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それぞれの大晦日 <夜>
<side寛>
大晦日の日。
卓たち家族とラシード殿下と保さんを元日から迎え入れる準備をしっかりと整えておくために、私と賢将さんは年越しを私の家で過ごすことになった。
クリスマスの後もちょくちょくきて必要な食材を冷凍しておいたり、風通しをよくしたりしているから年末年始を過ごしても全く問題はない。
音葉屋さんから初詣に卓たちが着る着物や袴なども届き、それを撞木にかけて準備万端だ。
卓の着物姿はともかく昇の袴姿を見るのは楽しみだが、それ以上に直くんと絢斗くんの着物姿を見るのが待ち遠しい。
一緒に着物を着て初詣とは、一年前なら想像もできなかったことだ。
イリゼホテルに頼んでおいた豪華なおせち料理も届いた。
それと別に筑前煮などの煮物、寒鰤や真鯛などの刺身盛り、そして雑煮を振る舞うことにしている。
そして馴染みの蕎麦屋に年越し蕎麦を注文しておいたからそれもそれそろ届く頃だ。
そう思っているうちにちょうど蕎麦がやってきた。
今日は賢将さんが海老天を揚げてくれるから、年越しは天ぷらそばで一杯やる予定だ。
絢斗くんも秋穂さんも海老が大好物ということもあって、緑川家では年越しそばは海老天が基本だったようだ。
私が筑前煮を作っている横で、手際よく海老天の準備をしている賢将さんを見るのは実に微笑ましい。
「多分卓の家でも年越しそばは海老天だろうな」
「ええ。絢斗だけでなく直くんも海老は大好物ですからね」
「あの二人は本当の親子のようによく似ている」
卓によく似た昇を直くんが好きになってくれたところから、それはよくわかる。
「あ、雪が降ってきましたよ」
賢将さんのその声に庭に目をやれば、チラチラと花びらのように舞っているのが見える。
「こたつに入って天ぷらそばを食べながら雪見酒と行きましょうか」
「ははっ。それはいい」
賢将さんとこうして年越しを過ごすのもいいものだ。
可愛い孫と愛しい伴侶の話をしながら、年を越すとしよう。
明日はこの家も大いに賑わう。
きっと沙都も秋穂さんもその賑わいを楽しみにきてくれることだろう。
<side卓>
長年二人っきりで過ごしてきた年越しだったが、今年は可愛い息子の直くんと、将来の息子になる昇と一緒に四人での年越し。直くんと出会う前ならやはり新年を共に迎えるのは絢斗だけでいいと思っていたが、今は直くんや昇の成長を絢斗と一緒に見守りたいという気持ちが出てきた。
私にはないと思っていた父性がどうやらあったようだ。
子どもたちと過ごしつつ、絢斗とも愛を育む。
それがさらに幸せが増していく気がする。
今日も直くんと昇が二人で外出をしている間に、絢斗との時間をたっぷりと堪能した。
そして、「パパー、あやちゃん。ただいまー!」と元気に帰ってきてくれた直くんから外出先の楽しい話を聞く。
今はそれが充実していると思える。
私はすっかり父親になったみたいだ。
「いっぱい人が並んでて、自分の順番が来た時ちょっと緊張しました」
「直くんと昇くんの鐘の音、ここまで聞こえていたよ。あの音、すごくいいね」
直くんと絢斗が楽しそうに会話をしているのを見守りつつ、昇と年越しそばの準備に取り掛かる。
「何も問題はなかったようだな」
「うん。直くんに見惚れていたやつがいっぱいいたから直くんの手を一度も離さなかったよ」
「そうか。それは偉かったな。これからもそれで頼むぞ。守れるなら近場に出かけるくらいは私の許可は取らなくてもいい」
「えっ、ほんと? ありがとう! 大丈夫、絶対に守るよ!」
よほど今日の二人の外出が楽しかったんだろう。
私にも覚えがあるからよくわかる。
保護者がいない二人だけのデートがどれだけ楽しかったか……
昇にも直くんを守る重要さがわかっているなら任せよう。
いつか完全に直くんを任せるその日まで少しずつ。
<side毅>
息子と、兄の養子になった直くんたちとみんなでクリスマスを過ごそうと思って日本に帰国した。
たくさんのプレゼントを渡して、直くんの初めてのクリスマスパーティーを楽しむくらいの気持ちだったが、想像以上に濃厚な日々を過ごすことになった。
