622 / 757
ラシードが喜ぶのなら side保 <後編>
「まぁ、とにかく兄弟らしく楽しく過ごしましょう」
そんなふうに明るく声をかけられて場が和む。
絢斗さんは本当に不思議な人だ。
直の着替えも終わり、私の着物も決まったところで試着をしてみることになったが、絢斗さんは私の着替えを誰に手伝ってもらうか困っているようだ。
浴衣ならなんとかして着ることもできるかもしれないが、女性物の着物を自分で着付けることは難しい。
やはり誰かに気つけてもらうしかないが、私が肌を晒すことをラシードは酷く嫌がる。
それがカマル王国でのしきたりなのだと言われたら守るしかないが、さてどうするか。
そう思った時、手を挙げてくれたのは直だった。
どうやら直は自分がさっき着付けをしてもらう際に順番を覚えてくれていたようだ。
普通ならたったそれだけで覚えられるとは思えないが、直の記憶力がいいのは私でも知っている。
「任せてください!」
自信満々に胸を叩く直を見て、なんだか少し子どもらしいところが見えて嬉しく思えた。
三人で試着室に入り、着物用の下着を身につける。
女性に着付けられるのは少々恥ずかしいと思ってしまうが、ここには絢斗さんと直しかいない。
それがなんとも気楽だった。
直がせっせと絢斗さんに渡していく。
それを手慣れた様子で絢斗さんが私に着付けてくれて、驚くほどの速さで着付けが終わった。
ラシードの瞳の色とよく似た美しい着物。
それは間違いなく美しい。
だが、それを私が似合っているかどうかは別物だ。
けれど直は綺麗だと自然に褒めてくれる。
だが、この髪型のままではただの女装にしか見えないだろう。
すると絢斗さんはスタッフさんに言ってウイッグを用意してくれた。
それをつけると確かに女性っぽくなる。間近で見られない限りは男性とは気づかれないかもしれない。
ラシードみたいに鍛えた身体なら確実に無理だっただろうが、これならいけそうだ。
筋肉がつかない華奢で身長が低いことをコンプレックスに思っていたこともあったが、その体型が功を奏する時があったのだな。
「これでメイクしたらバッチリだね! 初詣当日は、ヘアセットとメイクだけ敬介くんに頼んでおくからそれを終えてから、卓さんの実家に来てくれたらいいよ。実家はあのクリスマスパーティーをやったお家ね。そこで私と直くんが今みたいに着付けするから」
その提案は嬉しいが、ヘアセットと化粧をしてホテルから磯山先生のご実家に伺う際の服を持っていない。
女性に変装をして服だけ男物をきているのもおかしな話だ。
すぐに車に乗り込むとはいえ、やはりそこは気になるところだ。
それを告げると、絢斗さんはなんでもない表情でこの後服を買いに行こうと言い出した。
その当然のような話し方に、私は頷くしかなかった。
「それじゃあ私も着替えようかな」
そう言ってさっと着物を選んだ絢斗さんは直と一緒に試着室に入って行った。
私はその間、自分が変身した姿を鏡に映して見ていたが、
「とてもよくお似合いですよ」
と褒められて少し照れてしまう。
でもラシードが気に入ってくれるなら……
どんな反応をしてくれるのか楽しみでたまらない。
絢斗さんが着替えを済ませて直と一緒に試着室から出てくる。
やはり絢斗さんはすごい人だ。
落ち着きのある二十代だと思えるほどとてもよく似合っていた。
早速見せに行こうと誘われてついていく。
「卓さーん。試着してみたよー!」
まるで大学生のようなはしゃいだ声をかけて、ラシードたちが待っている場所に向かうと私の目に和装姿のとてつもなくかっこいいラシードが目に飛び込んできた。
「えっ…‥」
英語も忘れてしまうほど、茫然とラシードに見入っていると、ラシードも目を丸くして私を見つめていた。
『タモツ!』
愛しい声で名前を呼ばれてハッと我に返ったと同時に、大きくて大好きなラシードの腕に抱きしめられる。
『タモツ。なんて美しいんだ。私だけの女神…‥』
耳元でそんな甘い言葉を囁かれる。
『ラシードも素敵。すごくカッコよくて見惚れたよ』
『タモツ……愛してるよ』
ラシードがそう囁いてくれた時、少し離れた場所から
「昇さん、大好き……」
と直の声が聞こえてきた。
その声に反応したラシードが、直が何を言ったのか尋ねてくる。
『昇くんが、大好きだって』
そう教えると、ピクリと眉を顰める。
『幸せそうだからいいじゃない。ラシード、ヤキモチ妬かないで』
そう告げると、隣でも絢斗さんが磯山先生に同じ言葉を告げているのが聞こえる。
『可愛い息子の恋愛を見守るというのは、なんとも複雑なものなのだな』
ポツリと呟いたラシードの言葉に、磯山先生が頷いているのが見えて、私は絢斗さんと顔を見合わせて笑ってしまった。
ラシードと磯山先生は似たもの同士なのかもしれないな。
そんなふうに明るく声をかけられて場が和む。
絢斗さんは本当に不思議な人だ。
直の着替えも終わり、私の着物も決まったところで試着をしてみることになったが、絢斗さんは私の着替えを誰に手伝ってもらうか困っているようだ。
浴衣ならなんとかして着ることもできるかもしれないが、女性物の着物を自分で着付けることは難しい。
やはり誰かに気つけてもらうしかないが、私が肌を晒すことをラシードは酷く嫌がる。
それがカマル王国でのしきたりなのだと言われたら守るしかないが、さてどうするか。
そう思った時、手を挙げてくれたのは直だった。
どうやら直は自分がさっき着付けをしてもらう際に順番を覚えてくれていたようだ。
普通ならたったそれだけで覚えられるとは思えないが、直の記憶力がいいのは私でも知っている。
「任せてください!」
自信満々に胸を叩く直を見て、なんだか少し子どもらしいところが見えて嬉しく思えた。
三人で試着室に入り、着物用の下着を身につける。
女性に着付けられるのは少々恥ずかしいと思ってしまうが、ここには絢斗さんと直しかいない。
それがなんとも気楽だった。
直がせっせと絢斗さんに渡していく。
それを手慣れた様子で絢斗さんが私に着付けてくれて、驚くほどの速さで着付けが終わった。
ラシードの瞳の色とよく似た美しい着物。
それは間違いなく美しい。
だが、それを私が似合っているかどうかは別物だ。
けれど直は綺麗だと自然に褒めてくれる。
だが、この髪型のままではただの女装にしか見えないだろう。
すると絢斗さんはスタッフさんに言ってウイッグを用意してくれた。
それをつけると確かに女性っぽくなる。間近で見られない限りは男性とは気づかれないかもしれない。
ラシードみたいに鍛えた身体なら確実に無理だっただろうが、これならいけそうだ。
筋肉がつかない華奢で身長が低いことをコンプレックスに思っていたこともあったが、その体型が功を奏する時があったのだな。
「これでメイクしたらバッチリだね! 初詣当日は、ヘアセットとメイクだけ敬介くんに頼んでおくからそれを終えてから、卓さんの実家に来てくれたらいいよ。実家はあのクリスマスパーティーをやったお家ね。そこで私と直くんが今みたいに着付けするから」
その提案は嬉しいが、ヘアセットと化粧をしてホテルから磯山先生のご実家に伺う際の服を持っていない。
女性に変装をして服だけ男物をきているのもおかしな話だ。
すぐに車に乗り込むとはいえ、やはりそこは気になるところだ。
それを告げると、絢斗さんはなんでもない表情でこの後服を買いに行こうと言い出した。
その当然のような話し方に、私は頷くしかなかった。
