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第二部
可愛い彼
広々とした来客用駐車場には賢将さんの車と、もう一台の高級車が止まっていた。
「これ、小田切くんの車かな。相変わらずセンスがいいけど、ちょっと趣味が変わったかも」
絢斗のいう通り、以前見たことがある小田切くんの車とは違って、目の前にあるのはレトロな可愛らしいフォルムの二人乗りの外車。ただ、中はしっかりと手を加えて最新モデルにカスタマイズされているようだ。それだけでも数百万はくだらない。
「おそらく、相手の子の好みの車なんだろう」
「小田切くんが相手に合わせて車を買うとはねぇ。可愛いところもあるね」
「ははっ。最愛ができればそういうものだよ」
可愛いフォルムの車が好きな絢斗はすっかりこの車が気に入ったみたいだ。
「絢斗が欲しければ私も新しい車を買うよ」
「そうだね。直くんとのお出かけ用に買ってもいいね」
確かに絢斗と直くんがこの車でドライブ……
可愛いしかないな。
早速年明けにでも懇意にしているディーラーに話をしてみるとするか。
いや、希少なものなら倉橋くんに話をしたほうがすぐに見つかるかもしれないな。
そんなことを考えつつ、私たちは日下部家の玄関チャイムを鳴らした。
「はーい」
その楽しげな声だけで絢斗は誰だかわかったようだ。
「敦己くん。絢斗だよー」
「すぐに開けまーす!」
はしゃぐ声に、絢斗が来るのを待ち望んでいたというのがありありと感じられた。
それからすぐに玄関の扉が開き、笑顔の敦己くんと上田くんに迎えられる。
「絢斗先生、磯山先生。あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう。敦己くん、元気そうだね。上田くんに優しくしてもらってる?」
「えっ、は、はい。あの……すごく優しくしてもらってます」
出会って早々に言われるとは思っていなかったんだろう。
真っ赤な顔をしつつも、敦己くんは幸せそうな表情を浮かべた。
「上田くん、よかったな」
「はい。先生方のおかげです」
「いやいや、私たちは何もしてないよ」
「いえ、お二人の仲睦まじい姿を拝見していたので、私も敦己と出会って諦めずに済みましたから……」
それは男同士の付き合いという点でのハードルの高さを言っているのだろう。
確かに好意を持った相手が同性だとわかった時点で恋愛が成就する可能性は低いと思ってしまう。
それでも諦められない。幸せにしている人もいるんだから……
そんな考えが彼の背中を押したのなら嬉しいことだ。
「みんな、お二人が来るのを楽しみにしてましたよ。どうぞ中に」
「ありがとう。直くんもみんなと一緒に?」
もしかしたら玄関に出迎えに来てくれているかと思ってちょっと期待していた。
話が弾んでいるのなら仕方ないが、少し寂しく思ってしまったのは事実だ。
「直くん、今お昼寝してるんです。昇くんも一緒に」
お昼寝と聞いて少し驚いたし、ホッとした。
それだけここが直くんにとって寛げる空間だったということだ。
「そうか、それならよかった」
「まだお二人が来ることは話をしていないんで、きっと驚きますよ。楽しいサプライズになりますね」
敦己くんのいたずらっ子のような表情を上田くんが優しく見守る。
二人の相性はぴったりなようだ。
案内されたリビングに入ると、父と賢将さんがこちらを向く。
絢斗を見て、少しホッとした表情を見せたのが伝わってきた。
持たされたカニクリームコロッケを車に置き忘れると予想されていたのだから、当然と言えば当然の反応かもしれない。
日下部さんと雅也さんにまず新年の挨拶をすると、絢斗の周りにはすぐに大智くんたちが集まってきた。
そして、早速紹介しているのが、小田切くんの最愛の子だろう。
「絢斗先生。この子が暁くん。仕事でバディを組んでいて、すごく優秀な子ですよ」
さっと絢斗の目の前に押し出された彼は、顔を真っ赤にしながら挨拶をする。
「あ、あの……智さんの恩師の方だと伺いました。僕、小田切暁です。よろしくお願いします」
ウサギのようにビクビクしながらぺこりと頭を下げるその子をじっと見つめていた絢斗は、彼が頭を上げたタイミングで一歩前に出た。
「わぁー! 可愛い! 私、絢斗だよ。よろしくね」
そう言って、小さな彼をギュッと抱きしめた。
* * *
いつも読んでいただきありがとうございます!
