ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

文字の大きさ
100 / 678

まさかの名前

しおりを挟む
「ごめんね、驚かせすぎちゃったかな。ちょっとあっちに座ろうか」

びっくりしすぎた僕の手を取って、ソファーに座らせてくれると膝がくっつくほど近くに座って、僕の背中を優しく撫でてくれた。

「あ、あの……僕は、大丈夫です。それで、どうなったんですか?」

「僕は彼の人生を変えてしまった償いをしなければいけなかったんだけど、被害者の彼が僕に償いを求めないと言ってくれて示談……話し合いで解決することになったんだ」

「償いを、求めない? そんな酷い事故に遭ったのに彼はどうしてそんなことを?」

「僕もびっくりしたよ。自分でも罵られてもおかしくないほどのことをしたと思っていたし、もし、自分が一生歩けない立場になってしまったら、決してわざとじゃなかったとしても加害者を恨んでしまうと思っていたから、被害者の彼が償いを求めないと言われて、どうやって自分のしでかした罪と向き合っていいかわからなくなってしまったんだ」

谷垣さんの苦しげな声に、きっとその時のことを思い出しているのだとわかる。
いや、きっと思い出さなくてもいつだってその時のことが頭から離れないに決まってる。
僕も母さんがとんでもないことをしたと知ったあの時のことは、忘れようと思っても忘れられないもん。

「そのあとすぐに被害者の彼に直接謝罪に行くことになったけど、自分がやったことが到底謝罪なんかで済ませられるようなものじゃないってわかっていたから、許されなくてもいいから心から謝ろうって思って彼の前に行ったんだ。そうしたら、折れてしまった骨が太ももから突き抜けるほどの大怪我を負い、命の危険もあったのにその子は……すぐに救急車を呼んでくれて感謝してますって……今、すごく幸せだからもう謝らないでくださいって……笑顔でそう言ったんだ」

「――っ、そんな……」

そんな神さまみたいな人がこの世に存在するなんて……。

「僕はそう言われて、人目も憚らずに泣いてしまったんだ。一生歩けないかもしれないのに、今がすごく幸せだって言った彼が今までどんな生活をしていたのかって想像したら、胸が痛くなった。きっと、歩けないよりも辛い生活をしていたんだろうと思う」

「そう、ですね……」

その被害者の彼とは全然違うけれど、少し僕に似たところもあるかもしれない。
自由に外に出られて学校に行けていたあの頃より、外に出られない今の方がずっとずっと幸せだ。

「それでね、この被害者の家族から、今回の事故の示談の条件として、一つ大きなことをお願いされたんだ」

「条件?」

「うん。僕が理学療法士だってことは話したよね? この被害者の彼の専属理学療法士を引き受けてほしいっていうのが大きなお願い事だったんだ。でも、自分を轢いて歩けなくした加害者にリハビリを教えてもらうのは被害者の彼の気持ちを考えたら、複雑なんじゃないかって思って……心配だったんだけどね。彼は、僕に教えてもらいたいって言ってくれたんだ」

「えっ、本当、ですか?」

自分を怪我させた人なのに、その人に教えてもらうって……。
本当にその人、優しい人なんだな。

「うん。それからはほぼ毎日彼のところに通って、彼に合ったやり方でリハビリを続けていて、このまま頑張れば歩けるかもしれないってところまで回復しているんだ」

「――っ、すごいです!! 谷垣さんも、その彼も!! すっごく頑張ったんですね!!」

「ありがとう。でも……加害者の僕を信じてリハビリを続けてくれた彼が一番すごいよ」

「本当にそうですね……」

「彼とは今は、友だちのように仲良くさせてもらっているけれど、僕が彼にしてしまった罪悪感はいつまでも忘れることはないと思う。でも、それでいいかなって思うんだ」

「えっ……罪悪感を持ち続けることが?」

「自分がしてしまったことは消えないし、忘れてはいけないことだからね。でも、それ以上に彼を幸せにしたいって思うんだ」

谷垣さんの言葉が胸に突き刺さる。
それは僕にも罪悪感と呼べるものを持っているからかもしれない。

「この被害者の彼ね、誰だと思う?」

「えっ、誰って……僕の、知ってる人ですか?」

「彼はね、櫻葉グループの会長の息子で、今は貴船さんの養子になっている、貴船一花さんだよ」

「――っ!!! さ、くらばって、まさか……」

「うん。君のお母さんの事件で連れ去られた、あの子だよ」

「――っ!!! そんなっ!!!」

母さんが病院から連れ去ったせいで、辛く苦しい思いをしていたあの子が……谷垣さんの話してくれた子だったなんて……。


――今がすごく幸せだから……

一生歩けなくても今の方が幸せだって思えるような辛い生活をしてきたその子が、一花さんだったなんて……。

そんな辛すぎる……。
それなのに、あんな神さまみたいなことできるなんて……。
一花さんって、どれだけ強い人なんだろう。
しおりを挟む
感想 1,244

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について

いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。 実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。 ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。 誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。 「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」 彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。 現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。 それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。

拗らせ問題児は癒しの君を独占したい

結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。 一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。 補習課題のペアとして出会った二人。 セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。 身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。 期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。 これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

処理中です...