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第二部
大人の空気
直くんを連れてトイレに入ると、小便器に数人の男が並んでいた。
一斉に直くんへ視線が集まる。
「昇。個室に連れて行きなさい」
そっと俺の耳元で囁いたじいちゃんに頷き、直くんを個室へ案内する。
嫌がるかと思ったけれど、桜守では個室を使うのが当たり前らしい。
絢斗さんも迷うことなく隣の個室に入っていった。
「私たちが見ておくから、昇は先に済ませなさい」
じいちゃんと大おじさんが個室前に残ってくれたのを確認し、俺と伯父さん、そして櫻葉会長が手早く用を済ませる。
こうして付き添いがいるのはありがたい。
さっと交代し、二人が出てくるのを待ってからトイレを後にした。
そうして、みんなで無事にトイレを済ませて出ると、ちょうど女子トイレから征哉さんのお母さんが出てきた。
「直くん。フードコートで何か飲み物か、食べ物を買って行きましょう」
征哉さんのお母さんの問いかけに、直くんはキョロキョロと辺りを見回す。
「えっと……」
少しずつ自分の希望を言えるようになってきた直くんだけど、ここは選択肢が多すぎて迷っているようだった。
そこへ絢斗さんが自然に助け舟を出す。
「直くん。あそこでプリンアイス買おうか」
「プリン、アイス?」
「うん。美味しいんだよ、一花ちゃんにも買っていこう!」
その言葉に直くんの顔がぱっと明るくなる。
「はい!」
絢斗さんと征哉さんのお母さんは直くんを間に挟み、店へ歩いていく。
俺たちは三人を守るように周りを固めて歩き出した。
「プリンアイス、四つくださーい!」
絢斗さんの声に、店員が振り向く。
「はい。ありが――」
言いかけたまま、表情が一気に固まった。
直くんと絢斗さんを見て、みるみる顔が赤くなっていく。
「プ、プリンアイス、ですね……」
「はい。四つともカップでお願いしますね」
「は、はい……」
慌ててアイスケースに向かうが、ディッシャーがうまく扱えず、何度か手元が揺れる。
三人の視線を受けていることに気づくと、さらに動きがぎこちなくなった。
「絢斗。直くんもこっちで座って待っていよう。できたら昇が持ってくるよ」
伯父さんがそう言うと、直くんと絢斗さんは素直に頷き、近くの席に移動した。
その席には伯父さんとじいちゃんが一緒に座って出来上がるのを待っている。
その間に店員は落ち着きを取り戻し、手際良く作業を進め始める。
「すみません。お待たせしてしまって……」
「いえ、大丈夫です」
一つ目のプリンアイスをカップに入れたところで、店員が小さく頭を下げた。
「その……あのお三人がすごく可愛くて、緊張してしまって……もしかして、芸能人さんですか? なんだかオーラがめちゃくちゃすごかったんですけど……」
小声でそう尋ねてくるのを見て、思わず納得する。
確かに、視線を集めるのも無理はない。
その言葉を聞いて、隣で大おじさんが笑った。
「ははっ。そうだろう。うちの子たちは可愛いんだ」
その言葉に、スタッフは大きく頷いた。
「綺麗な奥さまと、可愛らしい娘さんとお孫さんとお出かけなんて幸せですね」
「ああ、本当に幸せだよ」
店員は丁寧にプリンアイスを袋に入れて、こちらに渡してくれた。
支払いを済ませた大おじさんに、俺はこっそりと囁く。
「あの店員、絢斗さんを娘って……」
それだけじゃない、征哉さんのお母さんを大おじさんの奥さんだと思ったみたいだ。
まぁ、それは見えなくはないか。
「今の絢斗の格好なら見間違えても無理はないな。直くんも同じだ」
確かに今日の二人は、やけに目を惹く。
だからこそ、さっきトイレで視線を集めていたのかもしれない。
「今日は、人目の多いところに行くから十分気をつけるんだぞ」
改めて直くんと絢斗さんを守らなければ、という意識が芽生えた。
「じゃあ、車に戻ろうか」
直くんたちと合流し、フードコートの出口に向かう。
「あ、俺。コーヒー買っていくんだった」
「それならあそこのコーヒースタンドで買うといい」
じいちゃんに教えてもらい、俺と征哉さん。それに櫻葉会長とじいちゃんたちの分を頼み、紙袋に入れてもらう。
少し時間がかかったけれど、美味しそうなコーヒーの匂いがしている。
きっと征哉さんも気にいるだろう。
そうして、みんなでキャンピングカーに戻ると、征哉さんと一花さんがベッドに座って二人で楽しそうに過ごしていた。
二人の間に、甘ったるい空気が流れているのに気づいて、ちょっと頬が熱くなる。
やっぱり……したんだろうな。
夫夫なんだから、二人っきりになったら当然だとわかっていても、やっぱり他人のそういう空気を知るのはちょっとドキドキしてしまう。
