ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

文字の大きさ
166 / 689

心強い存在

しおりを挟む
「それで少し気になることがあるが……」

賢将さんの真剣な表情に、すぐに話の内容を理解した。

「直くんが診察を怖がっていたことですね」

「ああ。日本にいた時も、アフリカでもそんなケースを見たことがあるが、十中八九何かトラウマを持っているに違いない。そのことについて、何か知っていることがあれば教えて欲しい」

絢斗が直くんのことについて話ができた時間はそこまで長くはない。だから、実母に虐待を受けていたことまでは話はできなかったことだろう。今回のトラウマについてその実母が関わっているのか、それとも全く違うところなのかはまだわからないとしか言いようがないが、実母の件については情報を共有しておくべきだろう。

「今回のトラウマとはまた別の話ですが……」

と前置きをして、直くんに関わる全ての話をできるだけ感情を入れずに話をした。

「――ここにきて、体調を崩したことがなかったので、診察にトラウマがあるというのは初めて知りました」

「そうか……それなら、今日私を呼んでくれて正解だったな。目を覚まして病院だったらとんでもないことになっていたかもしれない」

賢将さんの言葉にどきっとさせられる。確かにそうだ。ちょうどいいタイミングで賢将さんが戻ってきてくれてよかった。

「だが、ここで生活を始めて数ヶ月。その間、あの子の身体が体調を崩さずにいられたのは、卓くんの栄養バランスの良い食事と、家族の愛情のおかげだろう。今日の熱はここしばらくの生活とかけ離れた時間を過ごしたからで、誰にでも起こりうることだから心配しないでいい」

「お父さんが戻ってきてくれてよかった。これから直くんが体調を崩してもいつでも診てもらえるね」

「ああ。任せておきなさい。もしどうしても病院にかからなければいけない時は、私が勤めることになっている友人の病院に連れて行こう」

「お父さんの友人で病院を経営しているのは何人か知ってるけど、どの人?」

「ああ。清吾せいごのところだよ。今、私が住んでいるところも清吾の息子が所有しているマンションを借りているだ。病院からは目と鼻の先でかなり便利な場所だよ」

「清吾さんって、倉橋くんのお父さんだね」

「ああ、そうだ。清吾の病院なら安心して直くんを連れて行けるからな」

「うん。そうだね」

倉橋くんは、桜城大学の卒業生で絢斗の親友である皐月くんと私の友人、いやここは親友というべきか、志良堂の教え子でもある。私たちにとっても縁のある人物だ。なんせ、倉橋くんの会社の顧問弁護士は志良堂の息子で私の後輩である安慶名あげな伊織いおりなのだから。

賢将さんが倉橋くんの父上の病院に勤務するのなら、直くんが桜守に入学した後も主治医として登録できる。直くんにとっては心強いに違いない。

「それで直くんのトラウマだが、本来ならそのトラウマとなった理由を知っておいた方が良いんだ。何か方法はないか?」

「それなら私に任せてください。私の全ての人脈を使って、調査してみせます。そして、そこに犯罪が隠れていたとしたら確実に私の手で暴いてみせますよ」

「それは頼もしいな。絢斗はもうしばらくはオンラインでの授業を続けられるんだろう?」

「うん。月に二度くらいは行かなければいけない日も出てくるかもしれないけど、それはなんとかするよ」

「その時は私に言いなさい。私が直くんのそばにいよう。私の家に連れて行っても構わないよ」

「ありがとう。お父さんが直くんをみててくれたら安心だよ。ねぇ、卓さん」

「ああ、そうだな。あれだけ直くんも賢将さんに心を許していたし、直くんを守ってくれる存在が増えたのは嬉しいことだ」

「私はいつでも手を貸すから遠慮なく声をかけてくれ。きっと寛さんも同じことを言うはずだ。だから、卓くん……悪いことは言わない。寛さんにも早く直くんのことを伝えたほうがいい。そうしたら帰国の日を早めてでもすぐに帰ってくるはずだよ。まぁ、少しの文句は覚悟しておいたほうがいいだろうがな」

