ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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谷垣さんの過去

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「あの……底についてる粒々はなんですか?」

「ああ、それはね。ザラメって言ってお砂糖だよ」

「ああ、だから甘くて美味しいんですね」

不思議な食感に惹かれるように僕はあっという間にカステラを完食してしまっていた。

「気に入ってくれてよかったよ」

「はい。とっても美味しかったです」

そういうと、谷垣さんも、隣の男性も嬉しそうに笑っていた。

「そういえば絢斗。この谷垣くんは桜守出身だそうだよ。絢斗の後輩だな」

「ええー、本当?」

「はい。初等部から大学までお世話になりました」

そうか、谷垣さんも桜守出身なんだ。
だからかな、優しい雰囲気があやちゃんに似ていると思った。

「そうなんだ。直くんも、桜守に入る予定なんだよ。ねぇ、直くん」

「えっ、は、はい。編入試験に合格できたら……ですけど」

「大丈夫だって。直くんなら絶対に受かるよ。ねぇ、谷垣くん。私よりは最近の桜守を知っているはずだから、直くんにいろいろ教えてあげて」

「はい。私でよければ喜んで」

「あ、あのお願いします」

「うん。今はどんな勉強をしているのかな。よかったら見せてもらってもいい?」

「は、はい。あの、部屋に行きますか?」

「うん。案内してくれるかな?」

「はい。どうぞ」

そうか。
パパが、きてくれるお友達が僕と話がしたいって言ってたって教えてくれたけど、もしかして、僕の受験のために呼んでくれたのかな?
そういえばなんとなく先生みたいな雰囲気がしてる。

僕は立ち上がって、谷垣さんを部屋に案内した。
昇さんもパパもあやちゃんもリビングに残ったままで、二人だけというのは少し緊張したけれど、この人が優しいってことはわかっているから、大丈夫だ。

「ここです」

「扉のリースがすごくかわいいね」

「これはあやちゃ……絢斗さんに教えてもらって一緒に作ったんです」

「そうなんだ。無理して絢斗さんって呼ばなくても、いつも通りあやちゃんで構わないよ。僕に気を遣わなくていいからね」

「はい。ありがとうございます。あの、どうぞ」

扉を開けて中に入ると、谷垣さんはさっと部屋を見回して、

「すごく明るくて雰囲気のいい部屋だね。ここなら勉強も捗りそうだね」

と褒めてくれた。

僕の大好きな部屋を褒めてもらえて本当に嬉しい。

「どこまで勉強進んでるかな? ノートとか見せてもらってもいい?」

「はい。でも、教科書と参考書を見ながら自分でやってるので、間違えてばかりかも……」

「わからないときはどうしているのかな?」

「あの、あやちゃんや昇さんに教えてもらってます」

二人とも忙しいから、聞くのは申し訳ないなって思うけれど、いつでもなんでも聞いてって言ってくれるから嬉しいんだ。

「そっか、ちゃんとわからないことを聞けるのはいいことだよ。直純くん、よく頑張ってるね」

「――っ!!」

「んっ? どうかした?」

「あの……頑張ってるって、褒めてもらえるのが嬉しくて……」

「頑張ってるって言ってもらえないの?」

「あ、違うんです。この家ではみんな優しいからいつも頑張ってるって言ってもらえてます。でも、家では……僕が住んでいた実家では、いつもまだまだ頑張りが足りないって言われてて……」

「そうか……でもね。この家の人は優しいから褒めてるんじゃないよ」

「えっ……」

「直純くんが本当に頑張ってるから言いたくなるんだよ。他に理由はないよ」

「――っ!!」

僕が、頑張ってるから言いたくなる……。
そんなこと言われたの、初めてだ。

「ねぇ、直純くん。ちょっとだけ僕の話をしてもいいかな?」

「はい」

「僕はね、さっきも言ったように桜守大学の保健科学部というところをでて病院で怪我や病気をした人の支えになる仕事をしていたんだ。理学療法士って言うんだよ」

「理学、療法士……」

「そう。僕自身も子どもの時に足を骨折して、リハビリに通ってまた歩けるようになったから、その時の先生みたいになれたらいいなって思ったんだ。リハビリをする人は怪我をした人だけじゃなくて、病気でうまく身体が動かせなくなった人もいるんだけど、そのままにしておくと、身体はどんどん筋肉が衰えていって一人では何もできなくなってしまうから、毎日少しずつ努力して自分で身体を動かせるようにしていくんだよ。やる気があって一生懸命頑張る人は回復も早いし、そういう姿を見ていると、僕も一緒に頑張ろうって思えるんだ。そう言う人を見ると自然に頑張ってるって言いたくなっちゃうものだよ」

確かに、そうかも……。
できないことをやれるようになるまで頑張るって大変なことだもんね。

「リハビリを始めたころは自分の身体なのに思い通りに動かせないのが辛くて、泣き言を言う人もいっぱいいるけれど、それを乗り越えて、笑顔でリハビリを終えていく人を見ると支えになれてよかったなって思ったよ。だから、僕は理学療法士という仕事を天職だと思っていたんだ。でもね、ある時僕の兄が急に亡くなって、兄がやっていた仕事を引き継がないといけなくなったんだ」

「えっ……」

「兄は父の仕事を継いでいたんだけど、代わりに僕が継がないと会社が潰れてしまうと言われて、理学療法士の仕事を辞めて父の仕事を継ぐことにしたんだ」

「でも、天職だったのに……」

「うん。そうだね。今までとは全く違う慣れない仕事だったけれど、なんとか頑張るしかないと思ってやり続けていたんだけど、ある時無理して、大きなトラックを運転しなければいけなくなって……僕は事故を起こしたんだ」

「えっ、事故……?」

「うん。人を轢いてしまって、その子に一生歩けない傷を負わせてしまったんだよ」

「――っ!!!!」

思いがけない谷垣さんの話に、僕はもう声を出すこともできなくなっていた。
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