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私の孫だ!
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<side賢将>
――直くんが起きた。
そんな昇の声に振り向けば、昇の腕の中でタオルケットに包まった小さな子が一瞬体を震わせながらこちらを見ていた。
なんの曇りもなく澄み切った黒い瞳が絢斗と卓くんに向いたあとで私を見た。その瞬間、なんとも言えない感情が心の中に湧き上がった。
急いで立ち上がって彼の元に近づくと、彼の瞳に私だけが映っていることに気づく。ああ、なんて綺麗な瞳で私をみてくれるんだろう。彼の目を見ているだけで幼い日の絢斗を思い出す。
――パパーっ、おかえりなさい!! あのねー、あやと、きょう、ようちえんでおままごとしたのー!
無邪気な笑顔を見せて玄関に駆け寄ってくれたあの頃。本当に懐かしい。
直くん……そう呼ぼうとした瞬間、
「おじいちゃん……?」
小さな口がそう告げた。
ああ、この子は私の孫だ。血のつながりなどどうでもいい。この子が私をおじいちゃんと思ってくれるのなら私の孫に違いない!
「ああ……そうだよ。直くんの、おじいちゃんだ……」
この上ない笑顔で両手を差し出すと、直くんは私の目をじっと見たまま私に向かって両腕を伸ばした。
本当になんて可愛いんだろう。あまりの愛おしさに震えそうになるのを必死に抑えながらこの子を腕に抱く。
昇はそんな私たちの様子に微笑みながらそっとその場を離れた。
「ああ、熱は下がったようだな。よかった」
先ほどまでの熱さもなく、落ち着いていることにホッとする。
「おじいちゃん……嬉しい?」
「ああ。嬉しいよ。熱が下がったのも、直くんと会えたこともね」
「――っ、僕も嬉しいです……」
「そうか、お揃いだな」
「――っ!! はい、お揃いです!!」
やっぱり絢斗と同じだな。幼い絢斗もお揃いというと喜んでいた。本当に愛らしい。
それにしてもこの子の軽さは異常だな。寝ている状態でも痩せすぎだとわかったが、抱きかかえるとさらによくわかる。中学生だと話していたが、健康的な小学生より身長も低いし、体重もずっと軽い。
アフリカで栄養失調の子どもたちをたくさん診てきたが、彼らと変わらないくらいだ。この飽食の国日本でそのような子がいるとはな。驚きというよりも衝撃と言った方が正しいかもしれない。
「あっちに座って少し話をしながら診察してもいいかな?」
「診察……」
その言葉にビクッと身体を震わせた。ほんの一瞬だが、不安げな表情もしていたし、この子が何かトラウマを持っているというのはすぐに理解した。絢斗たちはこれを知っていたから病院に連れて行かず私に往診を頼んだのか?
そっと絢斗たちに視線を向けると、彼らもまた戸惑っている様子が見える。どうやら知らなかったようだな。それなら、絢斗も一緒にいた方がいいだろう。
「絢斗、こっちにきてくれないか? 卓くんは、直くんに何か温かいものでも用意してあげてくれ」
私の言葉に二人はサッと動き、絢斗は笑顔で私たちのもとにやってきた。昇はキッチンに向かった卓くんについて行ったようだな。
広々としたソファーに直くんを抱きかかえたまま腰を下ろし、絢斗は直くんのすぐそばに座った。それだけで直くんの表情が和らぐのがわかる。どうやら相当心を許しているようだ。
「どうかな? 最近はよく眠れているかな?」
「はい。昇さんがぎゅって抱きしめてくれるのでよく寝れます」
昇が抱きしめる……? そうか、だからあんなにも愛おしそうに抱きかかえていたか。
「でも……」
「でも? 何かあったかな?」
「昨日は、緊張してなかなか眠れなくて……」
「緊張?」
「お父さん、今日みんなで空港に行ったんだ。二葉さんと毅さんがフランスに行くことになって見送りに行ったの。その後、昇くんの友人たちとも会う予定になっていたからそれにちょっと緊張しちゃったんだよね?」
「はい。ドイツからお友だちが来てくれて、僕楽しくて、はしゃいじゃって……」
「そうか、それで少し疲れが出たのかもしれないな。ちゃんと休んでいたらすぐに元気になるよ」
私の言葉に笑顔を見せる直くんとそれを愛おしそうな目でみる絢斗。周りから見れば、私たち3人は本当に家族のように見えているに違いない。
<side昇>
「伯父さん……俺、ちょっとびっくりしたよ。まさか直くんが大おじさんをおじいちゃんって呼びかけるとは思わなかった」
「ああ、私もだ。お前が話をしたのか?」
「うん。診察をしてもらおうっていったら、急にパニックになって青褪めたから絢斗さんのお父さんだから大丈夫って声をかけたんだ。直くんのおじいちゃんになる人だからって……」
「そうか。だからおじいちゃんと呼びかけたか。だが、それよりもさっきも診察と聞いただけで少し動揺していたのが気になるな」
「やっぱり伯父さんも気づいたんだね」
「ああ。もちろん賢将さんもな。でもあそこまで怖がるとは……何か嫌なことをされたとしか思えないな。直くんに無理やり聞き出すことはしないが、何があったかは調べておいた方が良さそうだな」
そう話す伯父さんの目は俺の知っている目とは全然違って、怒りに満ち溢れていた。
――直くんが起きた。
そんな昇の声に振り向けば、昇の腕の中でタオルケットに包まった小さな子が一瞬体を震わせながらこちらを見ていた。
なんの曇りもなく澄み切った黒い瞳が絢斗と卓くんに向いたあとで私を見た。その瞬間、なんとも言えない感情が心の中に湧き上がった。
急いで立ち上がって彼の元に近づくと、彼の瞳に私だけが映っていることに気づく。ああ、なんて綺麗な瞳で私をみてくれるんだろう。彼の目を見ているだけで幼い日の絢斗を思い出す。
――パパーっ、おかえりなさい!! あのねー、あやと、きょう、ようちえんでおままごとしたのー!
