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第二部
旅立つ二人に
<side寛>
<明日、ラシード殿下と保さんを見送りに行くんですが、もしよかったら父さんたちも一緒にどうですか?>
卓からそんなメッセージが送られてきた。
答えはもちろんオッケーでしかあり得ない。
空港での待ち合わせ時間をきいて、私は賢将さんに話をした。
「ちょうどよかったですね。殿下と保さんに直接これを渡せますね」
賢将さんはテーブルに置いていた小さなUSBを笑顔で手に取った。
これには、ここしばらく二人で作っていたラシード殿下と保さんへの贈り物が入っている。
中身は、これまでの直くんの思い出。
クリスマスや正月といった、殿下と保さんも一緒に過ごした思い出はもちろん、私たちが直くんと知り合ってからこれまでの全ての映像と一緒に、卓たちからもらった征哉くんと一花くんの結婚式での映像も入っている。
「渡す前に一緒に見てみましょうか」
賢将さんの提案に喜んでのり、壁掛けの大きなスクリーンにその映像を投影した。
最初に出てきたのは、賢将さんと直くんの初対面のシーン。
熱を出して賢将さんが往診に来たのが初めてだったか。
起きてきた直くんが賢将さんに「おじいちゃん」と声をかけて抱きついてくる姿が現れ、賢将さんは涙を潤ませているようだった。きっとその時のことを思い出しているのだろう。
それから、結婚式の直くんの可愛らしいドレス姿。
蝶々が直くんの髪飾りのようについていて実に可愛らしい。
「この時の表情も明るいが、今はさらに明るくなりましたね」
「ああ。自然な笑顔が増えたな」
それだけ卓たち家族の愛に包まれているということなんだろう。
みんなに囲まれてドレス姿の直くんとキスをする昇の映像もある。
角度的にこれは貴船の未知子さんが撮ったものだろう。
頬に軽く唇を当てているだけだから、ラシード殿下も嫉妬はされないだろう。
そのあとは水族館の映像。
子どもらしくはしゃぐ姿に思わず笑みが溢れる。
絢斗くんと一緒にイルカに餌をやるシーンは可愛らしくて何度でも見たくなる。
水族館のレストランで初めてのハンバーガーにかぶりつく直くんの姿も微笑ましい。
ソースがついた唇を指で拭ってやる昇の姿もしっかり映っている。
「きっと、これもいつかはキスで舐め取ってあげるようになるんでしょうね」
「ははっ。そうだな」
初々しい二人の姿もこうして残っていれば、いつか懐かしいと思える日が来るんだろう。
賢将さんの家で、直くんとお好み焼きを作った映像もたまらなく可愛い。
そして私との初めての対面。
おじいちゃんが二人になって何て呼べばいいのか、戸惑っていたのも可愛い思い出だ。
私のために握ってくれた小さなおにぎり。
愛情が詰まったおにぎりは沙都のそれと同じくらい美味しかった。
そして我が家の蔵を楽しんでいた直くん。
アルバムを見て喜んでくれていた。
初めての手巻き寿司に少し興奮気味の直くんも可愛らしかった。
カールくんたちと一緒に外出した映像も入っている。
「あの時、犯人を捕まえた寛さんの大立ち回り。あのあと警察から聞いて私でもかっこいいと思いましたよ」
「まだまだ若いものには負ける気はしないな」
年齢はかなりいったが、日々鍛えた身体は伊達じゃない。
いつか沙都の元に行った時に、かっこいいと言ってもらえるように私は今でも鍛錬を欠かさない。
弱って老いぼれになった姿など沙都に見せるわけにいかないからな。
直くんの言葉で賢将さんと暮らすことを決めてからは毎日楽しくて仕方がない。
やはり話し相手がいるというのは日々の生活にハリが出るものだ。
その上、可愛い孫を持つという共通点があるからお互いに楽しく過ごせるのだろう。
クリスマスの映像は何度見ても微笑ましい。
日下部さんの熱演のおかげで、直くんはサンタクロースの正体には気づいていない。
それどころか、本当にサンタクロースが保さんを連れてきてくれたと思ってくれているようだ。
二人が心を通い合わせる姿は、やはり涙が出てしまう。
お互いに思い遣っていたからこそすれ違っていた気持ちが、もう一度一つになるのは見ているだけで幸せな気持ちにしてくれる。
そうして、すれ違っていた時間を補うように直くんと保さんの距離はどんどん縮んでいった。
それに一役買ったのはラシード殿下の存在だろう。
直くんは一人日本に残った自分だけが幸せになったことに罪悪感を感じていた。
遠い異国で、母親の代わりに償い続ける保さんに申し訳ないと思っていたようだ。
それがラシード殿下が保さんを守ってくれていた。
それが直くんの罪悪感を取り去ってくれたからこそ、二人は距離を縮めることができたのだろう。
周平くんと浅香くんからもらったスイーツビュッフェでの映像も付け加えて、かなり長い思い出アルバムができたと思う。
これをあちらに帰る機内でも、そして二人の家でも楽しんでもらえたらいい。
「これはラシード殿下も保さんも喜びますね」
きっと今頃、直くんも二人のために贈り物を用意していることだろう。
明日、空港で会うのが楽しみだな。
「明日絢斗に、桜守の初登校の映像もしっかり撮っておくように言っておきますよ」
「そうだな。私も卓にしっかりと伝えておこう」
直くんの新しい人生の第一歩だ。