その濃厚な怒涛の日々は、法学部を目指していた息子が受験一ヶ月を前に医学部に行くから浪人するという話を聞いたことから始まった。
息子の話も聞かずにいきなり怒鳴りつけ、フランスに連れ帰ろうとした私が悪かったが、まさか兄から雷を落とされるとは夢にも思っていなかった。
兄に叱られたこともショックだったが、まだまだ子どもだと思っていた昇が直くんと出会ったことで心がずいぶんと大人になっていたこともショックだったし、驚きもあった。
医学部を目指すのも直くんと一生共に過ごすため。
それを知ったら反対などできなかった。
そして気持ちを新たにクリスマスパーティーを楽しんでいたら、突然サンタクロースが現れ、直くんと昇にプレゼントを渡して消え去った。
しかも昇のプレゼントは驚くほどの高級車。
それにも驚いたが、何より驚いたのはサンタのプレゼントの車に直くんの本当の父親が乗っていたことだった。
しかもカマル王国の王子も一緒に。
直くんと父親が突然の再会に涙し、和解するまでを見守ることができたこともすごかったが、一緒にきた王子と直くんの実父が恋仲だということは、昇の進路変更に次ぐ驚きの出来事だったのかもしれない。
数時間の間にかなりの衝撃を受けた後、残りの滞在を楽しむため、兄さんたち家族と一緒に出かけ、二葉と直くんと絢斗さんをスイーツビュッフェに連れて行ったり、買い物を楽しむのを見守ったり……かなり濃厚な時間を過ごした。
フランスに戻る時は、四人で見送りに来てくれて二葉はかなり名残惜しそうにしていた。
それはフランスに帰りたくないということではなく、日本が楽しすぎたということだろう。
フランス行きの飛行機の中では、今度いつ帰国できるかしらとその話ばかり。
直くんの高校入学をお祝いするときに行ければいいが……
そんな話をしつつ私たちは日本を後にしフランスに戻った。
そうして今日は大晦日。
日本ほどイベントはないが、年越しの際にセーヌ川に花火が上がる。
二人でそれを楽しむとしようか。
来年はどんな年になるか……
日本から送られてくる動画が楽しみでたまらない。
大晦日の日。
卓たち家族とラシード殿下と保さんを元日から迎え入れる準備をしっかりと整えておくために、私と賢将さんは年越しを私の家で過ごすことになった。
クリスマスの後もちょくちょくきて必要な食材を冷凍しておいたり、風通しをよくしたりしているから年末年始を過ごしても全く問題はない。
音葉屋さんから初詣に卓たちが着る着物や袴なども届き、それを撞木にかけて準備万端だ。
卓の着物姿はともかく昇の袴姿を見るのは楽しみだが、それ以上に直くんと絢斗くんの着物姿を見るのが待ち遠しい。
一緒に着物を着て初詣とは、一年前なら想像もできなかったことだ。
イリゼホテルに頼んでおいた豪華なおせち料理も届いた。
それと別に筑前煮などの煮物、寒鰤や真鯛などの刺身盛り、そして雑煮を振る舞うことにしている。
そして馴染みの蕎麦屋に年越し蕎麦を注文しておいたからそれもそれそろ届く頃だ。
そう思っているうちにちょうど蕎麦がやってきた。
今日は賢将さんが海老天を揚げてくれるから、年越しは天ぷらそばで一杯やる予定だ。
絢斗くんも秋穂さんも海老が大好物ということもあって、緑川家では年越しそばは海老天が基本だったようだ。
私が筑前煮を作っている横で、手際よく海老天の準備をしている賢将さんを見るのは実に微笑ましい。
「多分卓の家でも年越しそばは海老天だろうな」
「ええ。絢斗だけでなく直くんも海老は大好物ですからね」
「あの二人は本当の親子のようによく似ている」
卓によく似た昇を直くんが好きになってくれたところから、それはよくわかる。
「あ、雪が降ってきましたよ」
賢将さんのその声に庭に目をやれば、チラチラと花びらのように舞っているのが見える。
「こたつに入って天ぷらそばを食べながら雪見酒と行きましょうか」
「ははっ。それはいい」
賢将さんとこうして年越しを過ごすのもいいものだ。
可愛い孫と愛しい伴侶の話をしながら、年を越すとしよう。
明日はこの家も大いに賑わう。
きっと沙都も秋穂さんもその賑わいを楽しみにきてくれることだろう。
<side卓>
