ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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パートナーの意味

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「法学部の、教授……」

目の前でにこやかな笑顔を見せてくれるこの絢斗さんが、法学部の教授……。

なんか教授って、ものすごい威厳があって怖い感じがするって勝手に思ってた。
しかも法学部だから、本当に怖そうだと思っていたのに……。

「ふふっ。そんなに意外だった?」

「あっ、いえ。そうじゃなくて……絢斗さん、すごく優しいから……ごめんなさい」

「ふふっ。いいよ。気にしないで。私も自分で教授っぽくないなって思ってるし」

「あ、あの……法学部の教授ってことは、絢斗さんも弁護士の資格を持ってるんですか?」

「ううん。持っている教授もいるし、昔は法学部で5年以上だったかな、教壇に立って教えると弁護士資格がもらえたりすることもあったみたいだけど、今はなくなっちゃったから。私はただ、専門的なことを教えているだけで、全てに詳しいわけじゃないんだよ」

「へぇー、そうなんですね。あの、じゃあパートナーって磯山先生に専門的なことを教えてるってことですか?」

そういうと、絢斗さんはにっこりと笑って、

「ちょっと話をしようか」

と手を止めて、僕の手を取って、近くのソファーに座らせてくれた。

隣に座る絢斗さんからはすごく優しくていい匂いがする。
磯山先生のどっしりとした安心感とはまた違って、ホッと落ち着けるような気がする。

「直純くんは、好きな人とかいる?」

「好きな、人……?」

父さんのことは好きだけど、そういうことを聞かれてるんじゃないよね。
ちょっと考えたけど、特に思いつく人が浮かんでこなくて、僕は顔を横に振った。

「そっか。じゃあ、これから出会えるんだね」

「出会う?」

「これからいろんな人と出会って、いい人だなとか優しい人だなとか、ちょっと合わないなとかいろんな感情が芽生えると思うけど、その中でずっと一緒にいたいなって思える人と必ず出会えるんだよ」

「ずっと一緒に……」

「そう。それが女性でも男性でも関係ないんだよ。自分の気持ちに素直になればいい」

「女性でも、男性でも……?」

「ふふっ。そうだよ。私にとって、ずっと一緒にいたいなって思える人が卓さんだったんだよ。そして、卓さんも私を同じように思ってくれて、今こうして一緒に住んでいるってわけ」

「絢斗さんと、磯山先生が……ずっと一緒にいたい人同士ってこと、ですか?」

そういうと、絢斗さんはとても綺麗な笑顔で微笑んでくれた。
その幸せそうな表情がものすごく印象的だった。

「でも、結婚って……男女でするものなんでしょう?」

「うーん、今の日本ではそうかな。でも世界中では男性同士、女性同士で結婚できる国もたくさんあるよ。だから、結婚とはこういうものだっていう決めつけはしないほうがいいかな。それに男女で結婚したほうが絶対に幸せだって決まっているわけでもないでしょう?」

そう言われて、ドキッとした。

確かにそうだ。
父さんと母さんももうこのまま離婚してしまうんだろう。

友達の両親も何組か離婚してて、お互いに傷つけあってもう二度と会いたくないって叫びあってて辛かったって友達が話していたのを聞いたこともある。

でも、磯山先生と絢斗さんはすごく幸せそうだ。

そうか……確かに人間と人間が好きになるんだもん。
男女じゃないとダメだなんてそんな制約を勝手に作らないほうがいい人に巡り会える選択肢だって広がるはずだ。

「直純くんはまだ14歳だもの。これから先、大人になってアメリカやヨーロッパで生活することになるかもしれない。そこでは隣に座った人が同性同士のカップルだってことも十分あることだよ。それがその国でも、その人たちにとっても普通のことなんだよ。だからね、みんな普通って言うけどそれは小さな範囲の中だけ。その範囲から出たらもうそれは普通じゃなくなるの」

「すごくよくわかります。僕も、ずっと母さんの言われるままにするのが普通だと思ってました。でも中学生になって、自分の家の普通が周りとは違うなってことに気づき始めて……でも、それを抜け出すこともできなかったけど、今こうして、そこから抜け出せて、新しい世界に入れたようでなんだかとっても嬉しいです」

「ふふっ。これからはここで、やりたいことをやってみたらいい。もちろん、悪いことをしたら叱るし、注意もする。でもそれで萎縮はしなくていい。こうしてみたいっていう意欲が人間には大事なことだから」

すごい、なんかスッと心に入ってくる。

「絢斗さん、ありがとうございます。僕……今までとは違う人間になれそうです」

「ふふっ。これでも人生の先輩だから、困ったことがあったり、悩みがあったらなんでも話してね」

「はい。僕、本当に嬉し――きゅるるっ――わっ!!」

「ふふっ。可愛い音が聞こえたね。そろそろ卓さんの料理もできることだから、行こうか」

お腹の音が聞こえても、お腹鳴らすなんて恥ずかしい子だ! なんて怒られることもない。
それどころか優しく手を差し出してくれて……。
僕はここにこられて本当によかった。

