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第二部
ミモザに行こう!
「理央くんは、大学にかなり馴染んでいるようだな」
「うん。観月くんがずっと一緒だから、安心できるみたい。ほぼ全ての講義に一緒に参加してるから、二人はニコイチって感じかな」
大学には、観月くんが自らある程度の事情を話して、一人では講義を受けさせるのが心配だってかけあったみたい。
それで、法学部で月に数回、特別講師を引き受ける代わりに、理央くんの保護者として一緒に講義を受ける権利を得たらしい。観月くんが講師として講義に参加しているときは、理央くんの保護者として秀吾くんが隣にいてくれている。
多分一人だったら不安でたまらなかっただろうけど、観月くんと秀吾くんのおかげで理央くんが楽しんで大学に通えているのは嬉しいことだ。
「成績はどんな感じだ? ってそれは愚問か」
「観月くんがいるから、もちろん他の子より理解度は早いけど、何より理央くん自身の勉学に対する意欲が他の子よりずば抜けているからね。私の講義は優上しか取ったことないよ。多分他の講義も同じじゃないかな」
桜城大学の成績の評価で法学部では優上、優、良、可、不可の五段階で表記する。
私は結構厳しめに採点するけれど、理央くんは文句なしで優上。
それは観月くんも同じだったけどね。
基本的に、私の講義で優上の評価を取れた学生だけが私のゼミに入る資格がある、ということにしている。
理央くんにもぜひ入ってほしいところだったけれど、彼は来年にもフランスのシュベルニー大学に編入する予定になっている。
私としては残念だけど、最初からそれを目指して頑張っているから、今は頑張ってほしい気持ちでいっぱいだ。
「理央くんと知り合うことは、直くんにとっていい刺激になるだろう」
「そうだね。お父さんたちが連れてきてくれてよかった」
「いや、直くんが絢斗に会いに行きたいって言ったんだよ。あの子は、いつでもお前や卓くんのことを考えているから」
そう言われて胸が熱くなる。
別行動をしていても、私たちのことを考えてくれているなんて……
直くんの優しさが嬉しい。
そんな話をしている間に、研究室に到着した。
扉を開けると、秀吾くんが本棚の間からひょこっと顔を出して、いつものように「お疲れさまでした」と声をかけてくれる。
だけど、今日は私の隣にお父さんがいるのが見えたようで、驚いた顔で飛び出してきた。
「緑川先生。どうして大学に?」
「ははっ。絢斗に会いにきたんだよ」
「先生だけ、ですか?」
さすが秀吾くん。お父さんが一人で来るのはおかしいなってわかっているみたい。
「直くんと磯山のお父さんも一緒だよ。それで、理央くんと観月くんも誘って、これからミモザに行くんだけど秀吾くんも一緒に行こう」
「えっ? そんな中に僕もお邪魔していいんですか?」
「何言ってるの! もちろんだよ。直くん、素敵なピアノのお店を教えてくれた秀吾くんに会いたいって言ってたよ」
そういうと、秀吾くんは嬉しそうに笑っていた。
「ね、一緒に行こう」
「はい。お邪魔します」
ということで、私たちは秀吾くんを連れて研究室を出た。
大学からミモザまでは歩いて行ける距離。
「直くんたちは、観月くんたちと一緒にもうミモザに入ってるからゆっくりできるよ」
「そうですね、このメンバーなら個室のほうがゆっくりできそうですもんね」
今頃、直くんは理央くんと楽しくおしゃべりしてるかな。
ふふ、楽しみだ。
<side寛>
「じゃあ、行っておこうか」
「はい。そうですね」
賢将さんと絢斗くんを見送り、私たちは法学部棟を出た。
理央くんはすっかり直くんを気に入ったようで、手を繋いでいる。
後ろを歩く観月くんが気にしているのが面白い。
あの観月くんがこんなふうになるとは、うちの事務所にいた頃には想像もしていなかったな。
彼も最愛の存在に出会ったら、普通の男だったってことか。
「毎日一緒に講義を受けているのか?」
「えっ、あ、はい。そうですね。ほぼ一緒に行動していますね。それを許してもらえたのでよかったと思っています」
「だが、観月くんには暇な講義じゃないか?」
「そうでもないですよ。基本を見直すのは悪いことじゃないですから」
それも全て理央くんのためだから、というのが伝わってくる。
理央くんに観月くんが必要なのはわかるが、それ以上に観月くんにとっても理央くんはなくてはならない存在なのだろうな。
目の前にミモザが現れた。
「ああ、久しぶりだな」
思わず溢れた言葉に観月くんがすぐに反応する。
「先生も大学時代はよく通っていらっしゃったんでしょう?」
「ああ。ここは本当にオアシスのような場所だったからな。沙都と初めて会った時もこの店に連れてきたんだ」
「そうでしたか」
懐かしい思い出は、いつ来ても色褪せることなく心を彩ってくれる。
