ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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除夕の鐘

<side直>

「直くん、除夕の鐘を鳴らしに行こうよ」

大晦日の夕方、昇さんからそんな誘いを受けた。

「じょ、せきのかね?」

「うん。直くんは除夜の鐘って知ってる?」

「はい。確か、大晦日の夜から元旦にかけてお寺で鳴らすって……」

人間の煩悩の数だけ鐘をつくんだったかな。
そんな話を読んだことがある。

「そうそう。それ。三丁目にあるお寺でも毎年除夜の鐘を鳴らすんだけどさ、去年から夕方に鳴らすようになったんだ」

「そうなんですか?」

「うん。住宅街にあるから夜中に鳴らすのはうるさかったり人が集まりすぎて大変みたい」

そんな事情があるんだな。

「前もって予約できたから俺と直くんで一回鳴らせるようにしたんだ。だから、行こう!」

「わぁー! 行きたいです!」

「じゃあ着替えて出かけようか。俺、伯父さんたちに話してくるからコート持ってリビングに来て」

そう言って昇さんはすぐに部屋を出て行った。
僕はクローゼットからコートを取り出して、リビングに向かった。

「直くん。鐘を鳴らしに行くんだって?」

「はい。昇さんが誘ってくれて……」

「そっか。気をつけて行っておいで」

「パパとあやちゃんは行かないんですか?」

「ご飯の用意して待ってるよ。寒いからあったかくしてね」

昇さんと二人で外出か。これって、初めてかも。
なんだかドキドキする。

僕がコートを羽織るとあやちゃんがマフラーを首に巻いてくれる。

「直くん。風邪をひくといけないからこれを持って行って」

パパが渡してくれたのは暖かいカイロ。

「ポケットに入れておくんだよ」

「はい。パパ。ありがとう」

すぐにポケットに入れると、服の中から身体に伝わってじんわりとあったかい。

そうしてパパとあやちゃんに見送られながら僕は昇さんと家を出た。

<side昇>

伯父さん家の近くのお寺で除夜の鐘を撞かせてくれるのは知っていた。
俺も昔行ったことがある。
その時は夜中だったけど、いつもと違う体験ですごく楽しかったことを覚えている。
真夜中だから直くんを連れて行くのはどうかなと思っていたけれど、去年同様に今年も夕方鐘を撞くと聞いて一応予約をとった。
直くんの体調で行けるかどうかわからなかったからギリギリまで話すのはやめておいたけど、誘ったら喜んでくれて嬉しかった。

伯父さんには予約を取る前に話をしていた。
もし、直くんが当日嫌がったり、体調を崩していたら行かないと約束をした。

直くんからオッケーをもらってすぐに伯父さんに話をしに行った。

「直くん。行きたいって言ってくれたよ」

「そうか。近所だし、昇がついているなら二人で出かけても構わない。その代わり、絶対に危険な目に遭わせないように気をつけるんだぞ。しっかりな」

伯父さんが直くんを大切にしていることはよく知っている。
だから今まではまだ二人っきりで外に出かけたことはなかった。

でも直くんを取り巻く環境が変わり、新学期からは学校にも通えるようになる。
そんな中で伯父さんの考えも少し緩和になったんだろう。

二人で外に出る。
ただそれだけのことだけど、俺と直くんにとっては大きな一歩だ。

「大丈夫。ちゃんと笑顔で連れて帰ってくるから」

伯父さんにはっきりと言い切って俺は直くんと一緒に家を出た。

この前は蓮見さんのところで買った洋服ともこもこのコートとマフラーをつけた直くんと、同じような服でまとめた俺。
もちろん首には直くんが編んでくれたマフラーを巻いている。

絢斗さんが直くんにプレゼントした手編みの手袋をつけた可愛い直くんと二人で外を歩くと行き交う人がチラチラと直くんをみているのがわかる。
見惚れたような表情をしているから、俺はしっかりと直くんを抱き寄せて歩く。

「寒いからくっついてて」

そう言えば直くんのほうからも素直に俺に寄り添ってくれた。

「昇さんと一緒だとあったかいですね」

そんな可愛いことを言ってくれる。
十分ほど歩いてお寺に着くと、大きな鐘を囲むように十数人が並んでいた。

「あの鐘を撞くんですか?」

「そうだよ。重いから一緒に綱を握って鐘を撞こう」

「楽しみー!」

そうして日没が近づいてきた頃、先頭に並んでいた人が鐘の前に案内された。
ゴォーーーンと厳かな鐘の音があたりに響く。
けれど、うるさいという感情はまったく感じなかった。

「この音、すごくいいですね。なんだか一年間のいろんなことを思い出させてくれます」

この一年、半分以上は直くんにとって辛かっただろう。

「大丈夫?」

嫌なことを思い出したんじゃないかと心配になって尋ねたけれど直くんからは笑顔が返ってきた。

「はい。すごく楽しいことをいっぱい経験できました」

「そうか、よかった」

そう話している間に、俺たちの順番が来た。

「直くん。行こう」

一緒に階段を上がり、一緒に手を合わせてお辞儀をする。
撞木についている紐を一緒に握り何度か揺らしてから、息を合わせた。

「行くよ!」
「はい!」

思いっきり鐘にあてると、ゴォーーーンと遠くまで音が響いた。
この時の鐘の音を俺は一生忘れることはないだろう。
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