ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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幸せならそれでいい

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<side賢将(絢斗の父)>

妻・秋穂あきほを亡くした寂しさから逃れるように海外医療派遣スタッフとして、アフリカの幾つもの地を巡って早十年。

そろそろ日本での生活に戻ろうと決め、最後の任務を終えて日本へ戻ったのは二週間前。

いつ戻るかも決めていなかったから自宅はすでに売却していたが、日本に帰ってきたらうちの病院で働いてほしいと言ってくれていた友人に帰国の旨を伝えると、喜んで住むところを探しておいてくれた。

海外生活の間、荷物は貸し倉庫で保管していたから、友人が探してくれた家に全てを運び込み、荷物が揃った状態での帰国となった。

私の想像以上に広く過ごしやすいこの家は、友人の息子が所有しているマンションで、その中でも一番広い部屋を貸してくれた。今のところ一時的な住処の予定だが、気に入ったなら格安な値段で譲ってくれるそうだ。だが、正直に言って私としては適正な金額の倍を払ってでも気に入ってる物件だ。

そんな素晴らしい家で、日本での生活を始めたわけだが、やはり十年にも渡る海外生活は思っていた以上に疲労していたようで、友人が車も用意してくれていたが、最初の一週間は家からほとんど出ることもなくただひたすらにのんびりと過ごした。やったことといえば、息子である絢斗に日本に帰ってきたことを報告したくらいか。

大学教授をしている息子は秋穂を亡くすよりももっと以前から、弁護士の磯山卓くんと同性婚をし、幸せに暮らしている。もちろん今の日本では同性婚は認められていないから、卓くんの戸籍に息子として籍を入れたことになるのだが、最初に話を聞いた時は確かに少し戸惑いもあった。

けれど、挨拶に来てくれた時の卓くんの絢斗への真剣な思いと、絢斗が心から卓くんを愛していることがわかって、私も秋穂も反対はしなかった。異性婚であっても離婚することはあるし、逆もまた然り。要は結婚する二人が幸せであればいいんだとわかっていたからだ。

私とそこまで歳が変わらない卓くんとは、話もあったし友人のような付き合いだった。秋穂を亡くした時には私が秋穂の思い出話をするのを時折相槌を打ちながら聞いてくれた。

海外で生活している間も、絢斗との近況をよく伝えてくれていて安心したものだ。

絢斗は本当に素晴らしい相手と結婚したものだとしみじみ思っていたのだが、突然の絢斗からの連絡で卓くんが養子をとり、中学生の息子ができたと言ってきた。しかもその子が熱を出しているから往診を頼みたいと話で、私の頭は理解不能な状況に陥ってしまっていたが、悩んでいる場合じゃない。

詳しい話を聞くためにも、その熱をだした子のためにも、私は急いで準備を整え、絢斗と卓くんが暮らす事務所兼自宅に向かった。

三十分以内に向かうと言ったが到着して時計を見れば二十分もかかっていない。それほど気が急いていたらしい。

何があっても大声を出さないように、深呼吸をしてから絢斗に連絡を入れた。

ーお父さん。

ー今、家の前に着いたんだが、車を止めたい。

ーありがとう。すぐガレージを開けるね。空いているところに止めて。

ーわかった。

ーすぐに下りていくね。

簡単な電話の後、すぐにガレージの扉が開き地下駐車場に車を止めた。外に出て後部座席から荷物を取り出していると、

「お父さん!」

と可愛い息子の声が聞こえてくる。

「絢斗。久しぶりだな。元気そうでなによりだ」

「うん。疲れているのに呼び出してごめんね」

「いや、急患なんだろう? 気にしないでいい。それより患者だけど……」

「向かいながら話すよ」

絢斗は私の手を握り、一緒に裏口に向かって歩き始めた。懐かしい手の感触に嬉しくなる。

「あのね、卓さんが養子にした子だけどある事件で知り合った子でね……」

絢斗がわかりやすく説明してくれたが、あまりにも不憫すぎる話で居た堪れない気持ちでいっぱいになる。
実母から虐待を受けて育ち、しかもその実母が誘拐犯として逮捕され、実父はこの事件の影響が強く日本で働けなくなったために遠く離れた中東で働き始め、自分のことを忘れてほしいと言ってきたという。
だから、話し合って卓くんが特別養子縁組でその子を実子として戸籍に入れ、ようやく家族としての生活を始めたところだということだった。これがこの数ヶ月の出来事なのだとしたら、私への報告が慎重になってしまったのも理解できる。周りを固めるよりもまずは家族としての基盤を整えることが大事だからな。

「お父さんには、驚かせてしまったけど……直くんのこと、本当の孫だと思ってほしいんだ」

「直くんというのか」

「うん。直純くんだけど、多分名前で呼ばれるのは嫌そう。きっとお母さんのことを思い出しちゃうんだと思う。直くんは気づいてないかもしれないけど、直純って呼ばれた時、一瞬表情が固くなってたから。だからできたら直くんって呼んであげてほしい」

「そうか、わかった」

「本当?」

「ああ。卓くんの息子になったのなら私の孫に違いない。いや、絢斗の弟なら私の子どもか? いずれにしても私の大事な子に間違いないよ」

「お父さん……ありがとう」

「私は絢斗が幸せならそれでいいんだ」

私の言葉に絢斗は嬉しそうに笑って、腕に絡みついてきた。
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