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直くんの友だちだから
「私の可愛い息子の一花と、その夫の征哉くんだ」
その説明に保さんは一瞬何が起こったのか呆気に取られていた様子だった。
「こんにちは。貴船一花です。直くんのお父さん、初めまして!」
何事もなかったように屈託のない笑顔で明るく挨拶する一花さんに、保さんはただ茫然としていた。
けれどすぐにハッと我にかえり、保さんは会長と一花さんたちに向かって手を畳につき土下座をした。
「申し訳ありません! 私はあなたにどれだけ詫びても許されないことを……っ、う゛、うっ……っ」
一花さんと会って感極まった保さんの悲しい叫びのような声が、嗚咽と共に聞こえて、部屋の中は一瞬にしてしんと静まり返った。
日本語がわからないラシード殿下には今の櫻葉会長や、一花さんと保さんのやりとりはわかっていないだろう。
だが、隣で突然泣き始めた保さんを見て、状況を悟ったようだ。
これまでずっとそばで支えていたんだから保さんの反応ですぐに気づくのも当然かもしれない。
声を発することなく保さんをそっと抱きしめる。
その様子を見て、一番最初に言葉を発したのは直くんだった。
サッと保さんの横に駆け寄って、庇うように一花さんに声をかけた。
「あの、お父さんは本当に一花さんに申し訳ないと思っていて……それで……」
直くんの必死な様子を見て、一花さんは優しい笑顔を向けた。
「直くん。大丈夫だよ。僕、直くんのお父さんに会えて嬉しいんだ。今日、会えることになって大喜びで来たんだよ」
「えっ……」
驚く直くんの横で、保さんも驚きながら顔を上げる。
「わぁ、直くんとお父さん。そっくり! ねぇ、征哉さん」
「ああ。そうだな。よく似ている」
貴船会長がそう告げると、一花さんは嬉しそうにまた直くんたちを見た。
「直くんのお父さん。僕、直くんのお友だちになったんです。今、すごく幸せなので昔のことはぜーんぶ忘れました。だから何も気にしないでください」
その言葉に、保さんはまた大きな声をあげて泣いていた。
でもその声にはもう悲しみは感じられなかった。
言葉が理解できなくても、ラシード殿下にも保さんのその感情の変化はわかったみたいだ。
殿下は保さんに寄り添いながらも一花さんに視線を向けた。
一花さんは殿下とは初対面。でも貴船会長から教えられているみたいだ。
すると、一花さんは殿下にも笑顔を向けゆっくりと口を開いた。
『ぼく、きふねいちか、です。えっと、しあわせなので、だいじょーぶです』
拙いながらも、一花さんの口から英語が出てきて俺たちはみんな驚いた。
『一花が勉強したいと言ってね、少し前から勉強を始めたんだ。その成果が少しずつだが出ているようだ』
いやいや、効果が出ているなんてもんじゃない。
だって、一花さんは今まで勉強できる環境になかった。
それがこの短期間でこんなに話せれば十分だ。
ラシード殿下は一花さんに『ありがとう、心から感謝する』と返した。
それを貴船会長から教えてもらった一花さんは笑顔を見せる。
その笑顔に、殿下はホッとした表情を見せていた。
「一花くん。すごいよ。これからどんどん上達するね」
絢斗さんに褒められて一花さんも嬉しそうだ。
「さぁ、せっかくうちのカフェにきてもらったことだし、お茶にしよう」
「わぁー! 直くん、あのね、一花が考えたメニューがあるんだ! それ食べてほしい!」
「えっ? 一花さんが? わぁ、食べたいです!!」
直くんの嬉しそうな声に、保さんもようやく顔を上げて笑顔を見せた。
これでもう何も憂いはなさそうだ。
「わふっ、わふっ」
どこからともなく、犬が鳴いている声が聞こえる。
「この声……」
「あ! そうだ、直くんとあやちゃんにも会わせたくて連れてきたんだ。征哉さん……」
一花さんがそういうと、貴船会長が壁の陰からペット用のケージを運んできた。
「わぁー、フランくんだ! あっ、グリちゃんもいる!」
直くんがケージを覗き込んで声を上げると、
「えっ、会いたい!」
と絢斗さんが立ち上がった。
そうだ、絢斗さん。ウサギが大好きなんだっけ。
嬉しそうに駆け寄っていく絢斗さんの姿を、伯父さんは静かに見守っているようだった。