長年二人っきりで過ごしてきた年越しだったが、今年は可愛い息子の直くんと、将来の息子になる昇と一緒に四人での年越し。直くんと出会う前ならやはり新年を共に迎えるのは絢斗だけでいいと思っていたが、今は直くんや昇の成長を絢斗と一緒に見守りたいという気持ちが出てきた。
私にはないと思っていた父性がどうやらあったようだ。
子どもたちと過ごしつつ、絢斗とも愛を育む。
それがさらに幸せが増していく気がする。
今日も直くんと昇が二人で外出をしている間に、絢斗との時間をたっぷりと堪能した。
そして、「パパー、あやちゃん。ただいまー!」と元気に帰ってきてくれた直くんから外出先の楽しい話を聞く。
今はそれが充実していると思える。
私はすっかり父親になったみたいだ。
「いっぱい人が並んでて、自分の順番が来た時ちょっと緊張しました」
「直くんと昇くんの鐘の音、ここまで聞こえていたよ。あの音、すごくいいね」
直くんと絢斗が楽しそうに会話をしているのを見守りつつ、昇と年越しそばの準備に取り掛かる。
「何も問題はなかったようだな」
「うん。直くんに見惚れていたやつがいっぱいいたから直くんの手を一度も離さなかったよ」
「そうか。それは偉かったな。これからもそれで頼むぞ。守れるなら近場に出かけるくらいは私の許可は取らなくてもいい」
「えっ、ほんと? ありがとう! 大丈夫、絶対に守るよ!」
よほど今日の二人の外出が楽しかったんだろう。
私にも覚えがあるからよくわかる。
保護者がいない二人だけのデートがどれだけ楽しかったか……
昇にも直くんを守る重要さがわかっているなら任せよう。
いつか完全に直くんを任せるその日まで少しずつ。
<side毅>
息子と、兄の養子になった直くんたちとみんなでクリスマスを過ごそうと思って日本に帰国した。
たくさんのプレゼントを渡して、直くんの初めてのクリスマスパーティーを楽しむくらいの気持ちだったが、想像以上に濃厚な日々を過ごすことになった。
その濃厚な怒涛の日々は、法学部を目指していた息子が受験一ヶ月を前に医学部に行くから浪人するという話を聞いたことから始まった。
息子の話も聞かずにいきなり怒鳴りつけ、フランスに連れ帰ろうとした私が悪かったが、まさか兄から雷を落とされるとは夢にも思っていなかった。
兄に叱られたこともショックだったが、まだまだ子どもだと思っていた昇が直くんと出会ったことで心がずいぶんと大人になっていたこともショックだったし、驚きもあった。
医学部を目指すのも直くんと一生共に過ごすため。
それを知ったら反対などできなかった。
そして気持ちを新たにクリスマスパーティーを楽しんでいたら、突然サンタクロースが現れ、直くんと昇にプレゼントを渡して消え去った。
しかも昇のプレゼントは驚くほどの高級車。
それにも驚いたが、何より驚いたのはサンタのプレゼントの車に直くんの本当の父親が乗っていたことだった。
しかもカマル王国の王子も一緒に。
直くんと父親が突然の再会に涙し、和解するまでを見守ることができたこともすごかったが、一緒にきた王子と直くんの実父が恋仲だということは、昇の進路変更に次ぐ驚きの出来事だったのかもしれない。
数時間の間にかなりの衝撃を受けた後、残りの滞在を楽しむため、兄さんたち家族と一緒に出かけ、二葉と直くんと絢斗さんをスイーツビュッフェに連れて行ったり、買い物を楽しむのを見守ったり……かなり濃厚な時間を過ごした。
フランスに戻る時は、四人で見送りに来てくれて二葉はかなり名残惜しそうにしていた。
それはフランスに帰りたくないということではなく、日本が楽しすぎたということだろう。
フランス行きの飛行機の中では、今度いつ帰国できるかしらとその話ばかり。
直くんの高校入学をお祝いするときに行ければいいが……
そんな話をしつつ私たちは日本を後にしフランスに戻った。
そうして今日は大晦日。
日本ほどイベントはないが、年越しの際にセーヌ川に花火が上がる。
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来年はどんな年になるか……
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