「それじゃあ私も着替えようかな」
そう言ってさっと着物を選んだ絢斗さんは直と一緒に試着室に入って行った。
私はその間、自分が変身した姿を鏡に映して見ていたが、
「とてもよくお似合いですよ」
と褒められて少し照れてしまう。
でもラシードが気に入ってくれるなら……
どんな反応をしてくれるのか楽しみでたまらない。
絢斗さんが着替えを済ませて直と一緒に試着室から出てくる。
やはり絢斗さんはすごい人だ。
落ち着きのある二十代だと思えるほどとてもよく似合っていた。
早速見せに行こうと誘われてついていく。
「卓さーん。試着してみたよー!」
まるで大学生のようなはしゃいだ声をかけて、ラシードたちが待っている場所に向かうと私の目に和装姿のとてつもなくかっこいいラシードが目に飛び込んできた。
「えっ…‥」
英語も忘れてしまうほど、茫然とラシードに見入っていると、ラシードも目を丸くして私を見つめていた。
『タモツ!』
愛しい声で名前を呼ばれてハッと我に返ったと同時に、大きくて大好きなラシードの腕に抱きしめられる。
『タモツ。なんて美しいんだ。私だけの女神…‥』
耳元でそんな甘い言葉を囁かれる。
『ラシードも素敵。すごくカッコよくて見惚れたよ』
『タモツ……愛してるよ』
ラシードがそう囁いてくれた時、少し離れた場所から
「昇さん、大好き……」
と直の声が聞こえてきた。
その声に反応したラシードが、直が何を言ったのか尋ねてくる。
『昇くんが、大好きだって』
そう教えると、ピクリと眉を顰める。
『幸せそうだからいいじゃない。ラシード、ヤキモチ妬かないで』
そう告げると、隣でも絢斗さんが磯山先生に同じ言葉を告げているのが聞こえる。
『可愛い息子の恋愛を見守るというのは、なんとも複雑なものなのだな』
ポツリと呟いたラシードの言葉に、磯山先生が頷いているのが見えて、私は絢斗さんと顔を見合わせて笑ってしまった。
ラシードと磯山先生は似たもの同士なのかもしれないな。
あなたにおすすめの小説
「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った
歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。
だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」
追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。
舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。
一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。
「もう、残業はしません」
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される
木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。
婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。
やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。
「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
「その薬草は毒かもしれぬ」と追放された令嬢薬師——領地に疫病が広がったとき、彼女の薬草園はもう枯れていた
歩人
ファンタジー
侯爵令嬢リリアーナは、母から受け継いだ薬草園「星霜の庭」を守り、領民の病を癒す薬師。
だがある日、新任侍医マティアスが讒言した。
「あの令嬢の薬草は怪しい。毒が混じっているかもしれない」
父も婚約者クラウスも、それを信じた。
追放されたリリアーナが辿り着いたのは、辺境の村ノルトハイム。
老薬草師ヘルダに導かれ、荒れ地に新たな薬草園を拓く。
飄々とした若き領主ルシアンの体には、母から受け継いだ「銀花毒」が二十三年間潜んでいた。
誰にも治せなかったその毒を、リリアーナは治すと決める。
一方、薬師を失った星霜の庭は枯れ果て、疫病が元の領地を襲う。
マティアスの教科書通りの処方は何一つ効かない。
「戻ってこい」——使者が届けた手紙に、リリアーナは静かに答えた。
「わたくしの薬草は、毒でしたか?」
『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました
小池 月
BL
大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。
壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。
加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。
大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。
そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。
☆BLです。全年齢対応作品です☆
本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます
青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。
藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。
溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。
その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。
目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。
前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。
リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。
アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。
当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。
そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。
ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。
彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。
やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。
これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。