ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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      ラシードが喜ぶのなら  side保  <後編>

「まぁ、とにかく兄弟らしく楽しく過ごしましょう」

そんなふうに明るく声をかけられて場が和む。
絢斗さんは本当に不思議な人だ。

直の着替えも終わり、私の着物も決まったところで試着をしてみることになったが、絢斗さんは私の着替えを誰に手伝ってもらうか困っているようだ。

浴衣ならなんとかして着ることもできるかもしれないが、女性物の着物を自分で着付けることは難しい。
やはり誰かに気つけてもらうしかないが、私が肌を晒すことをラシードは酷く嫌がる。

それがカマル王国でのしきたりなのだと言われたら守るしかないが、さてどうするか。

そう思った時、手を挙げてくれたのは直だった。
どうやら直は自分がさっき着付けをしてもらう際に順番を覚えてくれていたようだ。

普通ならたったそれだけで覚えられるとは思えないが、直の記憶力がいいのは私でも知っている。

「任せてください!」

自信満々に胸を叩く直を見て、なんだか少し子どもらしいところが見えて嬉しく思えた。

三人で試着室に入り、着物用の下着を身につける。
女性に着付けられるのは少々恥ずかしいと思ってしまうが、ここには絢斗さんと直しかいない。
それがなんとも気楽だった。

直がせっせと絢斗さんに渡していく。
それを手慣れた様子で絢斗さんが私に着付けてくれて、驚くほどの速さで着付けが終わった。
ラシードの瞳の色とよく似た美しい着物。
それは間違いなく美しい。

だが、それを私が似合っているかどうかは別物だ。
けれど直は綺麗だと自然に褒めてくれる。

だが、この髪型のままではただの女装にしか見えないだろう。
すると絢斗さんはスタッフさんに言ってウイッグを用意してくれた。

それをつけると確かに女性っぽくなる。間近で見られない限りは男性とは気づかれないかもしれない。
ラシードみたいに鍛えた身体なら確実に無理だっただろうが、これならいけそうだ。
筋肉がつかない華奢で身長が低いことをコンプレックスに思っていたこともあったが、その体型が功を奏する時があったのだな。

「これでメイクしたらバッチリだね! 初詣当日は、ヘアセットとメイクだけ敬介くんに頼んでおくからそれを終えてから、卓さんの実家に来てくれたらいいよ。実家はあのクリスマスパーティーをやったお家ね。そこで私と直くんが今みたいに着付けするから」

その提案は嬉しいが、ヘアセットと化粧をしてホテルから磯山先生のご実家に伺う際の服を持っていない。
女性に変装をして服だけ男物をきているのもおかしな話だ。

すぐに車に乗り込むとはいえ、やはりそこは気になるところだ。

それを告げると、絢斗さんはなんでもない表情でこの後服を買いに行こうと言い出した。
その当然のような話し方に、私は頷くしかなかった。

「それじゃあ私も着替えようかな」

そう言ってさっと着物を選んだ絢斗さんは直と一緒に試着室に入って行った。

私はその間、自分が変身した姿を鏡に映して見ていたが、

「とてもよくお似合いですよ」

と褒められて少し照れてしまう。
でもラシードが気に入ってくれるなら……

どんな反応をしてくれるのか楽しみでたまらない。

絢斗さんが着替えを済ませて直と一緒に試着室から出てくる。
やはり絢斗さんはすごい人だ。
落ち着きのある二十代だと思えるほどとてもよく似合っていた。

早速見せに行こうと誘われてついていく。

「卓さーん。試着してみたよー!」

まるで大学生のようなはしゃいだ声をかけて、ラシードたちが待っている場所に向かうと私の目に和装姿のとてつもなくかっこいいラシードが目に飛び込んできた。

「えっ…‥」

英語も忘れてしまうほど、茫然とラシードに見入っていると、ラシードも目を丸くして私を見つめていた。

『タモツ!』

愛しい声で名前を呼ばれてハッと我に返ったと同時に、大きくて大好きなラシードの腕に抱きしめられる。

『タモツ。なんて美しいんだ。私だけの女神…‥』

耳元でそんな甘い言葉を囁かれる。

『ラシードも素敵。すごくカッコよくて見惚れたよ』

『タモツ……愛してるよ』

ラシードがそう囁いてくれた時、少し離れた場所から

「昇さん、大好き……」

と直の声が聞こえてきた。
その声に反応したラシードが、直が何を言ったのか尋ねてくる。

『昇くんが、大好きだって』

そう教えると、ピクリと眉を顰める。

『幸せそうだからいいじゃない。ラシード、ヤキモチ妬かないで』

そう告げると、隣でも絢斗さんが磯山先生に同じ言葉を告げているのが聞こえる。

『可愛い息子の恋愛を見守るというのは、なんとも複雑なものなのだな』

ポツリと呟いたラシードの言葉に、磯山先生が頷いているのが見えて、私は絢斗さんと顔を見合わせて笑ってしまった。

ラシードと磯山先生は似たもの同士なのかもしれないな。
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