僕は幸せに満ち足りた気分で、絢斗さんの手を取った。

<side磯山>

絢斗がすぐに受け入れてくれてよかった。
何も相談せずとも絢斗ならわかってくれると信じていた。
直純くんも私や櫻葉さん、征哉くんといた時よりも随分ほっとした表情を見せていたし、絢斗の存在は直純くんにとってプラスになるだろう。

絢斗が直純くんと過ごしている間に、食事を作る。
さて、中学生の子は何が食べたいだろう。

何もわからないからとりあえずハンバーグでも作ってみようか。
そして、食事をしながら直純くんの好きなものでも尋ねてみよう。

一人分増えたことをなんだか嬉しく思いながら、私は冷蔵庫に手をかけた。

ご飯を炊き、ミネストローネと付け合わせの野菜を用意して、ハンバーグを焼き始めたところで

「いい匂い~!」

と絢斗の声が聞こえた。

「ああ、いいタイミングだったな。そろそろ声をかけに行こうと思っていたところだ」

「ふふっ。直純くんのお腹が教えてくれたんだよ」

絢斗の声に直純くんがさっと顔を赤らめる。

なるほど。そういうことか。
だが、お腹が空くのも無理はない。

食事も取らずに話をして、その後もお菓子にすら手をつけていなかったのだからな。

まぁ、あの状況でバクバク食べられるような精神は普通の子なら持ち合わせていないだろう。

「直純くん、今日はハンバーグだがソースは何がいい?」

「えっ、ソース?」

「和風ソースとかデミグラスソースとか、何か好きなものはある?」

絢斗が補足して尋ねると、

「いや、僕……食べたことないです……」

と小さな声が返って来た。

「そっか。卓さんの和風ソースのハンバーグ美味しいよ。今日はそれを試してみる?」

すかさず絢斗が返すと、直純くんは目を輝かせながら

「はい! 食べてみたいです!!」

と言ってくれた。

ああ、やはり絢斗がいてくれて助かる。
私だけならこんなにも素直に意見を言ってくれなかっただろう。

私はハンバーグが焦げないように注意しながら、和風ソースを手際よく作りソースポットに注いだ。

温めた鉄板の上に焼き上げたハンバーグを乗せ、ジュージューと音を立てたまま直純くんの前に置いた。

「熱いから火傷しないように」

「は、はい」

話し合いの場では冷静で大人びた子だという印象だったが、こうしてみると年相応に見える。
きっと無理をしていたのだろう。

「さぁ、いただこうか」

「はい。いただきます!」

熱々のハンバーグをまず最初に頬張る。
はふはふさせながら、食べる姿を見るのはなんとも楽しいものだ。

私も絢斗も眦を下げながら直純くんの食事風景を見守っていた。

食事が終わり、直純くんを風呂に入らせている間に絢斗に詳しい説明をする。

「――――というわけで、彼は一人になってしまったんだ。もう14歳の彼が入れる施設を探すにはかなり難しいだろう。だから、私がしばらく預かると話をしたんだ。絢斗には相談する時間もなく、申し訳ない」

「ふふっ。謝る必要なんてないですよ。私だって、その場にいたら同じことをしましたよ。それに直純くんみたいに可愛い子がうちに来てくれるなんて嬉しいじゃないですか。しばらくなんて言わずに、お父さんが戻ってくるまでうちで面倒みてはどうですか?」

「絢斗がそう言ってくれるならありがたいが、いいのか?」

「はい。もちろんです」

「そうか……ありがとう」

「あっ、そうだ! 卓さん、直純くんに私たちのことなんて話したんですか?」

「えっ? いや、特に話してはいないが、ああ……櫻葉さんが絢斗をパートナーだと言っていたから、もう気づいているかもしれないな」

そういうと、絢斗は楽しそうに笑った。

「なんだ? どうした?」

「直純くん、私を弁護士だと思ってましたよ。仕事上のパートナーだと思っていたみたいですね」

「えっ……そう、なのか?」

もう14歳だから、そういった知識もあると思っていたが、そうか……。

「ふふっ。大丈夫です。さっき話しておきましたから」

「それで、どうだった?」

「直純くん、本当に素直でいい子ですよ。私たちのこともちゃんと理解してくれてました」

「そうか……」

そんな話を聞いた後でもああやって自然に食事をしてくれたのだからな。
私なら、そんなに上手く話せなかったかもしれない。
やはり絢斗がいてくれて本当によかった。
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