無邪気な笑顔を見せて玄関に駆け寄ってくれたあの頃。本当に懐かしい。
直くん……そう呼ぼうとした瞬間、
「おじいちゃん……?」
小さな口がそう告げた。
ああ、この子は私の孫だ。血のつながりなどどうでもいい。この子が私をおじいちゃんと思ってくれるのなら私の孫に違いない!
「ああ……そうだよ。直くんの、おじいちゃんだ……」
この上ない笑顔で両手を差し出すと、直くんは私の目をじっと見たまま私に向かって両腕を伸ばした。
本当になんて可愛いんだろう。あまりの愛おしさに震えそうになるのを必死に抑えながらこの子を腕に抱く。
昇はそんな私たちの様子に微笑みながらそっとその場を離れた。
「ああ、熱は下がったようだな。よかった」
先ほどまでの熱さもなく、落ち着いていることにホッとする。
「おじいちゃん……嬉しい?」
「ああ。嬉しいよ。熱が下がったのも、直くんと会えたこともね」
「――っ、僕も嬉しいです……」
「そうか、お揃いだな」
「――っ!! はい、お揃いです!!」
やっぱり絢斗と同じだな。幼い絢斗もお揃いというと喜んでいた。本当に愛らしい。
それにしてもこの子の軽さは異常だな。寝ている状態でも痩せすぎだとわかったが、抱きかかえるとさらによくわかる。中学生だと話していたが、健康的な小学生より身長も低いし、体重もずっと軽い。
アフリカで栄養失調の子どもたちをたくさん診てきたが、彼らと変わらないくらいだ。この飽食の国日本でそのような子がいるとはな。驚きというよりも衝撃と言った方が正しいかもしれない。
「あっちに座って少し話をしながら診察してもいいかな?」
「診察……」
その言葉にビクッと身体を震わせた。ほんの一瞬だが、不安げな表情もしていたし、この子が何かトラウマを持っているというのはすぐに理解した。絢斗たちはこれを知っていたから病院に連れて行かず私に往診を頼んだのか?
そっと絢斗たちに視線を向けると、彼らもまた戸惑っている様子が見える。どうやら知らなかったようだな。それなら、絢斗も一緒にいた方がいいだろう。
「絢斗、こっちにきてくれないか? 卓くんは、直くんに何か温かいものでも用意してあげてくれ」
私の言葉に二人はサッと動き、絢斗は笑顔で私たちのもとにやってきた。昇はキッチンに向かった卓くんについて行ったようだな。
広々としたソファーに直くんを抱きかかえたまま腰を下ろし、絢斗は直くんのすぐそばに座った。それだけで直くんの表情が和らぐのがわかる。どうやら相当心を許しているようだ。
「どうかな? 最近はよく眠れているかな?」
「はい。昇さんがぎゅって抱きしめてくれるのでよく寝れます」
昇が抱きしめる……? そうか、だからあんなにも愛おしそうに抱きかかえていたか。
「でも……」
「でも? 何かあったかな?」
「昨日は、緊張してなかなか眠れなくて……」
「緊張?」
「お父さん、今日みんなで空港に行ったんだ。二葉さんと毅さんがフランスに行くことになって見送りに行ったの。その後、昇くんの友人たちとも会う予定になっていたからそれにちょっと緊張しちゃったんだよね?」
「はい。ドイツからお友だちが来てくれて、僕楽しくて、はしゃいじゃって……」
「そうか、それで少し疲れが出たのかもしれないな。ちゃんと休んでいたらすぐに元気になるよ」
私の言葉に笑顔を見せる直くんとそれを愛おしそうな目でみる絢斗。周りから見れば、私たち3人は本当に家族のように見えているに違いない。
<side昇>
「伯父さん……俺、ちょっとびっくりしたよ。まさか直くんが大おじさんをおじいちゃんって呼びかけるとは思わなかった」
「ああ、私もだ。お前が話をしたのか?」
「うん。診察をしてもらおうっていったら、急にパニックになって青褪めたから絢斗さんのお父さんだから大丈夫って声をかけたんだ。直くんのおじいちゃんになる人だからって……」
「そうか。だからおじいちゃんと呼びかけたか。だが、それよりもさっきも診察と聞いただけで少し動揺していたのが気になるな」
「やっぱり伯父さんも気づいたんだね」
「ああ。もちろん賢将さんもな。でもあそこまで怖がるとは……何か嫌なことをされたとしか思えないな。直くんに無理やり聞き出すことはしないが、何があったかは調べておいた方が良さそうだな」
そう話す伯父さんの目は俺の知っている目とは全然違って、怒りに満ち溢れていた。
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