やっぱり大人だな……
一斉に直くんへ視線が集まる。
「昇。個室に連れて行きなさい」
そっと俺の耳元で囁いたじいちゃんに頷き、直くんを個室へ案内する。
嫌がるかと思ったけれど、桜守では個室を使うのが当たり前らしい。
絢斗さんも迷うことなく隣の個室に入っていった。
「私たちが見ておくから、昇は先に済ませなさい」
じいちゃんと大おじさんが個室前に残ってくれたのを確認し、俺と伯父さん、そして櫻葉会長が手早く用を済ませる。
こうして付き添いがいるのはありがたい。
さっと交代し、二人が出てくるのを待ってからトイレを後にした。
そうして、みんなで無事にトイレを済ませて出ると、ちょうど女子トイレから征哉さんのお母さんが出てきた。
「直くん。フードコートで何か飲み物か、食べ物を買って行きましょう」
征哉さんのお母さんの問いかけに、直くんはキョロキョロと辺りを見回す。
「えっと……」
少しずつ自分の希望を言えるようになってきた直くんだけど、ここは選択肢が多すぎて迷っているようだった。
そこへ絢斗さんが自然に助け舟を出す。
「直くん。あそこでプリンアイス買おうか」
「プリン、アイス?」
「うん。美味しいんだよ、一花ちゃんにも買っていこう!」
その言葉に直くんの顔がぱっと明るくなる。
「はい!」
絢斗さんと征哉さんのお母さんは直くんを間に挟み、店へ歩いていく。
俺たちは三人を守るように周りを固めて歩き出した。
「プリンアイス、四つくださーい!」
絢斗さんの声に、店員が振り向く。
「はい。ありが――」
言いかけたまま、表情が一気に固まった。
直くんと絢斗さんを見て、みるみる顔が赤くなっていく。
「プ、プリンアイス、ですね……」
「はい。四つともカップでお願いしますね」
「は、はい……」
慌ててアイスケースに向かうが、ディッシャーがうまく扱えず、何度か手元が揺れる。
三人の視線を受けていることに気づくと、さらに動きがぎこちなくなった。
「絢斗。直くんもこっちで座って待っていよう。できたら昇が持ってくるよ」
伯父さんがそう言うと、直くんと絢斗さんは素直に頷き、近くの席に移動した。
その席には伯父さんとじいちゃんが一緒に座って出来上がるのを待っている。
その間に店員は落ち着きを取り戻し、手際良く作業を進め始める。
「すみません。お待たせしてしまって……」
「いえ、大丈夫です」
一つ目のプリンアイスをカップに入れたところで、店員が小さく頭を下げた。
「その……あのお三人がすごく可愛くて、緊張してしまって……もしかして、芸能人さんですか? なんだかオーラがめちゃくちゃすごかったんですけど……」
小声でそう尋ねてくるのを見て、思わず納得する。
確かに、視線を集めるのも無理はない。
その言葉を聞いて、隣で大おじさんが笑った。
「ははっ。そうだろう。うちの子たちは可愛いんだ」
その言葉に、スタッフは大きく頷いた。
「綺麗な奥さまと、可愛らしい娘さんとお孫さんとお出かけなんて幸せですね」
「ああ、本当に幸せだよ」
店員は丁寧にプリンアイスを袋に入れて、こちらに渡してくれた。
支払いを済ませた大おじさんに、俺はこっそりと囁く。
「あの店員、絢斗さんを娘って……」
それだけじゃない、征哉さんのお母さんを大おじさんの奥さんだと思ったみたいだ。
まぁ、それは見えなくはないか。
「今の絢斗の格好なら見間違えても無理はないな。直くんも同じだ」
確かに今日の二人は、やけに目を惹く。
だからこそ、さっきトイレで視線を集めていたのかもしれない。
「今日は、人目の多いところに行くから十分気をつけるんだぞ」
改めて直くんと絢斗さんを守らなければ、という意識が芽生えた。
「じゃあ、車に戻ろうか」
直くんたちと合流し、フードコートの出口に向かう。
「あ、俺。コーヒー買っていくんだった」
「それならあそこのコーヒースタンドで買うといい」
じいちゃんに教えてもらい、俺と征哉さん。それに櫻葉会長とじいちゃんたちの分を頼み、紙袋に入れてもらう。
少し時間がかかったけれど、美味しそうなコーヒーの匂いがしている。
きっと征哉さんも気にいるだろう。
そうして、みんなでキャンピングカーに戻ると、征哉さんと一花さんがベッドに座って二人で楽しそうに過ごしていた。
二人の間に、甘ったるい空気が流れているのに気づいて、ちょっと頬が熱くなる。
やっぱり……したんだろうな。
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やっぱり大人だな……
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