ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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家族になったら

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仕事を終え、自宅に上がると出迎えがない。
不思議に思って中に入れば、絢斗は小さな口をモゴモゴさせていた。

どうやらタイミングが悪かったらしい。

直純くんが作ってくれたおにぎりを食べていたというのなら、出迎えがないのも仕方がないだろう。

私の分も作ってくれたというから、それを楽しみに絢斗と共に自室に入った。

着替える前に絢斗の唇を味わう。
おにぎりの味がするがそれはそれで新鮮でいいものだ。

絢斗は直純くんの手作りのおにぎりを食べて喜ぶ一方で顔を曇らせたのは、自分がおにぎりを作ることもできないからだ。

人には向き不向きというものが存在する。
絢斗はそれが顕著に出ているだけだ。

私たちの関係において、それが障害になったことは一度もない。
私は絢斗の手料理が食べたくて一緒にいるわけではないのだから。
そんなことよりも、絢斗が私の料理を食べて、美味しいと笑顔を見せてくれることが何よりも幸せなのだ。

絢斗は私を愛して、私の隣で笑っていてくれたらいい。
それが私の望みだ。

愛しい絢斗に着替えを手伝ってもらって、リビングに行くと直純くんの楽しげな声が聞こえる。

「昇のおかげで元気を取り戻しているようだな」

「うん。本当に昇くんがいてくれてよかったよ。二葉さんにも話をしておくね」

「ああ、そうだな。毅も出発前に直純くんに会いたいって言っていたし、うちに来てくれるならそろそろしてもいいだろう。我が家に来て貰えば、この家に昇が必要なのもわかってもらえるだろうしな」

「うん、そうだね」

「あっ、磯山先生!」

私たちが来たことに気づいた直純くんが、私の元におにぎりの持った皿を持って駆け寄ってくる。

「食べて、もらえますか……?」

「ああ、楽しみだよ」

その言葉でパッと花が咲いたように笑ってくれる。
そんな表情を見せられたらこちらも笑顔しか出ないな。

「伯父さん、どうぞ」

「ああ、ありがとう」

昇にお茶を淹れてもらうのもいいものだな。

小さなおにぎりを口に入れると、ほろほろと崩れて食べやすい。

「んっ、上手にできてる。美味しいよ」

私の感想に不安げな表情が一気に笑顔に変わる。
こんなにも感情豊かになったのだな。

この家に来たばかりの頃が嘘のようだ。

「ねぇねぇ、さっき何の話で盛り上がってたの?」

「あっ、えっと……」

直純くんは言ってもいいのかなという様子で昇に視線を向ける。
昇は直純くんを安心させるように笑顔を見せてから、私たちに口を開いた。

「直純くんが、この家の家族になったら伯父さんや絢斗さんをなんて呼ぼうかって話をしていたんだ」

「呼び方?」

「うん。直純くん、今は伯父さんのこと<磯山先生>って呼んでるだろ? 家族になったらそれは流石に呼び方を変えたほうがいいかなって」

「ああ、そっか。確かにそうだね」

昇の言葉に絢斗も賛同するが、当の私は何て呼ばれるのか少し緊張してしまう。

「それで、どう呼ぶか決めたの?」

「あの、やっぱり……僕にとって父さんはあの父さんでしかないので……」

もしかしたら私をお父さんと呼んでくれるかもしれないという期待も少なからずあったが、直純くんにとって父親と言えるのは保さんだけ。
それは私の戸籍に入り家族となっても変わらない事実だ。

「無理はしなくていい。いざとなれば今のままでも……」

直純くんに決して無理をしてほしくない一心で告げたのだが、

「あの、そうじゃなくて……もし、できるならパパって、呼んでもいいですか?」

と思いがけない言葉が耳に飛び込んできた。

「えっ?」

「わぁ! それいいっ!! すっごくいいよ!!」

驚く私の横で絢斗は自分のことのように喜んでいる。

「ねぇねぇ、練習で卓さんのこと呼んでみて!!」

「絢斗、そんなに無理させては……」

「パパ……っ」

「くっ――!!!」

目をキラキラと輝かせながらパパと呼ばれた瞬間、私の中に初めての感情が湧き上がる。

ああ、もう本当にこの子は私の子だ。
たとえ血のつながりがなくても、私はこの子を自分の子どもとして大切に育てて、保さんの分まで、直純くんの幸せを見届ける。
そんな感情でいっぱいになっていた。

「ふふっ。直純くん、卓さん……パパって呼ばれて喜んでるよ。ねぇ、じゃあ私のことは何て呼んでもらおうかな」

「えっ、絢斗さんは、絢斗さんですよね……」

「ええー、卓さんだけずるい! 戸籍上は私と直純くんは兄弟だから、お兄ちゃんか、あっ、あやちゃんでもいいよ」

「えっ……いい、んですか?」

「うん! もちろん!!」

絢斗の言葉に、直純くんは少し考えながらも

「あ、あやちゃん……っ」

「わぁーっ!! 嬉しい!! あやちゃん、いいね!! 決まりっ!!」

盛り上がる絢斗の横で直純くんはほんのり頬を赤らめて嬉しそうに笑っていた。
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