ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

文字の大きさ
41 / 678

呼び名を考えよう

しおりを挟む
<side昇>

直純くんが作ったおにぎりは伯父さんと絢斗さんのもの。
今日だけは仕方がない。

家族としてこれから過ごすことになるかもしれない伯父さんと絢斗さんへの、直純くんの気持ちなのだから。
俺はこうしてそばで支えられるだけで十分だ。

そんなことを思っていると、直純くんがボウルに残ったご飯で一口サイズにも満たないくらいの小さな小さなお米のまとまりを作っていた。

「直純くん、えらいね」

「だって、残したらもったいないですよ」

ご飯を一粒も残さないようにする。
そんなところにも好感が持てる。

「俺にちょうだい」

「えっ? いいんですか?」

「うん、直純くんの手から食べたい」

そんなわがままを言ってみた。
直純くんは少し驚いた様子だったけれど、あーんと開いていた俺の口に食べさせてくれた。

その好機を逃すはずもなく、直純くんの指も一緒に咥える。
それだけでただでさえ美味しいおにぎりが極上の味に変わるんだ。

「うん、美味しいね。これなら伯父さんも絢斗さんも喜んでくれるよ」

そういうと、嬉しそうに顔を綻ばせた。

直純くんにしてみれば、俺がただ味見をしただけだと思うかもしれない。
今はそれでいい。
俺とのスキンシップが普通だと思えるようになってくれたらそれでいいんだ。

俺の作ったおにぎりを美味しそうに頬張る直純くんの唇の端についたご飯粒をとって俺が食べるのも、当然のことだと思わせたらいい。
伯父さんと絢斗さんにはこれから、遠慮せずに直純くんの前で仲のいいところを見せつけてもらおうか。

それもこの家では当然のことだと思わせていくのも良さそうだ。

そんなことを考えていたのだが、絢斗さんが帰ってきた伯父さんと部屋に入っている時に、

「あの……僕、ちょっと考えたんですけど……」

と少し言いにくそうに直純くんが声をかけてきた。

もしかして、俺のスキンシップがうざいとか思われてたり?
いやいや、直純くんがうざいなんて思うわけない。

「もし……本当に、磯山先生と絢斗さんと家族になれたら……磯山先生をなんて呼んだらいいのかなって……」

想像とは真反対の言葉に、俺は一瞬驚いてしまった。

「えっ? ああ、そうか……そうだね。流石に先生だと家族っぽくないか。絢斗さんももっと気楽に呼んでもいいかもね」

「でも、何がいいですか?」

そう言って尋ねてくるということは、直純くんにとって伯父さんたちと家族になることは嫌ではないってことだ。
どちらかを選ばないといけないって思っていたことが、違うとわかったから気持ちも楽になったんだろうな。

でも伯父さんはなんて呼ばれたいんだろう……。
やっぱりお父さん?
いや、パパと呼ばれる伯父さんをみてみたい気もする。

「家族になるんだから、普通はお父さんかパパだろうな」

「――っ、お父さんか、パパ……。でも、僕からそんな呼び方されて嫌じゃないですか?」

「嫌だなんてあるわけないよ。伯父さんの方から直純くんを息子にしたいって言ったんだから、きっと呼ばれたいって思ってるよ」

「そう、なんですね……お父さんか、パパ……」

直純くんの口が何度も何度もお父さん、パパと動いている。
一体どっちを選ぶだろうな。

直純くんならどちらでも可愛いが、俺が突然父さんにパパと呼んだら驚くだろうな。
いや、驚くだけじゃない。

――お前、何か変なものでも食べたのか? 勉強のしすぎでおかしくなったか?

くらいのことは言われそうだ。

「まぁ、ゆっくり考えたらいいよ」

なんて話をしていると、伯父さんたちが部屋から出てきたことにいち早く直純くんが気づいた。

すぐにおにぎりを持って駆け出していくあたり、早く食べて欲しかったんだろうと微笑ましく思えた。

伯父さんが食べるのをドキドキしながら見つめる様子にも少し嫉妬してしまったが、伯父さんの美味しいという言葉に一気に破顔するのもかなり嫉妬してしまった。

俺、こんなに狭量じゃなかったはずなんだけどな。
やっぱり直純くんが特別だってことなんだろうな。


伯父さんがおにぎりを食べ終えたところで、俺たちが何を話していたのかと絢斗さんが尋ねてきた。
直純くんはその話をしていいのかと不安そうに俺をみてきたが、二人にとって嬉しい話だから隠すこともない。

二人をなんて呼ぶか話していたと素直に告げると、絢斗さんは興味津々に呼び方を聞いてきた。

まだそこまでは決めていなかったけれど、直純くんはなんていうんだろうな?

様子を窺っていると、直純くんの口から

「僕にとって父さんはあの父さんでしかないので……」

と出てくる。
まぁそうだろうな。

伯父さんに視線を向けると

「無理はしなくていい。いざとなれば今のままでも……」

なんていつもの口調で話しているけれど、明らかにがっかりしているのがわかる。
やっぱり直純くんにお父さんと呼ばれたかったんだろう。

がっかりしている伯父さんがちょっと可愛い。

後で慰めてやろうかなと思っていると、

「あの、そうじゃなくて……もし、できるならパパって、呼んでもいいですか?」

という直純くんの言葉に、伯父さんは信じられない! と言いたげだけど明らかに表情は嬉しそうでさっきとは比べ物にならない。

「パパ……っ」

直純くんの呼びかけに昇天するほど喜んでいるのがわかる。
今あの時のように、ダイニングテーブルに座っていたら伯父さんの足を蹴ってやったのに……。
残念だな。

でも、これで伯父さんもわかっただろう。
直純くんの可愛さに昇天して反応できなくなる時があることを。

俺はどんなに昇天してもすぐに反応できるように鍛錬しておくか。
かなりの時間を要しそうだが、大丈夫。
時間はたっぷりある。
直純くんと恋人になれるまでただひたすらに頑張るんだ。
しおりを挟む
感想 1,244

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について

いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。 実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。 ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。 誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。 「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」 彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。 現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。 それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

拗らせ問題児は癒しの君を独占したい

結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。 一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。 補習課題のペアとして出会った二人。 セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。 身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。 期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。 これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

処理中です...