ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

文字の大きさ
630 / 755

直くんの友だちだから

「私の可愛い息子の一花と、その夫の征哉くんだ」

その説明に保さんは一瞬何が起こったのか呆気に取られていた様子だった。

「こんにちは。貴船一花です。直くんのお父さん、初めまして!」

何事もなかったように屈託のない笑顔で明るく挨拶する一花さんに、保さんはただ茫然としていた。
けれどすぐにハッと我にかえり、保さんは会長と一花さんたちに向かって手を畳につき土下座をした。

「申し訳ありません! 私はあなたにどれだけ詫びても許されないことを……っ、う゛、うっ……っ」

一花さんと会って感極まった保さんの悲しい叫びのような声が、嗚咽と共に聞こえて、部屋の中は一瞬にしてしんと静まり返った。
日本語がわからないラシード殿下には今の櫻葉会長や、一花さんと保さんのやりとりはわかっていないだろう。
だが、隣で突然泣き始めた保さんを見て、状況を悟ったようだ。
これまでずっとそばで支えていたんだから保さんの反応ですぐに気づくのも当然かもしれない。
声を発することなく保さんをそっと抱きしめる。

その様子を見て、一番最初に言葉を発したのは直くんだった。
サッと保さんの横に駆け寄って、庇うように一花さんに声をかけた。

「あの、お父さんは本当に一花さんに申し訳ないと思っていて……それで……」

直くんの必死な様子を見て、一花さんは優しい笑顔を向けた。

「直くん。大丈夫だよ。僕、直くんのお父さんに会えて嬉しいんだ。今日、会えることになって大喜びで来たんだよ」

「えっ……」

驚く直くんの横で、保さんも驚きながら顔を上げる。

「わぁ、直くんとお父さん。そっくり! ねぇ、征哉さん」

「ああ。そうだな。よく似ている」

貴船会長がそう告げると、一花さんは嬉しそうにまた直くんたちを見た。

「直くんのお父さん。僕、直くんのお友だちになったんです。今、すごく幸せなので昔のことはぜーんぶ忘れました。だから何も気にしないでください」

その言葉に、保さんはまた大きな声をあげて泣いていた。
でもその声にはもう悲しみは感じられなかった。
言葉が理解できなくても、ラシード殿下にも保さんのその感情の変化はわかったみたいだ。

殿下は保さんに寄り添いながらも一花さんに視線を向けた。

一花さんは殿下とは初対面。でも貴船会長から教えられているみたいだ。
すると、一花さんは殿下にも笑顔を向けゆっくりと口を開いた。

『ぼく、きふねいちか、です。えっと、しあわせなので、だいじょーぶです』

拙いながらも、一花さんの口から英語が出てきて俺たちはみんな驚いた。

『一花が勉強したいと言ってね、少し前から勉強を始めたんだ。その成果が少しずつだが出ているようだ』

いやいや、効果が出ているなんてもんじゃない。
だって、一花さんは今まで勉強できる環境になかった。
それがこの短期間でこんなに話せれば十分だ。

ラシード殿下は一花さんに『ありがとう、心から感謝する』と返した。
それを貴船会長から教えてもらった一花さんは笑顔を見せる。
その笑顔に、殿下はホッとした表情を見せていた。

「一花くん。すごいよ。これからどんどん上達するね」

絢斗さんに褒められて一花さんも嬉しそうだ。

「さぁ、せっかくうちのカフェにきてもらったことだし、お茶にしよう」

「わぁー! 直くん、あのね、一花が考えたメニューがあるんだ! それ食べてほしい!」

「えっ? 一花さんが? わぁ、食べたいです!!」

直くんの嬉しそうな声に、保さんもようやく顔を上げて笑顔を見せた。
これでもう何も憂いはなさそうだ。

「わふっ、わふっ」

どこからともなく、犬が鳴いている声が聞こえる。

「この声……」

「あ! そうだ、直くんとあやちゃんにも会わせたくて連れてきたんだ。征哉さん……」

一花さんがそういうと、貴船会長が壁の陰からペット用のケージを運んできた。

「わぁー、フランくんだ! あっ、グリちゃんもいる!」

直くんがケージを覗き込んで声を上げると、

「えっ、会いたい!」

と絢斗さんが立ち上がった。

そうだ、絢斗さん。ウサギが大好きなんだっけ。

嬉しそうに駆け寄っていく絢斗さんの姿を、伯父さんは静かに見守っているようだった。
感想 1,424

あなたにおすすめの小説

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

愛さないと言われた妻、侍女と出て行く

菜花
ファンタジー
お前を愛することはないと夫に言われたコレットは、その日のうちに侍女のイネスと屋敷を出て行った。カクヨム様でも投稿しています。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

一人、辺境の地に置いていかれたので、迎えが来るまで生き延びたいと思います

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
大きなスタンビートが来るため、領民全てを引き連れ避難する事になった。 しかし、着替えを手伝っていたメイドが別のメイドに駆り出された後、光を避けるためにクローゼットの奥に行き、朝早く起こされ、まだまだ眠かった僕はそのまま寝てしまった。用事を済ませたメイドが部屋に戻ってきた時、目に付く場所に僕が居なかったので先に行ったと思い、開けっ放しだったクローゼットを閉めて、メイドも急いで外へ向かった。 全員が揃ったと思った一行はそのまま領地を後にした。 クローゼットの中に幼い子供が一人、取り残されている事を知らないまま

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

継子いじめで糾弾されたけれど、義娘本人は離婚したら私についてくると言っています〜出戻り夫人の商売繁盛記〜

野生のイエネコ
恋愛
後妻として男爵家に嫁いだヴィオラは、継子いじめで糾弾され離婚を申し立てられた。 しかし当の義娘であるシャーロットは、親としてどうしようもない父よりも必要な教育を与えたヴィオラの味方。 義娘を連れて実家の商会に出戻ったヴィオラは、貴族での生活を通じて身につけた知恵で新しい服の開発をし、美形の義娘と息子は服飾モデルとして王都に流行の大旋風を引き起こす。 度々襲来してくる元夫の、借金の申込みやヨリを戻そうなどの言葉を躱しながら、事業に成功していくヴィオラ。 そんな中、伯爵家嫡男が、継子いじめの疑惑でヴィオラに近づいてきて? ※小説家になろうで「離婚したので幸せになります!〜出戻り夫人の商売繁盛記〜」として掲載しています。