弾いてくれることになった。
二葉に絢斗さんから直くんがピアノを弾く動画が送られてきていたから、かなりの腕前であることはわかっている。

それを生で聴けるのかとドキドキしていたのだが、その私の耳に想像していなかった音が聞こえてきた。

「か、あさん……」

思わず母さんの名前を呟いてしまうほど、私の耳に入ってくる音は懐かしい母の琴の演奏。

まるで母が生きている時に時が戻ったようだ。

もう二度と聞けないと諦めていたのに……。

気づけば私は泣いていた。
二葉がさっとハンカチを渡してくれて、その涙を拭う。
潤んだ目で直くんに視線を向けると、直くんの隣にうっすらと影を感じる。

「あれは、まさか……」

そんなことはありえない。だけどそうとしか思えない。
あれは母だ。

私たちに会いにきてくれたんだろうか。
まさかクリスマスにこんな奇跡を見ることになるとは夢にも思ってなかった。

喜ばせようと思ってきたのに、私たちが喜ばされてしまったな。
だが、たまらなく嬉しい。

私は演奏の終わりに大きな拍手を送った。
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