165 / 678
おじいちゃんと直くん
しおりを挟む
「直くん。カフェオレだよ」
「わぁ! 美味しそう!」
ほんのりと湯気が立つか立たないかというくらいの温かさのカフェオレを小さなマグカップに入れて直くんの前に置くと、直くんは目を輝かせた。
直くんはいつも家で冷たい牛乳と焼いていないパンで朝食を済ませていたようで、ここにきた当初は牛乳を飲みたがらないことに伯父さんが気付き、ほんの少し色づく程度のコーヒーと少し多めの砂糖を入れて、温めてカフェオレと言って飲ませたら喜んで口にしたそうだ。
九割ぐらい牛乳だけど、直くんには全く違うものに感じられただろう。
それ以来、直くんの温かい飲み物といえばこれだ。
火傷をしない程度に温めたが、大おじさんはそのマグカップを取ると少し冷ましてあげてから直くんに持たせた。もちろん片手で補助もつけながら。
その様子があまりにも堂に入っていて、きっと小さな頃の絢斗さんもそうしていたんだろうとすぐにわかった。
「んっ、美味しーい」
「そうか、良かった」
まなじりを下げて直くんを見つめる姿はもう祖父の姿そのものだ。その様子を絢斗さんは隣で嬉しそうにみていた。
小さなカップだったから、直くんはすぐにそれを飲み干した。満足そうな表情におかわりはいらないなと思った。
「おじいちゃんは今日はここにお泊まりするの?」
「今日は急に来たからね。今度は泊まりに来てもいいかな?」
「おじいちゃんがいたら嬉しい」
「――っ、そうか。なら泊まらせてもらおうか。いいかな? 卓くん」
「ええ。家族なのでいつでも泊まりに来てくださって構いませんよ」
「ありがとう」
ほんの少しの時間で、大おじさんはすっかり直くんの心を掴んだようだ。さすが、アフリカで患者と向き合い寄り添って診察してきた人だ。俺の知らない心の傷をまだたくさん持っているだろう直くんには大おじさんのような存在が必要なんだろうな。
「寛さんはもう泊まりに来たのかな?」
「ひろし、さん?」
「直くん、寛さんは卓さんのお父さん。直くんと昇さんのおじいちゃんになる人だよ。寛さんは今、アメリカに行ってて来月帰国する予定になってるんだよ。ねぇ、卓さん」
「そうなんです。だからまだ直くんのことは話ができていなくて……」
「そうか。寛さんもアメリカに行っている間にこんなに可愛い孫ができていたと知ったら喜ぶだろうな」
「喜んでくれますか?」
「ああ。もちろんだよ。寛さんをおじいちゃんって呼んだらこうして抱っこしてくれるよ」
「でも……」
「んっ? 何か気になることがあるかな?」
大おじさんの優しい問いかけに直くんは少し困った顔をしながらゆっくりと口を開いた。
「あの……おじいちゃんもおじいちゃんだし、もう一人おじいちゃんがいたらどっちを呼んでいるのかわからなくなっちゃいそうだなって……」
「ははっ。確かにそうだな。じゃあ、わかりやすくするためにどうしようか?」
「うーん、難しいです……」
直くんは伯父さんと絢斗さんの呼び方を考える時にも悩んでいたもんな。二人のおじいちゃんの呼び方か……。確かになんて呼んだらいいんだろうな。
「まぁ、まだじいちゃんが帰ってくるまで時間はあるし、ゆっくり考えたらいいよ。ねっ、伯父さん」
「そうだな、父も直くんになんて呼ばれたいか、希望してくるかもしれないし」
「ははっ、それありそう!!」
「それまでは賢将さんをおじいちゃんと呼んだらいいよ。直くん」
伯父さんの言葉に直くんは嬉しそうに大おじさんに抱きついた。
「おじいちゃん……」
「直くん……」
ああ、可愛い……と大おじさんの心の声が聞こえたような気がした。
しばらく大おじさんが抱っこしていると、直くんがまた眠り始めた。さっきのカフェオレで身体があったまったのもあるし、ほっとしたのも大きいんだろう。
「昇、部屋で寝かせておいで」
大おじさんは俺に直くんを返してくれて、久しぶりに戻ってきた直くんを優しく腕に抱き、部屋に連れて行った。
<side卓>
昇が直くんを部屋に連れて行くのを見送っていると、
「本当に可愛い子だな。あの子は」
と嬉しそうな声が聞こえた。
「お父さんが直くんのことを気に入ってくれて嬉しいよ」
「あの子は小さい時の絢斗にそっくりだ。だから懐かしさでいっぱいになったよ」
「うん、私もたまに似てるなって思う時があるよ。でもね、あの子はすっごく優しい子で、私にもできるおにぎりの作り方をわざわざ調べて教えてくれたんだよ」
「えっ? 絢斗がおにぎり?」
「ええ。絢斗が作ってくれたおにぎりは美味しかったですよ。絢斗、今度賢将さんにも作ってあげるといい」
「うん。お父さん、食べてくれる?」
「ああ。もちろんだよ。そうか……絢斗が、おにぎりを……。それは秋穂も喜んでるな」
こうして普通に秋穂さんの名前を出せるようになったのか。吹っ切れたというよりは、心の中にずっと一緒にいるとわかったのかもしれないな。
「わぁ! 美味しそう!」
ほんのりと湯気が立つか立たないかというくらいの温かさのカフェオレを小さなマグカップに入れて直くんの前に置くと、直くんは目を輝かせた。
直くんはいつも家で冷たい牛乳と焼いていないパンで朝食を済ませていたようで、ここにきた当初は牛乳を飲みたがらないことに伯父さんが気付き、ほんの少し色づく程度のコーヒーと少し多めの砂糖を入れて、温めてカフェオレと言って飲ませたら喜んで口にしたそうだ。
九割ぐらい牛乳だけど、直くんには全く違うものに感じられただろう。
それ以来、直くんの温かい飲み物といえばこれだ。
火傷をしない程度に温めたが、大おじさんはそのマグカップを取ると少し冷ましてあげてから直くんに持たせた。もちろん片手で補助もつけながら。
その様子があまりにも堂に入っていて、きっと小さな頃の絢斗さんもそうしていたんだろうとすぐにわかった。
「んっ、美味しーい」
「そうか、良かった」
まなじりを下げて直くんを見つめる姿はもう祖父の姿そのものだ。その様子を絢斗さんは隣で嬉しそうにみていた。
小さなカップだったから、直くんはすぐにそれを飲み干した。満足そうな表情におかわりはいらないなと思った。
「おじいちゃんは今日はここにお泊まりするの?」
「今日は急に来たからね。今度は泊まりに来てもいいかな?」
「おじいちゃんがいたら嬉しい」
「――っ、そうか。なら泊まらせてもらおうか。いいかな? 卓くん」
