ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

文字の大きさ
152 / 678

笑顔の対面

しおりを挟む
早速そのお宝動画を例の場所に保存させる。家に帰ってまたじっくりと見させてもらうとしよう。

「あっ、外に出られたみたいだ。すぐに手荷物受け取りにくるから、もうすぐだな」

スマホを片手に浮かれ切った表情ながらも視線だけはずっとガラス扉の向こうに集中している。これだけ楽しみにしているんだ。最初の瞬間だけは、二人きりにさせてあげるほうがいいかもな。

俺はそっと村山から離れて、直くんと伯父さんたちの元に戻った。

「どうした?」

「離れた場所から村山とカールが出会う感動の瞬間を撮ってやろうと思って」

「ああ、なるほど。それがいいな」

「僕も撮ります!」

「うん、頼むよ。あそこの扉からカールが出てくるから」

「はい!」

直くんと二人でスマホのカメラを起動して、俺は村山に、直くんはガラス扉の向こうにスマホを向けて待っている。

「なんだか緊張します」

「俺も」

笑顔で直くんを見ると、直くんも笑顔で返してくれた。ああ、やっぱり直くんは笑顔が一番だな。
さっき父さんたちと別れるときはずっと寂しそうだった。あれは俺のことも心配してくれたんだろうけど、やっぱり直くん自身も寂しかったに違いない。人との別れに敏感になっているからな。

「あっ! 来た!」

まだガラス扉も開いていないのに村山が声を上げた。どうやら荷物受け取り場に来たのが見えたらしい。
ファーストならもうすぐ出てくるだろう。

「直くん、もうすぐだよ」

俺がそう言ったと同時に二人を隔てていたガラス扉が開いたと思ったら、

『リューヤ!!』

カールの嬉しそうな声が響いた。
嬉しそうに駆け寄ってくるカールに村山も満面の笑みで

『カール!! 会いたかったよ!!』

と駆け出していく。村山はカールの持っていた大きなキャリーケースをさっと自分の元に寄せ、カールを抱きしめ、頬にキスをしあった。

まるで恋人同士のような対面に、俺はもちろん、隣でスマホを抱えている直くんも恥ずかしそうに頬を赤らめていた。
けれど、これはドイツでは一般的な挨拶。ハグの後にキスをしあうのは普通だ。だが、そのハグは友人としてのものには見えない。

カールは直くんほど小さくはない。けれど、高身長でそこそこ体格のいい村山に抱きしめられるとすっぽりとおさまってしまうほどの体型だ。だからこそ、このハグとキスが恋人のように見えるのかもしれない。

この二人の幸せそうな空間に割り込む勇気が出せずに撮影しながらしばらく見守っていると、

「龍弥、その辺にしておけ」

と村山の父さんが声をかけに行った。その声にカールもハッと我に返ったようだった。

『あ、あの、僕……』

『カールくんだね。ビデオチャットで何度か話をしたが龍弥の父・純弥だ。こっちは妻の瑠璃。これからよろしく』

『は、はい。カール・ヴァーグナーです。よろしく、お願いします』

カールがさっと手を差し出すと、村山の父さんと母さんは嬉しそうに握手をしていた。
あの村山の複雑そうな顔。本当は手も握らせたくないんだろうな。
けれど、ドイツ人にとって挨拶で握手をするのは大事なこと。それを奪うわけにはいかないことをわかっているから我慢しているんだ。まぁハグとキスじゃないだけマシだと思っているのかもしれない。きっと前もって両親にはハグとキスはしないように伝えていたのかもしれないな。

こういう時、直くんが日本人で良かったと心から思う。直くんの可愛い手を誰にも握らせたくないもんな。

ひとしきり村山家の対面が終わってから、村山の父さんは俺たちに視線を向ける。
すると、カールは緊張気味の表情から一気に笑顔になって、

『ナオズミ! ノボル!!』

と言いながら駆け寄ってきた。

「カールさん!!」

直くんはビデオチャットで話した相手が目の前にいるのが嬉しいのか、笑顔で近づいていく。

「初めまして。カールさん!」

「カールでいいよ。ナオズミはビデオより実物のほうがずっとかわいいね」

「そんな……っ」

「本当だって。ねぇ、挨拶していい?」

「えっ? はい」

直くんの返事に嬉しそうに手を広げて直くんに近づくカールに気づいて、俺はさっと二人の間に入り込んだ。

『カール! ハグはダメだぞ。もう直くんは俺のになったから』

『ノボル!』

『直くんとの挨拶も握手だけにしてくれ』

『わかったよ』

カールは何か言いたげに笑いながら、直くんに手を差し出した。

「直くん、初めましての握手だよ」

「はい。カール、はじめまして。直純です」

嬉しそうに手を握り合う二人の姿を俺と村山は静かに見守っていた。
しおりを挟む
感想 1,244

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について

いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。 実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。 ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。 誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。 「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」 彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。 現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。 それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。

拗らせ問題児は癒しの君を独占したい

結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。 一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。 補習課題のペアとして出会った二人。 セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。 身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。 期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。 これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

処理中です...