ニヤリと笑みを向けられて背筋が少しヒヤッとする。確かに冗談抜きで文句は言われるだろうな……。それでも可愛い直くんに会わせれば機嫌もすぐに治るはずだ。

「今夜連絡してみます」

「ああ。そのほうがいい。とりあえず、今日は帰るとしよう。何か急変があれば連絡してくれ。すぐに飛んでくるよ。直くんには私の連絡先とメッセージアプリのIDを教えておいてくれ。ああ、それよりもメモを残しておくほうがいいか。悪い、紙とペンを貸してくれないか?」

絢斗がすぐに立ちあがろうとしたのを制して、私はサッと賢将さんの前に紙とペンを置いた。絢斗はこういう時にすぐにどこの場所だったかを思い出すのが難しいからな。できるほうがやればいい、私は絢斗との生活でそれを身体に叩き込んでいるからこれを苦だと思ったこともないし、むしろ絢斗の手間にならなければいいとさえ感じている。これが一生を共にする夫夫の姿だと私は思っている。

「ありがとう。直くんは好きな動物やキャラクターはあるか?」

「昇くんから貰ったクマのぬいぐるみを大切にしてるよ。それにこの前が初めてのウサギに喜んでた」

「そうか、直くんもウサギが好きなのか。そういうところも絢斗とよく似ているな」

賢将さんは嬉しそうに笑うとさらさらっと紙にウサギとクマの可愛い絵を描き、その下に賢将さんの連絡先とメッセージアプリのIDを書いた。

「これを直くんに渡しておいてくれ」

「うん。直くん、喜ぶと思う」

おじいちゃんからのメモを直くんが喜ばないわけがないからな。

駐車場に向かう賢将さんを今度は二人で見送りに行った。
しおりを挟む
感想 1,278

あなたにおすすめの小説

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

運命の番なのに別れちゃったんですか?

雷尾
BL
いくら運命の番でも、相手に恋人やパートナーがいる人を奪うのは違うんじゃないですかね。と言う話。 途中美形の方がそうじゃなくなりますが、また美形に戻りますのでご容赦ください。 最後まで頑張って読んでもらえたら、それなりに救いはある話だと思います。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

【完結】婚約者も両親も家も全部妹に取られましたが、庭師がざまぁ致します。私はどうやら帝国の王妃になるようです?

鏑木 うりこ
恋愛
 父親が一緒だと言う一つ違いの妹は姉の物を何でも欲しがる。とうとう婚約者のアレクシス殿下まで欲しいと言い出た。もうここには居たくない姉のユーティアは指輪を一つだけ持って家を捨てる事を決める。 「なあ、お嬢さん、指輪はあんたを選んだのかい?」  庭師のシューの言葉に頷くと、庭師はにやりと笑ってユーティアの手を取った。  少し前に書いていたものです。ゆるーく見ていただけると助かります(*‘ω‘ *) HOT&人気入りありがとうございます!(*ノωノ)<ウオオオオオオ嬉しいいいいい! 色々立て込んでいるため、感想への返信が遅くなっております、申し訳ございません。でも全部ありがたく読ませていただいております!元気でます~!('ω')完結まで頑張るぞーおー! ★おかげさまで完結致しました!そしてたくさんいただいた感想にやっとお返事が出来ました!本当に本当にありがとうございます、元気で最後まで書けたのは皆さまのお陰です!嬉し~~~~~!  これからも恋愛ジャンルもポチポチと書いて行きたいと思います。また趣味趣向に合うものがありましたら、お読みいただけるととっても嬉しいです!わーいわーい! 【完結】をつけて、完結表記にさせてもらいました!やり遂げた~(*‘ω‘ *)

婚約破棄はハニートラップと共に

あんど もあ
ファンタジー
卒業パーティーで、平民の血を引いた子爵令嬢を連れた王太子が婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を宣言した! さて、この婚約破棄の裏側は……。

処理中です...