このお話も今話で700話となりました。
ここまで長くなるとは思ってなかったですが、これからの毎日楽しんでいただけるように
続けていきたいと思っています。
これからもどうぞよろしくお願いします。
「これ、小田切くんの車かな。相変わらずセンスがいいけど、ちょっと趣味が変わったかも」
絢斗のいう通り、以前見たことがある小田切くんの車とは違って、目の前にあるのはレトロな可愛らしいフォルムの二人乗りの外車。ただ、中はしっかりと手を加えて最新モデルにカスタマイズされているようだ。それだけでも数百万はくだらない。
「おそらく、相手の子の好みの車なんだろう」
「小田切くんが相手に合わせて車を買うとはねぇ。可愛いところもあるね」
「ははっ。最愛ができればそういうものだよ」
可愛いフォルムの車が好きな絢斗はすっかりこの車が気に入ったみたいだ。
「絢斗が欲しければ私も新しい車を買うよ」
「そうだね。直くんとのお出かけ用に買ってもいいね」
確かに絢斗と直くんがこの車でドライブ……
可愛いしかないな。
早速年明けにでも懇意にしているディーラーに話をしてみるとするか。
いや、希少なものなら倉橋くんに話をしたほうがすぐに見つかるかもしれないな。
そんなことを考えつつ、私たちは日下部家の玄関チャイムを鳴らした。
「はーい」
その楽しげな声だけで絢斗は誰だかわかったようだ。
「敦己くん。絢斗だよー」
「すぐに開けまーす!」
はしゃぐ声に、絢斗が来るのを待ち望んでいたというのがありありと感じられた。
それからすぐに玄関の扉が開き、笑顔の敦己くんと上田くんに迎えられる。
「絢斗先生、磯山先生。あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう。敦己くん、元気そうだね。上田くんに優しくしてもらってる?」
「えっ、は、はい。あの……すごく優しくしてもらってます」
出会って早々に言われるとは思っていなかったんだろう。
真っ赤な顔をしつつも、敦己くんは幸せそうな表情を浮かべた。
「上田くん、よかったな」
「はい。先生方のおかげです」
「いやいや、私たちは何もしてないよ」
「いえ、お二人の仲睦まじい姿を拝見していたので、私も敦己と出会って諦めずに済みましたから……」
それは男同士の付き合いという点でのハードルの高さを言っているのだろう。
確かに好意を持った相手が同性だとわかった時点で恋愛が成就する可能性は低いと思ってしまう。
それでも諦められない。幸せにしている人もいるんだから……
そんな考えが彼の背中を押したのなら嬉しいことだ。
「みんな、お二人が来るのを楽しみにしてましたよ。どうぞ中に」
「ありがとう。直くんもみんなと一緒に?」
もしかしたら玄関に出迎えに来てくれているかと思ってちょっと期待していた。
話が弾んでいるのなら仕方ないが、少し寂しく思ってしまったのは事実だ。
「直くん、今お昼寝してるんです。昇くんも一緒に」
お昼寝と聞いて少し驚いたし、ホッとした。
それだけここが直くんにとって寛げる空間だったということだ。
「そうか、それならよかった」
「まだお二人が来ることは話をしていないんで、きっと驚きますよ。楽しいサプライズになりますね」
敦己くんのいたずらっ子のような表情を上田くんが優しく見守る。
二人の相性はぴったりなようだ。
案内されたリビングに入ると、父と賢将さんがこちらを向く。
絢斗を見て、少しホッとした表情を見せたのが伝わってきた。
持たされたカニクリームコロッケを車に置き忘れると予想されていたのだから、当然と言えば当然の反応かもしれない。
日下部さんと雅也さんにまず新年の挨拶をすると、絢斗の周りにはすぐに大智くんたちが集まってきた。
そして、早速紹介しているのが、小田切くんの最愛の子だろう。
「絢斗先生。この子が暁くん。仕事でバディを組んでいて、すごく優秀な子ですよ」
さっと絢斗の目の前に押し出された彼は、顔を真っ赤にしながら挨拶をする。
「あ、あの……智さんの恩師の方だと伺いました。僕、小田切暁です。よろしくお願いします」
ウサギのようにビクビクしながらぺこりと頭を下げるその子をじっと見つめていた絢斗は、彼が頭を上げたタイミングで一歩前に出た。
「わぁー! 可愛い! 私、絢斗だよ。よろしくね」
そう言って、小さな彼をギュッと抱きしめた。
* * *
いつも読んでいただきありがとうございます!
このお話も今話で700話となりました。
ここまで長くなるとは思ってなかったですが、これからの毎日楽しんでいただけるように
続けていきたいと思っています。
これからもどうぞよろしくお願いします。
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