ここで直くんと昇も思い出を作っていくのだろう。
私と沙都のように……
こうして引き継がれていくのも幸せなことだな。
「うん。観月くんがずっと一緒だから、安心できるみたい。ほぼ全ての講義に一緒に参加してるから、二人はニコイチって感じかな」
大学には、観月くんが自らある程度の事情を話して、一人では講義を受けさせるのが心配だってかけあったみたい。
それで、法学部で月に数回、特別講師を引き受ける代わりに、理央くんの保護者として一緒に講義を受ける権利を得たらしい。観月くんが講師として講義に参加しているときは、理央くんの保護者として秀吾くんが隣にいてくれている。
多分一人だったら不安でたまらなかっただろうけど、観月くんと秀吾くんのおかげで理央くんが楽しんで大学に通えているのは嬉しいことだ。
「成績はどんな感じだ? ってそれは愚問か」
「観月くんがいるから、もちろん他の子より理解度は早いけど、何より理央くん自身の勉学に対する意欲が他の子よりずば抜けているからね。私の講義は優上しか取ったことないよ。多分他の講義も同じじゃないかな」
桜城大学の成績の評価で法学部では優上、優、良、可、不可の五段階で表記する。
私は結構厳しめに採点するけれど、理央くんは文句なしで優上。
それは観月くんも同じだったけどね。
基本的に、私の講義で優上の評価を取れた学生だけが私のゼミに入る資格がある、ということにしている。
理央くんにもぜひ入ってほしいところだったけれど、彼は来年にもフランスのシュベルニー大学に編入する予定になっている。
私としては残念だけど、最初からそれを目指して頑張っているから、今は頑張ってほしい気持ちでいっぱいだ。
「理央くんと知り合うことは、直くんにとっていい刺激になるだろう」
「そうだね。お父さんたちが連れてきてくれてよかった」
「いや、直くんが絢斗に会いに行きたいって言ったんだよ。あの子は、いつでもお前や卓くんのことを考えているから」
そう言われて胸が熱くなる。
別行動をしていても、私たちのことを考えてくれているなんて……
直くんの優しさが嬉しい。
そんな話をしている間に、研究室に到着した。
扉を開けると、秀吾くんが本棚の間からひょこっと顔を出して、いつものように「お疲れさまでした」と声をかけてくれる。
だけど、今日は私の隣にお父さんがいるのが見えたようで、驚いた顔で飛び出してきた。
「緑川先生。どうして大学に?」
「ははっ。絢斗に会いにきたんだよ」
「先生だけ、ですか?」
さすが秀吾くん。お父さんが一人で来るのはおかしいなってわかっているみたい。
「直くんと磯山のお父さんも一緒だよ。それで、理央くんと観月くんも誘って、これからミモザに行くんだけど秀吾くんも一緒に行こう」
「えっ? そんな中に僕もお邪魔していいんですか?」
「何言ってるの! もちろんだよ。直くん、素敵なピアノのお店を教えてくれた秀吾くんに会いたいって言ってたよ」
そういうと、秀吾くんは嬉しそうに笑っていた。
「ね、一緒に行こう」
「はい。お邪魔します」
ということで、私たちは秀吾くんを連れて研究室を出た。
大学からミモザまでは歩いて行ける距離。
「直くんたちは、観月くんたちと一緒にもうミモザに入ってるからゆっくりできるよ」
「そうですね、このメンバーなら個室のほうがゆっくりできそうですもんね」
今頃、直くんは理央くんと楽しくおしゃべりしてるかな。
ふふ、楽しみだ。
<side寛>
「じゃあ、行っておこうか」
「はい。そうですね」
賢将さんと絢斗くんを見送り、私たちは法学部棟を出た。
理央くんはすっかり直くんを気に入ったようで、手を繋いでいる。
後ろを歩く観月くんが気にしているのが面白い。
あの観月くんがこんなふうになるとは、うちの事務所にいた頃には想像もしていなかったな。
彼も最愛の存在に出会ったら、普通の男だったってことか。
「毎日一緒に講義を受けているのか?」
「えっ、あ、はい。そうですね。ほぼ一緒に行動していますね。それを許してもらえたのでよかったと思っています」
「だが、観月くんには暇な講義じゃないか?」
「そうでもないですよ。基本を見直すのは悪いことじゃないですから」
それも全て理央くんのためだから、というのが伝わってくる。
理央くんに観月くんが必要なのはわかるが、それ以上に観月くんにとっても理央くんはなくてはならない存在なのだろうな。
目の前にミモザが現れた。
「ああ、久しぶりだな」
思わず溢れた言葉に観月くんがすぐに反応する。
「先生も大学時代はよく通っていらっしゃったんでしょう?」
「ああ。ここは本当にオアシスのような場所だったからな。沙都と初めて会った時もこの店に連れてきたんだ」
「そうでしたか」
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