きちんと思い出に残してやるとしよう。
<明日、ラシード殿下と保さんを見送りに行くんですが、もしよかったら父さんたちも一緒にどうですか?>
卓からそんなメッセージが送られてきた。
答えはもちろんオッケーでしかあり得ない。
空港での待ち合わせ時間をきいて、私は賢将さんに話をした。
「ちょうどよかったですね。殿下と保さんに直接これを渡せますね」
賢将さんはテーブルに置いていた小さなUSBを笑顔で手に取った。
これには、ここしばらく二人で作っていたラシード殿下と保さんへの贈り物が入っている。
中身は、これまでの直くんの思い出。
クリスマスや正月といった、殿下と保さんも一緒に過ごした思い出はもちろん、私たちが直くんと知り合ってからこれまでの全ての映像と一緒に、卓たちからもらった征哉くんと一花くんの結婚式での映像も入っている。
「渡す前に一緒に見てみましょうか」
賢将さんの提案に喜んでのり、壁掛けの大きなスクリーンにその映像を投影した。
最初に出てきたのは、賢将さんと直くんの初対面のシーン。
熱を出して賢将さんが往診に来たのが初めてだったか。
起きてきた直くんが賢将さんに「おじいちゃん」と声をかけて抱きついてくる姿が現れ、賢将さんは涙を潤ませているようだった。きっとその時のことを思い出しているのだろう。
それから、結婚式の直くんの可愛らしいドレス姿。
蝶々が直くんの髪飾りのようについていて実に可愛らしい。
「この時の表情も明るいが、今はさらに明るくなりましたね」
「ああ。自然な笑顔が増えたな」
それだけ卓たち家族の愛に包まれているということなんだろう。
みんなに囲まれてドレス姿の直くんとキスをする昇の映像もある。
角度的にこれは貴船の未知子さんが撮ったものだろう。
頬に軽く唇を当てているだけだから、ラシード殿下も嫉妬はされないだろう。
そのあとは水族館の映像。
子どもらしくはしゃぐ姿に思わず笑みが溢れる。
絢斗くんと一緒にイルカに餌をやるシーンは可愛らしくて何度でも見たくなる。
水族館のレストランで初めてのハンバーガーにかぶりつく直くんの姿も微笑ましい。
ソースがついた唇を指で拭ってやる昇の姿もしっかり映っている。
「きっと、これもいつかはキスで舐め取ってあげるようになるんでしょうね」
「ははっ。そうだな」
初々しい二人の姿もこうして残っていれば、いつか懐かしいと思える日が来るんだろう。
賢将さんの家で、直くんとお好み焼きを作った映像もたまらなく可愛い。
そして私との初めての対面。
おじいちゃんが二人になって何て呼べばいいのか、戸惑っていたのも可愛い思い出だ。
私のために握ってくれた小さなおにぎり。
愛情が詰まったおにぎりは沙都のそれと同じくらい美味しかった。
そして我が家の蔵を楽しんでいた直くん。
アルバムを見て喜んでくれていた。
初めての手巻き寿司に少し興奮気味の直くんも可愛らしかった。
カールくんたちと一緒に外出した映像も入っている。
「あの時、犯人を捕まえた寛さんの大立ち回り。あのあと警察から聞いて私でもかっこいいと思いましたよ」
「まだまだ若いものには負ける気はしないな」
年齢はかなりいったが、日々鍛えた身体は伊達じゃない。
いつか沙都の元に行った時に、かっこいいと言ってもらえるように私は今でも鍛錬を欠かさない。
弱って老いぼれになった姿など沙都に見せるわけにいかないからな。
直くんの言葉で賢将さんと暮らすことを決めてからは毎日楽しくて仕方がない。
やはり話し相手がいるというのは日々の生活にハリが出るものだ。
その上、可愛い孫を持つという共通点があるからお互いに楽しく過ごせるのだろう。
クリスマスの映像は何度見ても微笑ましい。
日下部さんの熱演のおかげで、直くんはサンタクロースの正体には気づいていない。
それどころか、本当にサンタクロースが保さんを連れてきてくれたと思ってくれているようだ。
二人が心を通い合わせる姿は、やはり涙が出てしまう。
お互いに思い遣っていたからこそすれ違っていた気持ちが、もう一度一つになるのは見ているだけで幸せな気持ちにしてくれる。
そうして、すれ違っていた時間を補うように直くんと保さんの距離はどんどん縮んでいった。
それに一役買ったのはラシード殿下の存在だろう。
直くんは一人日本に残った自分だけが幸せになったことに罪悪感を感じていた。
遠い異国で、母親の代わりに償い続ける保さんに申し訳ないと思っていたようだ。
それがラシード殿下が保さんを守ってくれていた。
それが直くんの罪悪感を取り去ってくれたからこそ、二人は距離を縮めることができたのだろう。
周平くんと浅香くんからもらったスイーツビュッフェでの映像も付け加えて、かなり長い思い出アルバムができたと思う。
これをあちらに帰る機内でも、そして二人の家でも楽しんでもらえたらいい。
「これはラシード殿下も保さんも喜びますね」
きっと今頃、直くんも二人のために贈り物を用意していることだろう。
明日、空港で会うのが楽しみだな。
「明日絢斗に、桜守の初登校の映像もしっかり撮っておくように言っておきますよ」
「そうだな。私も卓にしっかりと伝えておこう」
直くんの新しい人生の第一歩だ。
きちんと思い出に残してやるとしよう。
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