その説明に保さんは一瞬何が起こったのか呆気に取られていた様子だった。
「こんにちは。貴船一花です。直くんのお父さん、初めまして!」
何事もなかったように屈託のない笑顔で明るく挨拶する一花さんに、保さんはただ茫然としていた。
けれどすぐにハッと我にかえり、保さんは会長と一花さんたちに向かって手を畳につき土下座をした。
「申し訳ありません! 私はあなたにどれだけ詫びても許されないことを……っ、う゛、うっ……っ」
一花さんと会って感極まった保さんの悲しい叫びのような声が、嗚咽と共に聞こえて、部屋の中は一瞬にしてしんと静まり返った。
日本語がわからないラシード殿下には今の櫻葉会長や、一花さんと保さんのやりとりはわかっていないだろう。
だが、隣で突然泣き始めた保さんを見て、状況を悟ったようだ。
これまでずっとそばで支えていたんだから保さんの反応ですぐに気づくのも当然かもしれない。
声を発することなく保さんをそっと抱きしめる。
その様子を見て、一番最初に言葉を発したのは直くんだった。
サッと保さんの横に駆け寄って、庇うように一花さんに声をかけた。
「あの、お父さんは本当に一花さんに申し訳ないと思っていて……それで……」
直くんの必死な様子を見て、一花さんは優しい笑顔を向けた。
「直くん。大丈夫だよ。僕、直くんのお父さんに会えて嬉しいんだ。今日、会えることになって大喜びで来たんだよ」
「えっ……」
驚く直くんの横で、保さんも驚きながら顔を上げる。
「わぁ、直くんとお父さん。そっくり! ねぇ、征哉さん」
「ああ。そうだな。よく似ている」
貴船会長がそう告げると、一花さんは嬉しそうにまた直くんたちを見た。
「直くんのお父さん。僕、直くんのお友だちになったんです。今、すごく幸せなので昔のことはぜーんぶ忘れました。だから何も気にしないでください」
その言葉に、保さんはまた大きな声をあげて泣いていた。
でもその声にはもう悲しみは感じられなかった。
言葉が理解できなくても、ラシード殿下にも保さんのその感情の変化はわかったみたいだ。
殿下は保さんに寄り添いながらも一花さんに視線を向けた。
一花さんは殿下とは初対面。でも貴船会長から教えられているみたいだ。
すると、一花さんは殿下にも笑顔を向けゆっくりと口を開いた。
『ぼく、きふねいちか、です。えっと、しあわせなので、だいじょーぶです』
拙いながらも、一花さんの口から英語が出てきて俺たちはみんな驚いた。
『一花が勉強したいと言ってね、少し前から勉強を始めたんだ。その成果が少しずつだが出ているようだ』
いやいや、効果が出ているなんてもんじゃない。
だって、一花さんは今まで勉強できる環境になかった。
それがこの短期間でこんなに話せれば十分だ。
ラシード殿下は一花さんに『ありがとう、心から感謝する』と返した。
それを貴船会長から教えてもらった一花さんは笑顔を見せる。
その笑顔に、殿下はホッとした表情を見せていた。
「一花くん。すごいよ。これからどんどん上達するね」
絢斗さんに褒められて一花さんも嬉しそうだ。
「さぁ、せっかくうちのカフェにきてもらったことだし、お茶にしよう」
「わぁー! 直くん、あのね、一花が考えたメニューがあるんだ! それ食べてほしい!」
「えっ? 一花さんが? わぁ、食べたいです!!」
直くんの嬉しそうな声に、保さんもようやく顔を上げて笑顔を見せた。
これでもう何も憂いはなさそうだ。
「わふっ、わふっ」
どこからともなく、犬が鳴いている声が聞こえる。
「この声……」
「あ! そうだ、直くんとあやちゃんにも会わせたくて連れてきたんだ。征哉さん……」
一花さんがそういうと、貴船会長が壁の陰からペット用のケージを運んできた。
「わぁー、フランくんだ! あっ、グリちゃんもいる!」
直くんがケージを覗き込んで声を上げると、
「えっ、会いたい!」
と絢斗さんが立ち上がった。
そうだ、絢斗さん。ウサギが大好きなんだっけ。
嬉しそうに駆け寄っていく絢斗さんの姿を、伯父さんは静かに見守っているようだった。
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