「ええ。家族なのでいつでも泊まりに来てくださって構いませんよ」
「ありがとう」
ほんの少しの時間で、大おじさんはすっかり直くんの心を掴んだようだ。さすが、アフリカで患者と向き合い寄り添って診察してきた人だ。俺の知らない心の傷をまだたくさん持っているだろう直くんには大おじさんのような存在が必要なんだろうな。
「寛さんはもう泊まりに来たのかな?」
「ひろし、さん?」
「直くん、寛さんは卓さんのお父さん。直くんと昇さんのおじいちゃんになる人だよ。寛さんは今、アメリカに行ってて来月帰国する予定になってるんだよ。ねぇ、卓さん」
「そうなんです。だからまだ直くんのことは話ができていなくて……」
「そうか。寛さんもアメリカに行っている間にこんなに可愛い孫ができていたと知ったら喜ぶだろうな」
「喜んでくれますか?」
「ああ。もちろんだよ。寛さんをおじいちゃんって呼んだらこうして抱っこしてくれるよ」
「でも……」
「んっ? 何か気になることがあるかな?」
大おじさんの優しい問いかけに直くんは少し困った顔をしながらゆっくりと口を開いた。
「あの……おじいちゃんもおじいちゃんだし、もう一人おじいちゃんがいたらどっちを呼んでいるのかわからなくなっちゃいそうだなって……」
「ははっ。確かにそうだな。じゃあ、わかりやすくするためにどうしようか?」
「うーん、難しいです……」
直くんは伯父さんと絢斗さんの呼び方を考える時にも悩んでいたもんな。二人のおじいちゃんの呼び方か……。確かになんて呼んだらいいんだろうな。
「まぁ、まだじいちゃんが帰ってくるまで時間はあるし、ゆっくり考えたらいいよ。ねっ、伯父さん」
「そうだな、父も直くんになんて呼ばれたいか、希望してくるかもしれないし」
「ははっ、それありそう!!」
「それまでは賢将さんをおじいちゃんと呼んだらいいよ。直くん」
伯父さんの言葉に直くんは嬉しそうに大おじさんに抱きついた。
「おじいちゃん……」
「直くん……」
ああ、可愛い……と大おじさんの心の声が聞こえたような気がした。
しばらく大おじさんが抱っこしていると、直くんがまた眠り始めた。さっきのカフェオレで身体があったまったのもあるし、ほっとしたのも大きいんだろう。
「昇、部屋で寝かせておいで」
大おじさんは俺に直くんを返してくれて、久しぶりに戻ってきた直くんを優しく腕に抱き、部屋に連れて行った。
<side卓>
昇が直くんを部屋に連れて行くのを見送っていると、
「本当に可愛い子だな。あの子は」
と嬉しそうな声が聞こえた。
「お父さんが直くんのことを気に入ってくれて嬉しいよ」
「あの子は小さい時の絢斗にそっくりだ。だから懐かしさでいっぱいになったよ」
「うん、私もたまに似てるなって思う時があるよ。でもね、あの子はすっごく優しい子で、私にもできるおにぎりの作り方をわざわざ調べて教えてくれたんだよ」
「えっ? 絢斗がおにぎり?」
「ええ。絢斗が作ってくれたおにぎりは美味しかったですよ。絢斗、今度賢将さんにも作ってあげるといい」
「うん。お父さん、食べてくれる?」
「ああ。もちろんだよ。そうか……絢斗が、おにぎりを……。それは秋穂も喜んでるな」
こうして普通に秋穂さんの名前を出せるようになったのか。吹っ切れたというよりは、心の中にずっと一緒にいるとわかったのかもしれないな。
1,659
あなたにおすすめの小説
拗らせ問題児は癒しの君を独占したい
結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。
一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。
補習課題のペアとして出会った二人。
セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。
身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。
期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。
これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について
いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。
実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。
ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。
誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。
「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」
彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。
現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。
それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。
猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした
水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。
そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。
倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。
そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。
体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。
2026.1.5〜
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる